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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十一章 狼狩り

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接触  その1

「意外と寒いな」

そんな事を言いつつ王国派遣艦隊の司令官に任命された毛利少将は周りの景色を楽しんでいた。

まだ雪が残る肌寒い印象の強い景色と寒さは、フソウ連合では味わえない。

青と白を基本とした風景。

そしてその景色を壊さないように配慮されて作られたのではないかと思われる港には多くの艦艇が停泊していた。

「そうですね。以前は南国でしたから余計にそう感じるのでしょう」

副官の浜辺大尉は苦笑しつつそう答える。

ここは、公国とフソウ連合が以前から補給物資を受け渡しする際に合流地点として活用していたカルトックス島湾である。

元々無人であったこの島だが、今や簡単な集積所として機能しつつあった。

ある程度の備蓄施設や港、クレーンなどが設置、建設されたが、全てフソウ連合の手によるものである。

本来ならば公国領である以上、公国がそういった施設を用意し管理すべきところではあったが、当の公国は三つ巴の戦いの為にその余裕はなく、また、定期的に弾薬や一部の補給物資をフソウ連合に頼っており、また、北の海域で動く艦船の中継基地を欲していたフソウ連合の利害が一致し、島とその周辺海域の三十年間のフソウ連合への借用と言う形で今に至っている。

「しかし、いい景色だな……」

目を細めて景色を堪能している毛利少将がぼそりと呟く。

それを受けて浜辺大尉がニタリと笑った。

「写真でも撮っておきますか?」

要は、子煩悩の毛利少将の事だから、娘に見せてやりたいとでも思ったと推測したのである。

実際、アルンカス王国の派遣の際にはいろんなお土産や写真を山のように撮っていたのだから、バレバレである。

「いいのか?」

「ええ。構いませんよ。ですが、現像代とフイルム代は、少将持ちですよ?」

「ああ、構わないさ。この景色を少しでもあの子に見せられたら……」

そういった時である。

「失礼します」

そう言って一人の伝令兵が敬礼して声をかける。

「どうした?」

浜辺大尉がそう答えると、伝令兵は「間もなく時間ですので……」と答える。

時間を忘れては不味いとして、事前に時間がきたら声をかける様に言っていたのである。

「そうか。時間か……」

短くそう言うと浜辺大尉は視線を伝令兵から上官に向ける。

そこには風景に目を輝かせていた人物はいなかった。

めんどくさそうな感情と嫌そうな感情が入り混じった複雑な表情をした上司がいるだけである。

「やっぱり、会わなきゃダメかなぁ……。会いたくないなぁ……」

その口調は、嫌な事を押し付けられた子供のようである。

それを見かねたのか、浜辺大尉はため息を吐き出すと、子供を諭すような口調で言い返す。

「何言っているんですか。長官から言われているじゃないですか。出来る限り艦隊が動いていることをアピールして来いって」

「でもなぁ……。こういうのは向いてないんだよ。アルンカス王国の時だって本当は辞退したかったのに……」

「何言っているんですか。あの受領式と木下特別顧問の口添えであの程度の処罰で済んだんですよ」

そう言われるとどうしょうもないのだろう。

「わかってる。わかってはいるんだ。でも、柄じゃないって思うんだよ、私には……」

その言葉に、また盛大にため息を吐き出すと、浜辺大尉は奥の手を出すことにした。

「そう言えば、アルンカス王国で勲章貰った話は真奈美ちゃんにはしましたか?」

いきなり別の話題で一瞬きょとんとしたものの、自分の可愛い愛娘の話題である。

毛利少将は締まりのない緩み切った顔で直ぐに答える。

「勿論だとも。『パパ、すごいっ。そんけーしちゃう』って言ってくれてね。もうその仕草と言い方がかわいくてたまらんのだよ。あれを見て確信した。私は真奈美の為なら何でもできるッと思ったよ」

