『海狼の狩り』作戦 その2
連盟海軍潜水艦部隊の基地であるリハマンセト・バルハマに戻った潜水艦隊指令のカール・ガイザー・ガルディオラ提督は、作戦展開中の艦艇を除く現在稼働可能な潜水艦の艦長及び潜水艦部隊指揮官を会議室に招集した。
その人数は、艦長三十名と指揮官八名の計三十八名である。
その中でも、リットーラ・バッファ・ノルンナ大尉を始めとする十人の艦長はすでに何度も出撃し撃沈戦果を上げているいわゆるベテランであり、十二人の新人艦長とその潜水艦部隊の指揮官三名以外を除くそれ以外の者も、魚雷の不発によって撃沈というはっきりした戦果を思ったように上げられなかったが、それでも出撃回数をこなし、沈没には至らないものの王国の艦船に間違いなく被害を与えている手腕の持ち主ばかりであった。
そんな頼もしい部下達をぐるりと見まわたした後、ガルディオラ提督は、まずは王国支援の為にフソウ連合の艦隊が向かっている事を話した。
その話を聞いた部下の反応はそれぞれだったが、元々洋上艦艇で任務についていた者が多く、サネホーンに手を焼かされた経験がある為だろうか。ほとんどの者が、サネホーンとの戦いの最中に他国の為に戦力を割くフソウ連合の行為に呆れ返っていた。
自分の方が大変だというのに、他人の事ばかり気にかけては、勝てるものも勝てないという考えなのだろう。
まぁ、中には前回のフソウ連合とサネホーンの戦いを分析して、フソウ連合の手腕を褒めるものも何人かいたが、それはあくまでも少数派だ。
それ以上に前回の戦いにおいてはサネホーンの不甲斐なさを愚痴る者が大多数であった。
もっとも、裏を返せば、それだけサネホーンに苦汁をなめされられたという事でもある。
それに、連盟にとってはフソウ連合もサネホーンも所詮は自分らの敵対勢力でしかないという認識だ。
だから、その場にいる者達の本音を言えば、理想としては両方とも潰しあってしまえばいいと思っているのである。
そんな彼らの反応を見た後、ガルディオラ提督は本題に入った。
「では、本題に入る。本日、総統府に私が呼ばれた事を知っている者も多いと思う。勘がいいものは薄々気が付いているとは思うが、本日呼び出されて大規模な作戦をトラッヒ総統から命じられた」
その言葉に、誰もが次の言葉を聞くため黙り込む。
最初に振られたフソウ連合の話が本題と繋がっているなら……。
でも、まさか……。
誰もが半信半疑といった感じだろう。
静まり返った中、ガルディオラ提督は口を開く。
「作戦の内容は、敵艦隊の殲滅。そして、目標は王国に派遣されているフソウ連合艦隊だ」
しばしの沈黙が辺りを包み込む。
誰もが信じられなかったのだ。
そうなってほしいという希望はあった。
だが、実際にそうなるとは思ってもみなかったのである。
潜水艦の任務は通商破壊であり、経済に深刻なダメージを与えて相手を締め上げていく。
つまりは、誰もが、派手に戦って戦果を上げる海戦と違って余りにも表に出にくい、言い方を変えれば裏方的な意味合いの戦いであると思っていたのだ。
だが、世界がフソウ連合から王国に艦体が派遣されているのは知られている。
そしてその艦隊を殲滅する。
確かに今の世界情勢では我々がやったとは大きな口では言えないだろう。
だが、それでも世界は知るのだ。
そして驚愕するだろう。
連戦連勝のフソウ連合の艦隊を潰した奴らがいると。
その謎の勢力に、世界中の人々は恐れおののくに違いない。
そう考えると実に愉快で、胸のすくような展開ではないか。
だから、皆黙り込んでしまったのだが、暫くの沈黙の後一人が呟くように言葉を発した。
「本当なんですかい?」
それはここにいる全員が思っている事だろう。
その呟きに、ガルディオラ提督は渋い表情で答える。
「本当だ。私としては不本意だがな……」
ガルディオラ提督としては、そう言った大規模な作戦を行うにはまだ戦力不足であり、行った場合の後日の通商破壊作戦に支障をきたす恐れが強い事と、もし大きな被害を被った場合の立て直しの事を考えれば、まだ時期早々という考えであった。
時間が経てば敵の方が対策を用意することは間違いなく、時間が失われていくのに合わせてこちらの有利が失われていく事を恐れていたのである。
実際、まだ数隻であったが、被害を受けたり、運悪く撃沈された艦も現れ始めている。
ガルディオラ提督は、潜水艦が無敵の艦艇ではなく、海に潜れて隠れることが出来るだけの攻撃力に特化した艦艇でしかないと思ってさえいたのであった。
