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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十九章 第一次アルンカス王国攻防戦

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フルカクール夜戦  その4

照明弾が投下され、その白い光の前に今やサネホーン艦隊の姿は丸見えの状態になった。

もちろん、昼間に比べればまだまだだが、それでも電探や夜目による目視とは比べ物にならないほど見えると言っていいだろう。

それによりフソウ連合第一艦隊の戦艦と重巡洋艦の砲撃がより正確なものになる。

次々と被害を受ける味方の艦艇。

その有様に、誰もが自分達の余りにも不利な状況を悟っていた。

実際、旗艦の艦橋でもフラッセ提督を伺うように見ている者が多い。

要は、撤退が離脱を願っているのだ。

だが、当の本人は叫び続けている。

「反撃だ、撃ち返せ」と……。

確かにまだ戦力としてみれば戦える。

数も総火力も上だろう。

だが、戦場の条件の悪さ、士気の低下、兵器の質の差、それらを身に染みて実感させられてしまえば戦いにならない。

わかっていないのは、提督ぐらいだろうか。

いや、提督もわかってはいる。

だが引くに引けないと言ったところが正しいのかもしれない。

まだ戦える。

まだわずかにでも逆転できる可能性がある。

そんな未練が思考を縛り付けている。

だから、それがまだある限りまだ引き下がれないのかもしれない。

それに、もしかしたら何か別の指示をすれば戦況は変わったのかもしれない。

だが、それさえもできない有様であった。

暗闇の敵の動きに重戦艦や戦艦の主砲の旋回能力は追い付かずに辛うじて対応しているのは副砲のみという有様。

また、艦隊の動きで対応しようにもすでに艦隊は隊列や陣形の維持どころか形さえなっていないほど入り乱れ、ただの艦艇の集まりと化している。

その為、艦隊としての動きどころか、大まかな指示さえも機能しなくなっていた。

こうなってくると後は個々による対応となってしまい、艦隊の本来の戦力を生かし切れていない状況の出来上がりとなる。

そして、とても長く感じられた照明弾の明かりがやっと海中に沈み、再び辺りが闇に支配されようとした時、フソウ連合からの砲撃が止む。

そして、やっと暗闇に目がなれた監視の兵が見つけたのは、距離を詰めて接近してくる敵の艦艇だった。

照明弾が海中に没した合間を狙っての接近しての砲雷撃戦である。

戦艦大和改を先頭とする単縦陣から離れて、軽巡洋艦川内を先頭に駆逐艦陽炎、不知火、萩風が続く一群と、軽巡洋艦那珂を先頭とする駆逐艦雪風、天津風、浦風の一群がサネホーン艦隊に迫る。

川内を先頭とする艦艇はサネホーン主力艦隊の後方に、那珂を先頭とする艦艇は艦隊の前方に回り込むように動く。

その報告を受け、フラッセ提督は叫ぶように命令を出す。

「絶対に沈めろ。接近する艦艇に砲撃集中。我々の力を見せつける時だ」

その命を受けて、サネホーン艦艇の主砲や副砲が慌ただしく動く。

だが、暗闇に喉った時の不意を突かれた事と敵の動きの速さに対応が遅れてしまう。

しかもその対応の遅れは致命的であった。

十キロにも満たない距離まで接近した二つの水雷戦隊は先頭の軽巡洋艦が探照灯で敵を照らしつつ、砲雷撃戦へと移る。

次々と放たれる魚雷。

魚雷の航跡の確認は、闇の中、それも酸素魚雷の為にまともに出来ず、回避運動を取ろうにも味方の艦との距離はそれほど広くない。

また、それに加えて砲撃が来るのだ。

戦艦や重巡洋艦よりは小口径とは言うものの、この近距離と装甲では無視できないダメージになる。

それに反撃しようにも結局副砲主体の目視による砲撃であり、どうしても先頭の探照灯を使っている軽巡洋艦を狙うが、命中率は低く、致命的な被害を与えにくいという状態である。

ある意味、いい様に袋叩きされているといったとこか。

次々と砲撃や魚雷が当たり、突き崩されていくかのようにサネホーン側の被害が増えていく。

だが、それをひっくり返すべく様子をうかがっていたサネホーンの先行艦隊が反転し、那珂を中心とした水雷戦隊に攻撃を仕掛けた。

「いいかっ。あの動きに対して主砲は当てにならん。副砲でぶっ潰すしか手はない。だがそうなると距離が離れていては大してダメージを与えられん。だから、ぶつける気で行くぞ」

ハンバーベン大尉はそう言って突撃の号令をかけ、それを受けて装甲巡洋艦リペランカーを先頭に装甲巡洋艦八隻が最大戦速で突っ込んでくる。

いくらフソウ連合の艦艇よりも低速とはいえ、装甲巡洋艦の最大速力は二十ノット前後はでるし、また激しい砲雷撃戦、その上激しい動きに電探の担当員がサネホーンの先行艦隊の動きに気が付くのが遅れた。

