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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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我、奇襲ニ成功セリ  その2

リカバリアナ島。

サネホーンの主港から五十Km程度離れている場所にある細長い形の島である。

主港の位置から考えれば、本来なら監視所の一つも置かれてもおかしくない場所ではあったが、その島は毒蛇が多数生息し、主港が攻撃されるとは思ってもいない事から無理に監視所を置く必要もないという考えで駐屯する部隊もなく、また蛇神が祭られているという事もあって誰も住んでいない近場の人間は近づかない場所である。

普段はその島だけでなく、周りの海域も人気はない場所だが、今日は勝手が違っていたようだ。

その島の主港側から見て裏側には、大きな三つの黒い影が浮き上がっていたのである。

その影とは、伊-400、伊-401、伊-402の三隻だ。

そして、道案内の為に先行していた伊-21が主港近くで動きを監視している中、伊-400型に搭載されているたたまれた状態の晴嵐を展開してクレーンで海上に下ろしていく。

その手際はかなり慣れたもので、かなりの訓練が行われているのが伺える。

本来なら順次カタパルトから射出なのだが、今回はカタパルトは使用しない。

発射音が響き、もしかしたら付近に航行中の艦船に察知されることを恐れた為である。

次々と海面に下ろされていく晴嵐。

二十分もしないうちに、海面には爆装した晴嵐九機が準備を終えて並んでいた。

作戦時間になったのだろう。

それぞれの晴嵐がエンジン音を響かせてゆっくりとスピードを上げて海面から離れていく。

挿絵(By みてみん)

