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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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対応……


『こちら、索敵ゴーゴーサンのサン。索敵中にサネホーンと思われる小規模な艦隊を発見す。位置はトロンバーガ海域ゴーマルマルヨンのハチイチ。繰り返す、こちら、索敵ゴーゴーサンのサン。索敵中にサネホーンと思われる小規模な艦隊を発見す。位置はトロンバーガ海域ゴーマルマルヨンのハチイチ』

その無線がアルンカス王国のフソウ連合海軍基地アンパカドル・ベースに届いたのは穏やかな天気の午後であった。

間もなく長い梅雨の時期に入る事を思えば丁度一息といった感じの日和であり、誰もが落ち着いた生活をしていた。

もちろん、アンパカドル・ベースで働くものはほとんどが軍人であったが、これからの高温多湿の梅雨に入る前のどちらかと言うと過ごしやすい時期に一息といった印象はぬぐえない。

そんな中にこの無線はあったのだが、司令部はそれほど驚かなかった。

理由は簡単である。

後に第一次アルンカス王国攻防戦と呼ばれることになる前回の戦いの後、週に一、二回の割合でサネホーンによる小規模の艦隊の警戒海域の侵入がある為である。

おそらく、フソウ連合の警戒海域や対応の様子などの情報収集の為だろう。

十隻未満の艦隊が、警戒海域に入っては出てを繰り返したり、ある程度まで侵入すると踵を返して離脱したりといった行動を繰り返している。

その度に、フソウ連合も対応の為に動くものの、戦闘になる前にサネホーン側は離脱する為、戦いはほとんど起こっていない。

それに情報では、サネホーンの大きな動きはまだなく、その準備である物資の動きも一時的に止まっている為、侵攻作戦はまだ一か月以上はかかると思われていた。

それ故にいつもの事かとアンパカドル・ベースの指揮官である樫木特務大佐は判断したのである。

それに、確かあの辺りの海域で動いている部隊がいたな。

彼らに動いてもらうか。

いつも逃げられているばかりでは詰まらんし、入り込んでくるには代償が必要だと警告する意味を知らしめる意味でやってもいいだろうと思ったのてある。

もっとも、最終的な決断は、第二艦隊の司令官に任せるが……。

そんな事を思いつつ、駐屯している第二艦隊の作戦司令部に報告を出そうと思った時だった。

追加の情報が無線で知らされた。

『敵艦隊、規模は十隻未満ながらも中央には、超々弩級と思われる大型戦艦を確認す』

その無線報告を受け、樫木特務大佐は一瞬何を言われたのかわからなかった。

サネホーンにフソウ連合の大和改に匹敵する超々弩級戦艦が存在する情報は知らされていた。

しかし、その数は現時点で確認されているだけだと二隻程度であり、それ以外にも艦艇があったとしてもまさか情報収集の為に動かすべき戦力ではないと思ってしまっていたからだ。

だから、思わず「済まないが、もう一回言ってくれ」と聞き返してしまったのは仕方ない事だろう。

それほどまでに突拍子もない事だと感じていたのである。

「はっ。『敵艦隊、規模は十隻未満ながらも中央には、超々弩級と思われる大型戦艦を確認す』です」

報告してきた兵が繰り返し無線の内容を口にするが、報告してきた兵も信じられないといった感じがあった。

だが、目の前に書かれている内容を誤魔化すわけにはいかず、ただ真実のみを言うしかない。

そんな雰囲気があった。

再度言われ、樫木特務大佐の表情が強張る。

「間違いないのだな?」

「はっ。通信の者も何度も聞き返したそうですが、間違いないと……」

「そうか」

短くそう言うと、樫木特務大佐はすぐに副官に命令を下す。

「第二艦隊の的場少将にすぐに伝えろ。それと第二外洋艦隊司令部とフソウ連合の本部にもだ。あと、各警戒部隊に連絡。他にサネホーンの動きがないか徹底的に調べろとな。それに警戒レベルを上げておけ」

