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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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それぞれの思い……

会談が終わって帝国側の使者が退室した後、鍋島長官はふーと息を吐き出した。

それは仕方ないだろう。

日本にいたときは、霊感ゼロな為か、霊との遭遇どころかそういった類の話とは無縁だったのだから。

だから、異世界とはいえ霊と対話して握手までしてしまったのだ。

緊張しなかったという訳はないのである。

その様子から、一息ついたという感じだったがそれも長く続かない。

きつい表情の三島晴海が鍋島長官を睨みつつ詰め寄ったからである。

「長官、なぜ約束などされたのですかっ」

その剣幕に、同席した外交補佐官の中田中佐は思わずといった感じで首をすくめる。

普段のどちらかというとのんびりした感じの三島晴海を知っているからこそ、余計にびっくりするのと同時に怖いと感じてしまったのだろう。

だが、鍋島長官は別に驚いた風もなく、ただ淡々と答える。

「いや、別に断る要素もなかったからね。それに将来的にはいろいろ要求を付けて撤去する予定だったんだから、それが早まっただけだと思うんだけど……。だって、損はないじゃないか」

鍋島長官としては、ブラック企業に勤めていた時に散々クレーム対応で苦労したから、今更怒った女性に対してもそんなに驚いたりしない。

もちろん、あの三島さんが……と少しは驚いたかもしれないが、話の流れから終わった後に文句を言われると覚悟していた縁さえあった。

「しかしっ、それでも相手は禁呪を行うような相手なのですよ」

魔術師として禁呪に手を出すことがかなりの禁忌だという事は今の三島晴海からの態度から十分鍋島長官もわかったのだが、それでもメリットがあると判断したのだ。

だから、それを説明する。

「だから言っただろう。別に断る理由がないって」

「彼は、禁呪に手を出しています」

「確かにね。でも、それが理由にはならないよ。確かに規則を破ることはいけないことだ。だが、それは魔術師にとってであって、国の定めた規則を破ったわけではない」

「それは詭弁です」

「そうかもね。でもね、僕は魔術師じゃない」

鍋島長官の言葉に、三島晴海は悔しそうな表情をする。

「それにね。禁呪という以上、デメリットもあるんだろう?」

「はい。それは……」

「なら、それを行ってもやりたいことがある。確かにその意志を尊重したという部分もあるけど、それは些細な事だ。あくまでこの国の利益を優先させる方を選択した。それだけだよ」

その長官の言葉に、中田中佐も援護を入れる。

「自分も長官の判断はあれでいいと思っています。確かに規則(ルール)は守るべきものです。ですが奇麗ごとだけでは政治は出来ませんし、臨機応変が必要な場合もありますよ」

その言葉に、しばらく考え込んだ表情をした後、絞り出すかのような返事を三島晴海は返す。

「そうですか……」

よく考えれば、鍋島長官の言う通りなのだ。

ただ、魔術師であるという誇りと意識が、どうしても納得できなかったのだろう。

そんな三島晴海に、鍋島長官は申し訳なさそうな顔をする。

「僕は別に魔術師の倫理観を軽視するつもりもないし、規則も軽く見ている訳ではない。でも、それ以上に、この国にとってメリットがあると判断した。そう思ってくれないか……」

そこまで言われて、三島晴海はため息を吐き出すと仕方ないといった表情になった。

「わかりました。確かに今回は長官の判断が正しいと思えます。こちらこそ、無理を言ってすみませんでした」

「いや。こっちこそ申し訳なかったね」

そんなやり取りを東郷大尉は黙って見ている。

彼女としては、今の長官と三島晴海のやり取りを見て納得できたのだろう。

それに、長官の判断を信じているのかもしれない。

ともかく、鍋島長官が向けた視線にただ黙って頷くだけだ。

それでほっとしたのか、鍋島長官の表情が少し不満げなものになった。

それに気が付いたのか、東郷大尉が聞いてくる。

「どうされたのですか?」

その問いに、鍋島長官はその表情のまま答える。

「いや、思い返してみて、なんか相手の掌で踊らされていた感があったかな。ちょっと悔しいと……ね」

その言葉に、苦笑を浮かべて中田中佐が言う。

「では、やり返しましょう」

「ほう。どうやって?」

「我々を敵に回したら苦労するぞってね」

その言葉に、鍋島長官は笑った。

「それはいいな。実に前向きで、僕好みのやり返しだ」

そして、表情を引き締め直すと言葉を続けた。

「大尉。まずは艦艇を派遣してすぐに現地の調査を始めるように北部方面部司令の野辺少佐に伝えておいてくれ。それとコンクリート船の建造余裕があるかの確認を。もしなければ、今動かせるコンクリート船がないかを調べておいてくれ」

「はい。直ぐに」

次に鍋島長官は三島晴海に視線を向けて指示を続ける。

「あと、三島さん。今回、妨害(ジャミング)を受けたという話だったけど、より妨害を受けない術式への変更や妨害されたときの対応マニュアルといったものの準備を行ってほしい。今のフソウ連合の警戒網は、探知の結界に頼っている部分は大きいからね。結界がない場合の警戒網の用意も考えるけど、すぐには無理だ。だからよろしく頼む」

