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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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ルイジアナ 対 第二艦隊第二分隊  その1

間もなく夜が明けようかという時間帯。

闇が薄れ、薄暗いながらもあたりに光が満ちようとしている。

そんな中、速力を上げて進む艦隊があった。

航空巡洋艦最上を旗艦とし、航空母艦蒼龍、飛龍を中核とする機動部隊、第二艦隊第二分隊である。

そして、サネホーン艦隊に向けて攻勢をかける為の準備が慌ただしく進められていく。

特に攻撃の中心である二隻の航空母艦はまさに総動員といった有様で、飛龍の飛行甲板も多くの人々が動き回り、エレベーターからは発艦の為に機体が次々と甲板に上げられていく。

また、それとは別に艦橋近くではパイロットたちが集められ、出撃の際のミーティングが行われていた。

前に立つのは飛龍の攻撃隊のまとめ役となった金丸少尉で、彼はいつものごとく全員を見渡しながらミーティングを進めている。

「いいかっ。今回のお相手はサネホーン最大の超大型戦艦で、目的は機関にダメージを与えて展開中の作戦の支援を行うことだ。また、情報によるとその対空砲火はとてつもなく強力だと聞く。予想では、わが軍が保有する大和型か、大和改型に匹敵する艦艇だそうだ」

その言葉に全員の口から驚きの声が漏れる。

彼らとて数度ではあるが大和型を見ているし、訓練の際は、側を飛行したこともある。

そのハリネズミのような対空砲火に、驚きとそしてもし砲火を受けたらという恐れを感じた事だろう。

しかし、金丸少尉はあえてそれを気にせずそのまま言葉を続ける。

「それとまた今回も特命(オーダー)がある。今回は、敵の対空砲火を考慮し同一方向からの集中攻撃ではなく、二機ペアによる多数方面からの攻撃。それと作戦後には敵の対空砲火に対してのレポートを各自出してもらう」

最後の言葉に、また驚きの声が上がった。

今までそういった事はなく、ほとんど口頭で報告して意見をまとめて提出という形だったからだ。

皆の驚きの声に、金丸少尉が苦笑を浮かべる。

「そう驚くな。戦術技研が自軍以外の対空戦闘のデータを欲しているそうだ。まとまった意見ではなく、それぞれ感じたものが欲しいという事らしいぞ。それと今回は結構距離がある。だから、機体が破損した場合は救援信号を発して無理せず着水し救援を待て。いいな?」

そこまで言った後、パイロットの一人が挙手した。

それを受けて金丸少尉が指名する。

「どうした?大木場少尉」

大木場史郎少尉。

金丸少尉が来るまでは飛龍の攻撃隊をまとめていた人物で、部下への指導は下手ではないが自信家で暴走しがちという事もあり、金丸少尉赴任後は副隊長となっている。

その為、この人事に最初こそ彼は不満を持っていたものの、金丸少尉の部下に対しての真摯な態度と配慮、それに経験と技能に感心し、今は副隊長として金丸少尉を支え周りの空気を読み、聞きにくい事や疑問を率先して聞くことを行ったりしてくれている。

