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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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接触  その2

公国との接触の後、帝国領に入った毛利艦隊は、帝国領海のクルバナン島の沖合で帝国側と接触した。

状況と互いの関係の確認、それと交流が行われたのは公国と変わらなかったが、二つの点で公国の時と違っていた。

一つは、皇帝アデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチ自らが接触した使節団にいた事である。

同盟国でもなく、表立って条約を結んでいるわけではない。

それなのにである。

そして二つ目は、皇帝が援助とジュンリョー港の掃海作戦の礼を述べたのち、艦艇の見学を熱望した事であった。

状況や互いの関係の確認はどうでもいいというかのように……。

「無理は重々承知しております。ですがそこをお願いできないでしょうか?」

皇帝の筆頭秘書官であり使節のまとめ役であるヴァシーリー・ゴリツィン大佐は、申し訳なさそうな困ったような複雑な表情で平謝りするかのように頭を下げる。

その横では、断られることなと眼中にない表情でアデリナが目を輝かせてワクワクした表情をしており、最初こそ唖然としていた『毛利艦隊』の面々であったが、その対比に心の中で苦笑を浮かべる。

『苦労してんだな』

要は、上司に振り回される部下の哀愁を感じ取ったからである。

それにほだされた訳ではないのだが、ここで皇帝にいい印象を与えておけば、後々いい事が起こるかもしれない。

その程度の期待ではあったが、艦隊司令官の毛利少将はその提案を条件付きで受け入れる事とした。

「えっ、見せてもらえるのね」

アデリナは通訳を通してそう説明を受けるとまるで好きな男性とのデートの待ち合わせを楽しみにしているかのように楽し気に笑った。

元々かなりの美人であり、満身の笑みを浮かべていることもあり、その姿は天使のようであったとその時その場に居合わせた兵は述べている。

そして、フソウ連合側から出された条件は、二つ。

見学できる範囲は、こちらが指定する場所のみである事。

そして、皇帝との写真を撮らせてもらう事であった。

もちろん、二つ目の条件を提案したのは、毛利少将である。

「いや、娘に帝国の皇帝陛下はこんなに美人なんだよって見せたくて……」

頭を掻きつつそんな事をのたまう毛利少将に、副官を始めとする彼の補佐官たちは唖然としたものの、ああ、うちの司令ならあり得るかとため息を漏らす。

その様子から、互いに上司に振り回される苦労を感じたのか、或いは元々国民の知名度も高く写真を知られる事にも抵抗がないためだろうか。

ゴリツィン大佐は「問題ありません」と苦笑して言う。

そして、撮影される当の本人であるアデリナは、見学が許可されたことにご満悦であったという事もあり、ニコニコで写真撮影に応じた。

「えっと、こんな感じでいいのかしら?」

そう言いつつノリノリでいろんなポーズをして撮影に応じるアデリナ。

そんなアデリナと一緒に撮影する毛利少将はかなり緊張気味でカチカチなっており、それは第三者から見れば道端で出会った有名人と記念撮影しているかのようであった。

そんな感じで写真撮影が終わると、通訳と毛利少将がアデリナの艦艇見学に同行し、浜辺大佐やゴリツィン大佐は話し合いを行うという形になったのである。



「陛下の見学希望の艦艇はどれですか?」

毛利少将のその言葉に、アデリナが真っ先に指名したのは、今回の作戦に参加している空母大鷹、雲鷹であった。

「機密事項が多いため、それほど見れる個所はありませんが……」

そういう毛利少将に、アデリナはニコリと笑う。

「私はね、あの艦に乗りたいの。多分それでわかる」

その言葉に半信半疑ではあったが、「では……」と返事をして毛利少将は大鷹の方に案内する。

カッターから大鷹に乗り込んだアデリナは、身をすくませるように身体を震わせると信じられないといった顔になった。

「すごい……。ここまではっきりとわかるなんて……」

その呟きはとても小さいものだったから、毛利少将は思わず聞き返す。

「えっと何か?」

「いいえ。大丈夫です」

そう答えたものの、アデリナの表情からは極上の喜びがあふれ出るかのようだ。

それを満足されていると思ったのだろう。

