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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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執務室にて……

「またやられたぞ」

執務室に入ってきたミッキーは悔しそうな表情でそう告げる。

「今度はどこだ?」

アッシュがそう聞き返すと、ミッキーは報告書を手渡しつつ吐き捨てる様に言った。

「ロールヘンタ航路だ」

その言葉を聞き、アッシュが渋い表情になった。

「あそこか……」

ロールヘンタ航路。

王国近海で、今までこういった襲撃を一度も受けた事のない航路だ。

つまり完全な安全地帯と思われている航路でもある。

その為か、そこで使われている艦船は旧型が多い。

発見が遅れたのか、或いは動きが遅くて回避できなかったのだろう。

その呟きともとれるアッシュの言葉を聞きつつミッキーは壁に貼られている王国を中心に描かれている大きな海図に視線を向ける。

そこにはいくつもの航路とそして赤で×がいくつも書き込まれていた。

「襲撃を受けたのは、第63船団だ。載せていたのは、ロメルハンナト商会の積荷で、幸いなことに当たったのは不発弾だったせいで沈没はない。精々積荷の一部が駄目になった程度で収まっている」

そんなミッキーの言葉を聞きつつ、アッシュは険しい表情で報告書に目を通していく。

そこに書かれていたのは、コネチット海で全滅した第52船団の生き残りが証言していた事とほとんど同じだった。

襲撃者の船影や艦影は見えず、唐突な雷撃による攻撃。

そして時間は昼間であり、天気は晴れて海はどちらかと言うと穏やかであったという。

つまり、視界は良好であり、最初の襲撃以降、見張りを厳にせよという指示が出ているはずだから、発見できなかったという事はないはずだ。

なのに……。

「やはり……、幽霊(ゴースト)の仕業か……」

アッシュが報告書を読み終えて、報告書をテーブルに置きつつ呟く。

そう、いつしか姿なき襲撃者は幽霊(ゴースト)と呼ばれるようになっていた。

今回で実に八回目の襲撃となる。

もっとも最初の襲撃こそ全滅したものの、その後の襲撃は魚雷の不発が多いためか、沈没は最初を除くと五隻(貨物船四隻、装甲巡洋艦一隻)に留まっている。

だがそれ以外に被害がなかったわけではない。

船上の被害ならまだいいのだが、被害を受けたのは水面下である。

不発弾の撤去と船体の破損。

多くの船が傷つきドック入りを余儀なくされていた。

その為、比較的余裕があった近海の海運能力が大きく落ち、このままでは不味い事態になりかねなくなっている。

それでも、まだ王国近海だからこそなんとかなっている部分も多い。

襲撃を受けても、すぐに救助が現場に到着するし支援も行われる。

また、かかる経費は高くなるがいざとなったら鉄道を使うなりで輸送量はカバーできる。

たがこれが植民地からの外洋の航路ならどうなるだろうか。

すぐに救援や支援はほとんど望めないだろうし、なにより被害がより大きくなる。

また、災害復興に影響が出れば、収まった独立気運がまた高くなる恐れすらあった。

「何とか対処をしなきゃならんが……」

アッシュがそう口にするも、どうしょうもないのが現状であった。

唯一の証拠物件である不発弾の魚雷は、連盟製のとある商会が売っているものの改造品であるという事はわかっているが、手掛かりはそれだけである。

それだけでも手掛かりと思えるかもしれないが、連盟の製品は世界中至る所で使われている。

敵味方関係なく、買いたいものには売る。

商売に国境はない。

どんな相手でも買ってくれればお客様だ。

ほとんどの連盟商人は、そんな思考をしている。

なんせ、親、兄弟すらも売っぱらうとまで言われているのだ。

だから兵器に関してもそれと同じで、もちろんその中には魚雷も含まれている。

実際、海賊の使用する魚雷の半数以上が連盟製の魚雷だという。

つまり、使用者を特定しにくいというか、ほとんど特定できないという事なのである。

その上、今の連盟の大使館に問い合わせをしても、返ってくるのは『その商社の書類の一部が破棄されており、特定できず』といった当てにならない返事ばかりであり、また、長年、連盟は中立を通してきたためまさか王国に喧嘩を吹っ掛けてくるはずがないと思い込んでいた部分もあった。

