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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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ルイジアナ 対 第二艦隊第二分隊  その4

艦爆隊が引き上げる中、ただ一機金丸少尉の搭乗機は、艦爆隊の護衛として離脱した八機以外の戦闘機と共に対空砲火の届かない上空で待機していた。

「あの新型爆弾、派手な爆発の割には余りダメージ与えたようには見えませんでしたね」

後部座席にいる田組飛行兵曹長がそう言うと金丸少尉が苦笑して言い返す。

「どうしてそう思った?」

「あれ、艦橋辺りに落ちたのに、艦橋、被害が出てない様子でしたし……」

どうやら離脱の際に結果をしっかりと見ていたらしい。

「まぁ、ありゃ特殊な爆弾だからな」

「へぇ……。どんな効果があるんです?」

そう聞き返す田組飛行兵曹長に、金丸少尉はニタリと笑って言い返す。

「それを確かめるために残ってんだよ」

「見ててわかるんですか?」

「ああ。多分な……」

どうやらそれ以上聞いたら駄目だと思ったのだろう。

田組飛行兵曹長は困ったなといった顔で下を見る。

そこには、先に進むサネホーン艦隊の姿が点状で見えていた。



金丸少尉が搭乗する彗星が放った爆弾は、間違いなく艦橋に当たると思われた。

誰が見てもそうとしか思えない絶妙な急降下爆撃であった。

しかし、放たれた爆弾は艦橋に当たる前に爆散する。

その為、飛び散った破片により、多くの兵士に死傷者は出たものの、艦橋には大きな被害は及んでいない。

「どうやら、不良品のようですな。空中で爆散してしまったようです」

ふぅ……とため息を吐き出して副長が呟くように言う。

艦橋にいる誰もがそう思っていた。

運が良かったと……。

ただ一人を除いて。

ただ一人の人物。

正確に言うと人ではないが、それでも人の形をして人と同じように生きている者。

だからあえて人物と言おう。

そう、艦の付喪神であるルイジアナである。

副長の言葉に誰もが同意の意を示す様な頷きやほっとしたような表情を見せる中、ルイジアナだけは気難しい表情を崩さない。

不機嫌というか、違和感を感じているような感じだ。

それに気が付いたのか、副長が声をかける。

「ルイジアナ様、いかがなされましたか?」

その声かけにちらりと視線を副長側に向けたものの、すぐに視線を窓の外に向けた。

なぜそんな表情をするのか。

不思議に思うが、すぐにそれは謎が解ける。

「た、大変です。今の攻撃の為に、レーダー、通信関係に深刻な被害が出ています」

駆け込んでいた伝令からの報告に、副長は叫ぶように聞き返す。

「どういうことだっ」

「はっ。爆散した破片がアンテナやレーダーに被害を与え、レーダーがほぼ使用不可能となっています。また、通信関係も短距離ならばなんとかですが、長距離無線は厳しいようです」

その報告に、副長は視線を報告してきた伝令からルイジアナに向ける。

「やはりか……。さっきから気になっていた違和感はそれが原因か……」

艦艇と繋がっている付喪神故にそれらを違和感として感じていたのだ。

連中は、こっちの目を潰そうとしてきた。

その上、まだ上空には結構な数の機体が待機しているのを監視の兵が報告している。

つまりは、まだ攻撃が続くという事だ。

「各員、気を緩めるな。敵の攻撃はまだ続く。各砲座、補給を急げ。それと故障及び破損されてしまった砲座は放棄。人員は他の砲座の応援に回れ。後、レーダーが当てにならん以上、肉眼での監視に頼るしかない。監視員を増やして上空監視を強化しろ」

