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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十章 見えない敵との攻防

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作戦発動

連盟が史実上の海運業務の停止を発表してから数日後、トラッヒ・アンベンダードは予想外の世界の反応の薄さに拍子抜けしていた。

確かに合衆国ではある程度の騒ぎになったものの、それも予想より遥かに規模は小さい程度であったし、何より連盟に事実上海運の九割近くを依存し最も大きな被害を受けると思われていた共和国は、最初こそちょっとした騒動があったものの、それ以降はほとんど話題になっていない有様であった。

つまり、大混乱を引き起こす為に起こした行動は、完全に肩透かしを食らった形となってしまったのである。

あまりにも予想と違う反応に、トラッヒ・アンベンダードは疑問を待ったがその答えは連盟の発表から一週間後に知る事となった。

王国、共和国、合衆国、アルンカス王国、フソウ連合、ルルイファン共和国、そしてあろうことか連盟の商人や商会によって国際的な商業協力機関である『国際商業協同組合(International Commercial Cooperative)』、略して『ICC(アイシーシー)』が発足される事と『IMSA(イムサ)』に海運部門が増設される事が世界的に発表されたりである。

また、その際に『ICC(アイシーシー)』と『IMSA(イムサ)』は相互連携を取り、この危機を脱する準備があるとまで発表されてしまったのだ。

つまり、今回、トラッヒが取った策は、今まで持っていた海運という強力なカードを無駄にしてしまっただけでなく、自らの利権を放棄してしまった事になってしまう愚策と化してしまったのである。

自分の打った策が対策を練られてこんな短時間に無効化(正確に言うと無効化ではなく、被害を最小限に抑えたというのが正しいのだが、トラッヒ本人は無効化されたと思い込んでいた)されてしまったのだ。

その余りに膨れ上がった怒りに我を忘れ、ヒステリックな奇声を上げて執務室にあるあらゆる物に当たり散らかしていたが、それは彼にとっては仕方ないのかもしれない。

彼の準備していた計画では、まず海運を停止させて世界をパニックに落とし込み、強国の弱体化と植民地の支配力を低下させ、世界の流れを連盟に、いや正確に言うと自分に向けさせるつもりだったのだ。

確かに海の多いこの世界では、それはある程度有効な手であった。

なんせ、停止されられたからと言われていきなり代わりの船舶は用意できないし、船がなければ輸送量の回復も出来ない。

それによって多くの経済的な被害は間違いなく相手の国や民を飢えさせ疲弊させていくだろう。

そう考えたからこその必勝の策であったのだ。

だが、現実は無残なもので、結果は散々なものになっている。

完全に事前にトラッヒの策を読んでいたかのように対応策を用意されしてしまっており、まさに間抜け面を晒した格好になってしまったのだ。

そして、トラッヒを激怒させたもう一つの要因は、連盟の商会が『ICC(アイシーシー)』の組織の中に名を連ねていた事だった。

『リットーミン商会』

後の歴史書に乗るであろう『血の惨劇』で唯一逃げ切った商会。

その名前があったのである。

そして、その拠点は今やアルンカス王国にあり、今や世界中で活動しているという事を知る。

怒りに任せ、トラッヒは近くにあった花瓶を壁に叩きつけると硝子の割れる派手な音が辺りに響く。

しかし、さっきからの騒動やこの音が隣や周りに聞こえていないはずなどない。

だが、誰も部屋に入ろうとして来ない。

要は、今入ったとしてもとばっちりを喰らうだけだとわかっているのだ。

常にトラッヒは癇癪持ちと周りには認識されていたのである。

「糞ったれっ。あの裏切り者がーっ!!」

吐き捨てる様にトラッヒはそう叫んだが、もしそれをポランドが聞いていたらはっきりと言い返すだろう。

『お前さんに言われたくはない。お前は祖国を牛耳る独裁者であり、祖国を、民を裏切ったのだ』と。

だが残念なことに、ここにポランドはおらず、トラッヒは散々罵詈雑言と共に物に当たり散らかしていく。

だが、それも一時間もすれば静かになった。

要は当たり散らかす物がなくなったのとやっと怒りの熱が冷めたのだ。

ふーっ。

息を吐き出した後、トラッヒは目の前に広がるゴミ箱と化した執務室に一瞥をくれるとそのまま部屋から出た。

部屋から出たことに気が付いたのだろう。

秘書官が隣の待機室から慌てて後を追いかけてくる。

「どうされたのですか?」

「部屋が散らかってしまったのだ。元に戻る間、第一会議室で執務をするぞ」

「は、はっ。直ぐに準備させます」

慌てて秘書官が立ち去るのを見つつ、トラッヒは考える。

熱が冷めた頭で考えた際、今回の対応策といい、リットーミン商会の動きといい、これはただの商会が出来る事ではないと気が付いたのだ。

ならば、どこが(バック)についているのか……。

王国ではないだろうし、共和国や合衆国の線は薄い。

そうなると、商会の拠点がアルンカス王国にあるという事からも、恐らく(バック)で糸を引いているのは……。

「フソウ連合かっ!!」

ぎりりと歯ぎしりが漏れる。

まさか、影響のないと思われていた遠く離れた東方の国に自分の計画の第一歩が邪魔されるとは思いもしなかった。

トラッヒとしては、当面の相手は共和国、王国と踏んでいたのである。

なのに、まさかこんなことになるとは……。

第一会議室に着くとすぐに文官が三人、色々なものをもってやってきた。

先ほど命じた事を行うためである。

そんな彼らの動きを見ながら、トラッヒは秘書官を呼ぶ。

「はっ。何でしょうか?」

慌てて汗をかきながら近づいてくる秘書官をちらりと見た後、トラッヒは口を開いた。

「すぐにリットーミン商会について調べろ。それと待機している部隊に連絡だ。『封鎖作戦(パッケージ)』を開始せよとな」

その命令を聞き、秘書官は目を見開く。

確かに作戦準備は出来ている。

しかし、まさかこんなに早く作戦実施命令が下るとは思ってもみなかったのだ。

だから、思わず聞き返す。

「こんなにすぐにでしょうか?」

その言葉に、トラッヒは秘書官を睨みつける。

「作戦の開始時期は私が決める。それに何か反論でもあるかね?」

その視線と口調に交じる怒気に秘書官は震えあがり、「い、いえ。直ぐに伝達いたします」とだけ言うとその場を走り去る。

その後ろ姿を見つつ、近づいてきた副官に囁く。

「あの秘書官は始末しろ」

「はっ。すぐに新しい秘書官を用意させます。それとお部屋の方ですが、三時間ほどお待ちいただけますか?」

そう聞かれてトラッヒは怪訝そうな顔を副官に向ける。

そして、自分がやったことを思い出し、苦笑を漏らす。

「ああ。構わんとも。それぐらいは私として待つさ。私は寛大だからな」

その言葉に、副官は恭しく頭を下げる。

それを気持ちよく見下した後、トラッヒは呟く。

「まぁ、いい。最初は躓いたが、最終的にうまくやればいいのだからな」

そして楽しげに笑ったのであった。



こうして、遂にこの世界で初めての潜水艦による大規模な通商破壊作戦が実施される。

そして、それは新しい兵器を世に知らしめることと、新しい戦いの形を作り出す始まりとなるのであった

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