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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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我、奇襲ニ成功セリ  その3

「無線きました。『我、奇襲二成功セリ』です」

その報告に、艦内で一斉に歓声が上がる。

誰もが我が事のように喜びを身体で表現していた。

それを満足げに見ながら伊-400の付喪神は少しほっとしていた。

『夜霧の渡り鳥』作戦以降、偵察や索敵を中心とした甲作戦ばかりであり、また、間もなく終わるという時点でアンホルトナ群島の調査を中断したという事もあって乗組員たちの間に少し不満がたまっている雰囲気があったのだ。

だが、それが一気に吹き飛んだ感じであった。

それに伊-400自身もすっきりしていた。

彼自身、どちらかと言うと他の艦艇たちが羨ましくてしょうがなかったのだ。

他の艦艇の付喪神は、戦果を上げ、それを自慢気に話している。

なのに、我らは……。

そんな思いが強くあったからだ。

だが、そんなコンプレックスみたいな感情も一緒に吹き飛んでいた。

こんな作戦、俺らしか出来ねぇと。

もっとも自慢げに話すことが出来ないのは残念だが、ともかく、艦内も付喪神自身も満足気であったが、すぐに伊-400は表情を引き締める。

「いいかっ。後は攻撃隊を回収して離脱のみだが、このプロセスが一番危険だ。各自気を引き締めてやれ。いいな」

その言葉に、艦内のあちこちから威勢がいい返事が返ってきた。

その返事を聞きつつ、伊-400はニタリと笑う。

その笑みは悪戯っ子が何か思いついたかのようだ。

「なお、安全圏に出てからになるが、何かうまいものでも食うか。確か、この前の補給で、結構いいもの貰ったよな?」

「はい。甘味と酒もありますね」

副長がにこやかな笑みを浮かべてそう答える。

どうやら、こういう流れを補給部隊は想定していたのだろう。

他の軍艦に比べると、限定され密閉された潜水艦の中では、娯楽は限られている。

その中でも食事は乗組員にとって数少ない楽しみの一つであった。

つまり、補給をしている連中はそういった事も理解してやってくれているという事になる。

自分らの事がわかってくれている。

それは評価されているのと同じであり、本当にありがたい事だ。

そう思いつつ、伊-400は口を開く。

「なら、それも出すか」

「ええ。みんな喜びます」

「よし。野郎どもっ。安全圏に出た後の勝利の宴の為にも、もうひと頑張りするぞ」

「「「おおーっ」」」

一際高い同意の声。

その表情と言葉はやる気に満ち溢れている。

人は現金なものだ。

もっとも、今回はそれだけではない。

日頃たまっていた鬱憤を晴らした事。

我々しかできないことがあり、我々は優秀であるという事を示した事。

それらがとても大きいのだろう。

伊-400はそんな事を思いつつ、この艦の付喪神になってよかったと思っていた。

何故なら、『夜霧の渡り鳥』作戦では初めてという事もあり、作戦後には只々ほっとした感想しかなかったが、今回はそれとは別にこんな戦果を上げられるのは自分達だけだという自覚と誇りをしっかりと感じたからだ。

