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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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フォーミリアン攻防戦  その2

「状況はどうなっている?作戦の進行具合はどうだ?」

リリカンベント中将は地図を見ながら伝令の兵に聞き返す。

それを受け、伝令の兵は持っていたボードを見つつ報告する。

「はっ。今のところ順調です。部隊の半分と物資の八割は移し終えたと報告を受けております」

その報告を受け、リリカンベント中将は久方ぶりに微笑んだ。

ここ最近は、戦況と補給の悪化で笑う事さえなかったほどだった。

「そうか。よく知らせてくれた。また頼むぞ」

そんな労いの言葉をかけてくれる上司に、伝令兵は少しほっとした表情になる。

ここ最近は怒鳴られっぼなしであり、機嫌のいい顔など皆無だったからだ。

「ふむ。今の所は順調すぎるといったところか……」

そう呟くとリリカンベント中将は後ろに控えている人物に声をかけた。

「大尉はどう思うかね?」

そう声をかけられた人物、それは今回の作戦の立案者であるヴェネジクト・レオニードヴィチ・パーヴロヴナ大尉だ。

本来彼は、リッペラード港と最前線を繋ぐ街道の警備の責任者である。

しかし、リッペラード港がほとんど使いものならなくなった以上、街道の重要性は大きく下がった。

また、今回の作戦の立案者という事で、今の彼は、本部付きとなっていた。

もちろん、街道の警備は重要度か低くなったとはいえ、放置しているわけではない。

彼の部下がしっかりと管理下に置いている。

そして、急な本部付きになったせいでかなり困惑をしていたパーヴロヴナ大尉であったが、少し考えこんだ後で返答した。

「そうですね。順調なのはいいことです。まぁ、かなり余裕持たせた行程でしたから、うまくいかないと困るんですが……。しかし、ここまで余裕があると余計なことを考えてしまいますね」

その言葉にリリカンベント中将が聞き返す。

「余計な事?」

「ええ。トラップの一つでも用意しておきたいと……」

その言葉に、リリカンベント中将は怪訝そうに聞き返した。

「トラップならば、いくつか用意している。もっとも、弾薬を使うものは出来ないから、原始的なものばかりだけどな……。それ以外に何かあるのか?」

「そうですねぇ……」

そう言った後、パーヴロヴナ大尉は少し考えこみつつ言葉を続ける。

「えっと、確かリッペラード港の貯蔵管理の場所は無事だったんですよね?」

「そうらしいな。そうでなきゃ、今の時点で我々は食糧不足で混乱状態になっいるだろうよ」

「なら……、確か船舶の燃料関係も無事ってことですよね?」

「ああ。一緒の区画にあるからな。だが給油関係の施設や港がボロボロでは使う事はないかもしれんがな」

その言葉に、パーヴロヴナ大尉はニタリと笑った。

「なら、せっかく余裕があるんだし、派手な罠を用意しましょう。うまくいったら、上層部(うえ)に対しての言い訳に使えると思いますから……」

「ほう。面白そうだな。詳しく聞かせろ」

そう言いかけたリリカンベント中将だったが、慌てて言葉を続ける。

「ちょっと待て。せっかくだ。他の連中も呼んできた方がいいな。やるからには、連中も知っておく必要があるしな」

そういうと伝令兵に、自分の幕僚やパンタミーヤ少将にここに来るように伝言を伝える。

そして、どっかりと椅子に座ると楽し気に笑った。

「さて、続きは連中が来てからだ。何を聞かせてくれるか楽しみにしているぞ」

その言葉に、パーヴロヴナ大尉は苦笑する。

その顔には、困ったなという感情と満更でもないといった感情が入り混じった複雑になものになっていた。



「それで敵の反撃は減っているのだな?」

「はっ。日に日に反撃が減っているのは間違いありません。今朝などはほとんどといっていいほど反撃がありませんでした」

副官の報告に、公国の最前線の一端を任されているシュトンナーゼ・サットルシカ・ルルイシァート大尉はその報告を聞きほくそ笑む。

フソウ連合との戦いの敗北、公国の艦隊による攻撃で軍港フルターキーナは壊滅的損害、そして帝国によるリッペラード港攻撃によって連邦の最前線への補給路の遮断。

まさに神が我らに味方したとしか思えないほどの流れであり、お膳立ては済んでいると思ってもおかしくない状況だった。

今まで防戦一方の指示が続いており、鬱憤がたまっているという事もあった。

だからだろうか。

普段考えないことを考えてしまう。

魔がさしたと言ってもいいだろう。

これはチャンスかもしれん……。

そう考えて思いを言葉にする。

「よし……。なら敵の動きを確認するか……」

その言葉に副官が驚いた声で聞き返した。

「えっ、それは……どういう事でしょうか?」

その問いに、ルルイシァート大尉はニヤリと笑みを浮かべて言い返す。

「言葉の通りだ。夜目の利く奴を集めておけ。いいな?」

その言葉に、部下は困ったような顔をする。

「しかし、上からの命令は防衛に徹し、挑発行為を繰り返せとしか……」

「ああ、だが、その挑発行為に乗ってこなくなりつつあるからな。連中に何か変化があるはずだ。それを見極める」

「ですが、それを判断するのは……」

「机の上で地図とにらめっこをしている連中に何が判るか。前線の事は、前線にいる者しかわからないんだ。それを証明してやる」

元々作戦司令部勤務を望んでいたルルイシァート大尉ではあったが、送られたのは最前線であり、自分よりもレベルの低い同期の者が司令部付きという事もあってか上からの命令に反発気味であった。

