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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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アルンカス王国、イムサ本部にて……  その1

フソウ連合とサネホーンの交渉の日、フソウ連合海軍長官であり、外交部トップでもある鍋島貞道の姿は、アルンカス王国にあった。

正確に言うと、アルンカス王国の主港の一角にある『IMSA(イムサ)』本部にある特別会議室である。

ここは、国際機関である『IMSA(イムサ)』で国同士の高官が話し合いを行うために用意された部屋で、質素ながらもある程度の豪華さと魔術と技術による機密性に長けていた。

もちろん、一人ではない。

そこで、鍋島長官と会談している人物は二人。

一人は今や王国の王位継承権一位となり、国内の勢力一位となってほぼ間違いなく王位を受け継ぐであろう人物アーリッシュ・サウス・ゴバークであり、もう一人は共和国の最大派閥の長であり、今や代表として共和国をまとめる人物でもあるアリシア・エマーソンだ。

つまり、実質、フソウ連合、王国、共和国の三首脳による会談である。

また話し合いの内容も、表向きは『IMSA(イムサ)』や『IFTA(イフタ)』に関する事柄となっており、だからこそ、アルンカス王国にあるフソウ連合の基地ではなく『IMSA(イムサ)』本部で行われている。

もっとも、三首脳会談というにはあまりにも雰囲気が違いすぎた感はある。

そこには形式ばったガチガチとした感じではなく、まるで友人同士のお茶会のような緩さがあった。

「いやぁ、よく来てくれたな、アッシュ。国元もまだ大変な時期に無理を言ったみたいで……」

鍋島長官が申し訳なさそうにそう言うとアッシュは笑って口を開く。

「何を言うんだ。盟友たる君に呼ばれたんだ。少々の無理でも飛んでくるさ」

そのやり取りに、同席していたアリシアがむくれた表情を浮かべる。

「あら、私にはそうは言って下さらないのですか?」

そう突っ込まれ、益々困った顔をする鍋島長官。

「いや、アッシュの後に聞こうと思ったんだよ」

「本当かしら?」

そんな言葉に、アッシュは苦笑しつつ「まぁまぁ」とアリシアをなだめる。

そんな久しぶりの再会のやり取りのような流れをそれぞれの秘書官が微笑ましく見ている。

そんなやり取りをした後、鍋島長官は二人を交互に見た後口を開いた。

「ともかく、今回は急な事なのに二人に来てもらってこっちとしても助かった。ありがとう」

「何、気にするな。わざわざ名指しで呼んだのはそれなりの内容がある為だろう?」

そのアッシュの言葉に、鍋島長官はニタリと笑う。

「勿論だとも」

その言葉に、アッシュとアリシアの二人は苦笑を浮かべる。

相変わらずだと思って……。

そして、それだけ信頼されているという事を感じ、うれしくなっていた。

「それで、その件はなんなんだ?」

そう聞くアッシュにアリシアは横から口を挟む。

「まずは、表向きの件に関して済ませてからにしてからの方がいいんじゃない?そっちに時間がかかって表向きの話題は全く進んでないんじゃ、国元で帰った時の言い訳に使えないわよ」

