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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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連邦崩壊  その3

「こ、降伏だと?!」

パーヴロヴナ大尉の言葉に静徳返った中、怒りの形相で掴みかかってくるものがいた。

パーヴロヴナ大尉と違い、最初から作戦本部付きの者だ。

階級もパーヴロヴナ大尉と同じ大尉である。

たが、掴みかかられ、怒りの形相で睨まれたというのに、パーヴロヴナ大尉は動じることはなかった。

ただ、呆れ顔で相手を見ている。

そして、淡々と言い返す。

「恐らく、上層部(うえ)はまた無理難題を言ってくるだけです。今まで上層部(うえはこっちの要望を一つぐらい聞いてくれましたか?全部突っ返されたでしょう?そんな上層部(うえ)の連中の為に無駄死にする必要はないと思いますがね」

その言葉は恐らく正しいのだろう。

今まで上層部の指示を考えれば……。

だが、その淡々とした言葉と悟り切った口調、何より後から来たくせにリリカンベント中将の信を得ているという事実、それらが気に障ったのだろう。

「てめぇ……」

大尉は拳を振り上げようとした。

だが、その拳は止められた。

がっしりした手が手首を掴んで止めたのである。

掴んだ相手は、リリカンベント中将本人であった。

「大尉、止めたまえ。彼の分析は恐らく正しい。私も言われてみてそう思った」

「しかし、こいつは我々連邦の……」

それでも大尉は食い下がろうとした。

しかし、その行為はますます大尉の立場を悪くする。

「確かに我々は連邦の軍人だ。だが、上層部(うえ)の政治権力のおもちゃじゃない。それにだ」

そこまで言って、リリカンベント中将は視線をパーヴロヴナ大尉に向ける。

「彼だっていざとなったらと言ってただろう。なぁ、パーヴロヴナ大尉」

「ええ。もちろんです」

そこまで言われ、文句をつけてきた大尉は拳を下ろし、掴んでいた胸倉から手を離す。

そして、パーヴロヴナ大尉に頭を下げた。

「すまなかった……」

「構いません。大尉の国に対しての忠誠心がそうさせたのですから……」

だが、その言葉に、大尉は益々困ったような顔になる。

本人はまじめに言っているようだが、どう聞いても皮肉にしか聞こえなかったためだ。

恐らくリリカンベント中将もそう聞こえたのだろう。

困ったような苦笑を浮かべている。

そして、周りを見回すと口を開いた。

「それぞれいろんな意見があるだろう。だが、最悪の選択肢としてパーヴロヴナ大尉は言ったに過ぎない」

「それで、どうするんだ?」

そう聞いてきたのは、パンタミーヤ少将だ。

彼の表情からは、迷いがあった。

恐らくどちらの意見もわかる分、迷っているのだろう。

その表情を見て、リリカンベント中将は迷いを振り切るかのように言い切った。

「ともかく、降伏は最後の手段だ。だが、その選択肢もあるという事だけは肝に銘じておいてくれ。我々にできる事はやっておこうじゃないか。また、今後の動きに関して確認を取った際に、念のために本部に聞いておく。どうしょうもなくなったら降伏の許可をいただきたいと」

