表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

538/837

出迎え

サネホーン交渉官であったリンダ・エンターブラと彼女の直接の部下であり、忠犬と噂されているパンドット・リチカーラル少尉、他二名のサネホーン交渉団がフソウ連合マシナガ本島に向かったのは、交渉決裂から三日後であった。

本当ならアルンカス王国で鍋島長官は彼女らと会う予定であったが、本国でどうしても欠席できない会議の為に帰国していたのである。

また、もしサネホーンに彼女の無事が知られれば彼女が狙われる恐れもあり、アルンカス王国よりもより安全なフソウ連合で面会する方がいいのではないかという事も考慮された結果であった。

その一行には青島大尉を始めとするフソウ連合側の交渉団も一緒で、リンダ達とは別に彼らからも報告も聞く必要があるからである。

その為、彼女ら一行はアルンカス王国のアンパカドル・ベースに到着すると、島風から退艦してすぐにアンパカドル・ベースとフソウ連合マシナガ本島を定期的に結ぶ午前中の便の二式大帝艇に乗り込むこととなった。

「しかし、フソウ連合はこんな大型の水上機を運用していたんですね」

始めて見る二式大艇にリンダは唖然として驚く。

サネホーンでは、水上機は、単発の機体ばかりで、四発どころか双発機でさえも運用していない。

実際、最近まで単発の水上機のみしか運用しておらず、やっとパガーラン海海戦で鹵獲したアメリカ海軍のF4FワイルドキャットやSBD ドーントレス、TBD デバステーターの量産が進められ実戦配備され始めている状態ならば仕方ないと言ったところだろう。

