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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十九章 第一次アルンカス王国攻防戦

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ランバルハ軍港 サネホーン軍本部の一室にて……

「こりゃ、ひでえな……」

まだ正式なものではないが、速報として伝えられた内容を見てルイジアーナは眉を顰めて呟く。

だが、その言葉は彼よりも先に目を通したベータやグラーフも口にはしなかったが最初に思った事だった。

主力及び遊撃艦隊合わせて参加艦艇は約百八十隻。

そのうちの実に七割以上を今回の戦いで失ってしまったのである。

特にアルンカス王国攻略として動いていた主力艦隊は徹底的と言っていいほどの被害であった。

百二十隻の参加艦艇の内、戻ってこれたのはわずかに十五隻。

それも無傷な艦はほとんどない。

もっとも、沈められたものも多いが、自沈処理や途中で行方不明になったり、沈んでしまった艦も多い。

だが、理由はどうであれ失われたことには変わりはない。

それを考えれば、思わずそんな言葉が漏れたとしても別段変な事ではない。

いや、普通の思考ならそうなってしまうのが当たり前と言えよう。

まさに、それほどまでの大敗だったのである。

「しかし、本当にひでぇな。俺らが知ってる限り、ここまでの大敗は初めてじゃねぇか?」

ルイジアーナの言葉にグラーフもベータも頷く。

今まで何度も六強との戦いはあったし、負けたこともあったがここまで酷くなかった。

どんなにひどい負けでも参加艦艇の六~七割は返ってきた。

なのにである。

「こりゃ、作戦の状況確認をしっかりする必要性があるな」

ルイジアーナの言葉に、グラーフが難しい顔で頷く。

フッテンがいたら間違いなく真っ先に言うだろうと思ったからである。

だが、そのフッテンはもういない。

だからこそ、ルイジアーナは口にしたのだろう。

彼とフッテンは、周りからは水と油と思われていた。

だが、互いに嫌悪感はない。

考えが違うだけであり、どうのこうの言いながらも二人は互いを理解し、尊敬しあっていた。

ただ、それが表に出てこないだけで、付き合いの長いグラーフやベータ、それにルイジアーナやフッテンの直属の部下は、互いに相手を褒めていた事を知っている。

もっとも、皮肉もたっぷり込めてではあるが……。

そして、フッテンのいない今、ルイジアーナはフッテンの代わりを少しでも務めようという気なのだろう。

それがグラーフやベータにも伝わってくる。

「でもさ、どうしたもんかなぁ……」

ベータがちらりとテーブルに置かれた速報をみて呟く。

元々、ベータは何を考えているのかわかりずらい性格の上に、面倒なことは避けている傾向があった。

だから、始終ニコニコと黙って微笑んでいることがほとんどだ。

だか、さすがにフッテンの一件以降は、いろいろ口を挟むようになった。

これも彼なりに何か思う事があったのだろう。

グラーフはそう分析している。

もっとも、面倒くさいことはしたくなさそうではあったが……。

「戻ってきたら、すぐに聴聞会を開く。横から下手な事をされないようにな」

そのグラーフの言葉に、ルイジアーナの眉がピクリと動いた。

彼はフッテンの死の際には視察で別の場所におり、急いで戻ってきたときにはある程度対応がなされた後であった。

だから、そんな反応をしたのだろう。

「そりゃ……、例の件か?」

ルイジアーナが探る様にグラーフに聞く。

その言葉に、グラーフはただ黙って深く頷く。

その表情は深刻そうであった。

例の件。

今回のフッテンの死は、実は恨みを持った者による事件ではなく、暗殺ではないかという見解の事だ。

確かに実行犯はわかっている。

降格ともとれる人事への恨みという動機もある。

だが、余りにもタイミングが良すぎるし、実際にここで外交の流れが大きく変わってしまった。

そして、反交渉派の活発な動きと作戦案の提出と今回の作戦の実施にかかった期間の短さ。

その後、色々と調べさせていけば、益々そう考えてしまう事ばかりだ。

だから、グラーフの中では、真っ黒に近いグレーと言ったところだろうか。

さすがにルイジアーナは、その話を聞き、まさかと思った。

だが、ありえなくはないとも思ってしまった。

だからこそ、聞き返したのだ。

「まぁ、そういった事は俺は苦手だからな。お前さんの方に任せるよ」

そう言った後、溜息を吐くルイジアーナ。

彼にとって今回の被害に対処する事の方が頭が痛いのだろう。

「恐らくだが、これを見る限り、戻ってきたほとんどの艦が修理に莫大な費用と時間、それに人手を必要とするだろうな」

「それは僕も感じたよ。ここまでだと大変だよ」

ベータが口を挟む。

彼にしては珍しい事で、ルイジアーナも少し驚いた顔になっている。

だが、それもすぐに面白げな表情になって話を振る。

「お前さんならどうするよ?」

「えっ?!僕だったら?」

「そうよ。お前さんならどうするんだ?」

「そうだなぁ……」

そう呟くように言った後、ベータが難しそうな表情で考えこむ。

そして口を開いた。

「程度にもよるけどさ、酷いのはいっその事全部廃艦か標的にでもしてしまって、新造した方がいいんじゃないかな。確かに一時的に数は減るけど、古いのを修理するより、新造の方が間違いなく質は上がるし、後の事を考えてもプラスになると思うし……」