「はっ。了解しました」

命令を受け、副官がそれぞれに指示を出していく。

だが、その様子には見向きもせず、報告してきた兵が渡したボードをじっと見返す樫木特務大佐。

そこには間違いなく、報告のあった内容が書き込まれていた。



「アンパカドル・ベースから緊急連絡です」

そう言って手渡されたボードに目を通し、的場少将は一瞬だが動きが止まった。

書かれていた内容が予想外のものだったからだ。

「間違いないか?」

「はっ。間違いありません」

「そうか。それでこの報告は、本国には送ってあるのか?」

「はっ。送っているとのことです」

「そうか……」

そう返事を返すと、的場少将は、テーブルに広げられている海図に視線を落とす。

アルンカス王国を中心に展開する海図には、いろいろに情報が書き込まれて、いくつもの区画に分けられている。

そのうちの一つ。

報告のあった海域の区画に視線を向ける。

進行方向からはアルンカス王国の主港に向けて一直線といった感じてはあるが、余りにも何も考えなさすぎる動きであった。

情報収集とするならば、いろいろ試行錯誤といった感じの動きをしてきてもおかしくはない。

しかし、それが全く見えない上に、数は少ないとはいえ、戦力は余りにも強大だ。

となると……。

ぐるりと他の区画にも視線を移す。

陽動で、本命は他にいるとみるべきか……。

そうなると……。

幾つかの地点や海域を人差し指でコンコンと小突くように叩く。

そして、視線を上げずに口を開いた。

「他の海域や区画で敵発見の報はまだないんだな?」

「はっ。今の所は……」

「ふむ……」

ならば、敵の狙っていのは何だ?

我々を混乱させるだけにしては戦力が強大すぎる。

的場少将は腕を組み考え込む。

だが、すぐにその思考は中断された。

「どうするんです?」

相棒であり、第二艦隊旗艦でもある最上の付喪神が横から顔を出して聞いてきたからだ。

そう聞かれ、的場少将は顔を上げると最上の方に視線を動かした。

その表情は困惑しているという感情がありありと浮かんでいた。

だからだろうか。

最上は苦笑するとぱーんと背中を叩いた。

「考え込んでいても時間が経つばかりだよ。まずは動こう」

その言葉と背中に走った痛みに、的場少将は我に返ったかのようにハッとした表情になり、そして苦笑を浮かべた。

「そのとおりだ。時間は限りがあるからな」

そう言い返すと、すぐに命令を出す。

「確か、第一分隊は訓練の為に出ていたな。まずは彼らに先行させろ。それと第二分隊の現状報告を急げ。それとこっちも出港する可能性が高いからな。出港準備を急がせろ。それと出ている者達は急いで呼び戻せ。あと、第二外洋艦隊の司令部に繋げ。この後の動きの打ち合わせを行う」

「了解しました」

それに合わせるかのように報告が入る。

「第二外洋艦隊司令部より連絡が入っております。至急だそうです」

その報告に、的場少将は苦笑する。

「先を越されたよ」

その言葉には、自分の未熟さを痛感するような含みがあった。

「なに、そういった事は誰にでもあるさ。それにすぐに対応したじゃないか」

その最上の言葉に、的場少将は連絡を受けるため歩きつつ答える。

「まだまださ。それと、ありがとうな」

どうやら、声をかけてくれたことに対する感謝という事だろう。

それは最上にも伝わったのだろう。

最上はニタリと笑うと宣言するように言った。

「言ったろう、私は、貴方の旗艦だからと……」

その言葉に、的場少将は嬉しそうに微笑み返すと用意されていた受話器を受け取ったのであった。




フソウ連合の鍋島長官にアルンカス王国からの報告が入ったのは、実に二時間程度後であった。

アルンカス王国とフソウ連合は距離的にかなりのものがある為に直接つながっている訳ではなく、何か所かの中継地点を経由してという形になっており、どうしてもタイムラグが生じてしまう。

