表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

592/839

『乙十二作戦』

グアンバ群島。

アルンカス王国からはるか南に位置する大きさが1kmも満たない島々によって構成された群島の名称である。

よい漁場であるその浅い海は穏やかであったが、潮の動きによって島の大きさは左右されやすく、また航路からは大きく外れてしまっている事もあってか人が生活圏を作るには余りにも適していない場所となっていた。

そんな群島の中心部分の海に、大型の三隻の艦船の姿がある。

フソウ連合から出港してきた潜水母艦大鯨を中心とした支援艦隊だ。

その構成は、潜水母艦大鯨、特殊給油艦速吸、韓埼の三隻と、護衛駆逐艦早蕨、朝顔、夕顔の六隻からなる。

そして、現在、群島の周辺に護衛駆逐艦は散らばり、また速吸と韓埼の二隻に搭載されていた零式水上偵察機計六機によって周囲の警戒が続けられている。

そんな中、三隻に近づく艦艇があった。

黒い灰色によって塗装された艦体と艦体とは不釣り合いなほどに小さな艦橋。

潜水艦である。

今や、この群島は、フソウ連合海軍の潜水艦部隊の合流地点の一つとなっていたのである。

そして、近づく潜水艦の艦橋には、小さく日の丸と白い文字で『イ-21』と書かれている。

『甲二十三作戦』を無事に終えて報告の為にこの地に姿を現したのだ。

大鯨の艦橋では、この艦隊の指揮を任せられた二階堂勘蔵大尉と大鯨の付喪神がその無事な姿を見てほっとした表情を浮かべている。

だが、それは仕方ない事なのかもしれない。

いくら無線があろうとも届く距離は限られているし、それに秘密裏に行動するのが当たり前の潜水艦の場合、撃沈されてもすぐにわからないことが多い。

まさか、相手があなたの国の潜水艦沈めましたよと教えてくれるはずもなく、決められた期間に戻って来ない上に連絡もつかないままであるという事で初めて撃沈されたと知る事さえある。