「そりゃそうか。じゃあ、表向きの話をさっさと済ませてしまうか」

そのやり取りを見た後、鍋島長官は災害の復興状況について聞く。

IFTA(イフタ)』という国際組織を作って対応したのだ。

詳しい現状の報告が必要という事である。

それが判っているだけに、王国も共和国も報告を上げていく。

その報告によれば、王国、共和国ともかなり順調に復興が進んではいるものの、今しばらくは以前と同じになるまでには時間がかかるだろうという事であった。

特に問題となっていた蝗害が収まりかけているのは吉報であった。

やはり、一度に大量のマナ喪失による生態系バランスによって発生した一時的なものであったらしく、現場での努力の甲斐もありそれ以降は数が減っていき落ち着きつつある。

「いや、よかったよ。本当に……。このまま数年続いたら、さすがに量をそろえるのは無理だからね。もうあの手は使えないだろうし……」

鍋島長官の言葉に、アリシアはクスクス笑う。

「まぁ、連盟の商人を騙くらかして手に入れましたからね」

その言葉に、鍋島長官は苦笑いを浮かべながらも反論する。

「騙したんじゃないぞ。うまく誘導しただけだ」

「それはそれで質が悪いと思うんだがな」

アッシュが笑いつつそう言うが、すぐに言葉を続けた。

「だが、そのおかげで我々は助かったのだ。感謝しているのは事実だし、あの手がもう使えないという事もわかっているよ」

「そうでしたわ。ついつい突っ込んでしまいました。失礼しました。こっちはお礼を言わなければならない立場でしたわ」

「なら、なんで……」

「それは、ナベシマ様が突っ込んでほしそうだったからですわ」

その言葉に、後ろに控えて会談内容を書き控えている秘書官たちからもくすくすという笑い声が起こる。

「いや、参ったな。そんなつもりじゃなかったんだが……」

そう呟くように言った後、鍋島長官は視線を後ろに向けて東郷大尉の方を向く。

「大尉、大尉もそんな風に聞こえたかい?」

そう聞かれて、東郷大尉はクスクス笑いつつ頷く。

「そうですよね。そう聞こえなくもないです」

「なんだよ、それ……」

そのやり取りに、場にますます笑い声が起こるのであった。



そして、報告が終わった後、次の議題に映る。

その瞬間、アッシュとアリシアの顔つきが変わった。

次の内容が今回、態々呼んだ本題であるからだ。

「今回、呼んだのは、連盟の事だ」

「連盟?」

「そう、連盟の革命の件についてだよ」

その言葉に、アッシュはうんざりとした顔になり、アリシアは困ったような表情を浮かべる。

その様子から本国でもかなりいろいろ話し合いが行われ、頭の痛い問題であるという事なのだろう。

その様子を見つつも鍋島長官は言葉を続けた。

「二人ともわかっていると思う。今回は、一つの国の革命で済まされる問題ではないという事が……」

「ええ。世界規模で連盟の影響力は大きいですから」

「特に……海運に関しては……な」

そう言いつつアッシュはちらりとアリシアを見る。

その視線に、アリシアは苦笑を浮かべるだけだ。

「で、現在、連盟は今まで通り動いている。だが、これからもと言うと……どうだろうか……」

「確かに、今度政権を取ったやつはいい噂を聞かないな」

「トラッヒ・アンベンダードでしたか……。やり方がスマートではありませんわね。どうせやるなら、もっとうまくやればいいのに……」

そのアリシアの言葉に、鍋島長官とアッシュは苦笑を浮かべる。

だが、同意という事なのだろう。

突っ込みはなかった。

「ともかくだ。そんな人物が政権を握ったのだ。今まで通りにという事にはならないと思う」

「そうなると……、心配されるのは連盟が占める経済や流通がどれだけ世界に影響を与えるかという事だな。もっともうちはそれほど影響を受けないだろうが……」

王国は、六強最大の強力な海軍力と自国や植民地を何とかする程度の流通や海運力をすでに持っているためもそう言い切れるのだろう。

アッシュはそう言ってアリシアの方を見る。

その視線を受け、アリシアはため息を吐き出した。

「ええ。お察しの通り、恐らくそうなったら共和国(うち)はかなりの影響を受けるでしょう。特に遠距離の海運関係の六割近くは連盟の商会関係になっています」

「それはかなり……」

鍋島長官が深刻そうな顔つきでそう言う。

「ええ。ですが、私は今のままで何も起こらないのではとも思っているのですよ。連盟としても得たものを態々放棄とかしないと思いますし。だってそうでしょう?共和国(うち)だけではないのですよ、被害を受けるのは……。その規模は世界的で、間違いなく世界中を敵に回すことになりかねません」

