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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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日誌 第五百四十五日

緊急の報告を受け、僕はすぐにアンパカドル・ベースに向かう。

アッシュとアリシアには悪い事をしたとは思うが、サネホーンとの関係が条約締結が成功するとかしないとかいうレベルを超えて、ここまで一気にとんでもない事態になるとは思ってもみなかったからだ。

まさかここまで事態が急変するとは予想できなかった。

この条約締結にしてもサネホーン側から言い出したことだし、前回の時点ではほぼ間違いなく締結できるという報告であった。

なら、なぜこんな事が起こったのか……。

嫌な予感しかしない。

しかし、その予感が当たっているとも当たっていないとも言えないのが現状だ。

ともかく、詳しい情報が欲しかった。

もっとも、アンパカドル・ベースに着いたとしても、知りたかった情報が判るわけではない。

ただ、少しでも早く情報が欲しかったのと、何かあればすぐに対応する必要性があると判断したからである。

しかし……一気に戦闘に突入とは……な。

一応、念のためという事で、手は打っておいた。

潜水艦の監視と警戒。

水上機母艦を中心とする警戒艦隊の派遣。

それは、念のためという事もあったが、圧力という意味を込めてである。

だが、今にして思えば詰めが甘かったと言わざる得ない。

警戒艦隊の水上機による援護は間に合わなかったようだし、もっと具体的な対応策を考えておけばもっと違う結果になったのかもしれない。

本音を言えば、今回の打った手が使用されることもなくすべて無駄になってしまって欲しかった。

しかし、それはもう無理だ。

過去には戻れないのだから……。

負の感情のスパイラルで後悔の念が大きくなっていく。

気にするなと思ってみても、今までがうまい感じに進んでいただけに、余計にそう考えてしまっている。

僕は移動する車の中で苦笑した。

「本当に、世の中ってのは、思った通りにならないものだな……」

それは思いから何気なく口から洩れた呟きだった。

今までの人生、それこそ思った通りにならない事の連続であった。

それを考えれば、こっちの世界に来て順調に進みすぎていた反動なのかもしれない。

そんなことを思っていると、僕の呟きが耳に入ったのだろう。

東郷大尉がじーっとこっちを見て口を開いた。

その表情は真剣だった。

「確かにその通りだと思います。『人生と言うのは何かしら困難にぶつかるものだ』と父はいっていました。でもその後、父は必ずこう言葉を続けいます。『だが、うまくいかないからこそ、人は努力し、創意工夫して、前向きに進むしかない。自分の人生は、他人では切り開かれないのだから』と……」

その東郷大尉の言葉に、僕はなんかうれしくなった。

彼女の父親と会ったのは一回だけだが、今の言葉からも寡黙そうな人ながら、芯の強さを感じさせられる。

実に尊敬できる人だと思う。

そう言えば、僕の父も似たようなことを言っていた事を思い出す。

『うまくいっているときは、誰だって輝いて見える。だが、挫折は誰もが輝きを失う。だからこそ、挫折の時にこそその人の本質が、価値が見えるものだ。だから、諦めるな。足掻け。そうすれば何とかなることも多いからな』

その言葉を話しつつ、目を細めて僕を見ていた父の顔が印象的だった。

厳しそうな中にも、優しさと温かみが混じった表情だった。

東郷大尉の言葉と父の残してくれた言葉で少し救われたような気がする。

重くのしかかっていたものが取り除かれ、心が軽くなったというべきかもしれない。

「いい言葉だね。その言葉を聞いて、以前、僕の父も似たようなことを言っていたこと思い出したよ。もう事実は変えられない。なら、それを受け止め、どう動くが、どううまく使うか、そう前向きに考えるべきだね。おかげですっきりしたよ、大尉。ありがとう」

そう言って頭を下げると東郷大尉が嬉しそうに、そして少し照れたような表情を浮かべた。

「いえ。父の言葉が少しでもお役に立ててうれしいです。ふふふっ。今度帰省するときに話してもいいですよね?」

「ああ。もちろん構わないよ。すごく助かったと伝えてくれ」

「父も喜ぶと思います」

嬉しそうな表情を浮かべる東郷大尉を見つつ、僕はこれからどうするかと思考を切り替え、考え始めていたのだった。



アンパカドル・ベースに到着するとすぐに司令部に向かう。

恐らく事前に連絡が言っていたのだろう。

アンパカドル・ベースの責任者である樫木特務大佐が出迎えてくれる。

「お待ちしておりました」

「ああ、出迎えご苦労だ。それで戦況はどうなっている?」

「今の所は大きな被害はないようです。サネホーン側は艦隊を二つに分けて、島風を挟み撃ちにしようと考えていたようですが、事前に配置されていた伊25が後方から接近しようとしていた別動隊を攻撃したそうです。なお、警戒艦隊は、すぐに現場に向かって移動を開始しており、先発として水上機部隊が展開していますが、戦いには間に合わない確率が高いかと……」

「そうか。後は司令室にて詳しく聞くこととしょう」

「はっ」

僕は樫木特務大佐と東郷大尉を引き連れて司令室に向かう。

アンパカドル・ベースの司令本部にある地下の一室。

そこが南方作戦司令室である。

広さは学校の教室より一回り大きな感じの大きさで、中央には大きなテーブルの上に、アルンカス王国を中心とした南方方面の地図が広げられており、その上には、報告に合わせて動いている艦艇の位置関係をわかりやすく模型で示されている。

