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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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『ムバナール群島海戦』  その2

「敵艦、後退。その為、初弾全弾避けられました」

その報告に、モンスチーナ提督は舌打ちする。

「くそっ。勘のいい奴め」

そう呟くように言った後、言葉を続ける。

「島の方はどうか?」

「こちらは、問題ありません。目標は粉砕され、粉々です」

「そうか。残念なことをしたな。いい女だっただけにもったいなかったが、これも仕方あるまい。敵と通じようとしていたのだからな」

そう言って残念そうな顔をする。

その言葉に、報告していた兵も残念そうな顔になった。

「ええ。本当に。どうせ殺してしまうというのなら、我々に回していただければ、たっぷりと楽しめて死ねたんでしょうが……」

その兵の言葉に、提督は一瞬、嫌そうな顔をする。

「おい、そう言う事は黙っていろ」

注意され、兵は慌てて顔を引き締める。

「はっ。すみません」

「もし、他の派閥の者が紛れ込んでいたらどうするつもりだ?」

「はっ。注意いたします」

「まぁいい。恐らくフソウ連合の水上機が動いているとは思うがすぐに来られるわけではない。それに、海上の増援はもっと時間がかかるだろう。だから、連中の増援が来る前にさっさと仕留めるぞ。別動隊に指示を出せ。『予定通り挟み撃ちだ』と」