それは隠密性を重視する以上仕方ない事なのだが、だからこそ、その無事の姿を見てよりほっとするのだろう。

「ふう……。どうやら無事に戻ってきたな」

「ええ。潜水艦部隊と接する事が多いと、余計にこういう時はほっとしてしまいますよ」

二階堂大尉の言葉に、その太めの身体から力を抜いて大鯨の付喪神が同意を示す。

そんな大鯨を見た後、二階堂大尉は表情を引き締め直すと呟くように口を開いた。

「後は、伊-21の報告がどうなるかだな」

「そうですね」

「それはそうと、他の連中への連絡はどうなっている?」

「一応、二時間後のランデブーを予定しております」

「そうか……」

そう返事をした後、しばらく間を開けて二階堂大尉は伺うように聞いてくる。

「もしもだ。伊-21の報告が予想通りで、次の段階に進むとなったら、連中、どういった態度になると思う?」

その問いかけに、大鯨はニタリと笑みを浮かべた。

そして何をわかり切ったことを聞いているんですかと言った口調で言葉を発する。

「そりゃ、驚くでしょうが、間違いなく張り切って大喜びするでしょうよ」

その言葉に、二階堂大尉は苦笑を漏らす。

「やっぱりか……」

どうやら、彼もそれは予想していたのだろう。

苦笑からそう感じられた。

「恐らくですが、連中きっとこう言いますよ。『我らに任せてください。絶対に成功させます』ってね」

「まぁ、久々に連中のやる気に火をつけるような作戦だからなぁ……」

そう呟くと二階堂大尉は頭を掻いた。

そして視線を接近してくる伊-21に向ける。

もっとも、それは報告しだいか。

そんな事を思いつつ……。



そして、伊-21が合流して二時間後。

大鯨に近づく三つの艦艇があった。

伊-21と同じように黒い灰色で塗装された艦体。

だが、その艦体は伊-21より一回り以上大きく、また艦橋周りも独特の形状で大きく違っていた。

潜水空母と呼ばれる潜水艦、伊-400型である。

そして、その三隻は、フソウ連合が保有する伊-400型の三隻で、伊-400、伊-401、伊-402となっている。

すでに報告を終えた伊-21は大鯨から離れ、速吸の方で燃料補給を行っている為、三隻はうまく距離をとりつつ、大鯨に近づいてくる。

「さて、来たか……」

艦橋でその様子を見ていた二階堂大尉は、大鯨の方に視線を向けた。

「私は先に会議室に行っているから、彼らが来たらすぐに来るように伝えてくれ」

「了解しました。しかし……」

「しかし?」

そう聞き返す二階堂大尉に、大鯨はニヤニヤした顔で口を開く。

「いや、彼らの驚く顔が見れないのは残念だなと……」

「おいおい、恐らく君の想像通りだと思うぞ」

「いや、それでもやはり見たいですな」

思わず苦笑を漏らす二階堂大尉。

「気持ちはわからないではないがな」

そう言うと「後は頼むぞ」と言い残して会議室に向かう。

その後姿を見送りつつ、大鯨は言葉をかける。

「了解しました。でも、どうだったかぐらいは教えていただけるでしょう?」

その言葉に、益々二階堂大尉は苦笑し「わかった。後で教えるよ」と言葉を返すのであった。



会議室に続く廊下を歩きつつ伊-400、伊-401、伊-402のそれぞれの付喪神は、それぞれ怪訝そうな顔をしていた。

それはそうだろう。

補給はほんの一週間ほど前に受けたばかりであり、今回の急な招集に何事かという思いが強かったからだ。

「なんだろうな……」

伊-401の言葉に、伊-400が少し不貞腐れたような顔で答える。

「知るか。こっちは、アンホルトナ群島の調査中だったんだ。あと少しで終わるって時に……」

「そう言うなよ、気持ちはわかるけどな」

伊-402が慰める様に言う。

アンホルトナ群島はかなり遠方にあり、さらにサネホーンの勢力圏内という事もあって危険な調査となっている。

その関係上、かなり神経質になっているのだろう。

「たいした話じゃなかったら、絶対文句言ってやる」

そう息巻く伊-400に、伊-401と伊-402にやれやれと言った表情で互いに顔を見て苦笑を浮かべる。

その騒ぎは、会議室にいる二階堂大尉にも聞こえたのだろう。

三人が入ってくるなり、「少しは静かに頼むぞ」と苦笑して告げたのであった。

だが、それに意に返さず、伊-400が口を開く。

「それは内容次第であります」

その言葉に、少し困ったような表情をする二階堂大尉。

それを別の意味にとったのだろう。

伊-400が益々不貞腐れたような顔になった。

だが、彼は思い違いをしていた。

別に不満で声が大きくなると二階堂大尉は思ってはいない。

興奮しすぎて声が大きくなるのではという全く逆に思っていたのである。

「ともかく座ってくれ」

二階堂大尉は三人にそう椅子をすすめると、まずは『甲二十三作戦』が無事成功した事、それに作戦に協力してくれたことの礼を述べる。

そして、三人の顔を見ながら口を開いた。

「それでだ。今回、伊-21の報告から条件がそろった。また、上層部(うえ)からの許可も下りた」

そのあえて淡々とした口調でしゃべる内容に、三人の表情が変わっていく。

その表情に浮かぶのはまさかという気持ちと期待する気持ちだ。

その表情を見て、二階堂大尉はやっぱりそうなるかと予想通りの変化に苦笑を浮かべつつ彼らの期待する言葉を口にした。

「今回集まってもらったのは他でもない。『乙十二作戦』の実施が決定した」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに三人が歓声を上げた。

興奮した口調で続けざまに言葉があふれ出てくる。

「おいおいおいっ。まさか……」

「やったぞ。久々に燃える任務じゃないか」

「これなら文句ねぇぜ」

そして三人が声をそろえて言う。

「「「我らにお任せくださいっ。絶対に成功させて見せますっ」」」

それは大鯨の予想通りの言葉であった。

そして、そんな三人に二階堂大尉が困ったような表情で言う。

「実に頼もしいんだが、ここでは少しは抑えてくれないだろうか。多分、今のは周りに筒抜けだぞ」

その言葉に、三人が慌てて思い思いの動作で口をふさぐ。

そんな様子をみて二階堂大尉が笑って聞き返す。

「どうだ、たいした話じゃなかったか?」

そう言われて伊-400が困ったような表情になった。

さっきの言葉と態度に申し訳なく思ったのだろう。

「すんませんでした。たいした話でした」

そして、それが呼び水になったのだろう。

会議室は爆笑の渦に巻き込まれた。


こうして、『乙十二作戦』は開始された。

この作戦は、戦果よりもサネホーンをより混乱させて時間を稼ぐことが目的ではあったが、現状では偵察や調査の任務や作戦がほとんどであった潜水艦にとって華々しい活躍を見せれる数少ない機会であり、またのちの戦史に新たな戦いの方法として足跡を残すことになる戦いの始まりでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