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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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それぞれの動き

「本部より『甲三十二作戦』の作戦許可が来ました」

その報告が来たのは、的場少将の元に第一分隊とサネホーン艦隊の戦闘が結果が届いた後であった。

他国に比べて通信情報処理に力を入れている分、フソウ連合の情報伝達速度は速いものの、距離が離れればやはりかなりのタイムラグが生じる。

それは頭ではわかってはいたが、実感したのだろう。

「ふむ。やはり遅れたか」

そう呟いた後、的場少将は海図から副官の方に視線を向けた。

「伊-21は動いているんだな?」

「はい。許可が遅れることを予想していたおかげで問題ないそうです。また付近で活動中の他の潜水艦も支援で動いてくれているそうです」

「そうか。それは助かる。潜水艦の速力は他の艦船に比べて遅いからな。カバーしてくれるのはありがたい。伊-21には作戦許可が下りた事、それに支援してくれる潜水艦には作戦支援に感謝すると伝えておいてくれ。これで『甲三十二作戦』の方はいいとして……」

そこまで言った後、的場少将の顔が曇る。

「それと第一分隊の方はどうなっている?」

その問いかけに副官が苦笑を浮かべる。

その様子に、ん?!といった感じの表情をする的場少将だが、副官の口から出た言葉を聞いて納得した。

「その件ですが、野辺少佐から、『こちらはこちらで対応する。連中に一泡吹かせてくれ』と通信が来ております」

要は、手助けするくらいなら、敵に攻撃してかたき討ちでもしてくれという事らしい。

負けん気が強いあいつらしい言葉だ。

また、かなりの被害だが航行できない艦はないという事だし、いくら負けん気が強いとは言っても味方が本当に大変ならそんな事は言わないだろう。

それにアルンカス王国からも第二外洋艦隊や支援艦艇が動いている。

ならば任せてもいいか……。

そう判断し、的場少将は再び視線を海図に戻す。

その隣では、最上も真剣な表情で海図を見ている。

被害を受けた僚艦がいる為、サネホーン艦隊の動きはかなり鈍ったようだが、距離的な差はまだ大きいから航空戦力という超遠距離に対応している上に、高速で仕掛けられる槍を持っているとしても普通に後ろから追いかけても届かない可能性が高い。

ならどうすべきか……。

簡単である。

相手の動きを読み、無駄のない動きで少しでも距離を縮めるしかないのである。

運がいい事に、潜水艦による追尾が続いている為、現在の敵艦隊の位置は大体把握できる。

後は、どううまく予測し対応するかだ。

だからこそ、考えを確認するためだろうか。

的場少将は隣で真剣な表情で海図に視線を落とす最上に声をかける。

「なぁ、最上。連中、どう動くと思う?」

その問いかけに、難しそうに顔を歪めて最上が答える。

「そうだなぁ。連中にとって、無事帰還する事が第一だと考えるとこのまま……」

そう言いかけて慌てて言葉を止める。

「ちょっと待て……。これだと……。いや違う……か?いや、このままだと『IMSA(イムサ)』に引っ掛かる……。確かに脅威ではないかもしれないが、下手な争いは被害を増やすだけだ。そうなると……こっち側か……」

そう言うと最上は海図の一点を指さした。

その指さした海域を見て的場少将も頷く。

「最上もそう思ったか……」

「ああ、色々考えてみて、恐らくここじゃないかと思う」

「それにここなら、こう進めば一撃は与えられるな」

「そうだね。後は、伊-21の報告を受けつつ修正していく方向でいいんじゃないかな」

その言葉に、的場少将は満足げに頷く。

そして副官に命じる。

「よし。まずは監視に動いている伊-21と支援に動いてくれている潜水艦に、『監視の継続を願う。動きあれば報告を求む』と伝えてくれ。そして、それが終わったら各艦に伝達だ。『これより我が艦隊は敵艦隊に一撃を与える為に動く。予想戦闘海域はムバナール群島。各自警戒しつつ休息を取り作戦に当たれ』以上だ」