そんなリンダの言葉に、青島大尉が誇らしげに言う。

「この機体は、わが軍が誇る川西二式大型飛行艇、略して二式大艇と言います」

「二式……大艇……」

呟くようにそう言ってリンダは茫然と立ち止まって機体を見ていたが、自分が立ち止まったことで後ろが止まって待っていることに気が付き、慌てて機体に乗り込んだ。

そして、窓際の席に座ると少し考えこむ。

「どうかしたんですか?」

青島大尉がそう尋ねると、リンダは少し微笑みながらも何でもないと言ったまま黙り込んだ。

少し何か言いたそうな表情をするも青島大尉は、彼女も色々あるのだろうと推測しそれ以上何も言わなかった。

途中、何回か補給を受け、その日の夕方に機体はマシナガ本島の海軍本部に到着した。

海面に二式大艇が着水し、港に近づいていく。

窓からずっと黙って外を見ていたリンダは深いため息を吐き出した。

さすがに気になったのか、青島大尉が声をかける。

「大丈夫ですか?」

その問いに、リンダは苦笑を浮かべて答える。

「すみません。気を使っていただいたみたいですね。おかげでしっかりと自分の考えと認識を確認できました」

いつもの彼女の調子に、青島大尉は少しほっとした表情になる。

そんな会話をしている間にも二式大艇は少しずつ港に近づき動きを止めた。

港と二式大艇の間にタラップが繋がれ、機体が仮固定される。

「どうやら着いたようですね。さすがに演奏付きでという事ではないようですが……」

窓の外を見ながら、青島大尉が苦笑して言葉を続ける。

「どうやらお出迎えはいるようですよ」

その言葉につられるようにリンダが港の方を見ると、夕方の赤い光の中、港の方には十数人の人影があった。

その内の数人は、小銃を持っている所から護衛か警備の関係者だろう。

もっとも、警戒するかのように構えている訳ではなく、ただ肩に下げていると言った感じだ。

その様子に、不用心だなとリンダは思う。

もし我々が武器を持っていたらどうするつもりなのだろうかと……。

しかし、すぐに別の考えが浮かんだ。

我々を信頼しているのか、それとも別の理由があるのかと……。

だが、そこまで考えてそんなことを考えるのは無駄だなという事に気が付く。

実際に我々は武器は持っていないのだ。

ならば、信頼されてと思った方がこっちとしても気分がいいのだから、そう思うことにした。

そんな事をリンダが思っていると、青島大尉がニヤリと笑う。

「どうやら一刻も早く話がしたいみたいですね。鍋島長官自らがお出迎えのようですよ」

その言葉に、慌ててリンダは窓の外を見るものの、赤い光によってより見にくい上に、大体鍋島長官がどんな顔をしているのかさえ知らないのだ。

だからすぐに確かめるには直接会うしかない。

そう判断すると、リンダは席から立ち上がった。

「待たせても失礼ですからね。だからエスコートをお願いできますか?」

そんな事を言いつつも、リンダの本心としては、サネホーンでも度々話題になる鍋島長官がどんな人なのか興味があるという思いがとても強い。

恐らく彼女のその思いが態度からわかったのだろう。

そんなリンダに、青島大尉は苦笑すると立ち上がって彼女の前に立ち、降りる為にエスコートするのであった。


港に降り立った一行を出迎えたのは、一人の拍手であった。

拍手をしているのは人混みの中心にいる人物で、にこやかに微笑んでいる。

そして、その周りの人間たちは、相変わらずだなという感じで、それぞれの表情をしていた。

ある者は苦笑し、ある者は楽し気に、ある者は不機嫌に……。

十人十色と言った感じてある。

青島大尉も一瞬、苦笑したものの、すぐに真顔になると拍手をして出迎えた人物、鍋島長官の前に進むと敬礼した。

「青島大尉以下、交渉団全員無事戻りました」

その敬礼に返礼して鍋島長官が口を開く。

「よく無事で戻ってきたな。ご苦労だったね」

「はっ。ありがとうございます。ですが、あれだけ御助力をしていただいたのに交渉の方は……」

「確かに交渉は残念だったが、それは大尉のせいではないよ。気を落とさずに」

「しかし……」

頭を下げ、そういう青島大尉の肩を励ますように鍋島長官はポンポンと軽く叩く。

「責任感があるのは立派だが。失敗をいつまでも引きずるのも問題だぞ」

そう言った後、少し間を開けて鍋島長官は言葉を続けた。

「ならばこうしょう。次回の別の交渉で、今回の汚名を返上するような活躍をしてくれ」

その言葉で、青島大尉は顔を上げる。

「はっ。了解しました」

「うむ。では、後ろの方の紹介をお願いするよ」

そう言われ、慌てて青島大尉は斜め後ろに一歩下がると口を開いた。

「元サネホーンの交渉官リンダ・エンターブラ殿です」

自己紹介され、リンダは優雅に頭を下げる。

その様子は実に堂々としており、それでいて優雅であった。

まさにこういった場面に場慣れしていると言ったところだろう。

こういった交渉事に長けたものでさえ、躊躇や圧倒されてといった変化が少しはあるはずなのに、鍋島長官はただニコニコと笑っているだけで、何事もなかったかのように普通に自己紹介を始める。

「僕がフソウ連合海軍の長官をやっている鍋島貞道と言います。よろしくお願いしますね」

そう言った後、少し驚いたという表情を作り言葉を続ける。

Гしかし、かなり交渉のやり手の女性とは聞いていたが、こんな美人とは思ってもみなかったよ」

そう言うと右手をさし出す。

その飄々とした雰囲気と物怖じしない態度に、リンダは表面上は微笑んでいたものの心の中で困惑していた。

グラーフのようにカリスマがある訳ではないし、フッテンのように知力や意志の力が強い風にも見えない。

顔がそこまでいいわけでもないし、人を引き付ける魅力はそれほど感じられないどこにでもいそうな平凡そうな顔に、悪意の感じられない微笑み。

確かに今の青島大尉の対応を見る限り人を使う才能はあるみたいだけど、結局はそれだけだと思っていたのだ。

しかし、すぐに彼女の本能が警戒信号を発した。

表面に現れない別のものに危機感を感じたのだ。

そして、彼女のこの勘は外れたことはない。

だから、彼女は認識を塗り替える。

これはヤバい。

恐らく、この人は私が知らないタイプの人間であり、手ごわい相手だと……。

そう判断しながらも微笑んでリンダは握手を交わす。

「サネホーンでも名の知れたナベシマ長官に会えて光栄です」

そのリンダの言葉に、鍋島長官は苦笑する。

「僕としては、そんなに名前を売りたいわけじゃないんですけどね。今までの事は、部下が優秀だからですよ。僕の力なんて大したことはないですよ。はははは……」

鍋島長官としてはいつも思っている本心をただ言っただけだが、リンダにとってそれは信じられない言葉だった。

誰もが自分の手柄にするかのように競い合い、争うのが当たり前だと思っていたのだ。

それなのに、この人物はそんな様子は微塵も見せていない。

謙遜というのはただ損をするだけだと思っていたリンダにとって、鍋島貞道という人物にやりにくさを感じてしまっていた。

それというのも、リンダの本心としては、フソウ連合をうまく利用して私の仕事を無茶苦茶にしてくれた奴らに復讐してやろうと思っていたのだ。

つまり復讐が前提の亡命であり、フソウ連合を目的の為にうまく利用してやろうという魂胆があった。

しかし、ここに来るまでにみた景色や感じた事、それに見せつけられた技術の差。

そして、今目の前にいる鍋島長官という掴みどころのない人物の登場。

自分はとんでもないところに来てしまったのではないか。

リンダは、そんな気持ちになりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