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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十九章 第一次アルンカス王国攻防戦

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レムカライア海海戦  その1

『敵艦隊発見ス』

その報を第二艦隊の指揮官的場良治准将が受けたのは、キナリア列島のフソウ連合海軍基地で補給を終えてアルンカス王国に向かう途中であった。

その敵艦隊の総数はおよそ三十隻前後で、キナリア列島のフソウ連合海軍基地襲撃を狙っての恐らく遊撃として動いているのだろう。

戦力としては、アルンカス王国を狙う侵攻艦隊の三分の一程度と言ったところか。

だが、その総数でもキナリア列島の戦力としては脅威であった。

確かにキナリア列島にも守備の艦隊はあるものの、あくまでもシーレーンを守るための戦力であるため、中心になっているのは護衛駆逐艦だ。

それにすべての艦艇が基地にいる訳ではなく、シーレーン警備の為に常に作戦展開している。

また基地所属の航空隊も、警戒と迎撃の部隊がほとんどで、全て水上機である。

現在、空港の整備を進めているものの、水上機部隊がすでに展開しているのとアルンカス王国での工事が優先され、時間がかかっていた。

そんな中での敵艦隊接近である。

かなり戦力として苦しいと言わざる得ない。

だが、鍋島長官は交渉決裂の報を聞くとすぐに新見中将に命じ、念のためにという事で主力艦隊を三つに分けて展開させていた。

アルンカス王国を中心として動く打撃力に特化した第一艦隊。

キナリア列島を中心として展開する航空と打撃力を持ち、臨機応変に展開できる第二艦隊。

フソウ連合本国の防備の要としての第三艦隊。

ただ、航空戦力の展開の差と各地区にある海軍基地の守備艦隊の戦力を考慮して、第一、第二艦隊に比べて第三艦隊の規模はそれほど大きくない。

そして、第二艦隊には、いざという時の、第一艦隊や第三艦隊のフォローをすることもあり、展開の速い艦隊編成にされていた。

だから、その報を受け、的場准将は海図を見て呟くように言葉を漏らした。

「やはりそうきたか……」

「長官の予想通りの展開ですね」

副官がそう告げると、最上の付喪神もうんうんといった感じで首を何度も縦に振ると口を開いた。

「それで、艦隊司令官としてはどうされるのですかね?」

的場准将は判り切っている事を確認してどうすると思ったものの、最上がニヤニヤしていることに気が付いた。

要は、久々の実戦で楽しくて仕方ないのだ。

その事が判り、久しぶりに思い出す。

こいつも軍艦の付喪神だったなと……。

的場准将にとって、最上は付喪神ではなく、南雲や他の人々と同じ友人であった。

つまり、人として認識していたのだ。

だからこそ、そんなことを忘れるくらいの仲になっていた事にうれしく思うのと同時に、戦いの場にこいつがいると実に頼もしいと再度感じている自分がいることに気がつく。

要は自分自身も久々の実戦に高ぶっているということなんだろう。

だから、的場准将はニタリと笑った。

「もちろん、やることは変わらないさ」

そう言った後、声を上げて命令する。

「本艦隊は、これよりキナリア列島に侵攻してくるサネホーン艦隊を迎え撃つ。艦隊転進。第一分艦隊を先行させろ。それと飛龍に伝達。索敵機を発艦させ、警戒に当たらせろ。恐らく午後には第一分隊が敵艦隊と接触。戦闘に入ると予想される。それまでに敵艦隊の細かな戦力情報を集めておきたい。それとキナリア列島の基地に伝えろ。『我、敵艦隊迎撃に向かう。またそれ以外の艦隊が存在しないか、索敵を密にされたし』だ」

「了解しました」

敬礼し、命令を遂行するため副官が慌てて走り出す。

「慌てるな。落ち着いて、急いで、確実にな」

それを見かねて的場准将がそうアドバイスをする。

「は、はっ。ありがとうございます」

振り返りつつそう言いつつも、副官は駆け出した足を止めることなく通信兵の所に行き指示をはじめた。

別に無視したのではない。

慌てて動くのは性分なのだろう。

的場准将はその様子に苦笑を浮かべている。

「あれ、なかなか治らないね」

最上も苦笑してそう言う。

「まぁ、すぐにはな……」

そう言った後、的場准将は海図に視線を落とす。

恐らく、作戦としては、航空戦力で相手の戦力を削った後に、第一分隊の火力で蹂躙という形になるだろう。

最初の報告では、艦隊の戦力まではわからなかったが、恐らく空母はいないはずだ。

後から追加でフソウ連合本国の海軍司令部から報告された内容では、サネホーンには三隻以上の空母が実在するという話だが、搭載する艦載機の配備が追い付いてないらしい。

それに、戦いが今回だけで終わるとは考えにくく、またそんな有様で中途半端に航空戦力を投入はしてこないだろうと的場准将は予想していたのである。

そして、その読みは当たっていた。

その後、一時間後に飛龍からもたらされた索敵報告では、空母の存在はない事と水上機母艦とレーダー艦の存在が伝えられたのである。

ならば、まずは連中の目を奪っておくか。

そう判断すると、的場准将は、飛龍と蒼龍に、水上機母艦とレーダー艦を第一次攻撃で徹底的に叩くように指示を出したのであった。



●フソウ連合海軍 第二艦隊     総数十六隻 

         第一分隊 第一戦隊   高速戦艦  金剛、比叡

              第三戦隊   高速戦艦  天城

              第十五戦隊  航空巡洋艦 利根

              第五駆逐隊  駆逐艦   朝潮、荒潮、朝雲


         第二分隊 第十三戦隊  航空巡洋艦 最上(旗艦)