ルイジアナの命令に、艦橋内は一気に緊張が増す。

甲板でも兵達が応急修理や補給、それと死傷者を運ぶため、忙しそうに動き回っているのが見える。

もちろん、それは甲板だけでなく、艦橋上部の監視所も同じだ。

倒れた多くの兵に代わり、新しい兵が対空監視につき、死負傷者が運び出されている。

「レーダー及び通信関係の修復はどういたしましょう?」

「関係者を向かわせて応急修理可能かどうかの確認をさせろ」

「了解しました」

副長が慌てて動き出す。

そんな慌ただしい中、監視の兵から報告が入る。

「左舷から敵機接近っ」

ルイジアナが視線をそちらに向けると海面ギリギリを飛行して接近してくる二機の艦攻が見えた。

機体は、波が被るかのように海面に接近している。

恐らく、海面ギリギリを進むことによってレーダーの探知だけでなく、視界での発見を遅らせるのを狙ったのだろう。

海面ギリギリを進む。

それは言うだけなら簡単だが、かなりの技量が必要だ。

果たしてわが軍のパイロットにそれが出来るのがどれほどいるだろうか……。

ルイジアナは、フソウ連合のパイロットの練度に驚く。

それと同時に焦りが生じていた。

相手の技量と技術を測り損ねていたのではないかと……。

そして、それが現実になりつつあった。

その報告と同時に、対空砲火が始まった。

幾つもの砲座が火を噴き、接近する敵機を叩き落そうとする。

しかし、海面ギリギリで高速移動する物体を捉えるのはかなり大変なことだ。

その上、余りにも急な対応でまとまりがなく、敵機に振り回されているといった感はぬぐえない。

そんな対空砲火をあざ笑うかのようにすでに肉眼ではっきり形が判るほど接近してきた敵機二機は海面にそれぞれ魚雷を投下して離脱してく。

「糞ったれっ……」

監視員の報告を受け操舵手が必死になって艦を操る。

艦が激しく揺れたが、何とかギリギリで魚雷を躱すルイジアナ。

離脱していこうとする敵機に追撃の砲撃を浴びせようとしたものの、攻撃はそれで終わりではない。

「続いて右舷前方より二機っ」

離脱していく機体よりも接近する相手を優先しなければならない。

再び対空砲火が火を噴く。

その砲撃の中をまるでするりと抜けるかのように天山二機が接近する。

そして魚雷投下。

魚雷を躱す為、ルイジアナが蛇行するかのように動き、白波が子供の落書きのように海面に後を残していく。

それはルイジアナだけではない。

他の同行する艦艇も同じだ。

必死な対空砲火と回避運動。。

だが、ルイジアナに比べて貧弱すぎる対空砲火。

小回りのきかない動き。

それでも被害がないのは、攻撃がルイジアナに集中している為だ。

すでにルイジアナを中心とした円陣は崩れて、ミミズがのたくったような模様が残る。

そして艦艇の周りにはいくつもの小さな水柱が立つ。

もちろん、対空砲火のものだ。少しでもルイジアナの援護になれば……。

そういう思考が読み取れるが、能力が追い付いていない。

そんな有様である。

だが、そんな周りの必死なまでの援護を嘲笑うかのように敵機があらゆる方向から波状攻撃を仕掛けて次々とルイジアナに魚雷を放つ。

そして遂にさばききれなくなったのだろう。

ルイジアナの艦尾付近に爆発が起こった。

どんっという爆発音と同時に、ルイジアナの巨体が激しく揺れて破片が飛び散り、海面に次々と落ちていく。

「くそっ、隔壁閉鎖っ。急げっ。それと被害報告だっ」

「対空砲火っ。敵機を寄せ付けるなっ」

「監視所っ、敵機の動きをもっと早くよこせっ」

艦橋内に飛び交う叫びのような報告と命令。

誰もが必死になって生き残ろうとしていた。

だが、現実はそんな彼らを楽しんでいるかのようだ。

「右舷に魚雷接近っ。回避間に合いませんっ」

「各員っ。何かに捕まれっ」

その言葉をかき消すような激しい爆発音が二つ。

それで艦が一旦大きく傾くように揺れ、そしてグラグラと震えた。

誰もが手短なものに捕まり何とか踏ん張る中、ルイジアナが腹を押さえて歯を食いしばる。

額には脂汗が浮かんでいた。

「ひ、被害報告だっ」

「は、はっ」

だが、それを最後にさっきまで続けざまに行われた攻撃が止む。

どうやらしのいだのだろう。

誰もが息を吐き出し、肩の力を抜いた。

その場に座り込んでしまう者もいたほどである。

しかし、レーダーが不調な今、安心する事は出来ない。

いつ入れ違いに敵機の攻撃があってもおかしくないからだ。

だから、ルイジアナは激痛に耐えつつ口を開く。

「監視っ。警戒を緩めるなっ」

それを受け、副官がはっとした表情になる。

まだ戦いは終わってはいない。それを思い出したからだ。

敵の機動艦隊が待ち伏せしているのならば、これで終わりではない。

再度攻撃があるだろう。

そんな中、監視から報告が入る。

「上空で待機していた機体も離脱していく」と。

だが、それは見える範囲内でのことでしかない。

まだどこかに監視の機体が飛んでいるかもしれないのだ。

さらに攻撃を受けボイラー室の一部に被害が出た為、速力は大きく落とさねばならない。

それは裏を返せば、捕捉されやすくなることであり、離脱するのが遅れるという事になる。

今やルイジアナにとって、敵戦艦二隻に大ダメージを与えたという事やコンゴウタイプは敵ではないという事はどうでもよくなっていた。

何かとして離脱しなければ……。

それだけしか頭になかった。

そして、その願いはかなう。

これ以降、フソウ連合の攻撃がなかったからだ。

距離的な問題で攻撃は一度のみであり、深追いを避けて追撃を打ち切ったのである。

しかし、それを知らないサネホーン側としては、絶対的に安心できる海域まで神経が磨り減るような離脱を行うしかなかった。

その為、何事もなく、入港した際、ほとんどの乗組員は疲弊困憊状態であったという。

こうして、サネホーン側から仕掛けたこの戦いは終了する。

そして、この戦いで、サネホーン側は自慢の超々弩級戦艦の半年のドック入りとフソウ連合の油断ならない技術力と練度を再度知る事となったのであった。

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