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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十九章 第一次アルンカス王国攻防戦

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レムカライア海海戦  その3

「水平線に艦影見ゆ」

その報を聞き、ラーゲルチンク提督はニタリと笑う。

自分の予想通りだったという優越感と敵を発見できたという安堵感がその笑みには見え隠れしていた。

襲撃を仕掛けてきた敵航空機の逃走方向に敵の空母がいると判断して全速力で突き進んでいたのだ。

艦上機の発着艦にはある程度の時間がかかるし、風向きに合わせて艦を動かさなければならない。

そして、今の風向きならば、向かってくる形になると踏んだのである。

よし。これで勝てる。

砲撃戦に入ればこちらのものよ。

そう確信したラーゲルチンク提督ではあったが、その希望的な思いは直ぐに絶望に変わった。

「よし。一気にこのまま距離を詰めろ。射程距離に入れば、こちらのものよ。絶対に逃がすなよ」

その命令が終わるか終わらないかのうちに、その命令に水を差すようなことが起こったのである。

鋭い風切り音と共に艦のすぐ側に大きな水柱が立ったのだ。

もちろん、何もなくて水柱が立つわけがなく、かなりのスピードで物体が落下したことを意味していた。

その為、艦は大きく揺れ、立っていたものは慌てて近くにあるものにしがみつく。

誰もが何が起こったのかわからない中、第二、第三の水柱が艦隊の周りに立つ。

「な、何事だっ?!」

見張りの兵が声を張り上げる。

「ほ、砲撃……。艦影からの砲撃です」

その報告に、ラーゲルチンク提督は信じられないといった表情になった。

「砲撃だと?この距離でか?」

「はっ。発見した艦影より砲撃されているようです」

その報告に訳が分からないといった表情でラーゲルチンク提督は聞き返す。

「艦影は空母ではないのか?」

「詳しくはわかりませんが、あれは……恐らく戦艦だと……」

その言葉に、ラーゲルチンク提督は自分の予想があまりにも希望的な思考でしかないと思い知らされる。

なぜ、空母がいると思った時、他の艦艇がいると思わなかったのだろうか。

そして、ある考えに辿り着く。

もしかして、フソウ連合は我々と戦う準備が終わっていたのではないか。

さーっとラーゲルチンク提督の顔から血の気が引く。

油断しきった我々は、もしかしたら連中の罠に飛び込んだのではないだろうかと……。

それならば今までの事も納得がいく。

撤退すべきか……。

一瞬そう思ったものの、このまま撤退すれば、私は何もかも失ってしまう。

準備不足で楽に勝てる。

そう言ったのは確かに反交渉派の連中だが、それに積極的に参加したのは自分だ。

そうなれば今回の責任を取らざる負えないだろう。

しかし、ここで疑問がわいた。

確か連中は交渉はフソウ連合側から攻撃を受けて決裂したと言っていた。

なら、なぜ、反交渉派はフソウ連合が準備不足だと言い切ったのだろうか。

自分から仕掛けてくる場合、二つのパターンがある。

その時に突発的に起こる場合と事前に準備して起こる場合だ。

いろいろ話を聞く感じたと、話し合いもスムーズに進んでいた事もあり前者とは考えにくい。

恐らく後者だろう。

なのに、なぜ、反対派は準備不足と判断したのだ?

