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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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ルイジアナ 対 第二艦隊第一分隊  その1

まず最初に相手の位置を確認したのは、フソウ連合海軍第二艦隊第一分隊であった。

もっとも、それは見つけて当たり前かもしれない。

警戒ですでに艦隊を発見していた二式大艇の部隊から、逐一とは言わないものの、ある程度の割合で動きの情報が入ってきていたのだから。

だから、あらゆる進行方向に索敵を飛ばさねばならないサネホーン側とは違い、事前に動きもわかっていたため、索敵に飛んだのは二機のみであり、その二機もより確実に正確な位置情報を得る為に飛ばされたのである。

そして三時間後、索敵に出た一機から報告が入る。

「索敵に上がった零式艦上偵察機から報告です。『我、敵艦隊発見す。進路予想通り』との事です」

副官がそう報告するのを野辺少佐と金剛の付喪神は黙って聞いていた。

そして、二人で海図に視線を向ける。

「こうなると予定通り、セイラルナ海域での戦いになりますな」

金剛のその言葉に、野辺少佐は頷くと口を開く。

「ああ、予想通りだな」

そして視線を海図から金剛に向けた。

「で、金剛はどう思う?」

「どう、とは?」

「いや、戦えそうかと思ってな……」

なぜ野辺少佐がそんな事を聞いたのか。

理由は簡単である。

敵の艦種が判り、事前に知らされていた性能を知ったからであった。

モンタナ級戦艦

史実では、艦船運用思想の変化から1943年に全艦建造が取りやめになった大和型と互角に戦えるアメリカ海軍の超々弩級戦艦の事である。

全長281m、全幅36.7m、排水量7万トン余りで速力28ノット。そして400ミリ以上の装甲を持ち、主砲はMk.7 16インチ50口径三連装砲四基を持つ化物だ。

そのスペックからわかる事は、金剛型では真正面で打ち合わば圧倒的に不利であるという事だ。

基本、戦艦は20~30㎞先から放たれた自らの砲撃に対して耐えられるように設計されている。

それを考えれば、金剛型の35.6cm45口径砲ではかなり厳しいと言わざる得ない。

唯一対抗できるのは高速戦艦の天城の主砲45口径41㎝砲だが、それでも装甲に関しては大きく及ばない。

つまり、スペックだけ見ればガッツリ向かい合っての砲撃戦ではフソウ連合側が圧倒的に不利であった。

だからこそ、聞いたのである。

だが、そんな心配そうな言葉を金剛はニタリと笑い飛ばす。

「確かに性能の差はあるかもしれん。だけど、所詮はカタログスペック。やり方次第ではいけますよ。それに、我々の任務は敵を殲滅する事じゃない。アルンカス王国に向かわせない事でしょう?」