その言葉に、鍋島長官が少しきつめの口調で聞き返す。

「それはきちんとした情報による判断ですか?願望じゃないんですか?」

その問いに、アリシアはふーっと息を大きく吐き出した。

「やっぱりそう聞こえますか?」

「ええ。そう聞こえます」

そう言われ、アリシアは困ったような顔をするとため息を深く吐き出す。

「言われる通り、あくまでも願望ですよ。でも、手の打ちようがない以上、どうすればいいんですか……」

そのアリシアの開き直りともとれる言葉に、苦笑を浮かべながらも鍋島長官は口を開く。

「確かに一国では対応できません。だから、『IMSA(イムサ)』や『IFTA(イフタ)』があり、三者会談をやっているのですよ」

「いいんでしょうか?」

「構いませんよ、ねぇ、アッシュ」

「ああ。勿論だとも。サダミチがその為に今までいろいろやってきたんだ。遠慮なく利用していけばいい。もちろん、うちも利用するから、その時は頼むよ」

アッシュが少し気軽な感じそう言うと、アリシアは少しほっとした表情を見せる。

「ええ。そうですね」

「じゃあ、ではこちらを……」

そう言って鍋島長官は一枚の紙を取り出した。

その紙を受け取りつつアリシアは視線を落とす。

そして怪訝そうな顔になった。

「コンクリート船の譲渡書?」

「ええ。コンクリート船のです。長距離は無理かもしれませんが、近距離ならば十分使用できるものですよ。それで浮いた船を少しは遠距離に回せるようになりませんかね」

その言葉に、アッシュも変な顔になった。

「コンクリート船って、コンクリートの船ってことだよな?」

「ええ。言葉通りです」

「あれって……浮くのか?」

「ええ。普通に使えますよ。喫水線はかなり高くなるので、波の高い場所や外洋は無理に使わない方がいいと思いますが。それにフソウ連合では、普通に使っていて、一部は備蓄タンクとしてそのまま港に固定されていたりします。もちろん、アルンカス王国でも使われていますよ。何なら会談が終わったら見ていったらいいんじゃいかな」

そんな説明を聞いても半信半疑と言った感じであったが、そんな二人に構わず鍋島長官はもう一枚紙を取り出した。

そこには、S級貨物船の詳しい性能(スペック)がかかれいてる。

S級貨物船。

日本郵船が運航した貨物船のクラスの一つで、総トン数9600トン、全長147m、型幅19m、積載能力3000トン、最大速力19ノット、航続距離16.0ノットで37,000海里という大型貨物船である。

