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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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会議

いつも誤字脱字の報告して下さる皆さん、とても助かっています。

本当にありがとうございます。


北部方面部司令の野辺少佐からの緊急連絡から一時間後、フソウ連合海軍本部第三会議室には鍋島長官を始め、多くの幕僚と外交部関係者が集まっていた。

ただ実働部隊の長である艦隊司令の山本大将は新たに編成された艦隊の演習に参加の為、不在である。

もっとも彼の意見は無線で新見中将に連絡されている様子だった。

そして今回は珍しいことに三島晴海も参加している。

基本、彼女はマシナガ地区の代表代理として国内の調整という事で動き回っていることが多く、またこういった外交関係の会議にはほとんどノータッチだったが、今回は急遽希望があった為アドバイザーとして参加することになったのである。

会議が始まり、まず最初に帝国からの使者が入国及び代表者との会談を希望していることが伝えられ、その後鍋島長官が対談に応じるつもりだと発言すると、まず最初に意見を述べたのは新見中将であった。

「確かに国の使者ですからある程度のきちんとした対応する必要はあります。しかし、今更帝国にそこまでする必要性は感じられません」

その意見に賛同するものが頷いたり、同意の言葉を漏らす。

「そうですな。すでに我々は裏で公国を支援しているのですし……」

「恐らく、それに対しての牽制の意味もあるのでしょう」

「うむうむ。その通りだ。商会経由ではあるが公国ではフソウ製の駆逐艦が活動していますしな。その点を突くつもりなのでしょう」

実際、駆逐艦という艦種を運用しているのは、現時点では『IMSA(イムサ)』や合衆国といったフソウ連合と繋がりの強い組織や国だけである。

その為、裏で支援しているのはバレバレではあった。

だが、建前上ではあるがこの旧帝国での内戦では、休戦条約を結んだ公国と帝国に対しては中立を表明している。

その点を指摘して現状、もっともジリ貧な状況を打破するために何かしらの援助を乞うつもりではないのか、そう判断したのである。

だが、そんな指摘をされたとしても商会経由で、しかも売却したという言い訳は用意してあるうえに、国際的な規則に違反している訳ではない。

要は言いがかりにしか過ぎないのだ。

それに帝国に支援するにしては地理的に離れすぎている上に、余りにも旨味がなさすぎる。

両国を支援した場合、下手すると内戦が長く続きすぎて統一が遅れてしまうというデメリットも考えられた。

どうやら現時点では、会議に参加したほとんどの者がある程度の対応はするが、対談までは必要ないと考えているようであった」

そんな中、外交部補佐官の中田中佐が声を上げた。

「我々外交部としては対談は行ってもいいと思います」

その発言にざわめきが生じるが、それを聞きつつ中田中佐は苦笑して言葉を続けた。

「ですが、その対談の内容を深く吟味する必要はないかと思います」

つまり形式的には対談を行ったという形さえ取れればいいという事である。

すべての国と手を取り合ってなんてあまりにもお花畑の思考をしている者からすれば、あまりにも汚いと思うかもしれないが、国力も時間も有限なのだ。

自国の為に、それらをどううまく使っていくかという選択は必要な事であり、当たり前の事なのである。

「確かに。一応、そう言った形を取った方が後で他国から上げ足を取られることもないでしょうな」

「そうそう。表向きは中立という形を取っているのですから、それぐらいはやってもいいのでは?」

そう言った声が上がり、会議内室はそう言った流れになりつつあった。

だが、その流れを黙って見ている人物が二人いた。

鍋島長官と三島晴海である。

ただ二人の表情は対照的だ。

鍋島長官としては、皆の意見に賛同したい心境なのだろう。

苦笑を浮かべて見ていたが、反対に三島晴海は不満そうな表情を浮かべている。

そしてある程度静かになったところを見計らって、三島晴海が口を開いた。

「今回の件、それほど簡単な事ではないと私は思っています」

その発言に、静かになりつつあった会議室内が再びざわめきが起こった。

場の雰囲気では一応対談は行うがそれ以上の事はしないという形になりつつある中、いきなり反対を表明したのである。

代表というわけではないだろうが、中田中佐が聞き返す。

「それはどういう意味でしょうか?」

その言葉に、三島晴海は立ち上がると周りを見回した後、口を開いた。

「今回、帝国からの使者が乗った船が警戒の結界を突破した際に、とんでもないことをしてくれたのです」

「とんでもない事?」

「ええ。一部の結界の妨害(ジャミング)が行われたのですよ」

その発言に、会場はさっき以上ざわめきに満たされる。

それはそうだろう。

