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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三章 二つの世界の間で

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日誌 第十九日目 その3

ドックの区画に入るとあちこちで作業の音と行き交う作業員の声が響く。

まさに活気があるという表現にぴったりの場所だ。

来た事を事務所に報告に行こうとすると、小型ドック壱から小太りの男が小走りでこっちにやってきた。

「おおっ、大将っ。待ってましたぜ」

そう言って息を切らせて小走りでやってきた男。

この男がドック区画の責任者、藤堂四郎少佐だ。

同じ階級だが、後方支援本部の鏡少佐の部下となっている。

年は四十後半といったところだろうか。

短く切りそろえた髪と丸眼鏡をかけており、筋肉はついているものの腹は樽のような貫禄がある。

本来なら軍服を着ているはずだが、つなぎの上側を脱いで袖を腰の巻いて上半身は油で汚れたランニングシャツを着ている。

おまけに首には薄汚れたタオルがかけてあり、どっからみても町工場のおっさんといった風なのだが、艦船の設計や建造、整備のことなら海軍一といっていいほどの知識と技術の持ち主だ。

まさにドックの主と言っていいだろう。

「少佐っ。『おおっ、大将っ』じゃないでしょうっ。それに敬礼もしないでっ」

少し後ろを歩いていた東郷大尉が前に出て注意をする。

いや、それを言ったら階級が下の君が注意する事はないんじゃないかな。

そうも思ったが、僕が口を開く前に藤堂少佐は豪快に笑って言う。

「なぁに、大将と俺の間にそんなのは必要ねぇさな。な、大将っ」

そう言ってバンバンと背中を叩く。

かなり痛いものの、それは親しみを感じる行為だった。

僕は苦笑しつつも東郷大尉を宥める。

「まぁ、まぁ…。いいじゃないか」

「よくありませんっ。軍隊は規則があり、上下関係がきちんとしておく必要があります」

かなりのお怒りモードでそう言うと藤堂少佐を睨みつける。

いや、あのさ…。

思わず突っ込みたかったが、後が怖いので場を濁す事を選択する事にした。

「別に悪気があるわけではないし…それに公式の場ではきちんとしてくれるよな?」

藤堂少佐にそう言って、東郷大尉に見えないように片目を瞑る。

それに気がついたのだろう。

藤堂少佐がニヤリと笑い「もちろんですとも、公式の場では礼儀を守りますよ」と言ってがはははと笑う。

「な、彼もああ言ってるからさ、少しは大目にみてくれよ」

そう言って片手で謝る格好をすると、諦めたのか、それとも埒が明かないと思ったのか、「仕方ないですね…」と言って東郷大尉は矛先を治めた。

思わずほっとして、息を吐き出す。

こんなところで喧嘩なんてされた日にゃ変な噂が広まってしまいそうだ。

そして、そんな僕らを楽しそうに見ているのは三島さんだ。

頼みますから、止めてくださいよ。

そう思ってぎろりと睨むとにやりと笑って大怖って感じで肩をすくめて見せる。

もう、相変わらずだな、この人は…。

おっと。いかんいかん…。

さっさと本題に入るとするか。

「で、藤堂少佐。案内を頼む」

「了解でさぁ…」


藤堂少佐の案内で、順にドックを視察していく。

「小型ドックは、奥の四つが大将用に空けられている以外は、全部今はコンクリート船の建造で全部埋まっているよ」

「建造は順調かな?」

「ああ。今は北部基地と南部基地用の港用に設計されたコンクリート船だが、落ち着いてきたらコンクリート製被曳航油槽船に切り替える予定になってます。それにな、早速問い合わせも来てますぜ」

「ほう…どこだ?」

僕がそう聞くと、藤堂少佐はニタリと笑う。

「ガサ地区にカオクフ地区。それに…トモマク地区だよ」

トモマク地区と聞いて責任者の斎賀露伴の顔が頭に浮かぶ。

あの男か…。

ガサ地区にカオクフ地区は、南部基地建設の件でいろいろ連絡しており、その際にコンクリート船のことも話してある。

だから、問い合わせがあってもおかしくない。

しかし、トモマク地区にはこの話はしていない。

なのに…問い合わせがきた。

それはやつの情報網がかなりのものだという事を示している。

だがおかしい…。

わざわざ問い合わせをして警戒させる必要性はないはずだ。

これは…何か裏があると読むべきだろう。

なら、なぜ問い合わせたのか…。

足を止めて少し考え込む。

すると藤堂少佐も足を止めて口を開いた。

「大将、あまり深く考えなくていいんじゃねぇか?」

「どういう意味だ?」

思わず聞き返すと、僕の顔を見て藤堂少佐はニタリと笑う。

「新しい技術があれば、それがどんなものか知りたくなるってのが人間の常さ」

実にシンプルな考え方だが、言われてみたら引っかかるものがある。

もし、以前受けた情報どおりなら確かにそれが一番有力だ。

それに、情報は力と言う事をあの男はフソウ連合の政治上層部の中で一番わかっている。

「ふむ…。そうかもな…」

そう言って歩き出すと他の人たちも歩き出す。

そして小型ドックを抜けた先が中型ドックの区画だ。

「さて、これ以降の中型、大型ドックだが、今は大将のみが使っている感じだな。まぁ、そのうち、中型のコンクリート製被曳航油槽船も製造始める予定だが、まだ設計段階でな…」

