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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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現状確認

帝国海軍がジュンリョー港攻略上陸作戦を実行してから二日後、マシガナ本島フソウ連合海軍司令本部では午前中は旧帝国の動きと世界情勢の為の情報共有化の為の会議が行われていた。

参加者は、海軍関係者だけでなく、外交部などの他の部からも代表者が参加している。

まず最初に報告されたのは、旧帝国領に関してだ。

「帝国の作戦はうまくいっており、東部地区での協力勢力と無事合流。ある程度の戦力となり侵攻を開始しました。また、公国の方も上陸作戦を実施し、拠点と都市の確保に成功しているという情報を入手しております。その結果、連邦は三割以上の国土を失いました」

その報告に、誰もが急な展開に驚きの声が漏れていた。

もっと苦戦する、或いはそれほど変化がないと思っていたからだ。

確かに形勢逆転のチャンスではあったが、それでここまで勢力範囲が変わるとは思っていなかったようだ。

「思った以上に連邦の軍の戦力が落ちていたようですな」

山本大将の言葉に、新見中将が言葉を続ける。

「それだけではないぞ。内政もうまくいっていないと見るべきだ。そうでなければ、連邦の元々の勢力地であった東部がここまで切り崩されることはないだろう」

「うむ。それはあるかもしれんな」

山本大将は頷き、視線を鍋島長官に向ける。

元々、今回の帝国のジュンリョー港攻略上陸作戦はフソウ連合が動いたから出来た事なのだ。

そして、その提案に同意し、機雷除去を行うように判断したのは、鍋島長官である。

だからこそ、鍋島長官の意見を聞きたいと思ったからだ。

視線を向けられ、鍋島長官はすこし苦笑気味の笑みを浮かべると口を開いた。

「いや、僕も驚いているよ。ここまで一気に変わるというのは……。楔を打ち込めればいいかな程度だったんだが。恐らく、もう連邦が以前の勢力に盛り返すことは難しいだろうね」

「そうなると、帝国と公国の戦いがメインとなるというわけですか……。長官は、どちらが勝つと思いますか?」

「そうだねぇ……」

そう前振りをして考えるそぶりをした後、長官は言葉を続けた。

「僕としては、どっちが勝ってもいいように手は打ったつもりだよ。だから、後は流れに任せればいいと思っている。それにだ」

そう言った後、鍋島長官は笑った。

「僕は預言者じゃないし、世の中、何があるかわからないからね。だからわからないかな」

その言葉に、山本大将は苦笑を浮かべた。

彼にしてみれば、長官の決断や準備がまるで未来を見通すかのような動きをしてきたように見えたのだ。

だから思わず聞いてみたのだが、そう言う答えが返ってくるとは思っていなかったようだ。

もっとも、長官にしてみれば、念のためにと用心深くやっていたことがうまくいっただけであり、決して未来を見通して余裕で対応してきたのではないのだが、まわりには別のように見えていたというところだろうか。

「では、旧帝国領に関しては、今後の流れを見て対応するという事でよろしいですな?」

同じように苦笑を浮かべて新見中将がまとめる。

「ああ。それでいいんじゃないかな。ただ、これからも監視を行う必要性はあると思うけどね」

実際、ジュンリョー港の沖合には、機雷の動きの監視という建前で、第十一警戒隊の水上機母艦日進と第九護衛隊の駆逐艦若竹、呉竹の三隻が居座っており、日進の搭載されている零式水上偵察機が上空より情報収集に動いていた。

その監視の継続を続ける必要はまだしばらくあるという事なのだろう。

「わかりました。ローテーションを組んで、常に監視用の艦隊を派遣しておきましょう」

新見中将がそう発言し、そして次の情報へと話は移る。

次の報告は、海賊国家サネホーンとの交渉の件であった。

交渉は大詰めとなっており、恐らく次の交渉の際にはある程度の制限付きではあるが通商条約を結べるところまで来たと報告される。

その報告に、誰もが驚いていた。

あの鍋島長官が推し進めていたとはいえ、大半の者がうまくいかないんじゃないか、そう思っていたのである。

実際、進展の遅さから諦めていた者も多い。

その報告を聞き、鍋島長官がほっとした表情を見せる。

恐らく、長官自身もそうそううまくいかないと思っていた部分はあったのだろう。

「これで次の段階に進められますね」

外交部補佐官の中田中佐が同じくほっとした表情で口を開いた。

「例の……ですか?」

半信半疑のような感じで会議参加者の一人が聞いてくる。

「ええ。一気には中々難しいので少しずつという形でしか進まないのは歯がゆい感じがしますか、仕方ないと割り切ってやるしかないですから」

中田中佐は苦笑しつつもはっきりと言い切った。

例の計画、それは強大なサネホーンの戦力を『IMSA(イムサ)』の戦力の一部として組み入れる事である。

恐らくフソウ連合よりも遥かに多くの艦船を持ち、世界のあらゆる海域の情報を持つサネホーンが『IMSA(イムサ)』の戦力の一端を担うようになれば航路の安全はより高まる。

そうすれば、それによって生じる輸送によるコストダウンだけではなく、より物流や交流が増え、また、サネホーンという市場が開かれることで各国の経済がより活発化していく事だろう。