それを作業を終えた潜水艦の乗組員が帽子を振りつつ見送る。

勿論、成功と無事な帰艦を願って……。

その見送りを受けて、晴嵐九機は二機の隊が三つと三機の隊が一つの四つに分かれ、それぞれ距離をとりつつ低空飛行を続けていく。

その先頭を進むのは、九機を率いる伊-400搭載の一番機を操る皆川俊景中尉の機体である。

「よし。今の所は問題ないようだな」

問題なくついてくる各機をちらりと見た後、呟きともとれる発せられたその言葉に、相棒の榊範義飛行兵曹が答える。

「ええ。実に呑気なものですね」

どうやら敵の無線傍受からそう感じたのだろう。

その口調はのんびりしたものではあったが、直ぐに慌てた口調で言葉を続けた。

「大変です。敵から無線が来ました。えーっと……、恐らくですがどこの部隊か確認のようです」

「おいおい、本当か?」

「すみません。王国語は勉強中なんですよ」

サネホーンは王国語が基本言語で、榊飛行兵曹が申し訳なさそうに答えるが、皆川中尉とてペラペラ話せる訳でもないから下手に突っ込めない。

しかし、こっちがうまく話せないからと返答しなければ怪しまれてしまい、迎撃機が上がってくるのは間違いないだろう。

いくら高性能の晴嵐と言えど、フロート付きの水上機だ。

その上、今は爆装している状況だ。

戦闘機相手に格闘戦なんて出来るはずもない。

勿論、フロートと爆弾を外せば、十分戦えるだろう。

しかし、我々の目的は、戦闘機との格闘戦ではない。

あくまでも主港への奇襲である。

そう判断したものの、迷った挙句、皆川中尉は開き直る様に言った。

「えーいっ。『WHAT(なに)?WHAT(なに)?』とでも返しておけ」

その発言に、榊飛行兵曹が不満の声を上げる。

その声を聞き、皆川中尉がちらりと後ろを見て言い返す。

「なら、何かいい言葉があるのか?」

そう言われて、榊飛行兵曹が困ったような顔をした。

「ありません……」

「なら、そう答えておけ。俺らの言語能力じゃ下手な事を言えばボロが出てしまうからな」

なんとなくうまい言い訳に聞こえるが、実は全く他にいい言葉が浮かばなかったからである。

「わかりました。どうなっても知りませんからね」

「ああ、後は神様にでも祈ってろ」

そんなやり取りがあった後に返信したのだが、どうやらうまくいった様子だった。

迎撃機が上がった様子もなければ、それ以上聞き返してくることもない。

「えっと……うまくいったみたいです」

信じられないと言った表情で言う榊飛行兵曹の声に、皆川中尉は得意げに言い返した。

「それ見てみろ。シンプルが一番なんだよ。はっはははは……」

その笑いに、榊飛行兵曹が信じられないという顔つきで前の座席を一瞥したものの、後続機の動きを見てすぐに言葉を発する。

「後続隊、それぞれの方向に分かれます」

「わかった」

皆川中尉は軽く機体を振る。

それは各自へ奮闘を期待するといった合図であった。

そして、別れていく各機体も機体を軽く振った。

四つに分かれた隊の内、二機と三機の各一隊は燃料貯蔵庫や弾薬庫を狙い、二機の一隊は空港の滑走路を、そして皆川中尉が率いる隊は、レーダーサイトを狙って攻撃を仕掛ける手はずとなっている。

「どうだっ、逆探知の方はっ」

「うまくいってますね。敵の電波をとらえています。発信先は……このまま真っすぐです」

「もしかしてあれか?」

一際大きなアンテナのように形状の建物が進行方向の先にあった。

「ええ。あれみたいです。間違いなさそうです」

すると後方から爆発音が響く。

「どうやら貯蔵庫の方に向かった岸辺隊と四十川隊がうまくやったようですね」

榊飛行兵曹が報告する。

「ならこっちも外すわけにはいかんな」

皆川中尉は一旦高度を上げる為、操縦桿手前に引くとスロットルを開く。

機体が上を向き、 アツタ32型 水冷V12エンジンが唸りを上げる。

それは貪欲な獣のうなり声のようだった。

そして、高度を取ると今度は目標に向けて降下し、搭載していた800Kg爆弾をレーダーサイトに叩きつける様に放った。

そして急上昇。

後ろからは派手な爆発音が響き、その後に崩れ落ちるような音が続いた。

後続の402-2は、250Kg爆弾四つを順にレーダーサイトの側の施設に次々と落としていく。

爆発音がいくつも響き、レーダーサイトの周りの塔のような建物が崩れ落ち、そして周りにあったいくつかのアンテナもあっけないほど瓦解した。

「よしっ。これでどうだっ」

「いいみたいです。逆探に反応がなくなりました」

「よしっ。母艦に無線を発せよ『我、奇襲二成功セリ』だ」

「了解しました」

そして機体を海上に向けつつ、皆川中尉は辺りを見回す。

貯蔵庫当たりには大きな火災が起こっているのだろう。

黒い煙が広がり、その根元辺りには赤い炎が激しく燃え上がっている。

そして火の粉が飛ぶ度、被害は広がっている様子だ。

そして、もう一つの目標の方を見ると、ドックのクレーンがいくつも倒壊しているのが目に入る。

どうやら全員うまくやったようだ。

久々の胸がすくような戦果に思わず顔がニヤけそうになってしまう。

しかし、左手で軽く自分の頬を叩き、気合を入れ直す。

無事に帰還してこそ、作戦は成功なのだ。

まだ気を緩める時ではない。

そう判断し、短く言葉を発した。

「よし。各機に伝達。『帰投する。各機警戒しつつ戻れ』と伝えろ。送り狼を案内するような真似だけはしないようにしなきゃならんからな」

「勿論ですとも」

榊飛行兵曹が頷きつつ同意を示す。

こうして、奇襲作戦である『乙十二作戦』は目的を達成したのであった。

これにより、サネホーン側は施設や備蓄に大きな被害を出したが、それ以上に問題なのはいつ襲われるかもしれないという精神的な不安と士気の低下で、この事件以降サネホーン上層部はこの件で悩まされることとなるのである。


●被害状況


フソウ連合……被害なし


サネホーン……備蓄燃料の八割、弾薬の四割、その他二割を損失。

       ドック内、大型クレーン三基、小型クレーン一基倒壊破損。

       大型レーダーサイト倒壊破損、無線関係施設二か所破壊。

       負傷者八十二名、死者二名

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― 新着の感想 ―
[一言] 潜水艦はロマンですね〜。
2022/01/19 17:32 退会済み
管理
[一言] 王国語、英語だったのか…?だから主人公が、王国語で喋れたのか…?
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