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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十九章 第一次アルンカス王国攻防戦

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始まり……

「そうか、サネホーンは負けたか……」

淡々とながらも冷たい言葉で一人の老人が片膝をつき頭を下げる三人の人影の左端に視線を向ける。

その言葉に、視線を向けられなかった二つの人影はぶるりと震えたが、視線を向けられた人影は微動だにしていない。

それどころか、顔を上げて口を開いた。

「確かに大敗しました。しかし、老師、それはサネホーンにとって大したことではございません」

その言葉に、老師と呼ばれた老人は目を細めて髭を撫でつつ聞き返す。

「ほほう……。大したことはないとな?」

「はい。サネホーンにはまだ膨大な戦力を保有しております。それにフソウ連合に匹敵する、或いは凌駕する戦艦や空母が健在で、すでに次の戦いの為に動いております。次の戦いが真価を問われる戦いになるかと……」

そう言われて、老師はニタリと笑った。

「なるほどのう。卿がそう言うのだ。次の戦いで見極めるとするか」

「はっ。ありがとうございます。またその為の手の方もうまくいっております。老師の力添えで教国が動けばトラッヒ・アンベンダードも動くと確約を取り付けておりますので」

そう言われて、老師は卿と呼ばれた男に聞き返す。

「しかし、その潜水艦といったか?」

「はい。潜水艦でございます」

「それは連盟だけで王国と共和国を抑えることが出来るほどの兵器なのか?連盟の軍は強国一最弱と言われるほどの弱兵だぞ」

怪訝そうに聞き返す老師に対して、卿と呼ばれた男はニタリと笑う。

「心配はございません。間違いなく相手が出来る力を持っています。それで王国を押さえ、海運を停止する事で共和国と合衆国を抑え込みます。そして教国の宣言があれば、アルンカス王国以外フソウ連合はどこからも救いの手を受けることはない孤立無援となります」

そう説明を受け、老師は満足げに頷く。

「確かにな。それに敗北したおかげで、より発言がしやすい環境になったのは間違いないな」

そう呟くように言うと、左端の人影に視線を向けた。

「司教よ、宣言の方は準備が出来ておろうな?」

視線を向けられた司教と呼ばれた人影は顔を上げることなく慌てて口を開く。

「はっ。教国の方は準備が済んでおり、いつでも公布する事が可能です」

「ふむ。よいことじゃな。では明日にでも公布するのだ。それに合わせる形で連盟も動いてくれよう」

そう言った後、思い出したように聞く。

「それはそうと反対勢力はどうなっておる?」

「はい。今の所は大きな動きもないため圧をかけてはおりませんが、ご命令とあらばすぐにでも圧をかけ粛清が実施できます」

その言葉に、老師はカラカラと笑った。

「まぁ、動きがないなら監視だけで止めておけ。反対勢力とは言っても、王国の連中とは違って同胞だからのう。少々の意見の相違に目くじらを立てる事もあるまいて……」

そう言った後、笑っていた表情が無表情なものになる。

「だが、邪魔だと思ったら容赦なく潰せ。その際は、私の許可はいらん。好きなようにやるといい」

その言葉に、司祭と呼ばれた男は益々深く頭を下げる。

「はっ。仰せの通りに……」

そして、老師は最後に真ん中の人影に視線を向けた。

「それはそうと召喚儀式の件、どうなっておる?」

その言葉に、人影がびくりとする。

その反応から要はうまくいっていないという事なのだろう。

言葉にしなくても、その態度でわかってしまったのか、老師はため息を吐き出した。

「まだまだという事か……」

「申し訳ございません」

視線を向けられている人影は、地面にこすりつける様に頭を下げた。

その様子と謝罪の言葉を平然とした表情で受け止めた老師は淡々とした口調で言う。

「まぁ良い。まだしばらくは時間が稼げそうだしの。それで、どこまでできそうだ?」

その問いに、人影はやっと顔を上げて報告を始めた。

「現在、より強い艦隊召喚という事で、儀式の為の術式の構築を進めております。また、老師の希望に合うように、フソウ連合への敵対心を高める術式や欲望を増大させる術式などを組み込んでおり、きっとご満足いただける結果を残せると自負しております」