「しかし、よくここまでやれましたな」

心底感心したように山本大将が言うと、周りの何人かが頷いている。

彼らは、サネホーンとの交渉に難色を示した者達であった。

そんな彼らの様子を見つつ、鍋島長官は口を開く。

「交渉役の青島大尉とサネホーンの交渉役の努力の結果だよ。本当によくやってくれたよ」

しみじみと鍋島長官がそう言うと、新見中将が言う。

「本当にそうですね。だが、まだスタート地点です。この後の交渉も彼にお任せするのですか?」

「ああ。もちろんそのつもりだ。だが、これからはより複雑な事や各国の利権なんかがからんでくることもあるだろう。その場合は、各部の協力をお願いしたいと思っている」

その言葉に、各部から参加した者達は頷いたのであった。

こうして、午前中は世界各国の動きについての情報共有と話し合いが行われ、他にも王国、共和国の様子や、もっとも懸念材料になっている連盟の動きなどが報告された。

王国、共和国の立て直しは順調ではあるがそれでもまだ時間が必要であり、連盟に至っては大きな動きはないという事であった。

その事から、今の所は連盟の流通は止まっておらず今まで通りの動きをしている上に、各商会も活動を継続しており、心配されていた世界的経済危機は回避されたと判断された。

もっとも、情報が少ないためそれ以上判断しょうがないという有様であり、より情報網の拡大とリットーミン商会の協力を仰ぎつつ教国、連盟の情報の収集を推し進めるという形に落ち着いたのであるが……。

ともかく、革命や内戦は続いているものの、災害の被害も落ち着き世界的にはある程度の落ち着きを見せつつある。

そう最後は締めくくられた。



昼食を挟んだ午後からは、海軍の現状の報告会であった。

「まずは、戦艦ですが、現在、戦力化できているのは、本国の分では金剛型高速戦艦四隻、天城型高速戦艦一隻、伊勢型戦艦一隻、長門型戦艦一隻、大和型戦艦二隻、改大和型戦艦一隻の十隻。外洋艦隊としては、キングジョージV級戦艦二隻、フッド級巡洋戦艦一隻、レナウン級巡洋戦艦一隻となっております。次に航空母艦ですが、翔鶴、瑞鶴の改修がほぼ終わり、まもなく新型艦載機の部隊運用を行う予定となっております。また、近々、赤城、加賀、大鳳、隼鷹の方も運用がスタートします」

その報告に、山本大将は感無量といった感じで頷く。

「戦艦十隻、航空母艦八隻か……。なかなかの戦力ではないか」

さすがに直接の指揮権のない外洋艦隊分は外しているとはいえ、恐らく、サネホーンを除けば世界中を見回してもこれだけの戦力はそうそうないだろう。

「わかった。それ以外はどうなっている?」

山本大将とは違って新見中将が落ち着いた声で聞き返す。

「はっ。今の所、本国分が重巡洋艦十、防空巡洋艦三、航空巡洋艦三、軽巡洋艦十八、防空駆逐艦二十二、艦隊型駆逐艦八十二、護衛駆逐艦三十八、海防艦四十四、潜水艦二十二。外洋艦隊分は重巡洋艦四、駆逐艦十五、護衛駆逐艦三十となっています」

「外洋艦隊の分以外は付喪神付きだな?」

「はっ。各地の基地に派遣されている付喪神なしの通常艦は数に入れておりません」

その報告に、腕を組むと新見中将は考え込んでいる。

そして、視線を鍋島長官に向けた。

「急な増強の予定はありますか?」

恐らく乗組員の育成や人事の移動の件について思うところがあるのだろう。

「今の所はないが、だが外洋艦隊の増強はあるかもしれないな」

「では、念のために余裕を持っておいた方がよさそうですね」

「ああ、それと……」

そう言いかける鍋島長官に、新見中将は笑って言う。

「パイロットの育成ですね。わかっております」

「助かるよ。いくら兵器が優秀でも、結局は使う人の技量が大切だからね」

そして、戦力報告の後、最後に技術部門から無人での艦船と飛行機による運用の報告があった。

艦船に関しては、攻撃は無理ながらもある程度の離れた先から無線での移動に関しての運用なら可能であり、まだ飛行機に関しては単調な動きしかできない上に、着陸が難しいものの、対空防御の訓練の標的機としてぐらいなら使用できるメドがたったようだ。

その報告を聞き、防空巡洋艦を中心として防空駆逐艦との連携による防空運用の研究を行っている部門からは、早速検証実験の許可を求める声が上がる。

「わかった。それで準備はどれほどかかるかな?」

苦笑しつつ、鍋島長官が技術部門の代表者に声をかける。

恐らくそれを予想していたのだろう。

「退役予定の零戦二十一型、九九艦爆、九七艦攻を提供していただければ、一週間以内に実施可能です」

その報告に、防空運用研究の部門の代表が食い入るように鍋島長官に視線を向けた。

その視線に困ったなといった感じの表情はするものの、すぐに戦力報告をしていた士官に確認を聞く。

「退役予定の機体の報告を」

「はっ。訓練用として一部、各航空基地に配備されますが、大体半数はスクラップか部品取りに回されるかと……」

「なら、その一部を彼らに回してくれ。その手続きとか、数の方は後で詳しく話し合って決めよう」

「了解しました」

そして鍋島長官は、技術部門の責任者に視線を向ける。

「で、改修が終わったら報告をしてくれ。日程の調整をする」

「はっ。了解しました」

それらのやり取りで自分達の希望が近々叶うと知り、防空運用研究の部門の代表はかなり興奮気味だ。

その様子を見ながら、鍋島長官は口を開く。

「現状、世界情勢から急な動きはないと思われる。だが、それが続く保証もないし、予想外の事が起こるかもしれない。だから何かあった時の準備はしておく必要性がある。それぞれそれを考えて行動してくれ」

そう締めくくるとその場にいた関係者が立ち上がり敬礼をした。

「「「はっ」」」

こうして、フソウ連合内では今まで駆け足だった分、しばしの余裕が生まれたと思っていたが、それは大きな間違いであったことを一週間後に知る事となったのであった。

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