そう言われ、野辺少佐はほっとしたように身体から力が抜けて苦笑した。

「そうだった。そうだったな。いかん、いかん、気負いし過ぎていたようだ」

今まで確かに数の上では圧倒的に不利な戦いはあったが自分らの方が優れているという自信があった。

しかし、今回は数の不利はないものの、性能的な部分だけを見れば圧倒的に相手の方が有利なのだ。

だからどうしても今までと勝手が違うと感じていたのだろう。

「まぁ、速力はこっちが有利ですからね。精々引っ掛けまわしてやりましょう」

「ああ。そうだな。そうしてやるか」

野辺少佐はさっきの自分を忘れるかのようにそういうと笑う。

その笑顔を見つつ金剛は心の中で気を引き締める。

恐らく距離的には20~15㎞の打ち合いになるだろう。

それぐらい近づけなければ、こちらは相手にダメージを与えられない。

しかし、相手は違う。

その間合いに入る前からダメージを与える事は出来るし、与えるダメージだって違いすぎる。

下手したら一発で装甲をぶち破られ、轟沈の可能性だってあるのだから。

だが、それなのにぞくぞくした喜びが金剛の中で沸きあがり、興奮が収まらない。

これが戦艦という艦種に生まれた性なのかもしれんな。

金剛はそんなこと思いつつ、表面には微塵もそんな事を見せず、ただ黙って進行方向に視線を向ける。

それはまだ見ぬ敵を見つけたかのように鋭いものであった。



太陽が傾き、もう一時間もしないうちに夜の帳が下りる時間帯に、それぞれの艦隊は相手を発見する。

サネホーン側もフソウ連合側も戦艦を前に押し出しての単縦陣で進んでおり、着弾観測の為に水上機が艦隊から発艦する。

もちろん、相手も黙って着弾観測させる訳はなく、まず撃ち合いの前に制空権の取り合いが始まった。

ルイジアナから発艦した三機に対して、フソウ連合側には航空巡洋艦利根が随伴しており、六機が発艦している。

つまり、2対1であり、またパイロットの技量も大きく違う。

その為、制空権はあっけないほど簡単にフソウ連合側が抑える事となった。

「やっぱり、空の戦いは向こうが遥かに上か……」

報告を聞き、ルイジアナは悔しそうに歯を噛みしめる。

ギリっ。

歯が鳴ったが、すぐに気持ちを落ち着かせたのだろう。

「各艦に伝達。砲撃戦用意ーっ」

その声を受け、ルイジアナの前面にある主砲の砲塔がゆっくりと回り、砲身が動き出す。

最初こそ、少し左斜め程度の先に見えた敵だったが、近づくにつれてだんだんとズレが大きくなっていく。

つまり、互いにある程度距離を置いてのすれ違う形になっていた。

まず最初の発砲したのはルイジアナである。

もっとも、最初の砲撃で当たることなどほとんどない。

だが、最初に砲撃する事で相手にプレッシャーを与え続けることは有効な手段であるし、何より射撃しつつ修正が出来る。

そう判断したのだ。

しかし、フソウ連合側からは反撃の砲撃はない。

距離的には、金剛の35.6cm45口径砲でも届くのにである。

その上、艦隊の動きに乱れはない。

そこには、そんなこけおどしにはびくともせんよ。

砲撃に対してそう言った言葉が返されたかのようであり、ルイジアナの背中にゾクリと何かが走った。

自然と笑みが浮かぶ。

「へへっ。こりゃ、かなり楽しめそうじゃねぇか」

そう呟くと、引き続き砲撃を命じる。

次々と放たれる砲弾。

しかし、フソウ連合側は恐れる様子も見せず只々進む。

そして、ついに先頭の金剛の主砲が火を噴いた。

ルイジアナの周りにいくつもの水柱が立つ。

どうやら狙いはルイジアナだけのようだ。

それが判ったのか艦橋内にどよめきが沸く。

しかし、そのどよめきはルイジアナの声によってかき消される。

「馬鹿野郎、浮足立つんじゃねぇ」

その声に、艦橋内は落ち着きを見せるが、それはそれで仕方ないともルイジアナは思う。

ルイジアナとここまで互角に近い戦いをする相手は初めてなのだ。

なぜなら、いつもルイジアナは戦いで圧勝していたのだから。

なんせ、前弩級戦艦と超々弩級戦艦が戦えば、その性能差はかなりのものである。

その上、この世界の艦船の火砲の威力は、同口径だとしてもルイジアナの世界の規格と比べて大きく劣っている。

だからこそ、ビスマルクが王国艦隊相手に無双できたのであり、ルイジアナもサネホーンをまとめ上げる戦いの際に海賊相手に圧勝出来たのだ。

しかし、フソウ連合は違う。

確かに砲撃力は口径の差でルイジアナより下ではあるが、侮る事が出来るレベルではないし、下手すれば致命傷になりかねない。

だからこそ、浮足立ってミスをするわけにはいかない。

そう判断して声を上げたのである。

だが、それでもルイジアナはニタリと笑った。

確かに手ごわそうだが、俺の敵ではない。

そう判断したのだ。

益々距離が近づいてくる。

敵の砲撃はより正確さを増していくが、かなりの速力で移動しつつ行う砲撃の命中率は限りなく低い。

それに、まだ当たったとしてもそれほどダメージにはならない。

次々と艦の付近に水柱が立ち、海水が雨のように降り注いでくる。

互いに距離を開いたまますれ違いつつ砲撃を続けていく。

すでに百発近い砲撃が放たれたが、互いに命中弾はない。

だが、その均衡は唐突に破られた。

着弾観測の差が出たのだろうか。

遂に金剛の主砲の一発がルイジアナに命中したのだ。

しかし、当たったものの、砲弾は装甲を貫通出来ない。

それでもダメージはあったが、その痛みに耐えつつルイジアナに笑みが浮かぶ。

思った通りだ。この距離からなら何とか防げる。

「見た通りだ。いいかっ。連中の攻撃など、俺の装甲を突破できるものではない。次は我々の番だ。より接近して砲撃を行う。連中に倍返しをしてやれ」

その声に艦橋内に歓声が沸き、士気が一気に上昇する。

勝てる。勝てるぞ。

艦橋内にいる誰もがそう確信した瞬間であった。



「くそっ。びくともしねぇか」

金剛が悔しそうにそう吐き捨てる。

「流石にこの距離ではきついか……」

野辺少佐も悔しそうにそう呟く。

ざっと距離的には20㎞前後といったとこか。

ならばもう少し近づく必要があるな。

「よし、艦隊転進。再度、敵艦隊に攻撃を仕掛ける。敵の動きはどうだ?」

「はっ。敵もこちら側に転進するようです」

どうやら相手もやる気のようだ。

なら好都合だ。

「よしっ。次はもう少し距離を詰める。また、駆逐艦に伝えろ。タイミングを見て命令を下すから敵艦隊に切り込み、雷撃戦を行えとな」

そう言った後、野辺少佐は金剛の方に視線を向ける。

「行けるよな?」

その問いに、金剛は豪快に笑った。

「当たり前だ。これくらいでビビるとでも思ったのか?それどころか今最高の気分だ」

その表情は満足げで、まさに戦艦として戦っているという感覚に打ち震えているかのようであった。

「よし。なら次は仕掛けるぞ」

「おう、任せておけ」

二人の掛け合いを確認した後、副官が口を開く。

「では、すぐに各艦に伝達いたします」

「ああ、頼む」

その命令を受け、第二艦隊第一分隊は転進し、相手に向かって進む。

再び始まる砲撃戦。

さっきに比べて距離は大きく縮まり、恐らく最も近づく場合は12~13㎞といったところか。

それは、お互いの手の内を探るような戦いから、死闘へと切り替わったことを示していた。

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