「ほう。そこまで言うか……」

「勿論でございます。魔術に関しては、我々にお任せください。その為に我々が老師に付き従っておりますれば」

「そうじゃったな。では期待して待っておるぞ」

「ははっ」

これですべての報告が終わったのだろう。

場に沈黙が降り立つ。

誰もが微動だにしない中、今までの報告を聞き考え込んでいるかのように目を閉じている老師が口を開いた。

「ご苦労であった。誤差はあるようだが、計画は進んでいると判断した。これより予定通り第二段階に移る。各自、絞めてかかれ」

「「「はっ」」」

三人の人影は、そう答え、深々と頭を下げると姿を消した。

彼らはそれぞれ転移のアイテムを所持しており、それらを使って転移したのだ。

だが、それはあくまでも限られた条件のみである。

決められた場所にしか行けないのは、魔法と同じだ。

だが、アイテムの場合、どうしても魔力の高まりや違和感といった感じが漂ってしまう為、それ故に、魔力のある者は転移してきたことがわかってしまう。

だから、全員が転移してその場を去ったことを確認すると老師はゆっくりと立ち上がってベランダに向かった。

すでに闇が辺りを支配しており、ベランダだけでなくあらゆるところが闇に包まれ、塔の下にはいくつもの明かりが見える。

やはり、闇が一番美しいのう……。

陽の光にさらされて細部まで醜き姿を晒すこともなく、月と星のわずかな光は必要最低限のみを照らし出す。

それ故に、醜いものを覆い隠し、美しさのみを浮き彫りにしているかのようであった。

そして、ベランダの隅に置いてあるテーブルに近づくとワイングラスに血のように真っ赤な色合いのワインを注ぐ。

そしてワイングラスを天に掲げると、祈る様に言う。

「神よ、我に試練を超える力を与えたまえ。神よ、我に試練を乗り越える運を与えたまえ」

そして優雅にワインを飲み干す。

「我に神敵フソウ連合とそれに従う者達を滅ぼす力を与えたまえっ」

そして笑い出す。

その笑みは普段の笑いではなく、狂気に満ちた笑いであった。

第三者から見れば、ぎょっとして相手の正気を疑うレベルのものであったが、老師は気にしていない。

誰もその場にはいないと思っているのだから。

だが、それは間違いであった。

影の中に、一人の人物がいた。

この世界で唯一の転移魔法の使い手が……。

そして、彼は報告をするつもりで来たはずであったが、そのまま転移する。

まるで見てはならないものを見たかのような表情を浮かべて……。



そして翌日、遂に教国は動く。

それはアルンカス王国攻防戦が終わって一か月近く後の六月一日であった。

教国はその日、法皇の指示の元、最高強権を発動したのである。

その最高強権。

それは聖戦の宣言だ。

つまり、神の敵を潰せという事に他ならない。

そして、その内容は、異教徒にして多くの民間人を虐殺せしめたフソウ連合に対する非難と抗議であり、虐殺を受けている人々を支援するために信者全員に神の意思として聖戦に参加せよと訴えたのである。

これにより、ドクトルト教は聖戦の対象としてフソウ連合を神敵と認定したことになる。

そして、その公布に前後して、連盟も全世界に向けて発表を行った。

その内容とは、今回のサネホーンとフソウ連合の戦いで航路が危険に晒される恐れが高まったとして、連盟関係商社の自国以外の航路運用の全面停止を宣言したのである。

この公布と発表は、瞬く間に世界に広がった。

それはそうだ。

どう考えても、これから先起こることは間違いなく混乱だけなのだから。

そして、この二つによって国だけでなく多くの人々は選択を迫られることとなる。

それは間違いなく世界を二分する動きになりつつあった。

こうして、この世界で初の世界大戦の幕が上がろうとしていた。

それは、また、この後に起こる世界規模の血みどろの戦いと憎しみの連鎖の始まりでもあった。

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