「はっ。すぐに伝えます」

副官が慌てて動くのをちらりと見た後、的場少将は海図に目を戻し、少し難しそうな顔になる。

『ムバナール群島』

そう、その場所はフソウ連合とサネホーンが会談し、決裂して初めての戦闘を行った場所であった。



朝、眠い目を擦りつつ自室から鍋島長官が台所に降りてくると、そこにはいつものように朝食の支度をしている東郷大尉の姿があった。

「おはよう、夏美さん」

そう言って大きく欠伸をする鍋島長官。

「おはようございます。鍋島長官」

いつもと違う、仕事での呼び方に、鍋島長官の表情から眠気が消え去る。

「もしかして、報告が来たのかい?」

「はい。そちらに……」

そう言いつつ、テーブルの方にちらりと視線を送る東郷大尉。

それを受けて、鍋島長官はテーブルに近づくとボードに手を伸ばしつつ言う。

「起こしてくれればいいのに……」

「いえ。ついさっき届いたのですよ。だから、朝食の準備が落ち着き次第、持って窺うつもりでした」

「そう。ならいいか」

火を使っているのに離れるのは危険だからな。

きちんとした判断だ。

そんな事を思いつつ、鍋島長官はボードに挟まった紙に視線を落とす。

そこには、第一分隊の被害と、第二分隊の今後の動き、それに甲三十二作戦が動き出したことが書かれている。

そして、朝食の用意をしつつ、東郷大尉が口を開く。

「第一分隊の被害ですが記載されているのは現状でわかる分だけだそうです。細かな被害報告は、アルンカス王国についてからになるとのことですが、恐らくそれ以上になる恐れが高いと……。それと第二分隊の的場少将ですが、距離的なこともあり、一撃が精一杯ではないかという事です」

「そうなるか……」

「はい。少しでも相手の足を遅くするように仕向けるとの事です」

要は、足の遅い潜水艦でも監視対応しやすくするためだろう。

まぁ、傷ついた僚艦がいるから、そこまで速力は上げないだろうが、念には念をといったところか……。

しかし……。

「今回はかなり苦しい戦いになったか」

思わず鍋島長官の口から言葉が漏れる。

そして深いため息を吐き出した。

今、ここで使い勝手のいい高速戦艦二隻がドック入りし、長期戦線を離れるのはかなり痛い。

それに、ドックの方もそれほど余裕がある訳ではない現状だから、期間は長くなってしまう可能性すらあった。

そこまで考えた後、ある考えが浮かぶ。

「そう言えば、二隻はアルンカス王国の工作艦で応急修理をしてこっちに戻ってくるという形になるのかな?」

「はい。そう言う形になると聞いていますが……。何かありますか?」

そうなると、応急修理の期間と戻ってくる間の時間がもったいない。

少しでも短縮したいことを考えれば有効な手だし、経験を積むことにもなる。

まさに一石二鳥じゃないか。

そう判断すると鍋島長官は、ボードをテーブルに置くと口を開く。

「そうだな。まずは朝食が終わったら、本部にすぐに向かおう。それと山本大将と新見中将、それにドック責任者の藤堂少佐も呼んでくれないか。至急話し合いたいことがあるってね」

「わかりました」

そう返事をした後、少し迷った感じで東郷大尉が言いにくそうに聞いてくる。

「えっと……、聞いてもいいですか?」

「何をだい?」

「いえ、『甲三十二作戦』って初めて聞いたので……」

「そうだったかな?」

そう言いつつ、鍋島長官は少し考えた後、そう言えば知らないかもと結論を出す。

そして、簡単に説明をしておいてもいいかと思ったのだろう。

続けて口を開いた。

「『甲作戦』、『乙作戦』、『丙作戦』この三つの作戦はね、潜水艦の為の作戦なんだ」

「潜水艦の?」

「ああ、多くの艦艇が動く一般の作戦と違って、潜水艦の動きは基本一部の人間しか知らないからね。だから、名称もつけられることは少ないし、どうしてもこういった番号で呼ぶ作戦名になりやすいんだ。簡単に説明すると、『甲作戦』は索敵や偵察、調査といった感じで、『乙作戦』が戦闘、『丙作戦』は支援や妨害工作といった分類かな」

「じゃあ今回は、『甲作戦』という事は……」

「まぁ、そういう事だ。だから、今後、また似たような作戦名が出たとしても気にせず対応してくれ。後、他人には話さないでおいてくれ。いいね?」

「はい。わかりました」

そう返事を返しつつ、東郷大尉がフライパンの上の目玉焼きを皿にのせていく。

相変わらずの半熟で、実にうまそうである。

ご飯に乗せて醤油をかけて混ぜるとおいしんだよな、これ……。

そんな事を考えてしまい、身体がどうやら反応してしまったらしい。

鍋島長官のお腹がぐーっと鳴る。

思わず苦笑する鍋島長官に、東郷大尉がくすくすと笑う。

「すぐに朝食は出来ますから、警備の人達にも声をかけてきてください」

「ああ。わかった」

いつものようにそう答え、鍋島長官は玄関の方に向かう。

恐らく、今日は戦闘の後処理に追われ、今後の事を考えて色々手配をしなければならない忙しい一日になるだろう。

だからこそ、しっかり食って頑張らなきゃな。

両肩に責任がのしかかる。

しかし、それでも鍋島長官はグッと体に力を入れ気合を入れた。

やるといった以上は、やり遂げて見せる。

まだゴールは見えないし、先の事はわからないが、出来るだけの事はやっておく。

何もしなくて悔やむのだけは勘弁だしな。

そう思いつつ、警備の者達がいる部屋のドアをノックしたのだった。

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