だから、今回もそういった事だろうと判断し指名したのだ。

大木場少尉は立ち上がると口を開く。

「今回はデータを取るのが目的でしょうか?」

その言葉に、何人かが頷くような動きをする。

恐らく同じように思っているのだろう。

まぁ、そう思われてもおかしくない。

今回はレポート提出だけでなく、細かな攻撃の仕方に関しても注文が来ているのだから。

だが、それは依頼であり、そうすべきかどうかは現場に任せられている。

だから、少し困ったような顔で答える。

「別にそれだけが目的ではないぞ。ただ、そういった話が来ているだけという事だ」

その金丸少尉の言葉に、大木場少尉はニタリと慢心の笑みを浮かべた。

「なら、沈めてもいいんですよね?」

その言葉と笑みから伝わる自信に、金丸少尉は苦笑を漏らす。

「ああ、それは構わんが、相手は大物だぞ。それに攻撃は一回こっきりだ。中々難しいと思うがな」

「でも、俺らならやれないことはない。そう思いませんか?」

そう言われて否定できるはずもなく、金丸少尉はますます苦笑する。

「まぁ、俺としては、無理をしてお前らを失いたくないからな。ほどほどにしておいてくれ」

「勿論ですとも。なぁ?」

その大木場少尉の言葉に、その場にいたパイロット達は笑いつつ答える。

「「「ええ。勿論です」」」

その笑いに金丸少尉も笑いつつ言い返す。

「わかった。わかった。でも必ず生きて帰れ。俺から言う事は以上だ」

「「「はっ」」」

全員が敬礼すると自分の愛機に小走りで向かう。

士気は限りなく高い。

特に最後の大木場少尉の質問が大きかったと思う。

やってやろうじゃないかという気迫があふれ出ている感じだ。

張り切りすぎるなよ。

内心そう思うものの、せっかく大木場少尉が士気を上げてくれたのだ。

余計なことはしたくない。

そんな事を思いつつ、ちらりと大木場少尉を見ると、大木場少尉と目が合って彼はニタリと笑った。

どうやらさっきのは狙ってやっていたらしい。

その様子からそう判断し、金丸少尉は苦笑したまま右手を軽く上げる。

それに答える様に大木場少尉も軽く右手を上げると愛機に乗り込んでいった。

そして、前方では、すでに先行して偵察機の彩雲が発艦しようとしている。

さて、俺も気合を入れていくか。

金丸少尉は自分の頬を両手で軽く叩くと自分の機体に視線を向けた。

すると「金丸さぁぁーーん」と後部座席に座る相棒の田組飛行兵曹長が開いた風防から身体を少し乗り出して手を振っている。

相変わらずだな。

そう思いつつ軽く手を振り返して向かう。

戦場に向かうために……。



「伊-21から無線きました。『敵艦隊予想進路のまま、変更なし』だそうです」

その報告を聞き、的場少将は海図を確認しつつ口を開く。

「そうか。それで攻撃隊の準備はどうだ?」

「はっ。飛龍より先発の道案内として彩雲が出ました。また、その後の攻撃隊の方もほぼ準備が終わっており、順に発艦する予定です」

「そうか。それで特命(オーダー)の方は伝えているのか?」

「はっ。現場の判断に任せるが、出来る限りやって欲しいと伝えております。最も、現場はやる気満々の様子でした」

苦笑を浮かべて報告する副官。

その言葉と表情に少しほっとした表情を浮かべる的場少将。

前回といい、今回といい、何度も出す特命(オーダー)に、現場は混乱していたりするのではないかとふと心配したのだ。

「そうか。ならいい。後は、我々は予定の地点に向かうぞ。それと周囲の警戒を怠るなよ。今、攻撃を受けたら大惨事だからな。後、アルンカス王国からこっちに回ってくる二式大艇の受け入れと補給の準備も急がせろ」

「了解しました」

指示を受けて離れていく副官をちらりと見た後、海図に視線を向ける的場少将に最上が声をかける。

「さて、うまくいくかな?」

「さぁな。一応、伊-21からの定期報告で位置は確認しつつ行うが、今回は距離が長いから航続距離の余裕もない。だから遭遇しないで帰還する可能性だってある。本当にこればっかりは運だな」

「なら、うまくいくんじゃないのかな」

「なぜそう思う?」

そう聞く的場少将に、最上は茶目っ気たっぷりの表情をした。

「なんせ、私と的場さんの悪運は、最強ですからね」

「悪運って……」

そう言って的場少将は苦笑する。

「そう思った方が楽ですよ。それに出来ることはやったんでしょう?」

「ああ。そうだな」

「なら、そう思った方がいい。人の持てる責任なんて、たかが知れているんですよ。それ以上しょい込む必要なんてないし、しょい込んでもロクなことにならないしね」

そう言うと安心させるように的場少将の背中を軽く叩く。

「確かにな。だから、そう思っておくか……」

そう返事を返しつつ的場少将は窓に視線を向ける。

その目にはゆっくりと朝日が昇ろうとする中、艦載機が発艦していく様子が写っている。

目指すは、サネホーン艦隊。

こうして、超々弩級戦艦対航空機という構図の第二ラウンドが始まったのである。

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