サネホーンでも飛行機を使用するだけに、飛行機の作戦展開の速さと広さ、それに攻撃力を理解しているのだろう。

艦橋にいた乗組員たちの表情がより引き締まり、無線手が「了解しました。直ぐに別動隊に連絡いたします」と言って無線機にかじりつくように取り掛かる。

他の乗組員も慌ただしく動いている。

ここからは時間との戦いでもあるとわかっているのだ。

それは訓練された兵の動きでもあった。

「それで、島の方はどうしましょう?確認させましょうか?」

念のためという事なのだろう。

副官がそう聞いてくるが、その言葉をモンスチーナ提督は鼻で笑う。

「完全に粉砕したのだろう?なら、確認など必要ない。それにな、そんな時間はないぞ。我々も敵艦殲滅に参加してさっさと終わらせるぞ。各員、日頃の訓練の成果を出せ」

「「「了解しました」」」

乗組員たちの返事が艦橋内に響く。

それを満足そうに聞いた後、モンスチーナ提督は視線を島から、島風の方に向けた。

そこには、装甲巡洋艦三隻が先行して砲撃し敵艦を追い詰めている様子があった。

敵艦も反撃しているようだが、前に二連装砲塔一基しかない為、火力的にも押されているようだ。

それに精度が悪いのか、砲撃は味方の装甲巡洋艦に掠りもしない有様である。

何がフソウ連合の最新駆逐艦だ!数の前に追い詰められているじゃないか。

所詮は張りぼての虎という事だ。

我々も参加し、別動隊も動く。

つまり、あの敵艦の命運もこれまでであり、それにもうこの歴史の流れは止められん。

交渉推進派の連中もこれで黙るしかあるまいて。

モンスチーナ提督は心の中で機嫌よく笑う。

全ては我々の思った通りに進んでいると思って。

だが、彼らは知らなかった。

島風の援護に入ったのが、空と海の上だけではなかった事を……。

その牙は、島風を追い詰めるはずの別動隊に向けられていた。



「島風からの無線、確認いたしました。いかがなさいますか?」

副長の問いに、伊-25の付喪神は潜望鏡から目を離して副長の方を振り向く。

「そりゃ、味方が攻撃されているんだ。やるさ。もし何かあったときの為に我々はここにいるんだからな。南の海の底でのんびり涼むためにいる訳じゃあるまい?」

そう言われて副長は苦笑いを浮かべる。

彼とて任務の内容は理解している。

ただ、確認を取りたかったのだろう。

それは伊-25もわかっている。

そんな副長を見て伊-25はニタリと笑みを浮かべて命令を告げる。

「すぐに無線ブイ収容だ。収容後は我々は島風の援護に向かう。まず手始めに……」

そう言いつつ伊-25は羨望鏡に目を付け言葉を続けた。

「あの三隻がお相手だな。全艦雷撃戦用意ーーっ。三隻ともここで海の藻屑にしてやるぞ」

その命令に、艦内から小さいながらも歓声が上がった。

それはある意味、当たり前と言えるだろう。

今の所は、通商破壊任務がある訳ではなく、敵の戦闘艦を沈める為に動くこともほとんどない。

乙型潜水母艦である伊-25は、零式小型水上偵察機1機を搭載し、その長い航続距離の為、どうしても警戒や海域調査なとが主の任務となっていた。

もちろん、飛行機搭載能力のないものもあったが、それらの潜水艦も任務は同じであり、敵の港や施設の監視などを行っている。

その為、鍋島長官を始め、高官になればなるほど潜水艦の戦果と価値の理解はあったが、他の水上艦が華々しい活躍をしているという事もあり、一般のフソウ連合内では一部の潜水艦を除き、表向きではあまり活躍がないと思われている。

それに、そんな任務ばかりに乗組員たちも飽き飽きしていたという事もあるのだろう。

だからこそ、絶好の機会に、乗組員達のやる気と士気はとてつもなく高い。

それをヒシヒシと感じているのだろう。

伊-25がぶるりと身体を震わせてニタリと笑った。

「さぁ、狩りの時間だ」

こうして、島風の後方に回り込み、退路を断とうと動き始めたサネホーンの別動隊であったが、まさか自分達が海中に潜む狼に狩られる側になるとは夢とも思っていなかったのである。



「往々、なかなかガッチリと喰らいついてきたな」

島風が楽し気にそう言いつつ追い詰めようと砲撃しつつ進むサネホーンの艦艇を見る。

「ええ。なかなか貪欲ですな」

副長がそう答えると島風がニタリと笑みを浮かべた。

「要は、舐められているってことだ。いいだろう。そのツケ払わせてやる」

そう呟くように言うと命令を下した。

「これより本艦は反撃に移る。機関最大戦速っ。主砲、牽制はもういいぞ。だから本気で当てろよ。只今より敵艦隊の左側側面に回り雷撃攻撃を行う。雷撃戦用意ーっ。装填分、全弾撃ち尽くせ!!」

