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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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紅き光の中で……

ゆっくりと、そして確実に陽が沈みかけようとしている時間帯。

その赤い光に彩られた街並み。

その街中で、唯一異形と言ってもいいほど高い塔があり、その最上階に設置してあるベランダ。

そこには、斜めに入り込む赤い色の光の作り出す幻影を楽しみながら一人の老人が佇んでいた。

その様子は、ベランダから風景を楽しんでいるかのようであったが、老人の目にはそれがそのままの景色として映っているのだろうか。

まるで焦点が合っていないかのような印象さえ受ける。

「合衆国の件、残念じゃったな……」

その言葉に、ベランダには出ずに控えていた三人の男達の一人、唯一仮面をつかけていない男性が頭を下げる。

年は四十といったところだろうか。

オールバックで固められた髪型にきちんと整えられた服装。それに引き締まった表情から、隙がないといった印象を受ける。

そんな男が深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。思ったよりも秘密結社の連中、手を回していたようで……」

「ふむ。フソウに関しては、連中も我々と考えは同じだろうに……」

そう老人が呟くと、残りの二人の男性のうち笑っている道化のような仮面をつけている方の男が発言した。

「恐れながら申し上げます」

「構わん。発言を許可する」

「はっ。ありがとうございます。連中、魔法が使えなくなったとはいえ、一応魔術師の一族でございます。魔法ではなくそれ以外の方法で、恐らく儀式といったものでしょうが、今はフソウ連合と事を構えるのは不味いと判断したのではないでしょうか」

「ふむ。あり得る話だな。卿はどう思うかね?」

老人は、一人仮面をつけていない男に話を振る。

卿と呼ばれた男は、少し考えこんだような表情をしたものの、「恐らく、それはあり得るかと」と返事を返した。

その言葉に、老人は頷きつつ呟く。

「ふむ。潰れてもという奴じゃな……」

『潰れても金は金』

国の発行する紙幣ではなく金貨がまだメインに使われていた時代に出来た言葉で、金貨の形をしていなくとも金の価値は変わらないといった意味であり、物事の本質は変わらないことを示している。

「はい。秘密結社、これからも警戒する必要があるかと……」

卿と呼ばれた男性がそう告げると老人が指を鳴らす。

するとゆらりと部屋の片隅の景色の一部が揺らぎ、別のものを映し出していく。

そして、それは一人の男の形を作り出していた。

かって共和国の軍師と呼ばれた男、アラン・スィーラ・エッセルブルドの手足となって暗躍していた魔術師、ピエール・パシェッタである。

彼はアランの死亡後は、この老人の忠実な下僕となっていた。

本人曰く、「恐怖に捕らわれていた自分を老師によって救われた。その恩をお返しせねば……」という事らしい。

もっとも老師と呼ばれるこの老人にとってはアランの能力に魅力を感じて声をかけただけではあったが、それを本人に知らせる必要もないため、都合がいいように周りの者達と口裏を合わせていただけに過ぎない。

だから、こういった世の中には知らないからこそ幸せになれるという典型的な形に落ち着いて、老師の忠実な駒と成り果てていたのであった。

「貴公に命ずる」

老人がそう言うとピエールは片膝をついて頭を下げる。

「はっ。何なりと……」

「ふむ。貴公には合衆国の秘密結社の監視を命ずる。よいな、些細な事でも逐一報告じゃ」

「了解いたしました」

そう言って頭を下げるとピエールの形が揺らぎ始め、まるで周りの背景に溶け込むように消えていった。

「よろしいのですか?」

今度は、控えていた悲しそうな道化のような仮面の男がそう発言する。

「ふむ。構わん。すでに秘密結社は卿によって監視されているからの。どの程度出来るかのあ奴の試験といったところかのう……」

「なるほど……」

納得したような言葉を発する仮面の男。

「さて、これで合衆国の方はいいとしてじゃ、教国と連盟の報告を聞きたいのう」

楽しげに老人はそう言うと沈みゆく日を路を細めて見ている。

「はっ。教国の方は、ほぼ実権を手に入れました。反対している連中は一部いますが、それは十分抑え込みできる形になっております」

「なら、教国は問題ないな?」

「はっ。老師の思うままでございます」

「ふむ。よくやったぞ。それで次は連盟だが……」

もう一人の仮面の男が報告を始める。

「はっ。こちらも我々の思惑通りに動いております。半年もすれば形が整うかと……」

「そうか。うまくいったか。しかし、連盟の伝説(アントハトナ)も堕ちたものよな」

そう言った後、老人は笑う。

その笑い方は上品ではあったが悪意が感じられてしまい、どうしてもケラケラといった感じの笑いのように感じられた。

「全くでございます。時間はかかりましたが、じわじわと進めていった甲斐がありましたな」

その言葉に、別の仮面の男が笑いつつ言葉を続けた。

「それにいくら偉人でさえ、迫りくる老いには勝てないというところでしょうか……」

その言葉に、老人はますます楽しげに笑った。

「それを言うなら、儂はどうなる?」

その言葉には怒気がまったく感じられず、表情からも老人が単に面白がっているのがよく分かる。

だからだろう。

報告をしている仮面の男も笑う。

「老師は、延命の術にて老化を押さえられておられますので……」

「ふむ。確かにその通りじゃが、絶対ではないし、何時かは似たような道をたどるかもしれん。その際には、しっかりとサポートしてくると嬉しいぞ」

その言葉に、その場にいた三人が笑う。

老化を押さえる延命の術を行った者は、基本、百歳近く寿命が延びる。

つまり、老人が延命の術さえも抑えきれないほど老化が進んだとしても、この場にいる三人はすでにこの世にいない可能性の方がはるかに高いのだ。

それが判っているから、老人は冗談めいた口調で話し、それを三人は笑って受け入れたのである。

そして、笑いが収まると老人は満足げに頷いた。

「これで経済、宗教を押さえた。あとは……」

「武力ですな……」

卿と呼ばれた男がそう言うと、老人は頷く。

「そう。武力よ。そっちはどうなっている?」

「まずは召喚の儀の方ですが、以前とは比べ物にならない戦力を召喚いたします故、もうしばらくお時間をいただきたいと責任者から報告が届いております」

「ふむ。そうかそうか。以前以上の戦力となれば、時間がかかっても仕方あるまいて」

「はっ。老師はそう言っておられたと伝えておきます」

「うむ。期待しておるともな……」

「はい。必ずお伝えいたします」

そのやり取りの後、仮面の男が口を開いた。

「それで、当面の武力はどうなさいますか?連盟と教国は王国と共和国の抑えに回されるとすると、本命のフソウに対抗できる戦力が必要となります」

そう言われ、老人はニタリと笑う。

「決まっておろう……」

その言葉に、卿と呼ばれた男が頷きつつ、頭を下げる。

「ご命令をいただければ……。準備の方は出来ております」

「ほう。そうか。ではボチボチ初めてもよかろう」

「はっ。直ぐにでも……」

そして老人はもうほとんど沈みかけた陽を見て目を細める。

「よし。形は出来上がりつつあるな……。フソウを沈める為の……」

それはただの独り言であったが、その言葉と表情から誰にでも想像できる。

今の光景が、老人にとってフソウ連合という(くに)が沈み堕ちていく様に見えているのが……。

そして満足げに老人は言葉を続けた。

「これで神の試練を達成できる」と……。

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