潜水艦の付喪神も悪くねぇなぁ……。

それが今の伊-400の心境であった。




グラーフがフソウ連合の奇襲に気が付いたのは、爆発音が響いたからだった。

執務室で書類整理をしていたグラーフだったが、響く爆発音と慌ただしい人々の叫び声。

そして上空を飛び去る飛行機の爆音。

それで慌てて窓の方に視線を向けたのだ。

そしてその目に入ったのは、火の海になりつつある貯蔵庫が密集した地区であった。

「ど、どういうことだっ」

思わず出た言葉を待っていたかのように、ドアが激しく叩かれ「失礼します」という言葉と同時にドアが開かれた。

「た、大変です。フソウ連合の奇襲です」

その言葉に、グラーフの表情が思考が停止したかのように唖然としたもので固まる。

嘘だろう?!信じられない……。

そんな思いしか浮かばなかった。

もっとも、すぐに我に返ったのだろう。

確認する言葉を口にした。

「フソウ連合の攻撃、間違いないのか?」

「はっ。フソウ連合のマークを記した機体が数機目撃されております。それらの機体が攻撃を仕掛けてきたようです」

「数は?」

「混乱している為か正確な数字はわかりませんが、十~十五機程度かと……」

「防空指揮所はなぜ警戒情報を出していない?防空隊は上がっていないのか?」

その問いと同時にやっと防空警戒のサイレンが響いた。

それを聞きつつ、グラーフは呟くように言う。

「襲われて鳴らしてももう遅いわ」

そう吐き捨てる様に言うと気持ちを切り替えてすぐに報告してきた者に命令を下す。

「すぐに被害報告だ。それと防空隊の出撃を急がせろ」

「はっ」

「あと、動ける艦艇を確認させろ。すぐに艦隊出撃の準備だ。敵の艦隊は恐らく近海にいる。戦いになるぞ。それと編成は足の速い艦艇メインと遅い艦艇メインの二つだ」

そう言い切った後、思い出したかのように言葉を続けた。

「それとペーターを呼び出せ。あれも追撃隊には参加させる。いいな?」

「了解しました」

そう言って報告者は慌てて部屋から飛び出していく。

そしてグラーフ自身も作戦室に向かう。

今後の指揮を行うために……。

だが、この後、悲報ともとれる報告が彼の元に舞い込むこととなる。

空港の使用不可。レーダーサイトの破壊。

それに、艦隊編成の遅れが拍車をかける。

皆、油断しきっていたという有様にグラーフの怒りはヒートアップしたものの、今はそれどころではなく、ともかく何とか現状を把握し対応させるので手一杯の有様であった。

それは、次の攻撃が来る。

その思いが強かったからである。

しかし、その予想を嘲笑うかのように敵の再度の襲撃はなく、やっと艦隊が動き始めて水上機による索敵が開始されたのは襲撃を受けてから実に一時間近く過ぎてからであった。

その間に、グラーフの思考は切り替わっていた。

ここまで攻撃がないとすると……。

それはつまり、敵が離脱しているという事だ。

ここまで好き勝手やられて逃げられる。

それは余りにも無能であり、惨めだ。

士気も大きく低下するだろう。

それだけは避けたい。

その思いが強かった。

だからこそ、声を張りあげて指示を出す。

「水上機母艦、レーダー艦に護衛を付けていくつか先行させろ。ともかく敵艦隊の発見だ。急げ。それと主力艦隊は先行する索敵部隊と連動し対応できるようにしておけ。我らの恐ろしさを敵に知らしめすチャンスだぞ」

それを受け、レーダー艦と水上機母艦がそれぞれ1~2隻と護衛の装甲巡洋艦数隻が艦隊を組み、次々と出港していく。

水上機母艦からは水上機が次々と飛び立ち、各方面に飛び散っていく。

だが、レーダー艦のレーダーにも、水上機の警戒にも敵らしき機影どころか、艦影さえも発見できない。

初動が遅かったか……。

ならば、敵はここからかなり離れた距離にいるという事か。

グラーフはそう判断し、捜索範囲を広げる。

だが、まさか目標から50Km程度しか離れていない場所に敵が潜み、敵艦隊が動き出す前に攻撃隊の回収が終わると、海中に姿を消したとは思いもしなかった。

その結果、暫くその場所に潜伏の後、どんどん広がり緩くなった警戒の間をすり抜ける様にフソウ連合の潜水艦達が戦線を離脱していくのを結局発見する事は出来なかったのである。



なお、後日、防空指揮所と防空隊が互いの責任を押し付け合う醜い争いがあったり、各部署の初動の遅さ、それに余りにも大きい備蓄の被害など問題が山積みの有様に、グラーフは頭を抱える事となる。