監視の兵も那珂自身も砲撃してくる主力艦隊の方に気が向いていたのも大きかった。

「十時の方向から敵艦隊が高速で突入してきます」

電探の担当官が悲鳴のような声をあげるのと同時にサネホーンの先行艦隊の先頭である装甲巡洋艦リペランカーは探照灯で那珂を始めとするフソウ連合の艦艇四隻を照らし出す。

そしてある程度近づくと並んで平行するかのような動きをしつつ側面にある副砲で砲撃を開始した。

「くそっ。いいところでっ……」

那珂が舌打ちするのと同時に、那珂の艦体に砲撃が当たる。

反撃しようにも、主砲も魚雷発射管もサネホーン主力艦隊の方に向いており、急な反撃も出来ない。

「第二魚雷発射管付近に命中っ。火災発生!!」

「敵主力艦隊からの砲撃が激しくなりました」

「浦風も命中弾を受けました。被害は不明っ」

次々と入ってくる報告に、那珂はギリッと奥歯を噛みしめる。

艦体の被害からくる痛みと切羽詰まってしまった状況に脂汗が額に浮かぶ。

外に向けていた視線をちらりと艦橋の時計に向けて時間を確認する。

時間は早いが、このまま袋叩きにあうよりはマシだ。

そう判断すると命令を下す。

「探照灯を消せっ。そして左側の敵艦隊に接近。敵の艦隊の側をすり抜けて最大戦速で離脱だ。絶対にぶつかるなよ」

その命を受け、那珂の探照灯が消え、水雷戦隊は一気にサネホーンの先行艦隊に接近し距離を縮めていく。

もちろん、その間にも主砲を回転させて、砲撃目標を主力艦隊から先行艦隊に向け直す。

「おっ、ぶつける気かっ。いい度胸だ。ぶつけちまえ」

ハンバーベン大尉はそう叫ぶも、誰もぶつけて沈みたいと思わないのだろう。

回避運動を行いつつ砲撃を続ける。

いくつかの命中弾はあるものの、フソウ連合側の艦艇の速力が落ちることはなく、接近したのち段々と離されていく。

「くそっ。足が違いすぎるっ」

ハンバーベン大尉は地団駄を踏むが、十ノット以上の速力の差がある以上、追い付くことは不可能だ。

「仕方ない。探照灯を消せ。主力艦隊と合流する」

そう命じるしかなかったのである

こうして何とか一矢報いた感のある先行艦隊だが、そこで運が尽きたのか不幸に見舞われる事となった。

余りにもフソウ連合の艦艇が接近しすぎた為、サネホーンの主力艦隊の一部が先行艦隊をフソウ連合の艦隊と誤認したのだ。

また、追跡を諦め、探照灯を消したのも不味かった。

その様子から、暗闇の中、フソウ連合の艦艇が再度接近してきていると思われたのである。

実際、後方に回り込んだ川内を先頭とする水雷戦隊の攻撃はまだ続いていたから間違えても仕方ないと言えなくもない。

「また敵が接近してこようとしているぞ。撃てーっ」

二、三隻の砲撃から始まった先行艦隊への砲撃は、釣られるように増えていく。

次々と打ち込まれてくる砲弾にさすがに打ち返すわけにもいかず、ハンバーベン大尉は舌打ちをしつつ命令を下す。

「こっちは味方だぞ。くそっ。通信兵、急いで砲撃を止めさせるように伝えろ。それと艦首回頭。一旦距離を置くぞ」

だが、その命令を受け、先行艦隊が距離を置こうとする間も砲撃が降り注ぎ、遂に派手な爆発音が二つ響く。

味方の砲撃が命中したのだ。

後方に位置していた二隻の装甲巡洋艦があっけないほど簡単に轟沈していく。

ガンッ。

ハンバーベン大尉が艦橋の壁を叩きつけた音が艦橋内に響く。

誰もが何も言わずにただ沈黙が辺りを包む。

響くのはただ一方的に撃たれ続けて生まれる音ばかりだ

「糞ったれの馬鹿野郎どもがっ。足を引っ張るだけでなく、敵に当てずに味方に当てるとはっ」

ギリギリと歯ぎしりが響き、まるで親の敵と出会ったとも言わんばかりの奮恕の形相でハンバーベン大尉は味方の主力艦隊を睨みつける。

そんな中、副長が恐る恐る口を開く。

「味方との合流は……」

「知るかっ。このまま距離をあけて時間を置くぞ」

「しかし、それでは……」

「また、撃たれたいのか?あんなになりたいのか?」

ハンバーベン大尉は沈みゆく味方の装甲巡洋艦を指さして言う。

その声は、怒りに震えている。

慌てて副長は首を左右に何度も振り、後ろに下がった。

「ふんっ。あんな連中、フソウの連中にボコボコにされればいいんだ」

その呟きを聞いたのか、言葉が言い終わらないうちにフソウ連合の戦艦と重巡洋艦の砲撃が再開される。

それに対抗する反撃の砲撃は余りにも少ない。

すでにサネホーンの艦隊の誰もが続く戦いに疲れ切り、気力が萎えてしまっていた。

そして、旗艦の重戦艦の艦橋では、フラッセ提督は只々余りにも無残な惨状に言葉を無くして立ち尽くしている。

その顔は一気に十歳は老けたかと言わんばかりの疲労と絶望感に彩られていた。

口はパクパクと動くが言葉になっていない。

もっとも、叫びすぎて声が枯れてしまっていたが……。

そんな様子を見かねたのだろう。

副長が横から撤退の言葉を口にした。

周りから安堵が漏れる。

そして、副長はフラッセ提督に顔を向けて「構いませんよね?」と念を入れる。

その言葉に、フラッセ提督はカクカクと人形のように頷くのみであった。

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