「我々としては、緊急時にはこのS型貨物船を十隻貸し出す用意があります。また、二、三か月待っていただければ、それに十隻追加できると思います」

今、フソウ連合では自国の艦艇の改修や修理、艦隊戦力の構築も落ち着き、造船能力に余裕が出始めていた。

それにいざとなったら星野模型店に頼んで大量に買い置きしてあるS型貨物船の模型を製作し、実物化するという奥の手がある為、出た発言である。

信じられない内容と言葉に、アリシアは唖然とし、アッシュは呆れ返っていた。

「フソウ連合の造船技術はどうなっているんだ?うちの発注したドレッドノート級戦艦も完成が早すぎて、本国の操船技術者が泡くっていたが……」

まさか、模型から作ってますとも言えず、鍋島長官は苦笑いを浮かべて誤魔化すのみだ。

そんなやり取りに我に返ったのだろう。

アリシアが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。

共和国(うち)としては大変ありがたい話ではあるのですが、フソウ連合(そちら)は大丈夫なんでしょうか?」

「ええ。問題ありませんよ」

そう言いつつ、鍋島長官は心の中で苦笑する。

『うちは、物はあるけど乗組員の育成が追っつかない事態になっていますから……』

そう考えて、ふと頭に浮かんだ事をアリシアに聞く。

「ただし、乗組員とかは用意できませんよ。我々が用意できるのは船だけです」

その言葉に、アッシュはますます呆れ返った顔になった。

つまり、乗組員も集められないのに作ったのかと……。

だが、アリシアの反応は違っていた。

「あ……」

困った表情で固まったのである。

つまり、共和国でも乗組員は準備できそうにないという事なのだろう。

それはそうかもしれない。

船の乗組員と言うのは、技量が問われる職種だ。

それが大きくなれば、なるほどに……。

今の最新技術ならいざ知らず、素人が簡単に動かせるものではない。

それに、まさか自国の海軍から引き抜くわけにもいかず、また育成するにしても時間がかかる。

つまり、そう言う事だ。

詰めが甘かったのである。

そんな二人の様子に、アッシュはますます呆れ返った表情を浮かべた後、苦笑を浮かべてある提案をした。

「コンクリート船は、恐らく近海で使うものだから、共和国で乗組員は何とかしてもらうとして、そっちの大型船の方は、どうせなら『IFTA(イフタ)』に提供という形にしないか?必要時に貸し出すという形に……。そうすれば乗組員の方は、王国で何とかするぞ。なんせ、うちは現役の乗組員や元乗組員って輩は余るほどいるからな。給料が良ければすぐに集まるだろうしよ」

その提案に、沈み込んでいたアリシアは「それいいですわ」と叫び、考え込んでいた鍋島長官は「それだ」と言って手を叩いた。

そして、鍋島長官は独り言のように呟く。

「なら、いっその事、『IFTA(イフタ)』に輸送部門を作って対応できるようにすれば……」

その呟きにアッシュは笑いつつ頷く。

「ああ、いいんじゃねえのか?もっとも、あくまで一時しのぎにしかならんが、時間は稼げるし、被害を最低限に抑えられる」

共和国(うち)としては助かります。これで何とか時間稼ぎが出来れば……。それでその時は、フソウ連合に貨物船の注文、よろしいですか?」

「ああ。もちろん。代金は頂きますよ?」

その鍋島長官の言葉に、アリシアはクスクスと笑いつつ言い返す。

「当たり前です」

「王国も絶賛受け入れ態勢は整っているぞ」

アッシュがそう言うと、アリシアは「なら、王国にも頼ることにします」といって笑った。

そして、言葉を続ける。

「しかし、本当にフソウ連合とナベシマ様には頭が上がりません。今回の事と言い、前回の事と言い……」

「それをいうなら、王国(うち)もだ。かなり世話になっているからな。まぁ、困った時はお互いさまってことでいいよな?」

「ああ、そう言う事だよ。だからこっちが困ったら頼らせてもらうとするさ」

「そんな時が来るのかねぇ……」

アッシュの言葉に、鍋島長官が笑いつつ言い返す。

「あると思うぞ。何があるかわからないからね」

そんなやり取りを見つつ、アリシアはほっとしていた。

これが以前の国同士の関係なら、弱みを見せるなどもっての外であっただろう。

その弱みに付け込んで何を言い出されるかわからない上に、絶対にこんな展開にならないとわかっているのだから……。

だから、この二人に会い、今のような関係を築けて本当に良かった。

アリシアはほっとして二人を見て微笑んだのだった。

なお、話に出てきたS級貨物船ですが、模型の方は1/700スケール、フジミで『佐渡丸/崎戸丸』という形で出ています。

出来はなかなかいい感じですが、フジミ特有のプラの割れにはご注意を。

興味のある方は、探して作ってみるのもいいのではないでしょうか。

ちなみに、うちは、ノーマル2箱、エッチング付きSP1箱積んでいます。

あと、S型貨物船のスペックですが、各船によってばらつきが大きかったので、ある程度これくらいという感じで書いています。

正確な数値ではありませんからご注意を……。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかしてだけど、二代目『雑草号』の外観て、S型輸送船に近いのでは?
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