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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十八章 開戦

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ランバルハ事件  その2

事件のあった当日の夜、ルイジアーナは査察の為に遠征に出ており、ランバルハ軍港にいたのは、グラーフとベータの二人であった。

もっとも、深夜近い時間帯だ。

二人ともすでに休んでいたが、軍港全体に響く爆発音に飛び起きた。

そして、彼らが見たのは、真っ二つに割れて沈みゆく巨大な船の影。

それだけで二人は何が起きたか理解した。

慌てて部屋を飛び出すとフッテンの部屋に向かうが、そこにフッテンの姿はない。

ベータはまだ執務室にいるのではと発言し、二人はフッテンの執務室に向かった。

そして、そこで目にしたのは飛び散った血に染まってしまった部屋と窓際に倒れ込んでいるフッテンの姿であった。

恐らくカーテンを手に持ったまま倒れたのだろう。

カーテンは所々が血に染まりつつも半分ほどレールから外れ、窓の外の景色を映し出している。

そこには、海面に広がった油の為だろうか。

かってフッテンがあったところにはすでに艦影はなく、その代わりに炎が燃え上がり、周りを照らし出している。

そして、吹っ飛んだであろう主砲砲塔の一部が港の施設の一部に突き刺さる様に飛び散っていた。

その光景で二人は悟る。

いくら付喪神として別に肉体を得たとしても艦体が本体であり、それを失えば肉体もダメージを受けるし、依り代との繋がりを失い生命を失う。

つまり、艦の終わりは付喪神にとっても死と同じなのである。

だから、わかった。

わかってしまった。

フッテンはもう絶命したのだと……。

「なんでだよ……」

ベータがボロボロと涙を流しつつ、かってフッテンという付喪神が宿っていた肉体に縋り付く。

まだ身体は少し暖かいものの、それは生きているという事ではない。

生きていたという事の証でしかないのだ。

そして、段々と熱は失われ、冷えていく。

「嘘だと言ってくれ……フッテン」

ベータはただ現実が認められないのだろう。

駄々をこねる子供のようにただただ否定の言葉を繰り返し口にする。

だが、そんなベータがいた為だろうか。

最初こそ思考が止まって固まってしまっていたグラーフだったが、すぐに我に返ると思考を働かせて心を落ち着かせようとする。

考えろ、考えるんだ。

今やらなければならないことを……。

それは……。

そして結論が出た。

今やることは、悲しむことではない。

そう判断し、グラーフはベータに告げる。

「すまん……。フッテンの事、後はお前に任せる」

その非情に聞こえる言葉に、ベータは一瞬怒りの籠った視線をグラーフに向けたが、グラーフの顔を見た瞬間、怒りはかき消えた。

強張ったその顔からは、何とか悲しみを押さえこみ、この出来事の終息を図ろうというグラーフの必死なまでの決心を感じたからである。

だから、ベータは頷く。

「わかったよ、兄さん……」

ただ短いその言葉だけで、お互いの役目を理解した。

そして、ベータは泣きながらも微笑む。

「兄さん、きつくなったら言ってよね」

それはベータなりの気遣いなのだろう。

グラーフはまだ強張っている表情を何とか動かし、苦笑しつつ答える。

「ああ。その時は頼む」

こうして、グラーフは事態の収拾に向けて動き出したのである。

まず、グラーフのやったことは二つ。

正確な情報収集を行い事故原因を突き止める事と厳重な箝口令をしく事であった。

フッテンにあったことは、自分達に起こる可能性もあるという事である。

だからこそ徹底的に調査し、その要因を排除しなければならないと考えたのだ。

それは自分の命を守るという事だけではない。

今のサネホーンの体制を維持するためにも必要な事であった。

また、厳重な箝口令を行った事も国を揺るがす要因を減らす為でもあった。

フッテンは、戦力としても、国の中核を担う付喪神(じんざい)としても替えが効かない存在であった。

そんな存在の死亡は、国民に不安と混乱を招くと判断したのだ。

そして、そのグラーフの判断は正しかった。

だが、彼はもう一つ行うべきであった。

