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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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連盟総督府にて……  その2

「しかし、そんな高度な特殊な技術を必要とする艦をどうやって手に入れたのですか?」

興奮が収まり、ファランカシスはそう尋ねる。

それはそうだろう。

ただ海の中に潜るだけではない。

水中で魚雷を発射する技術や水中を進む技術等々、どう考えても普通の艦船で使う技術とはかけ離れた特殊な技術が必要なのはすぐにわかる。

そして技術というものは、ぽっと出てくるものではない。

確かにアイデアは出てくるだろうが、それを形にし、結果にしてしまうまでにはいくつもの研究と技術の積み重ねが必要なのだ。

彼の脳裏には、自分達が召喚したアメリカ艦隊の事が脳裏に浮かぶ。

確かに召喚することによって、一時的に技術を手に入れる事は出来る。

しかし、継続できたり、改良できるかは、その後の研究と解析にかかっていると言っていいだろう。

つまり、長い年月、そういった事があれば、どこかしらから情報が洩れてここまで秘密裏に進めることは不可能だ。

実際、帝国で召喚された艦船によって解析されたいくつかの技術は漏洩し、各国の艦船に変化をもたらした。

特に最近多くなったボイラーで使われる燃料が石炭から重油に代わったのは、帝国から洩れた情報によるものだと言われている。

結局、多くの人が携わると秘密はどうしても漏れてしまうものなのである。

ましてや軍に関わる身分でもある以上、そう言った軍事技術に関する情報はより気を付けている。

だが、それでも今回のような技術とか情報はまったく知らなかった。

だからこそ、そう聞いたのだ。

その問いにトラッヒも困ったような顔をした。

「私も詳しくは知りませんが……」

そう前置きをして言葉を続けた。

「五年ほど前、パラベラント商会に資金援助を求めてきた人物がいましてな。なんでも元々は帝国の技術者ではあったのですが、処分されそうになった利用方法もわからない艦船にほれ込み、処理したと偽りの報告をして亡命してきたらしいのです。当時は、帝国内は皇位継承の内乱中という事もあり、それほど重要視されなかったのでしょうな。その男は、パラベラント商会の元、その艦船の研究に没頭しました。ご存じの通り、パラベラント商会は連盟随一の武器を主に扱う武器商人であります。恐らく、その使用目的もはっきりしない艦船に何か感じたのでしょうな。もっとも、それは先任の代表の独断で行われており、一部のものしか知らなかったようです。だからこそ、秘密裏に研究は進められました。ですがある程度形になりつつあった二年ほど前、パラベラント商会の代表が変わり、彼はその研究が無駄と判断したのでしょう。研究を中止することにしたそうです。なんでも先任の代表者とは犬猿の仲だったらしく、彼の行っていた事業すべてにケチをつけて回ったようですな。頭の硬い、実に先の見えない男だと思いますよ。もっとも、そのおかげで、我々がその研究の新しい援助者(パトロン)となり、秘密裏に新兵器を手に入れることが出来たのですがね」

そして、ある程度の兵器のスペックが口頭で説明される。

ナビオ・ディメルバハの略であるND-1型と命名されたその潜水艦は、本人たちは知らなかったが第一次世界大戦にドイツ帝国が使用したU-3型潜水艦のデッドコピーであった。

全長51m、全幅5.60m、排水量430t、速力水上10ノット、水中6ノット、潜水深度30m、武装として魚雷発射管前面×2、後方×1、搭載魚雷8本、乗員22名となっている。

同じく秘密裏に潜水艦を運用するフソウ連合の主力潜水艦である伊-15型潜水艦のスペックは、全長100m、排水量も2100tを超えており、安全潜航深度に至っては100mとなっており、それに比べれば半分以下の小型潜水艦でありスペックの差も大きい。

しかし、それはフソウ連合の視点でならという事であり、潜水艦という艦種を知らない者からすればそのスペックでもかなりの脅威であり、恐怖さえ感じただろう。

現にファランカシスはそう感じ、少し考えこんでいるようだった。

だが、すぐに我に返ったのだろう。

より詳しい内容を聞くことにした。

「実用化と言われたが、どの程度まで進んでいるのですか?」

「ええ。すでに十隻が私の直属の部隊として活動を始めています。あと一週間か二週間ほどは熟練訓練が必要ではありますが、一か月前後後なら十分戦力として計算できるでしょうな。それにそれ以降も増産を進めております。今度は軍採用の正式なものとして……」