現代のようなほぼリアルタイムといった事はまさに夢幻と言っていい。

もっとも、それはフソウ連合だけではなく他の国々も同じであり、それどころか情報伝達の速度ではフソウ連合が最も優れていたと言っていいだろう。

恐らく、他国では同じような距離であれば倍はかかったかもしれない。

ともかくだ。

情報は間違いなく届いた。

この時、鍋島長官は長官室で艦隊編成の件で新見中将と山本大将との話し合いの途中であったが、この報告を受けると困惑した表情になった。

この敵の動きに何か裏があるのかと考え込み、そして的確だと思える答えを何も思いつかなかったからである。

だが、そこで思考停止しているわけにもいかず、彼は口を開いた。

「第二艦隊と第二外洋艦隊の動きはどうなっている?」

その言葉に、事前に報告があったのだろう。

報告してきた東郷大尉は、ボードに視線を落としつつ答える。

「はい。第二艦隊第一分隊が先行して動いています。第二分隊も遅れてではありますが、出港準備を進めているようです。また、第二外洋艦隊は第二艦隊の後方に位置し、守りに徹するとのことです」

「わかった。現場の指揮は、的場少将に任せると伝えてくれ。それと各地区の警戒部隊に連絡だ。他に侵入してくる連中がいないか、確認を急がせるようにな」

「了解しました」

そう返事をすると東郷大尉は退室していく。

それを見送った後、鍋島長官は苦笑を浮かべた。

「参ったな……。予想外だよ、この動きは……」

その言葉に、山本大将も苦笑を浮かべる。

「なに、我々だって長官と一緒ですよ。まさかって思いましたからな」

その山本大将の言葉に、新見中将も頷く。

「ええ。報告を聞いた時、まず最初に信じられなかったですからね」

そこまで言って、新見中将は伺うように鍋島長官に聞き返す。

「それで、連中の目論見を長官はどうみますか?」

その問いに、鍋島長官は少し間を置くと困ったような顔になる。

「いや、これといった的確な理由が浮かばなかったんだよ」

その言葉とニュアンスに気が付いたのだろう。

「的確な理由は浮かばなかったが、それ以外は何か浮かんだという事ですかな?」

そんな問いに、鍋島長官は苦笑を浮かべて困ったなと自分の頭をトントンと叩いた後に口を開いた。

「わかるかな?」

「ええ。なんとなくですがね」

そう言って新見中将はニタリと笑った。

東郷大尉や護衛の見方大尉以外なら、幕僚の関係者中では新見中将との接触は特に多いのだからそうなってしまうのだろう。

なんせ作戦や人事、艦隊編成といった事まで色々と相談に乗ってもらっているのだから……。

だから、鍋島長官は苦笑を浮かべると口を開いた。

「今回の件、事前に情報がないという事と、艦艇の数が少ないという事、それにまだわからないが他にサネホーンの艦隊の動きがない場合だと、現場が勝手に動いたとしか思えないんだよ」

「ふむ。現場の暴走と?」

「確信はないけど……」

自信なさげにそういう鍋島長官に、山本大将が口を挟む。

「しかし、ありえない話ではない」

そう言うと手を組み考え込んだ。

相手は普通の国ではない。

並の国以上の勢力を持つとはいえ、海賊なのだ。

だから、思い込みは危険なのかもしれない。

そう考えたのだろう。

新見中将も考え込む表情になる。

暫く場を沈黙が包み込む。

しかし、その沈黙はため息で途切れた。

鍋島長官はため息の後、口を開く。

「ともかくだ。距離が離れている以上、的場少将に現場は任せて今は我々のできる事をやっていきましょう」

その鍋島長官の言葉に二人は頷いたのであった。



こうして、予想外のルイジアナの動きに対して、フソウ連合海軍は若干の戸惑いがあったにせよ行動を開始した。

そして、翌日の夕方近くになって先行して進んでいた第二艦隊第一分隊はサネホーンの艦隊と遭遇する。

それは、超弩級戦艦同士の戦いの始まりであった。

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