              第二航空戦隊 航空母艦  飛龍、蒼龍

              第一防空隊  防空巡洋艦 摩耶

                     防空駆逐艦 秋月、照月、涼月

              第十八駆逐隊 駆逐艦   夕雲、早雲 



艦橋のすぐ側に作戦参加の爆撃機、攻撃機のパイロットたちが集められた。

出撃前のミーティングの為である。

彼らの前に立つのは、今や飛龍の攻撃隊のまとめ役となった金丸少尉だ。

「いいかっ。索敵の報告では、敵の総数は三十二隻。数的には、前回の戦いの時よりも遥かに少ない。しかしだ。舐めてかかるな。連邦とは違って対空能力はかなり高いと思われる。各機十分に注意しておけ。それと被弾した場合は、速やかに離脱だ。命を粗末にするなよ。戦いは今日だけじゃねぇ。まだ続くんだ。その際、一人でも多くの力が必要になってくる。だからだ。いいな?」

「「「はっ」」」

その返事に満足したのか、金丸少尉は頷くと指示を続けた。

「次に、今回は上から特命(オーダー)がある。サネホーンにも我々と同じように電探があり、水上機を運用している。よって、我々第一攻撃隊の目標は、これらを搭載している水上機母艦、レーダー艦となる。いいな」

その指示に一人のパイロットが手を上げた。

「質問を許可する」

「はっ。ありがとうございます。しかし、どの艦が電探を装備しているのかわからないのではないでしょうか?」

「いい質問だ。確かに我々にはサネホーンの艦船に対しての情報は少ない。しかしだ、連中は、我々のように全艦にという形と違い、一部の艦に電探装備を集中して運用しているそうだ。形も独特で、かなりアンテナが張めぐされている形状らしい」

「つまり、見ればわかると?」

「まぁ、そう言う事だ」

「では、怪しそうな奴に攻撃を仕掛ければいいのですね」

実におおざっぱだが、詳しい資料がない以上、それ以外に方法はない。

だから、金丸少尉は苦笑するしかない。

「まぁ、そう言う事だ。その判断は任せるぞ」

「はっ。了解しました。お任せください」

「他にはないか?」

その問いに対して発言がない事を確認すると、金丸少尉は全員を見回す。

その場にいる全員いい顔をしていた。

本当にいい部下達だ。

自分は部下に恵まれたな。

そう思うと同時に別の思いが生まれる。

誰一人とて死なせたくない。

だから、敬礼すると思いを込めて言葉を口にした。

「よし。各自解散。全員の無事と武運を祈る」

「「「はっ」」」

全員が返礼を返すと、自分の愛機へと駆け足で移動していく。

それぞれれの機体には整備員が最終チェックをしており、その報告を受けて全員が乗り込んでいく。

金丸少尉も自分の愛機に向かう。

愛機の彗星は、すでに相棒の田組飛行兵曹長が受け渡しを終えたのだろう。

整備員が離れるところだった。

「どうだ?」

「ええ。ばっちりです。今回も暴れられますよ」

そう言った後、愛機の後ろに並ぶ味方機を見つつ田組飛行兵曹長が呟くように言う。

「みんな無事だといいんですが……」

その言葉を聞き、金丸少尉は思考する。

確かに誰も死んでほしくないと思う。

だが、無傷の勝利はあり得ない。

どんな戦いでも、どんな結果でさえも犠牲は出る。

例え万全を尽くしたとしてもだ。

実際、圧倒的に有利であると思われていた前回の連邦との戦いでさえ少ないとはいえ被害が出ている。

理不尽だと思う。

だが、自分には何もできない。

自分は神ではなく、たたの一パイロットに過ぎないのだ。

だから、願うしかない。

だが、他人の心配もだが、何よりまだ自分は死にたくない。

ともかく、まずは自分が生き残る事を考えるか。

それに一人ではないからな……。

相棒の顔を見てそう考えをまとめると、気を引き締め直して金丸少尉は口を開いた。

「ともかく、まずは俺達が生き残るのを優先だ。いいな?」

「ええ。生き残らなきゃ悩んだりとかできませんからね」

田組飛行兵曹長はそう言うと気楽な感じて笑う。

そんな相棒に、金丸少尉は「そうだな」と返事を返して共に笑う。

そうする事で、少し気が楽になったのであった。

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