「面白そうだな。機会があったら話を聞きに行っても構わないか?」

「大将なら大歓迎だよ」

そして中型ドック壱と弐のところに出る。

そこには、完成した艦が二隻あった。

それを指差しながら、「さて、大将から製造報告があったのはこの二艦だが…」とそう言いつつ悪戯小僧のようにニヤリと笑って言葉を続ける。

「確かに艦としては完成している。なのに…片方しか付喪神がいない…」

そこで一旦言葉を切って、ずいっと僕に顔を近づけて面白そうな事を見つけたといった感じで藤堂少佐が口を開く。

「これは一体どういうことです?」

その問いに、僕は笑いつつ答える。

「いやなに…付喪神が艦に憑く条件を知るための実験だったんだよ、今回のは…。それで、予想通りの結果になった。ただそれだけだよ」

「て、事は、これからはこういう事もあるって思っていいんですかい?」

「ああ。すまなかったな。今度からは事前に連絡するよ」

僕がそう言うと、藤堂少佐はがりがりと頭をかいた。

「そうしてください。いやはや、何かこっちのミスがあったかと思って最初は焦りましたからね」

「そりゃ、悪かったな…」

「でも、大将が実験だっていわれてた事を思い出してね。ああ、もしかしたらって思いましたよ。おかげで楽しめましたから問題ないですよ。がはははは…。」

そう言ってひとしきり笑った後、三笠の方を見てしみじみと言う。

「しかし、この三笠って艦はなんかいいですな。製造に使われている技術も戦闘能力も今の主力の艦に比べれば格段に落ちる…。なのに…こいつは実に美しい…」

「ああ。そうだな…。その通りだ」

僕も三笠を見てそう答えた。

「なんか優雅ですね…」

東郷大尉がなんか懐かしいものを見るような表情を浮かべて見入っている。

「まぁ、後何回か色々実験はするけど…」

そう言った後三島さんの方を振り向く。

「これで条件はわかりましたね…」

「そうね。つまりは付喪神が艦に憑くには貴方の手が必要ってことね…」

「まぁ、ここの基地のベースになっているのが僕の作ったジオラマですから、予想通りといえば予想通りですけど…」

僕は頷きつつ別の事を考えていた。

これってうまく使えないかと…。

そう思っていたら、藤堂少佐が聞いてきた。

「それでこっちの三笠の方はどうしますか?」

付喪神が憑いている敷設艦沖島は、そのままフソウ海軍に引き渡せばいい。

しかし、三笠の方は付喪神が憑いていない以上、どうすべきか困っているのだろう。

「そのまま海軍に引き渡してくれ。訓練艦として使っていこうと思っている」

「わかりましたぜ、大将」

藤堂少佐は、そう言って敬礼をすると三笠の方に歩き出した。

多分、これから部下に命じてすぐにでも海軍に引き渡す手続きに入るのだろう。

「では、今回の実験は以上だ」

僕はそう宣言すると「新見大佐に三笠の配置については練習艦として使用する事。それと人員の配置や配属などの細かいところは一任する事」を伝えるように言う。

「了解しました」

そう返事をして敬礼すると東郷大尉は動き出した。

恐らく、海軍本部にいる新見大佐のところに向うのだろう。

そして、再び三笠を見上げる。

すると三島さんがニヤリと笑いつつ聞いてくる。

「今さっき、よからぬ事考えていたでしょう?」

その答えに、僕は苦笑する。

「そんなふうに見えましたか?」

「ええ。見えたわね…」

「まあ…どうするかは先のことなので、その時にお話しますよ」

僕はそう話をはぐらかすと長官室に戻る為きびすを返す。

「教えてくれてもいいんじゃないかな?」

少し拗ねたような三島さんの声が後を追ってくる。

ちらりと後ろを見た後、僕は困ったような顔をして言った。

「まだ東郷大尉に言われた今日のノルマが終わってないのでまた今度ですね」

その言葉に、三島さんの「けちーっ!!」と言う声が返されたのだった。

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