「ええ。わかっているわ。任せて」

三島晴海はそう言うと微笑んだ。

そして最後に中田中佐に視線を向ける。

「それと中田中佐は帝国との今後の交渉をお願いする」

「お任せください」

それぞれの返事を聞き、満足したのだろう。

鍋島長官は微笑みつつ口を開いた。

「では、連中にフソウ連合の力を見せつけようじゃないか」

その言葉に、三人はそれぞれ自分なりの返事を返したのだった。



「本当に出来るのでしょうか……」

手元にあった作戦立案書を返しつつドミートリイ・ロマーヌイチ・プルシェンコ上級大将はアデリナに聞き返す。

その言葉には、どうせ無理では……というニュアンスが強い。

だが、そんな言葉に、アデリナは笑った。

「まぁ、フソウ連合を引きずり込むのが大前提だからね。それが出来ない時点で終了よ。後はあの執事の交渉次第ってことかしら……」

つまり、機雷除去が終わって初めて実施できるのだから、今何を言ってもどうしょうもない。

だから準備だけはしておくけど、期待しないで待っていればいい。

言葉からはそんな思いが見え隠れしていた。

それに不満なのだろう。

思わずプルシェンコ上級大将が何か言いたそうな表情になった。

「ですが……」

「いいじゃないの。準備だけはしておいて。こっちは損はしないんだから」

損はしないが、準備は無駄になる。

そう思ったが、用意した弾薬や物資は他に使えばいいだけかと納得し、プルシェンコ上級大将は頷いた。

「確かに……」

そんなすっきりしない返事を聞きつつ、アデリナの表情が変わる。

「それよりも、この計画、中々のものじゃないの。遺作とはいえ、後の事をよく考えてあるわ。それに例の譲渡された戦艦の事もあるし……。さすがは一貴族から帝国宰相まで上り詰め、自分の操りやすい皇帝擁立までやり遂げた策士よねぇ……」

その言葉に、皇帝付き副官のヴァシーリー・ゴリツィン大佐が心配そうに言う。

「我々も踊らされているのではないのですか?」

その言葉に、アデリナは笑って言い返す。

「もうあの爺様はいないんだから、躍らせるも何も意味ないじゃないの。死者に出来る事は精々墓の中で私達の事を見ていることぐらいよ」

「確かに……。そうですな」

ゴリツィン大佐が納得した表情で頷く。

人は自分に利益になるからこそ動くのだ。

無償のという事はあり得ない。

何某らの理由があってこそ、人は動く。

それは物理的なものだけではない。

自己満足、恩、情といった感情的なモノも含めて……。

しかし、死んでしまえば、それはない。

それでも残るとすれば、思いだろうか。

恐らくこの計画立案書も戦艦の譲渡も彼の思いが込められているものだろう。

その思いを人は受け継ぎ、続けていく。

しかし、その思いは受け継いだ人によって形も思い自身も変化していく。

だから絶対的なものではない。

なぜなら、動けるのは、未来を創るのは生きている者だけなのだから……。

死者は、何も出ない。

それが当たり前なのだ。

だが、この世界には例外がある。

アデリナたちは知らない。

旧帝国宰相グリゴリー・エフィモヴィチ・ラチスールプ公爵は死亡はしたが、その霊体(いし)は形を少し変えて存在し続けていることに……。

そして、帝国の混乱を沈める為に動き始めたことに……。

そして一週間後、アデリナたちはヤロスラーフ・ベントン・ランハンドーフより報告を受ける。

『フソウ連合を説得した。フソウ連合は動く』と……。



「帝国が動き始めたようですな」

その報告に、ノンナは見ていた書類から視線を上げると発言元の公国情報部部長アンドレイ・トルベツコイへと向ける。

「ふーん。それで?」

興味なさそうな物言いだが、その顔に浮かぶ表情は違う。

その表情を見て、アンドレイは満足げな表情になった。

ここ最近は、前線の不始末で関わる事すべてが連邦の事ばかりであり、帝国の事は無関心になってしまったのではと思えるほど何もなかったのだ。

それ故に、帝国の皇帝アデリナに個人的に恨みのあるアンドレイにとってはツマラナイ日々であり、自分の主人も帝国に対しては関心が薄くなってしまったのかと思ってしまっていたのだ。

だからこそ、その話題にノンナが過敏に反応したのがよほどうれしかったのだろう。

アンドレイは嬉々として言葉を続ける。

「何やら連邦国内の方でいろいろ暗躍しているとの話が来ております。それと物資の動きが多くなっておりますので何やら近々作戦でも始めるのかもしれません」

「そう……。で、その内容は?」

「残念ながらそこまでは……」

その言葉に、ノンナは再び書類に視線を戻す。

「ならそのまま情報収集を……。それと我々の方も作戦が近いのですから、そっちもしっかり頼むわよ」

「勿論でございます」

アンドレイが退室するとノンナは視線を上げて椅子の背もたれに身体を乗せるかのようにしながら背筋を伸ばす。

「んんんっ……」

書類仕事ばかりですっかり身体が固まってしまっているな。

そんなことを思いつつ、ちらりと壁に掲げられた地図を見た。

そこには、今の三ヵ国の戦力の配置が大まかに書き込まれている。

そして、ノンナの視線はある場所で止まった。

ノンデルマン港。

最前線での失態によって被害を受けた為に時期がずれたものの、間もなく作戦は実施される。

これでこの三竦みの膠着は崩れ去るだろう。

そうなれば帝国との決戦も近いか……。

ノンナはそう思いつつ、鍵のかかった引き出しを開ける。

そこには、以前アデリナが彼女に送った手紙があった。

ノンナに対しての熱い思いと謝罪の籠った手紙。

それをじっと見つめた後、ノンナはため息を吐き出す。

そして再びしまい込む。

迷っては駄目だ。

そう思いながら……。

吹っ切れたはずの過去が、記憶が、未だにノンナを縛り続けている。

だが、それはそれでいいのかもしれない。

人は、過去から逃げる事は出来ないのだから……。

そして過去があるからこそ、今の自分があるのだから……。

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