そしてそんな混乱の中、ぺーターの元に秘密裏に一人の人物が接触した。

その人物の名は、リッカート・トンドル・ハルエッセ。

今は亡きフッテンの懐刀で、表向きは目立たないようにしていたものの、秘密裏に色々と暗躍していた人物である。

それを知っているからこそ、彼が接触してきたとき、ぺーターはめんどくさそうな表情をしたものの、無下に出来ず自分の執務室で応じた。

しかしあまり関わりたくないのだろう。

椅子を薦める事もせず、めんどくさそうな表情のまま相手を見てペーターは口を開く。

「えっと、何かな?面倒なことはやりたくないんだけど……」

その言葉に、リッカートは苦笑を漏らす。

相変わらずだと……。

しかし、すぐに表情を引き締め直すと口を開いた。

「自分に何かあった場合は、貴方を頼れとフッテン様から言われております」

その言葉に、益々困ったような顔をするぺーター。

「フッテンも何を言ってるんだか……。兄さんやルイジアナもいるというのに……」

その言われると予想していたのだろう。

リッカートはニタリと笑って言い返す。

「グラーフ様は何もかも抱え込みすぎる傾向があり、ルイジアナ様はどちらかというとこういう話には向いていません」

「つまり、フッテンはそう言う事を見通してってことか……。あの人もよく人見てるなぁ。確かにその通りなんだけどさ」

つまらなさそうにそう言ったものの、仕方ないと思ったのだろう。

「で、話って何?」と言葉を続けた。

その言葉を聞き、リッカートはニタリと笑うとペーターの耳の側に口を寄せて小さな声で囁くように言う。

「リンダ様が生きておいでです」

その言葉に、ぺーターの思考と動きか固まった。

リンダはフソウ連合との交渉の際に死亡したと聞いていたからだ。

「う、そ、だろ?!」

出た声は小さく言葉はそれだけだったが、信じられないという思いで満ち満ちている。

「嘘ではございません」

そう言うとリッカートは懐から封筒を取り出す。

それを受け取ったぺーターは封を切って中身を確認する。

中に入っていたのは、手紙と写真であった。

まずは写真を取り出す。

その写真はかなり鮮明で、色もついている。

そして、そこには異国の服を着て楽し気に微笑んでいるリンダの姿があった。

相変わらずの様子に、ペーターはほっとする。

生きていた。

やっとその事実を受け止めれたといった方がいいだろうか。

ペーターも他の三人と同じように、自由気ままにそれでいて有能で楽し気なリンダに好意を持っていた。

そんな人物が生きていたというのだ。

それだけでうれしくなると言うものだろう。

自然と表情が綻ぶ。

そんなペーターの様子を見ながらリッカートは口を開く。

「リンダ様は、サネホーン内部の反締結派の連中の妨害にあい、現在はフソウ連合の保護を受けておいでです」  

その言葉に、ペーターの眉がピクリと動く。

「それは……どういうことだ?」

「我々は、今回の騒動、裏があるとみて独自に動いておりました。その結果、フソウ連合と接触を持つことに成功し……」

そこまで言い切った時だった。

ペーターがリッカートの胸蔵を掴む。

「それは、祖国を売ったってことか?」

ペーターの顔に浮かぶのは、嫌悪と怒り。

こめかみには血管が浮いている。

その上、普段が飄々としている分、凄みが倍増していた。

しかし、それでもリッカートの表情は変わらない。

「我々は祖国を裏切っておりません。それに我々はフッテン様の無念を晴らし、サネホーンの為に動いております」

その迷いない言葉と堂々とした態度に、ペーターは掴んでいた手を放す。

「わかった。お前にそんな気がないのはな……。だが、何を考えている?」

「それはその手紙を読んでいただければわかるかと……」

そう言われ。ペーターは手紙が残っているのを思い出し、取り出すと広げた。

そして、懐かしいリンダの字で書かれたその手紙を目に通していく。

気難しい感じのペーターの表情が、段々と驚きと怒りに染められていく。

そして何度も目を通した後、ペーターは大きくため息を吐き出した。

「そう言う事か……。納得した」

短くそう言うと、視線をリッカートに向ける。

「それで、これからどうするつもりだ?」

「フッテン様やリンダ様を陥れた連中に責任を取らせます。そして、フソウ連合と休戦を結びたいと思っています」

「それが出来ると思っているのか?」

「リンダ様はそれをお望みです。それにフソウ連合側も無益な戦いは好まないと言ってきております」

その言葉に、ペーターは苦笑する。

「こんな襲撃をしてきてか?」

「ですが、被害の内容を聞いたのでは?」

「ああ、聞いたさ、備蓄地区と修理施設、それにレーダーサイトと空港以外は、全く被害を及ぼしてないとな」

「つまり、そう言う事です」

はぁ……。

派手に息を吐き出すとペーターは仕方ないといった感じの表情になる。

「で、俺に何をさせたいんだ?」

その問いに、リッカートにニタリと笑った。

やっと本題に入れる。

そんな笑みであった。

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[気になる点] 登場人物は「ピーター」「ペーター」「ベーター」の名前で出てきますが、どれが本当の登場人物なのでしょうか
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