「「「はっ」」」

幕僚達はその言葉に拝命の意を示し敬礼する。

こうして最前線部隊の動きは決定された。

そして本部に今後の事を伺うものの、返ってきた返事は、『降伏は許可しない。敵を蹴散らし、ランカフェルンカ港を奪還せよ』と言ったものであった。

その報を聞き、リリカンベント中将は呆れ返る。

そしてこっそりとパーヴロヴナ大尉を呼び出した。

「やっぱりでしたか……」

リリカンベント中将から告げられた本部からの返答に、パーヴロヴナ大尉は表情も変えずにただ頷く。

彼にとって、予想通りという事なのだろう。

そんなパーヴロヴナ大尉を見つつリリカンベント中将は聞き返す。

「それでだ。もし降伏するなら、どちらがいいと思うかね?」

その言葉に、パーヴロヴナ大尉は迷うことなく答える。

「帝国一択でしょう」

「理由を聞いても?」

「公国の前線部隊に手ひどい被害を与えたばかりではありませんか。それに……」

「それに?」

「劣勢な方に味方する方が歓迎され、待遇が良くなるのは間違いありませんから……」

「たが、帝国が負けたらどうする?」

「その時は運がなかったと思うしかないですね。もっとも、余り先の事を考えて足元の石に転んだら意味がありませんけどね」

苦笑してそう答えるパーヴロヴナ大尉に、リリカンベント中将も苦笑した。

「その通りだ。精々抵抗して、駄目な時は出来る限り帝国に降服するか」

「それぐらいでいいと思いますよ。どうせ、いろいろ考えてもその通りになる事なんて、ほとんどないって言いますし」

「冷めた奴だな」

「今の状態を考えれば、冷めますよ」

パーヴロヴナ大尉の言葉に、リリカンベント中将は豪快に笑う。

「ちがいねぇな」

そして、表情を引き締めると決心したのだろう。

「参考になった。ありがとう」

そう言ってパーヴロヴナ大尉を開放したのであった。



翌日、戦力のほとんどを上陸させた公国軍は、ランカフェルンカ港の防衛ラインの構築を急ぐのと同時に、敵の動きを探る為、偵察部隊を送り込んだ。

そして連邦の軍は大きく後退している事を知ると、守備部隊を残して第二目標であるツカルハンモの街を目指して進軍を開始した。

ツカルハンモ。

前線に繋がる三つの街道が集まる都市であり、本来ならば前線への陸路での補給物資を送る部隊と街道を警護する部隊、それに街の防衛に関する部隊が展開しているはずであった。

