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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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我、奇襲ニ成功セリ  その1

ルイジアナが何とか帰還してから二週間以上が過ぎ、暦の上では六月に入った。

フソウ連合やアルンカス王国では初夏なのだが、反対に南半球にあるサネホーンでは季節は冬となる。

また、場所によっては雪がちらつくところもある時期となっていた。

もっとも、サネホーン本部の主港のある地域はそこまで寒くはならない。

それでも気温が下がるのは当たり前で、前回の戦いの痛手を癒すという事もあり、軍は大きな活動を控えている様子だった。

もっとも、それは全体的に見てだ。

被害の出ていない部隊などは前回の戦いの屈辱を払拭するために奮起訓練に明け暮れる連中もいた。

フソウ連合の練度がかなり高いという話が広まったためである。

ならば、我らも負けぬよう鍛錬すればよい。

一部のそういった思考の持ち主が周りの迷惑顧みず暴走しがちとなっている。

もっとも、それでも平和だった。

トラブルはあったが、それでも平穏な日々が過ぎていると言えた。

その日もトラブルが午前中にあったものの、それでも時間は過ぎ去っていき、間もなく日が沈み一日が終わろうとしている。

「ふう。これで今日の仕事から解放されるな」

ぼそりとだが兵士の一人が呟く。

それに同意するかのように隣で計器関係を見ていた兵士がうんざりした顔で「ああ」と短く返事を返した。

それに気をよくしたのか、呟いた兵士が再び口を開く。

「しかし、ほんと、災難だよな。あの馬鹿共のせいでよ」

思わず出る愚痴、だが、後ろに上官がいる事を考えればこれ以上はさすがに不味いと思ったのだろう。

「それくらいにしておこうや」

そう言いつつ上官の方を見る。

上官にも聞こえているのだろう。

困ったような、それでいて同意するような表情をしていた。

それもそのはずだ。

昼過ぎぐらいまでそのトラブルの対応に翻弄されていたのだから。

そのトラブルとは、最近頻繁に起こっているものだ。

サネホーンでは航空戦力の充実を目指し、初の艦上機の運用に着手した。

今まで水上機のみであった為に空港は必要なかったが、艦上機運用という事で空港が設置され、そこに航空隊が創設された。

主港周辺の防空と哨戒、それに空母に搭載する部隊の訓練などが行われている。

しかし、それによってトラブルが生まれたのだ。

創設された事は問題ではない。

それどころか、防衛の観点からも、サネホーンの海軍力増強という観点からも大変いいことだ。

問題は、一部の熱血過ぎる指導者が規則を無視して訓練などを行ってしまう事にある。

基本、航空訓練を行う場合、レーダーによる警戒を行っている為、事前にここ防空監視所に訓練計画と通知が必須である。

そうしなければ、敵が侵入してきた際、対応は大きく後れて後手後手に回ってしまうだろう。

だから規則でそう決められている。

しかしだ。

それを軽視している連中が多いのだ。

防空訓練と称していきなり出撃とかを何度も行っているのである。

それはべつにいい。

しかしだ。問題は事前の通知や計画の提出がされない事が多いのである。

手順を無視し行う事は許される事ではない。

それにだ。

航空基地で敵機を捕捉する事はほとんどないし、航空隊の判断で独自に迎撃に向かう事はない。

なんせ、航空基地で肉眼で敵機を捕捉する時点での対応はもう遅いのである。

あくまでも防空訓練を行うというのであれば、防空監視所と連携して行う必要がある。

なんせ、レーダーで敵機を捕捉し、その誘導を受けて防空隊が迎撃に上がるのだから……。

しかし、元々、目視による戦いしかやってこなかった為にレーダーなどを軽視している連中が多い事と、ただ地上で計器だけ見ている防空監視の連中に比べて飛行機部隊は選ばれたエリートであるというガチガチの優越主義が相まって、いくら何度抗議しても改善される気配はない状態である。