どう考えてもおかしい。

そしてある考えに行きつく。

「そうか……。そう言う事か……」

ラーゲルチンク提督はギリッと歯をかみしめる。

だが、その考えが正しいかは、今はわからない。

確認する術が今ここにはないのだ。

だからこそ、今は生き残ることを優先するしかない。

それに彼は軍人だった。

生粋の……。

それに敵の艦数は十隻ほどで、対する味方は三十隻近い。

艦の性能差があるとはいえ、戦力比は三対一。

十分勝算はある。

だから、このまま戦わずに逃げ出すのは下策か……。

いいだろう。

騙されたとは言え、選択したのは自分だ。

その分のツケは払うしかねぇな。

そう判断すると声を張り上げ命令を下した。

「予定は狂ったが、各艦砲撃戦用意。一矢報いるぞ」

「しかし、まだ射程距離が……」

「わかっている。各艦最大戦速っ!!一気に距離を詰めるぞ。重戦艦を前に出しての二列縦陣だ」

命令を受けて、速力を上げつつサネホーンの遊撃艦隊は二つの単縦陣になり突き進む。

その動きには迷いがない。

ガチで砲撃戦を行うつもりだ。

それはフソウ連合側もわかったのだろう。

高速戦艦三隻が砲撃をしつつ第一分隊は大きく動き始めたのであった。




「サネホーン艦隊、速力を上げて接近してきます」

その報告を受け、第一分隊の指揮を任せられた野辺時雄少佐はニタリと笑った。

やはり、そう来なくてはな。

その笑みには、そんな思いが満ち満ちている。

その様子を見ていた金剛の付喪神は苦笑を漏らした。

これではどっちが付喪神が判らないなと思いつつ……。

そして、出撃の際に、木曽から頼まれたことを思い出す。

彼は磨けば大きくなれる器はある。

だが、まだまだ未完成だ。

特に若さで暴走しがちで考えが偏っている事がある。

その時は、しかりつけてでもいいからきちんと正して欲しい。

その場面を思い出し、ますます金剛は苦笑する。

あの人と極力関わらないようにしていた木曽が、まるで自分の弟子を心配するかのような事を言うとはね……。

本当に変わったな、あいつも……。

付喪神とてある程度偏ってはいるが人格はあり、人と接する事でそれは変化している。

それは付喪神がそのものに関わった人々の思いによって生み出されたからだ。

だから、変化は避けられない。

そして、それを嫌うものもいる。

だが、こういった変化なら、実に好ましいと思う。

人と接し関わらなければ、付喪神は生きてはいけないと思っている故に……。

そこまで考えた後、金剛は思考を現実に戻す。

「で、どういたしましょうか?」

判り切ってはいたが、そう聞き返す。

「もちろん、受けて立つさ」

予想通りの言葉に、金剛はニタリと笑った。

やはり自分も軍艦の付喪神だなと思いつつ。

なぜなら、戦うのがこんなにも楽しく、うれしく思ってしまうのだから。

そして、そんな金剛の笑みに応えるかのように、野辺少佐は命令を下す。

「これより第二艦隊第一分隊はサネホーン艦隊と砲雷撃戦に突入する。第二分隊の的場准将にすぐ報告だ」

「はっ。了解しました」

命令を受けて艦橋内に一気に動きが生まれる。

そして、単横陣であった艦隊は、速力と位置変更により梯形陣へと陣形変換を行っていく。

梯形陣とは、旗艦を先頭に後続艦が斜めに続く陣形の事で、今回の場合は左側が先頭になる為、左先梯形陣となる。

この陣形は、単縦陣と違い後方の艦艇も攻撃しやすく、また装甲の薄い艦艇を後方に配置する事で被弾率を下げる事が出来るという利点がある。

だが、陣形を維持しながらまとまった動きをする為には、きちんとした連絡手段と手練が必要であった。

それに対してサネホーン側は、二列の縦陣で対抗してきた。

フソウ連合の艦隊の動きを見てその士気と練度の高さを感じたラーゲルチンク提督は、敵の艦隊の動きに対応し、いざとなれば左右に艦隊を分けて数の力で囲むような形で袋叩きにしてやろうと考えていた。

その為に二列の縦陣に陣形を取ったのだ。

その思考は野辺少佐も読んだのだろう。

「いいかっ。このまま現状の速力で進みながら砲撃しつつ前進して距離を縮めていき、俺の合図で単縦陣に陣形変換。旗艦に続き最大戦速で敵の艦隊の左側に回り込むぞ」

「はっ。直ぐに味方に伝えます」

その命令は各艦にすぐに伝えられる。

まるでその合図を待っているかのように、互いに激しく動き回っての砲撃戦にまだ互いに命中弾はない。

だが、間もなくそんな牽制しあうような戦いが終わるのは時間の問題だろう。

なぜならどんどんと距離は縮まっているのだから。

そして、ついに野辺少佐の合図か出た。

「よしっ。今だっ。各艦動けっ」

その合図に合わせて、第一分隊の各艦艇はサネホーン艦隊の右側の外に回り込もうと進路を少しずらし動き始める。

ラーゲルチンク提督はその動きに、周り込まれることを恐れて右側の縦陣の艦隊の進路を右側に向けさせる。

要は覆いかぶさってくる敵の動きをけん制しつつ、さらにその上から覆いかぶさろうとしたのである。

だが、速力の差は大きかった。

フソウ連合側が、実に三十ノット近くの速力を余裕で出せるのに対して、サネホーン側の速力は二十~十八ノット程度であったため、サネホーン側が無様に陣を崩すのとは違い、フソウ連合側は素早く単縦陣になるとサネホーンの右側に回り込む。

そして互いにすれ違う反航戦となる。

それは、接触時間は短いものの、もっとも距離が近づき、そして最も多くの武器が使える瞬間でもあった。

「各艦、雷撃始めーーっ」

その命令を受け、駆逐艦と巡洋艦がそれぞれ雷撃を始める。

次々と放たれる魚雷。

酸素魚雷の為に航跡は見にくかったが、距離が近いために魚雷を放ったのはわかったのだろう。

サネホーンの艦艇は慌てて回避行動に出る。

だが、それがかえって不運を招く。

あれほど当たらなかった戦艦の砲弾がついに命中したのだ。

回避行動に移りかけていた戦艦に命中した天城の41cm砲弾はあっけないほど簡単に装甲を突き破ると弾薬庫に到着。

そして大爆発を起こしたのである。

大爆発と轟音が当たりに響き、サネホーンの戦艦はあっけないほど簡単に真っ二つになって轟沈した。

そして、被害はそれだけに止まらなかった。

それが合図かのように次々と砲撃が当たり、サネホーン側の被害が拡大していく。

その上魚雷の攻撃による被害が上乗せされていく。

櫛の歯が欠けたようになっていくサネホーン艦隊。

次々と撃沈され、戦闘不能に陥っていく味方の艦艇を目にしてラーゲルチンク提督は自分の甘さを痛感していた。

ここまで圧倒的な差を見せつけられるとは……。

だんっ。

テーブルを叩き、ラーゲルチンク提督は命令を下す。

「各艦、このまま敵艦隊とすれ違った後は進路を変えて転進する。撤退だ……」

その悲痛な叫びにも聞こえる声に、ただ副官のみが答える。

「了解しました。各艦に徹底させます」

「ああ。頼む」

ただ短くそう答えると、ラーゲルチンク提督は遠ざかっていくフソウ連合の艦隊をちらりと見た後、大きくため息を吐き出したのであった。

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