毛利少将はそれ以上突っ込まず案内を始める。

狭い艦内、それも男だけの空間に、金髪の極上の帝国美人がいるのである。

その容姿に誰もが目を止め、驚くのと同時に見とれるものが多数いたが、毛利少将はそんな彼らを叱るどころか苦笑するしかない。

ほんの少し前までの記念撮影の際の自分のように感じたからである。

愛する妻子いる自分でさえ、緊張しまくったのだ。

そうなっても仕方ないかと。

もっとも、後で喝を少し入れておく必要はあるかと思いつつ……。

次々と艦内を案内しながらの通訳を通しての説明に、アデリナは驚き、そして感心していた。

もっとも、彼女にとって言われている説明の半分も正確に理解していなかったが、彼女にとってそれはどうでもよかった。

直に感じる事、それは直感ともいえるものではあったが、それが告げていた。

空母というこの艦は中々侮れない存在だと。

そして、戦艦や他の艦艇にはない魅力があるのだと。

そして、最後に案内されたのは、艦橋である。

もっとも、大鷹は艦橋は飛行甲板の下にあり、パッと見た感じだとわかりづらい。

もちろん、ここの見学はすぐに終わらせるつもりであった。

しかしアデリナの足が止まる。

そこでアデリナは見つけたのだ。

あるものを……。

「そうか。だから強く感じたのね」

そんな言葉が自然と漏れ、まるでそうするのが当たり前だというかのように一人の人物に近づくと彼女は微笑んで声を掛けた。

「ふふっ。あなたがこの艦の魂ね」

その声は、周りには聞こえないほどの小声であり、その予想もしない行動に毛利少将や周りの誰もがあっけにとられる中、声を掛けられた人物は、帝国語であるにもかかわらず何を言われたのか理解していた。

その人物。

正確に言うと人ではないが、敢えてその人物と言おう。

それは、この艦大鷹の付喪神である。

彼は別に目立つ格好をしていたわけではない。

艦長と言う感じの軍服を着てその場にいただけである。

なのに、アデリナの目にはそう映らなかった。

特別な存在として見えたのだ。

『艦に愛され、艦を愛する乙女』

それ故にわかったという事なのだろう。

この人物が、この艦へ向けられた多くの人々の思いの結晶だと……。

だが、すぐに周りの雰囲気に気が付いたのか、取り繕うようにアデリナは微笑んだ。

「ごめんなさい。でも会えてうれしかったわ」

そう言った後、視線を大鷹から毛利少将の方に向ける。

「いえ、すみません。知り合いに似ていたものですから……」

誰の目からも只の言い訳だとわかる。

たが、誰も何も突っ込まなかった。

その方がいい。

そう本能で理解してしまったのだ。

こうして、アデリナの大鷹の艦内見学は終わったのである。



「いかがでしたか?」

見学が終わり戻ってきた満足げな笑みを浮かべたままのアデリナに、ゴリツィン大佐が心配そうに聞いてくる。

要は変な事はしていないかと聞きたいのだろう。

その意味が判ったのか、アデリナは唇を尖らせる。

「変な事はしてないわよ」

そう言った後、アデリナは後ろを振り返る。

その視線の先にはフソウ連合の艦隊があった。

ここは、帝国の装甲巡洋艦の甲板の上である。

全ての予定が終わり、フソウ連合艦隊の海域離脱を確認するために残っている艦艇を残して、アデリナ一行は先に国に戻る。

山のように執務や予定が立て込んでいる為である。

この後は激務が待っている為、普段ならぐったりとしてるはずのアデリナではあったが、今日に限ってはそれはなかった。

「あんな艦艇があるなんてね。フソウ連合、面白い国ね。ますます興味がわいてきたわ」

「しかし、我々が負ければそういうことを考えることも出来なくなりますな」

ゴリツィン大佐の何気ない一言であったが、それが俄然アデリナのやる気に油を注いだのだろう。

「なら、帝国でこの地を統一し、きちんとフソウ連合と同盟なり、条約を結べる相手になってやろうじゃないの」

その言葉には今でにない覇気があった。

その言葉と覇気に、ゴリツィン大佐は嬉しそうに頷く。

「私も微力ではありますが、陛下の力になれるよう努力していく所存であります」

「ええ。頼むわね」

そう言うと視線を再びフソウ連合の艦隊に向ける。

その瞳の中には今までない色が宿っていた。



こうして、公国、帝国との接触を終えた毛利艦隊は、本来の目的である王国へと進路を向けた。

だが、その前には鍋島長官が計画した通り、大きな障害が待ち構えていたのである。

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