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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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総統への報告

潜水艦部隊の総指揮を任せられているカール・ガイザー・ガルディオラ提督が口頭で『封印作戦(パッケージ)』の第一段階の簡単な報告をすると、一旦は喜ぶトラッヒ・アンベンダードだったが、手渡された報告書に目を通し始めると表情が複雑そうなものになった。

そしてある部分までくると視線を報告書からガルディオラ提督に向ける。

「確かに潜水艦(ナビオ・ディメルバハ)が兵器として十分すぎるほどのものだというのは証明された。間違いなく、我々の主力兵器としてこれから王国を苦しめる事もな。それは実に喜ばしい事だ。だが、問題はそこではない……」

そう言いながら開いてある報告書のページをパンパンと手で軽く叩いた。

そのページは、相手に与えた被害、戦果が事細かに記されているページだった。

「この撃沈の数の少なさはどういうことだ?僅か十三隻だと……」

ヒステリック気味にそう言われ、ガルディオラ提督の表情が青ざめる。

しかし、それでもガルディオラ提督は自分自身を落ち着かせると説明を始めた。

恐怖に駆られ黙り込んだり、変な事を言ってしまえばとんでもない事になると感じたからだ。

実際、秘書官が余計な事を言って更迭されている。

だからこそ、そうなってたまるかと言いう気持ちが強かった為にその顔は緊張して引きつっており、まさに必死といってもいい表情であった。

「確かに撃沈は十三と少ないのですが、撃沈には至りませんが、かなり数多くの船舶に被害を与えております」

「しかしだ。それでは輸送を遮断しきれていないではないか」

「おっしゃる通りです」

ガルディオラ提督は素直にそう言ったが、すぐに言葉を続ける。

「実は、こういった結果になったのは、魚雷のせいなのです」

その言葉に、トラッヒは眉を顰めて聞き返す。

「魚雷だと?」

「はっ。現在使用している魚雷はどうしても不発弾が多く、その為、命中しても撃沈に至らないことが多いのです。実際、酷い場合だと、命中した魚雷全部が不発だったという報告もあります」

その言葉に、トラッヒは呆れ返って聞き返す。

「なんだそれは?!」

「信じられないでしょうが、それは事実なのです」

実際にこの世界の魚雷は故障が多くて整備の状況にもよるが不発の可能性は六~七割以上になる事もあるほどで、それ故に計算できない博打に近い兵器という認識が当たり前で、その為にこの世界ではどうしても海戦は砲撃戦が主体となったのである。

だから、トラッヒが魚雷攻撃メインの潜水艦を切り札にと考えたのは、彼が海戦の素人だからであったからでもあった。

もし、少しでも海戦についての知識があれば、彼はきっと潜水艦を切り札と考えなかっただろう。

だが見方を変えれば、無知だったからこそ、ここまでの数の潜水艦を運用しての通商破壊作戦を思いついたと言っていいのかもしれない。

また、計画を聞かされれたファランカシス・ランバートにしてもその事はわかってはいたが、余りにも自信たっぷりに話すトラッヒにそれに対しての対策はしてあるとしか思わなかったし、何より潜水艦という未知の兵器の希望性に目がくらんでしまっていた為指摘しなかった。

その結果、今頃になって魚雷の不発弾問題を知ることになってしまったのである。

だが、すでに計画は大きく動き出してしまっている。

そうなってくると今更大きな変更は難しい。

だからこそ、トラッヒは黙り込む。

フソウ連合に出鼻をくじかれ、自信をもって進めた計画も思った以上の戦果を上げていないと思ってしまったのだ。

だが、潜水艦隊の指揮を任せられているガルディオラ提督の考えは違っていた。

彼は不発の魚雷が多い有様でここまで戦果を上げたと思っていたし、潜水艦を主力とする戦いに手ごたえを感じていた。

これはいけるぞ……と。

だから、彼は言葉を続ける。

「確かに撃沈数は予想より少ないでしょう。しかし、損害は間違いなく与えています。現にスパイによると王国近海の航路の貨物量が減りつつあるようです。だが、それも重要ですが、それ以上に大事なのは、これらの戦果がこちらの損害なしで相手に与えているという事です。それも圧倒的な海軍力を誇る王国海軍相手にですよ。過去にここまでワンサイドゲームのような戦果を上げたのは、誰もいない。我々を除いて」