その言葉に、ルイジアーナはニタリと笑った。

恐らく、彼も同じ事を考えていたのだろう。

「じゃあ、兵士達はどうするんだ?」

「そうだね。休暇を与えて、その後は予備役として後方勤務。新造艦が就役したら復帰という形にしたらどう?下手に他の艦艇に振り分けるよりもいいんじゃないかな。共に戦い生き残った者達だから、ある種の団結力は生まれているだろうしね」

ベータの言葉に、ルイジアーナは益々楽し気に微笑む。

「よし。決めたっ。今回はお前さんの案にしょう。構わないよな?」

グラーフは苦笑し頷く。

反対にベータは困ったような顔をした。

まさか何気なく言った言葉がこんな形になろうとは思ってもいなかったに違いない。

だから思わず「えーーーっ」なんて言葉が漏れる。

だが、がっしりとベータの首に手を回して引き寄せると、ルイジアーナはニタリと笑った。

「逃がさんからな」

「ええーっ?!」

益々困ったような顔と悲鳴のような声を上げるベータ。

「じゃあ、細かく打合せしたいからな。こいつ借りていくぞ」

助けを求めるベータの視線を、グラーフは受け止めるものの、相変わらず苦笑を浮かべるだけだ。

「薄情者ーーーっ。兄さんの裏切り者ーーーっ」

そんな言葉を吐いても、グラーフの表情は変わらない。

「じゃあ行くぞ」

引きずる様にベータはルイジアーナに連れられて退出していったのであった。

そして、室内は静かになる。

「ふーっ」

静寂の中、グラーフは息を吐き出すと自分のデスクに戻って呼び鈴を押す。

すると隣の待機室から副官がすぐに表れた。

「何か御用でしょうか?」

そう聞いてくる副官にグラーフはテキパキと指示を出す。

「艦隊が戻り次第、各艦隊の司令官と副官を真っ先にここに招集させるように。それと秘密裏に生き残りの兵にも情報収集をさせておいてくれ」

実際に艦隊が戻ってくるのには時間がかかるが、すぐにでも手を打っておきたいと思ったのだ。

変な横やりが入る前に……。

そして、それが理解できるのだろう。

グラーフの言葉に、副官は直ぐに頷く。

「了解しました。それと一つ報告が届きました」

その言葉に、グラーフの眉がびくりと反応する。

「報告?」

「はっ。諜報部からです。王国、共和国に入り込んでいるダミー商会に対して政府から圧力がかかりつつあると……」

「我々のダミー商会だけがか?」

「いえ。恐らくいろいろ出所の怪しい商会が同じような対応をされているので、我々のダミー商会とわかったからではないと思われます。恐らく、自国や関係国以外の商会排除といった動きかもしれません。ただ、その圧力はかなりのもので、撤退を余儀なくされているものもあります」

「ふむ……」

グラーフは考え込む。

サネホーンにとってダミー商会は重要だ。

情報収集だけでなく、経済を回す為に必要不可欠なものだからである。

だからこそ、それらを失えば、サネホーンは立ち行かなくなってしまう恐れさえあった。

「それは、今の所は共和国と王国だけか?」

「はっ。その二ヵ国のみです」

その言葉に、グラーフは少しの間黙り込む。

王国と共和国は動いているのに、フソウ連合は動いていない。

それに引っ掛かりを覚えたのである。

だから聞き返す。

「アルンカス王国の方は?」

「こちらは、まだ何もないようですね」

それを聞き、益々その考えが強くなる。

王国と共和国が手を組み、何やら動いている。

何を考えている?

報告にあったように、自国や関係国の商会の保護ということか?

それとも、別の何かがあるという事か?

どちらにしてもやっと入り込んだアルンカス王国のダミー商会までやられたら、せっかくの苦労が無駄になってしまう。

「そうか。なら、しばらくは様子を見る。だが、警戒はしておけ。後、王国と共和国から引き上げた資金や物資は他の国に回せ」

「了解いたしました」

「あと、例の件、探りはどうだ?」

その問いに副官は困ったような表情になる。

「その件はまだ何とも……」

「わかった。引き続き頼むぞ」

「はっ」

敬礼をすると副官は退出した。

それを見送った後、グラーフはため息を吐き出す。

恐らく、ルイジアーナの性格からして、戻ってきた艦隊の事だけでなく、次の作戦についての提案もあるだろう。

彼はやられっぱなしは性に合わねぇといった性格をしているからこそ、間違いなく今回の大敗の落とし前を付ける為に動くはずだ。

自分としては、フソウ連合との戦いは不毛としか思っていない。

サネホーンにとって何一つプラスにならないとしか思えないからだ。

だが、周りの流れは、ますますそれに逆らおうかとするようになりつつある。

フッテン、君ならこんな時どうする?

思わずそう聞いてみたくなる。

だが、今やフッテンはいない。

結局は、やるだけやるしかない。

グラーフはそう思考を切り替えると、事務処理を始めた。

どうせこの後、とんでもないほどの量の事務処理が待っているのだ。

今のうちに余裕を少しでも作っておこうかと思って……。

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