その為、襲撃者を特定できず、捜査は完全に壁にぶつかって進展していない。

それに対して被害は拡大しているのだ。

国民の生活には今の所大きな被害は出ていないものの、それもいつまでかという状態であり、実に頭の痛い問題であった。

「他に手掛かりが何かあれば……」

アッシュがそう呟いた時であった。

トントン。

ドアをノックする音が響く。

どうやら来客のようだ。

報告書をしまい込みながらアッシュが口を開く。

「誰だ?」

その問いに、知った声で返事が返ってきた。

「ベテルミアです。よろしいでしょうか?」

ベテルミア・リッフード大尉。

アッシュ派の一人で、フソウ連合、王国、共和国の三ヵ国が参加して行われた『トライデント作戦』において王国艦隊を指揮した人物である。

「ああ、構わないぞ」

アッシュのその声を聞き、ベテルミアはドアを開けて入室してくる。

だが、その服装は軍服であり、アッシュは疑問を感じて聞き返す。

「確か、今日は非番で街に行くと言ってなかったか?」

そう言いつつ時計を見ると、まだ十四時過ぎといったところか。

確か、『最近口説き落とした女性と食事の後、一緒に映画でも見てきますよ』とか言っていたはすだ。

なのに戻ってくるのが早すぎる。

ミッキーもそう思ったのだろう。

「女に逃げられたのか?」

思わずそう聞いてしまっている。

その言葉にベテルミアは苦笑した。

「そんな訳ないじゃないですか。食事はしたんだけど、映画の途中で別れたんだ。彼女はまだ映画を見ていると思いますよ」

「なんだ?好みじゃなかったという事か?」

ついついそう聞き返すミッキーに、ベテルミアは呆れ返った表情で言い返す。

「そんな訳ないじゃないですか。次回の休みの時に埋め合わせはするって約束をきちんと取りつけてますよ」

「本当か?」

「本当です」

「信じられんな~」

そんな半ばお笑いのようなやり取りを眺めつつ、アッシュが口を挟む。

このままでは埒があかかないと思ったのだ。

「それで、釣り上げた魚を逃がしてまで何を言いに来たんだ?」

「アッシュまで……」

ベテルミアは情けなさそうな顔をしたものの、ふーを息を吐き出し表情を引き締める。

「いえ。映画を見ているときに、気になることを思い出しましたので……」

その言葉に、アッシュは怪訝そうな顔になった。

確か今度の女性はかなり気合を入れて口説いていたはずだ。

そんな相手を半ばほっぽいて戻ってきたのだ。

ついつい聞き返す。

「気になる事?」

「ええ。気になる事です」

「なんだそれは?」

そう聞いてきたのはミッキーだ。

彼としても気になっていたのだろう。

二人の視線を受ける中、ベテルミアはゆっくりと口を開く。

幽霊(ゴースト)の手掛かりになるかもしれないと思って……」

その言葉が終わらないうちに興奮したミッキーがベテルミアの両肩を掴みがくがくと揺らす。

「それは本当かっ。おいっ、本当なのかっ」

急に体を揺らされ、首をがくがくさせつつベテルミアは頷く。

「そ、そうですけど、やめてください。こんなんじゃ話せませんからっ」

そう言われて、ハッとした表情になるミッキー。

唖然としてその光景を見ていたアッシュだったが我に返る。

「わかった。ともかく、話してくれ」

そう言いつつ、ソファを進める。

ベテルミアが座ると向かい側にアッシュとミッキーも座った。

そして二人の視線を受けつつ、ベテルミアは話し出した。

「いや、映画を見ててふと思ったんだよ。そういや報告書を読んだとき、似たような場面を見た事があるなって……」

その言葉に、ミッキーとアッシュは互いの顔を見合わせる。

二人とも驚いた表情であったが、それは今聞いたことが間違いないかの確認のようであった。

そして、驚きから疑うような表情になっておもむろにアッシュが聞き返す。

「それはどういうことだ?」

「見たって……、お前……」

横からミッキーもそんな言葉を口にする。

その半信半疑の態度と言葉にベテルミアは困ったような表情になった。

「いや、だからあくまでも似たような光景をですよ。手掛かりになるかもしれないってだけで、絶対に手掛かりになるとは……」

そう言われ、アッシュもミッキーも自分らの態度と言葉が失礼なものであったことを自覚すると謝罪の言葉を口にする。

「すまん」

「悪かったよ」

「いや、構いません。私が二人の立場なら、似たようなことを言うだろうし……」

ベテルミアはそう言って笑った後、雰囲気を変える為かふーと息を吐き出して顔の筋肉を引き締める。

そして話し始めたのは、『トライデント作戦』の時の話であった。

何の関係があるんだ?