海路を失った連邦の最前線部隊にとっての生命線と言っていいだろう。

だが、そこに駐屯しているはずの多くの部隊は逃げだしており、街道の警備や防衛さえも行われていなかった。

その為、遮るもののない公国の進撃は早く、またろくな抵抗もないままツカルハンモの街は陥落。

わずか五日で、連邦本国との繋がりをすべて遮断して連邦の最前線の部隊を孤立させることに成功したのであった。

もちろん、その報は首都に届いたが、報告は責任を取りたくない連中によって歪められてしまう。

今の所は敵を呼び込んでいる段階であり、補給路が伸び動きが鈍くなった時を狙って一気に殲滅する作戦であると報告されたのだ。

「そうか。確かにそれならば敵を殲滅できるな」

報告と作戦の説明を受け、連邦の最高指導者であり絶対的支配者であるイヴァン・ラッドント・クラーキンは、最初こそ不愉快そうな表情であったが納得したのだろう。

そう言うとそれ以上突っ込まなかった。

その様子に、普段の彼を知っている者達は驚く。

それで終わりなのかと……。

そして、ここ最近、覇気がないように感じられた。

以前のような独断が減ったと言うべきだろうか。

だから、報告と作戦を説明した者達も肩透かしを食らったような表情を浮かべている。

しかし、わざわざ藪をつついて蛇を出す必要はないため、そのままほっとした表情で引き下がった。

そして、会議はあっけないほどスムーズに別の議題へと移っていったのであった。




公国が第二目標であるツカルハンモの街を掌握した頃、帝国もその動きを活発化させていた。

多くの物資と兵力を乗せた艦隊がジュンリョー港に入港したのである。

抵抗は全くなく、それどころか帝国艦隊が入港するのを、ジュンリョー港にいた人々は歓迎した。

それは、すでにジュンリョー港はある人物の息のかかった勢力によって占領されてしまっていたためだ。

プリチャフルニア・ストランドフ・リターデン。

かってはイヴァンの右腕であり、連邦のナンバー2だった男だ。

彼は、ヤロスラーフ・ベントン・ランハンドーフの説得を受け、帝国に協力して今の連邦を終わらせる決心をし、かっての友や部下達そして同志たちに号令をかけたのである。

その号令は、彼らだけでなく、多くの人々を動かした。

なぜなら、人々は今の連邦に対して強い不満を待っていた為である。

自分達が望んでいたものとは全く違う方向に進み、無理難題を押し付けてくる独裁国家となってしまった連邦に絶望していたというべきだろう。

また、勘違いされやすいが、東部地区はイヴァンの出身地ではあったが、彼を支持するものはあまり多くない。

東部地区の多くの者が支持したのは、イヴァンの前任者であるアレクセイ・ユーリエヴィチ・ハントルンだ。

王族でありながら、政治からは身を引き、庶民と同じ生活を行っていた。

それは本人にとって政治から身を引きたいからこそだったが、まわりはそう見ていなかった。

我々と同じような生活を望み、身分や階級などを捨てて我々と共に生きてくれる素晴らしき人。

そう言う認識だったからこそ、担ぎ上げられ、親しまれたのである。

それをアレクセイから任命されたからとはいえ、ぽっと出の無名の男に支持が引き継がれるはずもなかった。

それどころか、期待していた分、下落が酷かった。

誰もがアレクセイと比較し、嘆いた。

そんな中、一人の男の名前が次第に上げられるようになる。

不正を嫌い、国民の為に粉骨して働く男。

プリチャフルニアの事だ。

それは不満を持つが故にあっという間に支持を拡大させていったのである。

その為、プリチャフルニアの動きに多くの者達は賛同し、秘密裏に一気に勢力を拡大させていった。

港に向かっていた帝国艦隊は戦いが行われるだろうと身構えたものの、港から受け入れるという無線を受け、半信半疑であった。

彼らにしてみれば、東部地区は連邦の礎というイメージが強かったからである。

だが、プリチャフルニアの名前が出されたことで、港に入港した。

もちろん、警戒をしたままだ。

だが、そんな彼らを待っていたのは、歓迎する人々だった。

彼らにとって、帝国海軍は解放者なのだ。

だが、帝国海軍としては、思っていた事との余りの差と呆気ないほどスムーズに進んでいく事に驚くしかない。

あまりにも予想外の方向に進み、鳩が豆鉄砲を食らった有様と言った方がいいだろうか。

ともかく、僅か一日にして、かって難攻不落と言われた東部地区最大の軍港ジュンリョー港を帝国海軍は手に入れたのであった。



こうして楔が二か所に打ち込まれた。

それは土台が緩み、傾きかけた連邦に致命的なものであった。

帝国の侵攻も首都では操作された報告がなされ、今や首都周辺と、各地での情報の差はますます大きくなっていく。

そして、さすがにおかしいと思ったのだろう。

イヴァンは自分の直属の部下を使って調べさせる。

元々、イヴァンの直属の部下は、彼の権威をかさに着て威張り散らしているような権力欲の塊の者が多かった。

その為、ほとんどの者は、虚偽の報告発覚を恐れた者達によって裏で手を回されて彼らの片棒を担ぐような報告を上げた。

しかし、ただ一人だけそうではない者がいた。

それはイヴァンの部下ではない。

愛人の一人であるラサである。

彼女は、イヴァンがまだ権力を手に入れる前からの付き合いであり、彼をずっと陰日向なく支えてきた苦労人でもある。

そして、プリチャフルニアとも友人関係であった。

だからこそ、プリチャフルニアの友人や部下達といった息のかかった者達からより正しい情報を手に入れられたと言ってもいいだろう。

そして普段なら政治には口出ししないと決めていたが、余りにも酷い有様に、遂に彼女は我慢できず知りうる事全てをイヴァンに話した。

最初こそ、まさかと思っていたイヴァンであったが、普段政治に口出ししない彼女が敢えて口出しした事と彼女の普段の言動から虚偽のことを言っているのではないと判断し、自分の置かれている状況を正確に把握した。

信頼できる部下は皆無であり、友にも捨てられ、自分は何をやっているのか。

権力という椅子に座ってはいるが、実は何もないのではないかと……。

最初は怒りの業火が何もかも燃やし尽くすのではないかと思えるほどであった。

しかし、その怒りも長続きしない。

段々と怒りは別の感情に移り変わっていく。

それは虚無と狂気ともいえる負の感情だ。

それがイヴァンを蝕んでいく。

だが、そんなイヴァンにラサは優しく抱きつく。

「私はずっとあなたの側にいますから……」

その健気な思いが虚無と狂気に歯止めをかける。

そうだ。

自棄になるのはまだ早い。

俺にはまだこいつがいるじゃないか。

何が出来るかわからない。

しかし、どうせならやるだけやって倒されよう。

俺は俺らしく生きて見せよう。

そんな決意が沸いてくる。

それは、権力を握ってから初めての強い決心でもあった。

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