そう言った事情も知っている為、困ったような顔をした副官であったが大尉の言う事も一理あると思ったのだろう。

敬礼して口を開く。

「わかりました。準備させておきます」

「ああ、頼むぞ」

ルルイシァート大尉は満足そうに頷くともう用は終わったとばかりにテーブルの地図に視線を落とす。

その様子を見つつ、副官が聞き返した。

「偵察部隊の指揮は、大尉がされるのですか?」

そう聞かれて、呆れ返った顔でルルイシァート大尉が副官に視線を向ける。

「そんな訳ないだろうが」

「そうですよね……。では、誰が……」

「そうだな。お前がやれ」

その言葉に唖然とした副官だったが、表情を引き締め直す。

「わかりました。では私がやりやすいようにしてもよろしいでしょうか?」

「ああ。構わん」

「了解しました」

そして敬礼すると副官は退出した。

もう見られることもないという事もあるのだろう。

退出する部下の顔には怒りと侮蔑の表情が混じったものになっている。

てめぇが嫌う連中とお前も所詮は同レベルなんだよ。

表情は、そう物語っていた。

退出した後、副官は直ぐに部隊に戻ると夜間の強硬偵察の準備を指示した後、あるところに向かった。

そこは無線室であった。

そして、副官は今回の事を大尉には黙って洗いざらい司令部に報告したのであった。



その報告を聞き、司令部の意見は完全に二つに分かれた。

命令無視であり大尉を更迭すべきだという意見とやらせてはどうだろうかという意見にである。

「ふむ。確かにそう言う状況なら、偵察もありだろうな」

「だが、欺瞞行為の恐れもあるぞ。もし失敗したらどうするのだ?」

「その時は、大尉に責任を取らせればいい。言い出したのは、大尉だからな」

「しかし、もし成功したらどうするというのだ。あの男の事だ。嬉々として報告してくるぞ」

「ああ。それはあり得るな。あの男の事だ。司令部付きは自分が相応しいとか言い出しそうだ」

その言葉に、司令部のほぼ全員が嫌そうな顔をする。

確かにシュトンナーゼ・サットルシカ・ルルイシァート大尉は優秀だ。

士官学校主席卒業であり、まだ経験が少ないものの、将来は公国の陸軍にて頭角を現すだろうと噂が出るほどの人物である。

だが、出る釘は打たれるの言葉通り、彼は目立ちすぎた。

協調性のない人物で他人の意見は認めず、自分の主張のみを貫き通す者だと多くの者達に認識されてしまっていたのである。

だからこそ、彼は司令部付きになれなかったのだ。

だが、そんな事を本人にわざわざ教えてやる物好きはいない。

誰もが自分の出世を第一に考えていたからだ。

彼らにしてみても、少し時間はかかるだろうが、この国は公国で統一されるだろうと思っている。

その際、少しでも甘い汁を吸うためには手柄を立てる必要性がある。

元々他国との戦いが中心である海軍と違い、陸軍はどうしても身内に敵を作りたがる傾向があった。

彼らは、他国に軍事行動を起こしたくとも海軍の協力無くしては何もできないとわかっているのだ。

だからなおさらなのかもしれない。

だが、心配そうな顔をする司令官や参謀に、一人の男が楽しげに言う。

「心配ありませんよ」

そういって笑う男の名前は、シュトランフル・アレキサンダリア・トルーネン大尉。

ルルイシァート大尉曰く、自分より劣っているくせに司令部付きになったふざけた野郎である。

好敵手(ライバル)と言えば聞こえがいいかもしれないが、この二人の場合はお互いの足を引っ張りあう敵同士といったところだろうか。

実際、止めるのが馬鹿らしくなるほど頻繁に士官学校のころから二人は衝突し、水と油と言われるほどであった。

その男が発言するのだ。

その場にいた誰もが彼に視線を向ける。

それを受けながらも彼はしれっとした表情を崩さない。

注目されるのには慣れているのである。

いや、注目されたいと願っていると言ってもいいだろう。

だからこそ、今、最高の気分であった。

だから、弾んだような口調で話していく。

「何、成功しても無断で軍の一部を動かして命令違反したことは変わりません。成功を褒め称えた後、それを問題にすればいいのではないでしょうか?」

その言葉に、その場にいた者達が納得したように頷く。

「ふむ。確かに。確かに……」

「それは名案だ。実にいい意見だよ、大尉」

「ありがとうございます」

こうして、敵陣への夜間の強行偵察は報告されたものの、中止命令が来ることもなく、実施されたのであった。

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