実際、今日も午前中に恒例になりつつある抗議が行われ、余りに酷いのらりくらりとした対応に、上官がブチ切れて大騒ぎになってしまっていたのだ。

だから上官としては、同意を示したいものの立場上それは無理で、さらに注意すべきところだろうがお前らの気持ちはよくわかると言ったところだろう。

そんな複雑な表情の上官を見て、少しほっとした表情になると、言い出した兵士にこそこそと声をかける。

「あと一時間もしないうちに仕事は終わるからさ、上官誘って飲みにでも行こうや。そこで愚痴ぶちまけちまおうぜ」

「そうだな……。そうするか」

互いに疲れたという表情を浮かべると時計をちらりと見る。

まださっきからそれほど時計の針は動いていない。

なんでこういう時に限って時間が進むのが遅いのだろうか。

そんな事を思いつつ、二人はため息を吐き出して自分の計器に目を戻す。

もちろん、そんな仕草をするのは二人だけではない。

その部屋にいる兵士が似たようなことを思っているのだろう。

ちらちらと時計を確認するものが後を絶たないのだ。

その様子に、上官はため息を吐くと近々愚痴を言う機会でも設けるかと思考する。

確か部隊での交流の為の予算があったな。

それを出して皆で飲みにでも行くか……。

そうすれば少しは雰囲気も変わるかもしれんな。

そんな事を思いつつ、実は自分が一番愚痴をぶちまけたいのだという事に気が付いた。

思わず出る苦笑。

中間管理職はつらいな。

そんな事を思った時だった。

レーダー監視担当の兵士が声を上げた。

「主港の沖合にいきなり機影が写りました。数は六から八程度です」

その報告に今まで思っていた思考を頭の隅に押し込み、上官が確認の声をかける。

「間違いないか?」

「はっ。反応から恐らく低空飛行しているのではと思います」

「ふむ……」

要は、低空飛行していたため、感知が遅れたということか……。

そう判断すると、上官は無線担当の兵士に命じる。

「すぐに該当する海域に無線で問いかけろ。どこの馬鹿野郎か確認急げ」

「はっ。了解しました」

その返事を聞きつつ、上司の頭の中にはある思考が浮かんでいた。

『あの野郎どもが……。あれだけ抗議したというのにふざけるんじゃねぇ』

そう、上官は抗議に対しての航空隊の嫌がらせだと思ったのである。

そして、それは他の兵士達も思ったのだろう。

「くそっ。航空隊の連中だな。午前中のバカ騒ぎだけで飽き足らず、こんな夕方になってもやりやがるとは!!」

「ああ、多分昼間の航空隊の連中だぜ」

「あいつらならやりかねないな」

「本当にふざけるなって言いたいぜ」

愚痴があふれるかのように漏れていく。

もっとも、それは仕方ない事なのかもしれない。

また確認や抗議で時間が消費されていく。

そうなると引き継ぐ連中との打ち合わせもあり、定時での上がりなど無理となる。

そしてそれに拍手をかける報告が入った。

「問いかけの無線に連絡来ました。どうやら無線機の調子が悪いようです。『何?なんだ?』という返事のみです」

それでカチンときたのだろう。

上官の中で何かが切れた。

「ふざけるなっ。くそったれっ。俺らを馬鹿にしてやがるなっ。すぐに艦隊司令部に報告だっ」

だが、その剣幕に我に返った者がいたのだろう。

慌てて兵士の一人が口を挟む。

「しかし、それでは事が大きくなりすぎませんか?」

「構うものかっ。こっちに非はないからな。徹底的に責任問題を追及してやる」

「ですが、本来なら連携しなければならない部署同士がこういった事を起こすのは……」

「くどい。もう決めた。すぐに艦隊司令部に繋げろ。俺が話す」

そう言い切られてしまっては、階級が下の者が逆らう事は出来ない。

それに周りはそんな上官に拍手喝さいを送っている。

これは無理だ。

そう判断した兵士はため息を吐き出した。

「了解しました」

そして緊急連絡用の艦隊司令部に繋がる受話器を取ろうとした時だった。

派手な爆発音が響き、それによって発生した衝撃波だろうか、建物自体はコンクリート製だから揺れなかったものの窓がビリビリと震える。

誰もが何事かと窓に駆け寄る。

そして彼らが目にしたのは、港の近くで巨大な黒い煙と赤々と燃え盛る炎が広がる様であった。

「おい……。あれって燃料貯蔵庫の近くじゃねぇか?」

呟きともとれるその言葉に、誰もがその場所がとてもじゃないが不味い場所だと気か付く。

「おいおい、それが本当なら不味いぞ」

「可燃物が並んでいる中で焚火してるのと変わらねぇじゃないか」

「いや、それより質が悪い。火の粉が飛んでるじゃねぇか」

そして、そのとんだ火の粉が原因だろうか。火の手はどんどんと広がっている。

だが、それだけでは終わらなかった。

甲高いエンジン音が段々と大きくなっていく。

それは音を発している物体が近づいているという事だ。

「おい、あれ……」

一人が気が付いた。

夕暮れの中、二つの黒い点が近づいてくるのが……。

「あれって……まさか……」

そんな中、二つの点は形をはっきりさせていく。

飛行機だ。

二つのフロートが付いている。つまり水上機と言う奴だ。

そして二機の水上機は、防空監視所の上空を通りすぎ、そして後ろにある建造物に爆弾を投下した。

どんっ、どんっ。

二つの爆発音と同時に防空監視所の後ろ側にある大型レーダー施設が破壊された。

衝撃で建物が揺れ、一部の窓ガラスが割れる。

誰もが唖然としていた。

それはそうだろう。

まさか、主港が空襲されるとは思ってもみなかったのだ

そして、信じられないという思いがより拍車をかける。

彼らは目にしたのだ。

水上機が上空を飛び去る際に機体の主翼の下側に描かれている国籍マークを。

それは赤い丸。

つまり、日の丸であり、そしてこの世界でその国籍マークを使う国は一つしかない。

フソウ連合。

つまり、サネホーンの本拠地がフソウ連合によって攻撃されている。

その現実を受け入れられないでいたのである。

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