だからこそ、その思いが表情に出たのだろう。
だが、それを認識している者は少ない。
潜水艦の艦長という役職にいながら、その一方的な戦いに慣れてしまい、そう認識していないのだ。
だからこそ、それに気かづいた者は数名のみでほとんどの者はそこまで気が付かなかった。
ただただ、その『本当だ』という言葉の意味に翻弄されてしまっていたのである。
そして、その言葉によって抑え込まれた感情が解放されてしまったのだろう。
渋い表情の提督とは反対にほとんどの者が一斉に声が上がった。
「おいおいおいっ、まさか本当なのか?」
「いや、だってよ、今、提督が言っただろうがっ」
「でもよ、夢じゃねぇだろうな」
「夢でもいい。醒めなきゃな」
「しかしよ、コリャたまらねぇぜ。いい加減、輸送船ばかりのお相手に刺激が足りない感じだったんだ。ここはいっちょ派手にやろうじゃねぇか」
「ああ、ド派手にな」
そんな景気もいい言葉と感情が場に広がる中、二人の人物がそんな雰囲気に流れることなく、ただ黙って浮かれる同僚達を見ている。
一人は、N-003の艦長であり、三隻の輸送船を沈めたリットーラ・バッファ・ノルンナ大尉。
もう一人は、N-003を含む四隻の潜水艦を率いる第一潜水艦部隊の指揮官のベラミット・ノキターゼン・ランベルジ少佐であった。
二人共部隊立ち上げの頃からの古株であり、提督と共に苦労を共にした友人でもあった。
だから二人は渋い顔の提督をちらりと見て互いの顔を見合わせた後、ため息を吐き出す。
そして、うるさいまでにざわついている周りの声に負けじと声を張り上げた。
「おいっ。はしゃぐのはいい加減にしろっ!!」
「お前ら、提督が困っておいでだ。それぐらい気が付かんか、馬鹿者どもがっ!!」
ざわついていた雰囲気が、二人の声で鎮火していく。
そして静かになったのを確認すると、ガルディオラ提督はやっと口を開いた。
「私としては、今回の作戦は、まだ我々の現状の戦力では力不足でしかないと思っている。我々の任務は通商破壊だ。敢えて言うなら裏方の任務と言っていい。だが、それが正常であり、我々が表に出て派手に暴れるのはなくてもいいと思っている。もし、そうなった場合は、余程の時だ」
その言葉に、ほとんどの者が不満の表情をしたが、それでもさすがに文句を言うものはいない。
どうのこうの言いつつもここまで潜水艦部隊を育て上げたのはこの提督で、そしてなにより潜水艦部隊のボスはこの男なのだから。
「しかしだ。総統より命令と作戦を受けた以上、拒否は出来ん。我らは軍人だ。よって、これより本作戦『海狼の狩り(ヤーズ・アズ・シーヴォイス)』の詳細な打ち合わせを行っていく。作戦成功の為に各自の意見を求める。いいな?」
全員が頷いたりといった感じの同意のジェスチャーを示しているのを確認し、提督は用意していた作戦の大まかな概要が記載された作戦案を配る。
それを全員が食い入るように見た後、それをベースとして会議に参加した者達が意見を言い合いって本作戦の詳細が決められていく。
そして、半日近くをかけて最終案が決定された。
『海狼の狩り(ヤーズ・アズ・シーヴォイス)』作戦。
目標…… 王国に向かうフソウ連合艦隊
投入戦力……ND-1型 6隻
ND-1B型 12隻
ND-2A型 10隻
ND-2A+型 2隻
計 30隻
作戦海域……エレクーシュナ海峡
こうして、この世界では初めての多数の潜水艦による襲撃作戦が実施されることとなったのであった。
捕捉)
・ND-1型……連盟が最初に完成させた潜水艦で、性能としては第一次世界大戦にドイツ帝国が使用したU-3型潜水艦のデッドコピー。
全長51m、全幅5.60m、排水量430t、速力水上10ノット、水中6ノット、潜水深度30m、武装魚雷発射管前面×2、後方×1、搭載魚雷8本、乗員22名
・ND-1B型……ND-1型の問題点となっている部分を一部改修したもの。性能的にはほとんど変わらない。
・ND-2A型……ND-1型を大型化したもの。これにより航続距離が伸び、外洋での作戦展開が出来るようになった。
全長65m、全幅6.60m、排水量720t、速力水上12ノット、水中7ノット、潜水深度35m、武装魚雷発射管前面×2、後方×2、搭載魚雷数10本、乗員35名
・ND-2A+型……試験的に建造された2型のバリェーション。後方魚雷発射管を廃止し、前面に魚雷発射管4基となっている。