形を変えたとはいえ、フソウ連合を取り巻く結界は今までフソウ連合を守り通したものであり、役寄りが変わった今でも絶対的なものであると考えられていたからだ。

それが妨害されたというのは、恐らく初めての事だろう。

そういった事があったからこそ、普段は会議に参加しない三島晴海が参加を希望したのであった。

ざわめく中、三島晴海は言葉を続ける。

妨害(ジャミング)はほんの数分で、現在は復旧しております」

その発言にざわめきはある程度収まるものの、それを気にせず、三島晴海は発言を続けた。

「だが、問題はそれだけではありません。敢えてそんな事をしてまで入国してきたという意味をお考え下さい」

それが収まりかけたざわめきを再びより大きくさせた。

内部混乱と情報収集のためとはいえ、あの災厄の魔女と呼ばれたアンネローゼ・アレクサンドロヴナ・ラチスールプでさえもこんなことは行わなかった。

いや出来なかった。

それをやってのけたのである。

フソウ連合の魔術や呪術的防御から考えれば由々しき問題であったし、適当にお茶を濁してもらっては困るという相手側の無言の意思表示でもあった。

つまり、それほどの大物がいるという事なのだ。

「それならば、猶更鍋島長官と対談などさせられませんな」

そう言ったのは新見中将だ。

災厄の魔女によって魅了され、後手後手に回った経験からそう発言したのだろう。

その発言に、諜報部の長である川見大佐が渋い表情を浮かべた。

あの時はイタオウ地区の諜報の一部の関係者が魅了され、諜報部門に深刻なダメージを与えただけでなくかなりの情報漏洩もあり、立て直しにかなりの労力と時間が費やされている。

一部の諜報関係者でこの有様なのだ。

国の代表者が同じ事態になった時、その被害は計り知れないものとなる。

その危険を考えての発言であった。

何人もの者達が頷き同意を示す中、会議の末席に座っていた一人がぼそりと発言する。

「ですが、もし行わなかった場合、連中はどういった手を打ってくるのでしょう?」

要は、それほどの相手が黙っているはずもないという事なのだ。

その言葉にざわめきが起こり、会議室内を満たしていく。

それはいつまでたっても収まる様子は見せない。

そんな会議室の有様を見て、腕を組むと鍋島長官は考え込む。

上手く手玉に取られたな。

恐らく、結界を妨害してきた者は、実力を示すことで我々を無視することは得策ではないという事を示すだけでなく、相手を疑心暗鬼にさせて自分達の都合のいい状況を作り出そうとしているのではないかと思ったのだ。

あまりにも情報が不足している以上、あらゆる選択肢が正解であり、不正解となる。

間違いなく、相手はこの事態に陥ることを想定してほくそ笑んでいるに違いない。

そんなことを考えていると、三島晴海の声が会議室に響いた。

「対談は行うべきだと思います。行う事で相手の手の内を知ることが出来るでしょう。連中が何を望み、何を希望するのか。また、それ以外の情報も手に入るでしょう。そうすることで、我々としても選択の幅を狭めることが出来ますし、何よりこの国に対して有益な選択をすることが可能となるのではないでしょうか?」

「しかしだな……」

そう言いかけたのは、新見中将だ。

だが、三島晴海はにこやかに微笑むと言葉を続けた。

「皆さん心配されているかと思いますが、対談の場には私も参加いたします」

その言葉に、安心したようなため息と言葉が人々から洩れる。

今でこそ、政治の舞台で活躍しているものの、彼女はフソウ連合の呪術の総纏めであり、フソウ連合一の魔術師でもあった。

その彼女、自らが立ち会うというのである。

これほど心強いものはないだろう。

また、本人だけでなく、他にも分家で実力者の者達が参加し、呪術の結界が張られた場所ですることも伝えられた。

まさに最善の状態で臨むという形である。

その発言を聞き、鍋島長官は組んでいた腕を解く。

「各自聞いての通りだ。明日、帝国からの使者とは対談を行う。参加者は、僕と三島さん、それに外交部の中田中佐、それに補佐官と護衛の魔術師数名とする。新見中将は僕が留守の間の海軍の統括を任せる。また、諜報部の川見大佐は外と中の動きに注意してくれ。もしかしたら前回の事件の残党が国内で連動して動く恐れがあるからね」

「了解しました」

「はっ。お任せください」

「うん。頼んだよ。恐らく、今回の件、かなりめんどくさいことになる恐れが高いけど、出来る限りの事はしてくるよ」

鍋島長官が困ったような顔でそう言うと、会議室にいた面々の顔に苦笑が浮かぶ。

彼らにしてみれば、今までフソウ連合がうまくやってこれたのは彼がうまく舵取りを行ってきたという認識であるから、そんなことは言わなくても……と言いたかったのかもしれない。

或いは、相変わらず海軍(うち)の最高司令長官の自己採点は辛口だとか、自己評価が低いと思ったのかもしれない。

だが、それは、それだけ鍋島長官が信頼される証でもあった。

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