それはフッテンが進めていたフソウ連合との条約の件である。

後任者を選ぶなり、条約締結に関して肯定的な発言をするだけでも少しは違っていただろう。

だが、後任者は選ばれず、何も言及がなかった。

その結果、最高責任者が死亡し、その動きは止まった。

そして、それだけならばまだよかった。

だが、余りにも強引すぎた反動が振り子のように戻ってきたのである。

つまり、反条約派が息を吹き返して巻き返しを図り、見えないところで少しずつ状況はひっくり返されつつあった。



「あの男を追い詰めるのに時間はかかったが、うまくやってくれた。これで少しは連中も堪えたであろうな」

薄暗い部屋の中で楽し気に場を仕切っているかのように中央に座っている男が言う。

その言葉に周りに座っている男達も頷く。

よく見ると全員が同じような制服を身に着けている。

薄暗い中でもそれははっきりと判別できた。

その制服は、サネホーン海軍の軍服であった。

そして、中央に座っている男に同調するかのように、周りの男達も口を開く。

「ああ、その通りだ。元々目障りだったのだから、実に楽しい余興だったよ」

「そうそう。神なんてついているが、奴らは所詮人とは違う。まがい物だ。そんな連中が、人を支配している。元々、それ自体が間違っているのだよ」

「大体、フソウの連中など、我々の戦力の前では大したことはない。なのに、なぜこちらから頭を下げなければならないのだ」

「まさにその通りだ。この世界は弱肉強食。なぜ強者の我々が弱者に媚びを売らなければならんのだ」

次々と一人の男の発言をきっかけに、現在のサネホーンの体制に不満がぶちまけられていく。

それは、第三者から見れば、無責任極まりない発言が多かったし、実に建設的ではなかった。

あくまでも自分達の力を過信している愚か者のように見えただろう。

だが、本人たちは気が付かない。

ただ、自分達が思った通りにならない故に不平不満を言っているだけの事に……。

そんな愚痴とも不満ともとれる言葉が続き、最初に発言した男が今まで出た発言をまるでまとめるかのように口を開く。

「ともかくだ。これで連中の陰謀(たくらみ)は足踏みするだろう。そして、その間に少しずつ形勢を逆転さればよい」

だが、その発言に一人男が反対の意見を唱えた。

「それでは遅すぎませんか?」

「しかしどうするというのかね?」

そう聞かれて、反論を唱えた男はニタリと笑った。

「一気に流れを変える手がございます」

「ほう……。だが、準備はどうする?」

その問いに、反論を唱えた男は笑う。

「すでに仕込んであります。許可さえいただければ、直ぐにても……」

「ふむ。では、その策を聞かせてもらおう」

そして、反論した男は立ち上がると周りを見回して自分の策を説明していく。

最初は半信半疑の様子だった周りだったが、説明が終わるころには、同意の意志を示していた。

「確かにそれなら、流れが変わる」

「ふむ。いい手だ。そうなってしまえばもう条約どころではないだろうよ」

「私は賛成だ」

「私もだ」

そして、反論した男は、中央に座っている男に視線を向ける。

それはどうするかという決断を迫る為だ。

しばし目を閉じて策を聞いていたが、遂に男は目を開き、相手を見た。

「うむ。実に面白い。実施を許可する」

「ありがとうございます」

そう言って頭を下げる反論した男に向かって中央に座っている男は笑った。

「期待しているぞ、レンカーザ大佐」

「はっ。リラクベンタ提督の期待に必ず応えてみせましょう」

反論した男、ムルハンム・レンカーザ大佐は恭しく敬礼する。

それを中央に座る男、ランカーリッカ・フルファン・ロブロス・リラクベンタ提督は満足そうに頷いて見せたのであった。


こうして、ランバルハ事件を境に海賊国家サネホーンは大きく流れを変えていく。

それほどまでにフッテンの影響力は強かったという事なのだろう。

そして一度切り替わった流れはますます大きくなっていき、その流れの影響は悪い意味でフソウ連合へ影響を及ぼすことになるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 所詮は海賊。海賊であるモノには人権などない。遠慮なくやっちゃった方が後腐れないですね。
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