正確に言うと、フソウ連合と王国の戦いであるガサ沖海戦がワンサイドゲームと言っていい内容ではあるが、その詳しい情報は世界的には広まってはいない。

だからこそ、ガルディオラ提督はそう言い切ったのである。

その言葉を聞き、考え込むように視線を下に向けて黙り籠っていたトラッヒは、ゆっくりと視線をガルディオラ提督に向ける。

「ふむ。確かに言われてみれば……」

そう呟くとトラッヒは腕を組むとしばし難しそうな顔をしている。

それを見てもう一押しだと思ったのだろう。

ガルディオラ提督は用意していた手札を切ることにした。

報告書とは別に用意していた書類をトラッヒに手渡す。

組んでいた腕を崩してそれを受け取るとトラッヒは怪訝そうな顔をしてガルディオラ提督を見る。

その視線には疑いの色が強かった。

もちろん、それに気が付いたものの、気が付かない振りをしながらその視線を受け止めつつガルディオラ提督は口を開いた。

「こちらは、今回の作戦でわかった問題点と対策。それに新型の潜水艦と新型の魚雷開発計画。後は今後の潜水艦隊増加による戦果の予想であります」

その言葉に、トラッヒは驚くと視線を何回かガルディオラ提督と渡された書類の束にいったり来たりさせてしまうが、意を決したのだろう。

書類に目を通し始める。

それを黙って待っているガルディオラ提督。

沈黙が辺りを包み、無表情ではあるがガルディオラ提督の額に汗が浮かぶ。

内心ビクビクしているのだが、必死になって隠そうとしているのだろう。

そしてすべての書類を見終わったトラッヒはゆっくりと視線を書類からガルディオラ提督の方に向けた。

「ふむ。提督……」

「はっ。何でしょうか、総統閣下」

何とかガルディオラ提督はそう答えるも、声が少し震えている。

だが、そんなガルディオラ提督を真顔で見つめた後、トラッヒはニタリと笑った。

「提督の言う通りだ。修理するにしても時間や資材がかかる現状を生み出したのは、確かに戦果ともいえるな。それに対策が検討され、より戦果を上げようという気迫を感じさせた。実に喜ばしい」

そう言い切ったトラッヒはダンと机を叩くと立ち上がった。

「よくぞここまで進言してくれた。まさに貴官の言う通りだ。どうやら私は思い違いをしていたようだ」

そうトラッヒは言った後、ガルディオラ提督の両肩をがっしりと掴むと頼もし気に見る。

「貴官のような優秀な人材が潜水艦部隊を率いている以上、もう大丈夫だな。わかった。ここは貴官の言う通りに進めていこうではないか」

そう言い切ると楽しげに笑った。

それに釣られるようにガルディオラ提督の表情もうれしそうなものになる。

ただ、注意しておきたいのは、別にトラッヒの笑っているのがうれしいわけではない。

さっきまでの流れなら下手したら潰されかねない潜水艦の可能性を残せた事と、これによってより高い権力を手に入れ、より自分の望む計画を進められると思ってうれしくなったのである。

実際、この後、潜水艦部隊には多くの予算と人が回されるようになって規模が拡大。

予算は、一気に三倍、人員も二倍近く増えることになり、連盟海軍の中で、ガルディオラ提督の勢力は増すこととなる。

だが、その余りにも優遇されすぎる倍増は、削減を受けた洋上艦隊をまとめ上げているマクダ・ヤン・モーラ提督の恨みを買い、後に連盟海軍を二つに分ける派閥争いを生み出す原因となるのであった。

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