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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三章 二つの世界の間で

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日誌 第十九日目 その1

翌日、僕は午前中だけ休みをもらうと星野模型店に向った。

前の日に三島さんに言っていた実験の為のモノを受け取りに行くためである。

なお、東郷大尉は昨日の夕方には僕の家の方に戻ってきていた。

帰宅すると台所で夕食の準備をしていたので声をかける。

「やあ、東郷大尉。ご両親は帰られたのかい?」

「あっ、長官。おかげさまで助かりました」

そう言って頭を下げると東郷大尉はニコリと笑った。

しかし、なんか疲れているように見える。

「大丈夫かい?なんか疲れてるように見えるんだけど…」

「あ、ああ。大丈夫です。ご心配おかけします」

苦笑してそう答えるがなんか痛々しい感じがするのは気のせいだろうか。

「今日はすぐ休んでまた明日からしっかり頼むよ。君がいないともう仕事の方がしっちゃかめっちゃかでね。いかに大尉が仕事管理してくれていたか実感できたから…」

苦笑してそう言うと、少し東郷大尉の顔が明るくなる。

「私…お役に立ってますか?」

「もちろんだよ。だから、無理しないでね。なんなら、夕食準備は僕が…」

そう言ったが「いいえ。私にやらせてください」と楽しそうに言われて断られた。

そして、今朝、「午前中はちょっと私用で出かけるから、海軍本部には昼から行くから」と伝えると「了解しました」と元気な返事をしていた。

もうすっかり元気ないつもの東郷大尉に戻っており、なんかほっとしてしまった。

そんな事を思い出しながら車を運転していると、星野模型店が見えてきた。

時間を確認する。

うん。もう開店時間を過ぎている。

駐車場に車を停めると車を出て僕は用意しておいた袋を持ってお店の方に歩き出した。


「あら、いらっしゃい」

いつもの星野店長の挨拶。

大きすぎず、それでいて小さすぎないいつもの声だ。

「どうも。お世話になってます。今回もご迷惑をかけてすみません」

僕はそう言って頭を下げる。

「いえいえ。こちらこそ」

ニコニコと笑って会釈する店長に僕は袋を渡す。

「これよかったら皆で食べてください」

「まぁ、ありがとうございます。わざわざすみません」

そう言って店長は受け取ると袋の中を覗きこむ。

ビニール袋の中には、結構な大きさの鯵の開きの味りん干しが何匹か入っている。

「あらあらおいしそうですね。これって…」

「東郷さんのご両親が来られてそのお土産のおすそ分けです。なんでも実家で作っているということで…」

そう言ったのだが、なんか『東郷さんのご両親が来られた』という部分で店長の顔つきが一瞬鋭くなったような気がする。

しかし、すぐにいつもの笑顔に戻った。

なんなんだ?

そう思ったものの、聞こうか聞くまいか迷っている間に、店長の方から話しかけられる。

「そうなんですか…。じゃあ貴方もご挨拶を?」

「もちろんです。いつもお世話になってますって挨拶しました。お二人とも元気な方で、漁師をされているとか…」

「じゃあ、これも手作りかしら」

「みたいですね。昨日の夜いただきましたけど、美味しかったですよ」

僕がそう言うと、すごくうれしそうに「じゃあ、うちも夕飯にご馳走になりますね。うふふふ…。すごく楽しみ」と店長は言って断りを入れて味りん干しを冷蔵庫に入れに行く。

その間に、僕はいつもの艦船コーナーに足を向ける。

今日のお目当ては、練習艦だ。

日本海軍にはいくつかの士官育成の為の練習巡洋艦があり、そのうちの香取型がA社より発売されている。

おっ。あるある。

さっそくキットを見つけて中を確認する。

最近のキットらしく、しっかりとしたモールドと作り易そうな構成のパーツが並んでいた。

よし。購入決定だ。

僕は『香取』、『鹿島』の二つのキットを手に取る。

あとは…何かないかなぁ…。

そう思って見回していたら、目が留まったのは、大型客船のキットだ。

F社が出している大阪商船所属 『ぶらじる丸』と『あるぜんちな丸』の二隻。

将来的には、他の国との交流なんかも考えるとなるとこういうのも必要になるかも…。

そう思って、購入を決定する。

あとは…二式大艇と九七式飛行艇のキットのセットを4つほど選んでカウンターに行く。

「すみません。お願いします」

そう言って声かけるとカウンター奥の棚をごそごそしていた店長が箱を持ってきて戻ってきた。

「はいはい。お待たせ」

そう言って僕が持って来た商品の会計を始める。

そして、商品の会計が終わると次に持って来た箱を開けて僕に見せた。

「こういう感じだけど…どうかしら?」

箱の中を見て僕は頷く。

「ええ。問題ないです。それの委託の分も入れてください」

「はい。わかりました。では…」

金額を言われて支払いを済ます。

そして、TT社の海上起重機船が手に入らないかを聞いてみる。

あのキットは、何とか手に入れられたのは一つだけでそれ以降見かけていない。

出来ればもう少し欲しい。

「そうですねぇ…。もうメーカーに在庫はないから問屋や店頭にある分ぐらいしかないですからねぇ。知り合いに声をかけておきますけど、あのTT社のキットって変な価格つけて売っている所も多いですからねぇ…」

そうなのだ。

TT社のあのシリーズのだけではない。

PT社のキットなども限定ではないものの、生産が止まった分をべらぼうな価格で売りに出しているところもある。

きちんと定価で売っているところもあるが、欲しい人の足元を見てプレミア価格とか言って二千円もしないキットを五万とか六万とかの値段をつけて出しているネットショップなんかも多い。

別にそれが駄目だとはいわない。

ただ、プラモデルも古くなると劣化してしまう。

デカールなんかはきちんと管理できないとあっという間に劣化するし、プラスチックだってメーカーによっては簡単に劣化する。

有名な話だと、B社の昔の有名なアニメのロボットのキットやアクションフィギュアのプラスチックが劣化して未開封品なのに、白色がうっすらとクリーム色になってしまっていたという話もある。

脱線したが、それこそ、少数生産のガレージキットとかレジンキットならいざ知らず、普通の生産分でさえそんな感じでなかなか手にいれるのが難しいキットが最近多い。

模型作製は作って何ぼの趣味であり、ただお金儲けの為だけに値段を吊り上げるような行為は止めて欲しいと思う。

そして、高いお金を払って買ったキットが劣化しているなんてことも多いしね。

本当に何とかならないものか…。

そんな事を思いつつお釣りと商品を受け取る。

「もし手に入るようなら、いくつか入れておくわね」

「本当にすみません。お願いします」

僕がそう言って頭を下げると「いいんですよ。模型っていうのは作ってもらう事が一番の幸せなんですから」と言って笑う。

その笑顔をみて、なんとなくだが光二さんが彼女に惚れたのがわかるような気がした。

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