その言葉に、浜辺大尉は心の中でニタリと笑う。

「今回の事を話すと真奈美ちゃん、ますますお父さんの事、尊敬するだろうな~」

その言葉に、毛利少将の表情が緩み切ったものから真剣なものになった。

「そう思うか?」

「ええ。間違いなく。だって、考えてもみてください。少将は、フソウ連合の代表として公国の方と会われるのですよね?それってすごい事なのでは?」

そう言われて、毛利少将は少し考えこむ。

「ふむ……。確かに。それに今後の予定を考えれば、公国だけでなく、帝国それに王国の高い地位の人物と会うということになるな」

「ええ、そうなりますね」

それが決定打となったのだろう。

「よしっ。大尉、すぐに会見の準備をするぞ」

そう言うとさっさと歩きだす。

その様子を伝令兵と浜辺大尉は苦笑して見ていたが、すぐに後に続いた。

こうして、王国派遣艦隊、通称『毛利艦隊』は、計画通りに動きを派手に外部に漏らしつつ王国へと向かっていったのである。



「長官、カルトックス島湾補給所から連絡が入りました。『毛利艦隊』は補給を済ませ、予定通り公国と接触して次の会合地点である帝国領に向かったそうです」

丁度長官室で話し込んでいた鍋島長官と新見中将、山本大将、川見大佐は、その報告を聞き、少しほっとした表情になった。

「うまく進んでいるようですな」

新見中将の言葉に、鍋島長官は口を開く。

「まだ、第一関門突破ってとこだね」

「中々慎重ですな」

山本大将の言葉に鍋島長官は苦笑を浮かべる。

「思い通りにならない事ばかりだからね」

そう言った後、視線を山本大将から川見大佐に向ける。

「それで首尾はうまくいってるかい?」

話を振られ、川見大佐はいつもの無表情に戻って答える。

「はい、結構派手に情報をばらまきました。それに、公国と帝国に寄ってというスケジュールも公表していますから、連中、十分戦力を揃える時間はあるかと……」

「そうなるといいんだけどね。まぁ、ならなかったらならなかった時でまた別に考えているけど、かかる時間を考えればうまく成功させたいところだね」

そして次に視線を新見中将に向ける。

「それで敵の襲撃予想地点の縛り込みは進んでいのかな?」

「はい。先行する伊-56、伊-58の二隻がしっかりと調査しております。恐らく初期の予想通りになりそうかと……」

「そうか。なら、艦隊には、『現時点での変更なし』と伝えておかないと駄目だな。東郷大尉」

「はい。何でしょうか?」

報告が終わり、その場で待っていた東郷大尉がすぐに答える。

恐らくすぐに次の指示かあるに違いないと判断しての行動だ。

「すぐに艦隊に変更がない事を知らせてくれ。それと調査に動いている伊-56、伊-58の二隻は、一旦海域から離れる様にと伝えてくれ。巻き込まれてもしたらシャレにならんし」

「了解しました。すぐに連絡いたします」

そう言うと東郷大尉は退室していく。

それを見送っていた鍋島長官に新見中将が声をかける。

「しかし、公国からあの島を借用できたのは幸運でしたな」

「確かに、確かに。あの補給基地のおかげで、潜水母艦の負担が減るだけでなく、秘密裏にかなり広い範囲に潜水艦を展開する事が可能となりました」

「まぁ、今の所はね」

その鍋島長官の物言いに、山本大将と新見中将は互いに顔を見合わせる。

「なぜ、そう思われるので?」

「今回の戦いで潜水艦という存在が世界に知られるようになるからね。今は利害が一致するから協力しているけど、公国としても、帝国としても別に同盟を結んでいるわけではない。だから、今は手が回らないが、その内、あの補給基地により厳しい目を向けてくる可能性は高いと思うんだ。そうなってくると動きにくくなるという事になりかねない」

「ならば、同盟を結ばれては?」

そう聞いてきたのは、山本大将だ。

その言葉に鍋島長官は即答する。

「今の状況ならまだ結ぶ必要はないよ。雌雄が決してからの方が無駄が少ないし、火種にならないからね」

「確かに……。現時点ではどちらかがとは決めにくいですな」

新見中将がそう言葉を続け、ふーとため息を吐き出すと呟くように言葉を漏らした。

「さて、どちらが勝つのか……」

それはここにいる四人が共通して持つ思考であった。



『毛利艦隊』と接触し軽い交流を済ませると公国防衛隊長官ビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードルは急いで首都に戻ってきた。

そして、戻ってくるとまず自分の主人がいる執務室に向かい、ドアの前に立つとノックをして声をかけた。

「ビルスキーア、只今戻りました」

その声に、中から返事が返ってくる。

「ああ、入りたまえ」

その言葉を聞き、ビルスキーアはドアを開けると入室した。

そこには、彼の主人であり、公国のトップであるノンナ・エザヴェータ・ショウメリアの姿がある。

彼女は執務の手を止めて、入り口の方に視線を向けつつ何やら楽し気な表情を浮かべていた。

「それで、フソウ連合の艦隊はどうだったかな?」

そう聞かれて、ビルスキーアは口を開く。

「なかなか面白い編成でした」

「ほほう……」

「恐らく、旗艦は水上機を運用する水上機母艦と言う奴ですね。それに飛行機を運用する空母と言われる艦種が二隻。後は駆逐艦と輸送艦といった構成でした。その構成から艦隊戦を行うつもりはない事が感じられました」

その言葉に、ノンナはニタリと笑う。

「つまりあれか、今王国を悩ませる幽霊(ゴースト)対策の艦隊と言ったところか……」

その言葉にビルスキーアも同意を示す。

「恐らくそうかと……」

「脅威になりそうかな?」

ノンナの探るような言葉に、その含まれる意味を考えた後、ビルスキーアは口を開いた。

「飛行機と言う兵器がどの程度の戦力かはわかりませんが、飛行機と言う兵器の研究は急いで進めておく必要があるかと」

「わかった。予算と人員を回すから研究するように手配をしておいてくれ。しかし……」

「いかがされましたか?」

途切れた言葉が気になったのだろう。

ビルスキーアがそう聞き返す。

その問いにノンナはクスクスと笑った。

「いや、フソウ連合の艦隊は、この後、帝国とも接触を持つのよね?」

「ええ。そう聞いております」

「なら、黄金の姫様は、飛行機を見てどういう反応を示すのかと思ってね」

『艦に愛され、艦を愛する乙女』である彼女にとって、飛行機と言う兵器はどう映るのだろうか。

それがいろいろ想像出来て思わず笑みが漏れたのだ。

「そうですな……」

そう言ってビルスキーアはしばらく考え込んだが、考えがまとまったのだろう。

ゆっくりと口を開く。

「飛行機を見て、何も思わないようなら、たかが知れていますな。フソウ連合という国によって従来とは違う戦いの常識が出来上がりつつあるのです。飛行機は、そんなフソウ連合が力を入れている兵器です。それに注目しないというのは、所詮それまでという事になりますな」

その言葉に、ノンナは頷く。

「私もそう思うわ」

そして、ニタリと笑う。

「さぁ、あなたは何を感じ、どうするのかしらね」

楽しくて仕方ない。

そう言った感情が言葉から滲み出る。

ノンナのそんな様子に、ビルスキーアは苦笑する。

困ったものだという表情で……。

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