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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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ルイジアナ 対 第二艦隊第二分隊  その2

「ふーっ、ここまでくれば一安心といったところか……」

ルイジアナは息を吐き出した後、そう呟くように言う。

フソウ連合の雷撃戦の強さに驚いたものの、敵の主力型戦艦のコンゴウクラスでは自分の脅威にはなりえないことがはっきりと今回の事でわかった上に、撃沈には至らなかったものの、コンゴウクラス二隻に深刻なダメージを与えたのは間違いなかった。

恐らくだが、あの二隻は、半年から一年は戦線復帰は難しいだろう。

確かに、我々も装甲巡洋艦と戦艦を失ったものの、十分すぎる戦果といえた。

それにこの勝利は、先の大敗で沈み込んだサネホーンの士気を大きく向上させる結果となるだろうし、一か月後ぐらいに実施する反抗作戦にもプラスとして働くことになるだろう。

また、今回の事は、次の侵攻作戦のよい参考になるのは間違いない上に、これだけの戦果を上げて戻ればあのグラーフとてそれほど強くは出てこないだろう。

それに奴は、フッテンを失い、今回の交渉決裂に何やら思い込みすぎていた様子だった。

これで少しは気が楽になるといいのだが……。

そうルイジアナは心の中で分析してそう思考していたが、「間もなくムバナール群島付近です」という副長の言葉に、すぐに頭の隅にその思考を押しやる。

ムバナール群島。

以前、フソウ連合とサネホーンが交渉を行い、決裂して最初に戦火を交えた場所である。

その戦いの生き残りの報告は、実に胡散臭く信じられないような内容であったが、フソウ連合との交渉は決裂し、戦闘が行われ、多くの仲間たちが死んだという事だけは間違いない事実であった。

ルイジアナは進行方向に視線を向ける。

そこには緑色の半透明の海と緑に覆われた或いは白い岩の地肌を見せる島々が見え、まるでそんな事はなかったかのような自然の景色が広がっていたが、事実は事実だ。

そしてそんな中、ルイジアナはある一人の女性の事を思い出していた。

リンダ・エンターブラ交渉官。

サネホーンの中では、一、二を争うほどの凄腕の交渉官である。

その判断力と知力、それに交渉力、どれをとっても素晴らしい上に、彼女はかなりの美人であった。

それ故に、相手は女だと油断し、或いはその美しさ故に警戒が疎かになって陥落していった。

まさに、交渉するために生まれたと言っても過言ではない人物だ。

そんな美人の印象的な笑顔が脳裏に浮かぶ。

多分、付喪神ではなかったら、彼女に惚れていたかもしれん。

そんな事さえ思う相手だった。

しかし、もう彼女はこの世にはいない。

今頃は、その肉体は朽ち果て、魂は拡散してしまっただろう。

最後に見た彼女は、今回のフソウ連合との交渉は間違いなく成功します。

そう、豪語していたのだがな……。

しかし、結果は無残なものだ。

交渉は決裂し、その代価を自分の命で支払う結果となってしまった。

さぞかし無念だったろうに……。

そんな彼女に側にはムスッとしたフッテンの顔が浮かぶ。

それは彼女を気にかけ、注意するフッテンとそれを聞き流しているリンダという以前ならよく見かける光景であった。

だが、もう二人はいない。

もうあの光景が見れないとはな。

寂しい限りだよ、二人共。

そんな事を思いつつ、ルイジアナは少し寂し気に微笑むと群島の方に視線を向けると黙祷した。

そして、そんなルイジアナに合わせてという訳ではないが、乗組員達もそれぞれの形で死者に思いを寄せていく。

誰もが死んでしまった仲間や友を思い、自然と行動していたのである。

そんなしんみりとした雰囲気ではあったが、三十分もしないうちにレーダー手の声でかき消される。

「レーダーに感あり。高速でこちらに接近する機影があります。数は一機のみ」

その報にルイジアナがすぐに反応する。

「どう向かっている?」

「こちらに向かって接近してきます」

「迷いもなくか?」

「は、はい」

それを聞き、ルイジアナは黙り込む。

迷いもなくこっち側に来ている。

それは我々がこちらに向かっているという事が判っているという事ではないだろうか。

偶々索敵に向かう方向が同じとは考えにくい上に、ここはすでにフソウ連合の水上機による広範囲の索敵範囲から大きく離れているはずだ。

それに我々を探しているというのならば、ある程度角度を付けて複数の機体が展開しているはずである。

なのに、機影は一機。

その上、迷いもなくこっちに向かってきている。

それらを考えればそうとしか考えられない。

ならば……。

結論を出すと、ルイジアナは口を開く。

「各艦に伝達。どうやら我々は敵の機動部隊と遭遇したと思われる。全艦対空戦闘用意」

しかし、そのルイジアナの命令に、副長が聞き返す。

「しかし、まだ一機です。その可能性は低いのではないでしょうか?」

「何を言っている。迷いなくこっちに向かっているのだ。索敵ではなく、間違いなく攻撃隊の案内の為に先行している偵察機だ」

そう言われたものの、まだ納得していないのだろう。

副長が言い返す。

「ですが、ここはフソウ連合の勢力圏内でも索敵範囲内でもありません。それに我々がここに向かっているなんて予想は早々できません。なのに、相手はこっちの動きを読み、こちら側に機動部隊を回していたというのですか?」

「どういう方法で連中がこっちの位置や進行方向を知ったのかはわからねぇ」

そこまで言ってルイジアナはふーと息を吐き出して息を整えると言葉を続ける。

「しかしだ。間違いなくすぐにレーダーに攻撃隊が写るぞ」

そして、その言葉を待っていたかのようにレーダー手が叫ぶ。

「新たな機影発見。今度のものは多数の航空機と思われます」

その報告に、ルイジアナが確信に満ちた感じの顔で聞き返す。

「進行方向は?」

「こちらに向かって進んでいます」

その言葉に、副長の顔が真っ青になっていた。

「そ、そんな……」

「そんな訳だから、今は敵がどうやって我々の位置や進行方向を知ったかを知るのは後回しだ。すぐに対空戦闘の準備を急がせろ」

「は、はいっ」

副長が慌てて駆け出していく。

しかし、ルイジアナはそれを見向きもせず窓の空を見上げて呟く。

「来るなら来てみろ、フソウ連合の航空機隊め。俺をそのあたりの艦艇と一緒と思っていたのなら、どでかい対価を支払う事になるのを教えてやるからな」

その呟きには、絶対的な自信があった。

自分は負けないという絶対的な思いが……。

そして、それが正しいかは、間もなく証明されるだろう。

はっきりとした形になって……。

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