「機関、最大戦速ーっ。面舵ーーーっ」

後退していた島風ががくんと大きく揺れ、前進を始める。

そして、徐々に速力を上げて向かってくる敵艦に突き進む。

島風の突然の動きに、先行する装甲巡洋艦三隻が動揺したかのように慌てふためく。

その隙を見逃さず、まずは主砲が戦果を挙げた。

側面を向くことで第一砲塔だけでなく、第二、第三砲塔すべてが使える事もあるだろうし、今までの牽制ではないというところも見せたかったのだろう。

全主砲の砲撃の内の一発が、先行する三隻の装甲巡洋艦の一隻に命中。致命傷にはならなかったものの、火災が発生し、砲撃が止まり、速力も落ち始める。

その戦果に島風の艦内は沸き、次も当てるぞと各主砲の砲撃が次々とサネホーンの艦艇に襲い掛かった。

最初こそ、火力で圧倒していた感があったサネホーン側だが、一隻が戦闘不能となり、相手は全主砲が使えるとなると火力は逆転する。

だが、それもすぐに解消した。

重戦艦と戦艦が砲撃に参戦したのだ。

「ええいっ、たかが一隻に何を手こずっている。さっさと沈めてしまえ」

モンスチーナ提督の命令の元、重戦艦と戦艦は一気に形勢を逆転し止めを刺そうとする。

だが、島風は監視員の的確な指示により、敵の砲撃を次々交わす。

それにサネホーン側の主砲、特に大型艦になればなるほど回転速度が遅く、左右に振られると弱かった。

そんな中、再び島風の砲撃が戦艦に命中。

派手な爆発と共に煙突とマストが吹き飛んだ。

爆風で破壊された部位と近くにいた乗組員が吹き飛ばされ、バラバラになって海面に落ちていく。

それでもまだ機関も戦闘力も失っていないのだろう。

果敢に砲撃を続けていた。

「くそっ。中々しぶといじゃねぇかっ」

モンスチーナ提督が憎々し気に迫りくる島風を睨みつける。

「副砲の砲撃に切り替えろ。主砲じゃ奴の足に追いつかん」

各艦に側面にある大小の副砲が島風の方を向き、砲撃を開始した。

いくつもの砲弾が島風をかすめるが、それでも島風の動きは止まらない。

「よしっ。今だっ。雷撃開始ーっ」

「撃てーっ」

命令が下され、島風に搭載されている五連装魚雷発射管三基、十五射線が順次敵の動きを予想しつつ発射される。

放たれる酸素魚雷は、その性能上、航跡はほとんどない。

しかし、それでも昼間であり、相手が魚雷を発射したという事はわかるため、サネホーンの艦艇は回避行動に移るものの航跡が見にくいためか動きの確認に手間取っている様子だ。

その間も相手の回避行動を封じ込めようとしているかのように島風の砲撃は続き、確実にダメージを与えていく。

もちろん、島風とて無傷ではない。

副砲主体の砲撃に代わってからは、いくつか砲撃を食らっている。

しかし、そのほとんどはかすり傷程度のものであり、戦闘力には影響を与えるものではなかった。

そして、魚雷がサネホーンの艦艇に迫る。

「魚雷接近ーっ。回避ーっ。回避だーっ」

発見した兵士が叫び、各艦艇が回避行動をとり始める。

しかし、発見が遅かったことと、艦艇の反応速度の遅さが命取りになった。

回避が間に合わずに次々と魚雷は命中していく。

先行していた装甲巡洋艦三隻の内、火災によって置いていかれた一隻を除く二隻は魚雷が命中し、あっという間に艦体を二つに割って爆沈。

後方の戦艦と重戦艦も一発ずつ魚雷を受けた。

戦艦は艦隊の前三分の一程度のあたりで、重戦艦は後方の部分だ。

これにより、戦艦は弾薬庫に火が回り、爆発と火災が発生。

艦体も大きく前に傾く。

そして、重戦艦は機関部に魚雷が命中し、機関が完全に沈黙。

浮かぶ鉄の塊になってしまった。

それでも砲撃は出来る。

のろのろと戦艦は向きを変え、後方の主砲と側面の副砲から砲撃を繰り返し、重戦艦も砲撃を続けている。

だが、自軍の壊滅的な被害にモンスチーナ提督は頭を抱えた。

これではもし敵艦を沈めたとしても敏速に海域を離れられないではないかと。

たかが一隻にここまで苦戦するとは……。

そ、そうだ。別動隊がいた。

それを思い出したモンスチーナ提督は叫ぶように言う。

「別動隊はっ、別動隊はどうしたっ。後方から回り込むのではなかったのかっ」

無線手が慌てて何度も打電するものの、返事は返ってこない。

その現実に、無線手の顔色が真っ青になる。

まさに悪夢としか思えない予想で思考が塗り固められてしまったからだ。

そして、真っ青な顔でモンスチーナ提督の方を向き報告する。

「別動隊と……音信不通であります」

「何度もやったのか?機械の故障とか、偶々じゃないのか?」

「それは……余り考えられません。やはり……ここは……」

恐る恐るといった感じてはあったが、無線手は自分の思考を染め上げていく考えを匂わせる。

だが、それだけで十分だった。

それだけで、理解した。

モンスチーナ提督としてはしたくなかったとしても……。

「そ、そんな……馬鹿……な……」

その報告にモンスチーナ提督が唖然とする中、島風の砲撃が続く。

そして、それは動きが鈍くなった、或いは動けなくなったサネホーンの残存艦艇に確実にダメージを与え続けていた。

まだ戦いは終わってはいないのだから……。

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