その言葉の意味する事は、半年もあれば、ある一定の数をそろえられるという風にファランカシスは受け止めたようだった。

恐らく、トラッヒは、教国の動きに合わせて何かしらの理由を付けて海運の運用を使用して共和国、合衆国に圧力をかけ、独自の海運能力を持つ王国には潜水艦で対応するつもりなのだろう。

潜水艦という新兵器の存在を知らぬ王国は、間違いなくパニックになるだろう。

そうなれば王国もフソウ連合に構う暇なとなくなるのは間違いない。

ファランカシスは、そこまで思考を働かせた後、ニヤリと笑った。

「実に素晴らしい。まさに神に祝福されていると言っても過言ではありまらんな」

「ええ。私も神の祝福と運命を感じますよ」

神の祝福とかには縁遠い笑みを浮かべるトラッヒ。

しかし、ファランカシスが実に紳士的な微笑みだけに、その下劣さがひときわ目立ってしまうのだ。

下劣な男だ。

だが、使える男ではある。

ファランカシスそう判断し、右手を差し出す。

「これからも当てにしていますぞ」

その手を握り返しつつトラッヒも口を開く。

「こちらこそ、よろしくお願いします。老師の支持があれば、我々は連盟だけでなく、他の強国も屈服させ世界統一の片翼を担う事が出来ますよ」

「ええ。期待しております」

そして手が離れる。

つまり、密談は終わりという事だ。

そして、ファランカシスは立ち上がり、転移の魔術を使ってこの場を離れようとした時、ふと思いついたのだろう。

何気なく聞く。

「そう言えばアントハトナ・ランセルバーグ殿の具合はどうですかな?」

その問いに、トラッヒは大げさに残念そうな表情を作る。

「薬が効いているのか、今や生きる屍と言ったところですかな」

その言葉に、ファランカシスは苦笑する。

そうなる様に仕向けたのは、この男だろうに……。

だが、それは我々とは関係ない。

この男の事情である。

だから、残念そうな顔をした。

「それは……。さすがの生きる伝説も、今は影も形もないと言ったところですか……」

「ええ。ですが、彼の名は連盟の歴史に深く刻まれることになるでしょうな。私を支援し、後援したという事実が……」

さすがにもう言う必要はないと思ったのだろう。

ファランカシスはどうとでも取れる笑みを浮かべると「では……」と短く別れの言葉を口にすると魔術を発動させた。

ファランカシスの姿がぼやけていき、幾重にも幻像が重なり、そして光と共に掻き消えた。

そこにはもう何もない。

その様子を冷めた目で見送った後、トラッヒはふーと息を吐き出した。

「ふん。下種な野郎が……。いつかは私の足元にひれ伏せさせてやるからな」

ぼそりと出た言葉。

それがトラッヒの本音であった。

老師も、結局は利用価値があるからこそ、従っているふりをしているだけなのだ。

もう利用価値がないとわかれば、アントハトナ・ランセルバーグと同じように始末していくだけだ。

あんな老いぼれに世界は相応しくない。

世界を手に入れるのに相応しいのは私なのだから。

トラッヒは自分が世界のすべてを手に入れた事を考える。

実に素晴らしいではないか。

私が世界の法であり、すべてなのだ。

「ふっふっふっふっ……」

自然と漏れた笑いは段々と大きくなり、何時しか高笑いへと変わる。

その笑いは実に楽し気で、そして何より狂気じみており、他人がもし見ればギョッとしただろう。

こいつは気が狂ったのかと……。

だが、それはある意味当たっているのかもしれない。

世界征服を夢想するなどまず普通の人ならありえない。

余程の権力欲に駆られなければだが……。

だが時折、その権力欲に支配され、世界征服なんて事を夢想するものが出てくる。

誰もなしえなかった事。

それを自分ならできると思ってしまう輩が……。

そして、そんな人物がここにいる。

それは、今、ここに世界征服を夢想する独裁者が誕生した瞬間でもあった。

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