そして、テーブルの周りには何個ものデスクと多数の電話と通信回線が並び、通信手と情報をまとめる将校が慌ただしく動き回っており、壁には黒板がいくつも並び、情報をまとめる将校によって逐一入る情報が書き込まれて順に読むことで状況と流れを把握できるようになっていた。

さすがに、僕の世界にあるような高度なコンピューターも大型ディスプレイがある訳でもなく、もちろん、インターネットなんてのも論外で、どうしてもアナログ的なものになってしまうのは仕方ないと言うべきか。

電算機みたいなものはあるにはあるが、あくまでも電算機であり、多目的末端としての能力はない。

もちろん、やろうと思えば、僕の世界のものを持ち込むことは可能だ。

だが、持ち込んだところでうまく活用できないだろう。

なんせ、それほど多くの量が待ちこめない上に、なによりこの世界の最先端であるフソウ連合の技術であっても対応できないだろうからだ。

この世界の一般的技術より、フソウ連合は現在、全体的に二十~三十年先の技術体系を構築している。

一部の技術に至っては、四十年近いかもしれない。

しかし、それでも僕の世界の技術とでは、五十~六十年の技術的開きがある。

それらを基礎技術をすっ飛ばして得たとしても、現状では、それを量産にするにも普及させて活用させるのにも支障が発生し、うまく活用出来ないと僕は思っていた。

要はフソウ連合でも取り扱えない技術レベルでは意味がないという事だ。

それに、あまりにも開きすぎた技術は、この世界の発展を歪ませる恐れがあるんじゃないかと考えている。

実際、集めた情報から、フソウ連合の二十~三十年先の技術レベルの差でも世界は大きく変わった。

それが八十年~百年近い先のものを持ち込んで影響がないわけがないだろう。

それは三島さんたちも懸念していた様子で、技術的に差が大きいものはあまりいろいろ持ち込んでくれるなと釘を刺されている。

それが正解だと僕も思っていたから、結局はこういった形に落ち着いている。

おっと、思考がそれた。

今は状況把握に努めなくては……。

黒板に記されている状況を確認した限りでは、サネホーンとの戦争の流れを何とかするのは難しいだろう。

互いににらみ合うだけならいいのだろうが、火蓋をあっちが切った以上、それだけで済ますわけはない。

恐らく全面戦争に流れそうな感じだ。

だが、こっちとしては侵攻作戦を行うつもりはない。

サネホーンの支配下はかなり広大だ。

それを攻略するにはかなりの戦力が必要となってくるから、艦船的には何とかなっても、人員不足で今のフソウ連合ではまず無理だ。

それにある程度うまくいったとしてもその後の守りはスカスカになり、簡単に突き崩されてしまうだろう。

だから、我々の戦いは攻めではなくあくまでも守りの戦い、防衛戦中心として行うしかない。

それはつまり持久戦という事だ。

そうなってくると、まずは輸送などの要である航路の安全の確保と広範囲に艦隊を展開するほどの戦力がない以上、すぐに動かせる戦力の適切な配置が大切になってくる。

外洋艦隊の一部は、ルル・イファンに駐留させておく必要性があるから、そうなってくると連合艦隊の一部をアンパカドル・ベースに派遣するしかないか。

山本大将の報告では若手が育ってきているという話だったから彼らにはその艦隊の指揮官として頑張ってもらうことになるな。

それと対外的には王国と共和国、アルンカス王国との連携を強化だな。

合衆国は、クーデータ騒ぎでまだ国内が安定していない以上、当てにはならないとみるべきだな。

また、旧帝国領は、恐らく国内の事で手一杯だろうし、教国は今までの流れとしては中立という立場になるだろう

そうなってくると問題は連盟だ。

以前の政権ならどうのこうの言いつつも中立を表明して漁夫の利を狙うだろうが、今は以前とは違うからな。

ある程度、どう動かれてもいいように準備しておく必要があるか……。

ともかく、決断するにはあまりにも情報が不足している。

ふーっ。

僕は息を吐き出すと、すぐに指示を出した。

「現場の状況把握を急がせてくれ。それと敵捕虜は出来る限り確保してくれ。相手の状況を知りたいからな。それと交渉団の捜索も急がせろ。生きているなら助けたい」

「はっ。了解しました」

「あと、東郷大尉、頼みがある」

僕が後ろを向いてそう言うと、東郷大尉が一歩前に出た。

「はい。何でしょうか?」

「アッシュとアリシアに、ある程度の状況報告と、フソウ連合、王国、共和国、アルンカス王国の四か国による連携強化をお願いしたいと伝えておいてくれ。それと樫木特務大佐」

「はっ。何でしょうか?」

「君はアルンカス王国の方に出向き、同じように話を付けてきてくれ。それに、『IMSA(イムサ)』本部にもだ」

「「了解いたしました」」

二人は直ぐに敬礼すると指令室から退室していった。

二人を見送った後、僕は近くの通信手に命令する。

「すぐにフソウ連合の海軍本部に現状の報告を急げ。それとアルンカス王国へ派遣する艦隊の草案を頼むとな」

恐らく、戦場はアルンカス王国より南の海での戦いになるだろう。

ならば、ある程度の戦力を移動させておく必要がある。

他にやっておくことはあるだろうか。

焦る気持ちが強く、気持ちだけが空回り気味だ。

いけないな。

自分自身を落ち着けるために、深く息を何度も吐き出す。

恐らく、長丁場になる。

落ち着け。落ち着け。

僕は自分自身にそう言い聞かせたのであった。

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