最初、二人共そんな事を思ったのだろう。

怪訝そうな表情になったものの、黙って話を聞いている。

そして、海賊とベテルミア率いる艦隊が劣勢な戦いをする場面であった。

ベテルミアはアッシュの方を向いて口を開く。

「アッシュには話したと思うが、あの戦いの最中、敵艦隊の右側で不審な撃沈をいくつも確認したんだ」

そう言われ。アッシュは思い出したのだろう。

「ああ。そう言えば言っていたな」

「ええ。あの後勝利の宴になだれ込んでしまいうやむやになって忘れかけていましたが、ふと思い出したのです。なんとなくですが、第三者から見れば幽霊(ゴースト)の攻撃のような感じなんではないかと……」

ミッキーが確認を取るように聞いてくる。

「他に艦影はなかったんだな」

「ああ。増援のフソウ連合の艦隊は、我々の後方から接近していたし、そこからの砲撃ではないのは間違いない」

「こっちの砲撃は……」

「目の前の敵で精一杯だったからな。そこを狙っているのはいなかったよ」

そこまで話を聞き、二人は黙り込む。

今、ベテルミアが話したこと、今までの幽霊(ゴースト)の襲撃の事……。

それらを考えているのだ。

そして、ミッキーが呟くように言葉を口にする。

「しかし、今回の件でフソウ連合が関わっているとは思えん」

確かにフソウ連合と王国は同盟を結んでいる。

それに教国の公布や連盟の発表といった事や国際的機関での協力もあり、秘密裏に相手を貶める必要性は皆無だし、それどころかこれからの事を考えれば益々両国の繋がりを強化する必要性さえある。

そして、何よりあのサダミチがこういった事の指示をするとは思えなかった。

だから、思わず漏れた言葉であった。

「私もそうは思いません。ですが、あの海戦で起こったまるで援護するかのような不審な撃沈に関しては間違いなくフソウ連合が関わっていると思うのです」

ベテルミアの言葉に、ミッキーは腕を組んで考えこむ。

沈黙が辺りを包もうとした時、アッシュが口を開いた。

「つまり、フソウ連合には、幽霊(ゴースト)と似たようなことが出来る技術があるという事だな?」

「ええ。可能性はありますね。あの国は我らよりも遥かに先の技術体系を持っています。そのいい例が飛行機です。王国だけでなく、今だに六強のどの国も飛行機に関しては基礎的な技術さえも確立していません。それ程の技術大国です。ならば、飛行機以外にも独自の技術を生かした兵器を保有していてもおかしくないという事です」

そう答えるベテルミアの言葉に、アッシュも、ミッキーも黙り込む。

そして、考えをまとめたのだろう。

アッシュが口を開いた。

「確かに、その可能性は高いと言うしかないな。よし。私の方からその件に関してはフソウ連合にアプローチしてみよう。恐らく何某らの返答があるはずだ」

その言葉にミッキーとベテルミアは頷く。

それを確認した後、アッシュは言葉を続けた。

「あと、今回の件、他言無用にしておいてくれ。結果が判り次第、二人には話をする。後は、フソウ連合の回答次第ってことだな」

その言葉に、ミッキーとベテルミアは頷き返すのだった。



『異世界艦隊日誌』を書き始めて遂に三年目に突入しました。

なんかあっという間でした。

そんな中、読んでくださる皆さん、本当にありがとうございます。

皆さんから読んでもらったり、ブックマークをしてくれたり、感想やレビューを書いてくれたりといった事は、僕にとっての書くための原動力になっています。

まだまだ続きますが、これからも頑張って書いていきたいと思いますので、『異世界艦隊日誌』をこれからも応援よろしくお願いいたします。


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