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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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連邦崩壊  その1

『公国艦隊、動く』

連邦海軍はその情報を入手し、その動きから敵の目標は軍港フルターキーナであると推測。

すぐに付近の防衛戦力を軍港フルターキーナに集結させた。

その数、簡易型魚雷艇(構造を簡易にし量産性を高めた戦時量産型)二十二隻、特務魚雷艇(民間で使われている高速艇に魚雷発射管などを取り付けた民船改造型)三十一隻、小型砲艦八隻。

中型、大型艦船はないものの、数だけなら六十一隻とかなりのものであり、乗組員達や指揮官は今度こそ公国海軍の息の根を止めてやると意気込んでいた。

全てがうまくいっている。

準備が終わった時点では侵攻艦隊がフソウ連合に徹底的に叩き潰されていないという事もあり、連邦海軍の誰もがそう思っていた。

しかし、それは間違いであった。

彼らが秘密裏に入手したと思っている公国艦隊が動くという報は、実は公国側が故意に流した情報だったのだ。

何故そんなことはをしたのか。

それは、連邦に公国恐れるに足らずと思わせ、さらに真正面から自慢の水雷艇を使った作戦を徹底的に叩き潰すことで圧倒的な戦力差を知らしめ士気を落とすという目的の為でもあった。

実際、公国側は自軍が負ける要素は皆無であると思っている。

連邦には、今回のフソウ連合への攻勢で本国には警戒するほどの艦船も戦力もなく、防衛に残っているのは魚雷艇や小型艦しかなかったためだ。

また、その戦力編成はどうしても戦い方を限定させてしまう。

実際、公国艦隊の超々大型戦艦にダメージを与える為には、連邦に残された手としては接近しての雷撃攻撃一択しかなかった。

そして、敵の動きが判ればそれに対しての対策も立てやすい。

それに公国艦隊の先鋒にはフソウ連合製の駆逐艦が六隻がある。

公国軍水雷艇を使ってのさながら実戦かと間違えるような訓練では圧倒的な戦力差を見せつけている上に、なによりスパイによって事前に軍港フルターキーナ付近の敵戦力が潜んでいそうな場所は調べつくされていた。

つまり、連邦は待ち伏せをして公国艦隊を罠にかけるつもりであったが、実際には罠に引きずり込まれたのは連邦の方であるという状況となっており、また、悪いことは重なるものだ。

準備が終わり、完全に向かい撃つための状態の中、フソウ連合に攻勢をかけた連邦艦隊が敗北したという報が届けられたのである。

その報を受けて混乱する連邦海軍に『公国艦隊、軍港フルターキーナ沖に出現』の報が届いたのは、二月一日の九時であった。

さすがに混乱しているとはいえ、準備は整っている。

また、ここで負ける訳にはいかないという思いも強かったのだろう。

すぐに軍港フルターキーナに集結していた部隊に公国艦隊を徹底的に潰せという攻撃命令が下された。

その命令を受けて、防衛隊は以前と同じに港に接近してきたら前回以上の水雷艇の波状攻撃を仕掛けるべく意気込んで待機していたが、それはただの空しい空回りとなった。

公国艦隊は港に接近する前に、戦艦による砲撃で水雷艇の潜伏場所を徹底的に叩いたのである。

大体、すでに隠れている場所が判っている以上、わざわざ相手の優位な条件で戦う馬鹿はいない。

その結果、遠距離から砲撃されて多くの水雷艇は攻撃を仕掛ける前から次々と失われていった。

それは一方的な蹂躙であり、その攻撃に我慢できずに接近する前に動き出した水雷艇には、先行している駆逐艦六隻が襲い掛かかって一方的に水雷艇を駆逐されていく。

元々、駆逐艦は、主力艦を護衛して敵水雷艇を駆逐するために作られた大型水雷艇が始まりであり、それ故に駆逐艦と呼ばれる由来の役割を果たしていると言っていいだろう。

こうして、軍港フルターキーナに集められた戦力は全て失われ、その後は圧倒的な火力によって軍港フルターキーナの施設は次々と破壊されていく。

それはまるで、一方的なワンサイドゲームのようであった。

こうして狙い通りの戦果をあげたと思われた公国艦隊であったが、唯一その通りにならなかった点がある。

それは圧倒的な戦力差を知らしめ士気を落とすという目的だ。

これは、現場から上層部に伝えられた報告が、質の悪い伝言ゲームのようになってしまい、大きく違った内容になってしまった為である。

そして、上層部はそれを鵜吞みにした。

もちろん、実際の情報を知っている者はいたが、何も言わなかった。

いや、言えなかったのだ。

連邦の独裁者であるイヴァン・ラッドント・クラーキンの怒りを恐れて……。

そしてそれは海だけではなかった。



「上は勝つ気があるのかっ」

ムマンナ・パラスルト・リリカンベント中将は吐き捨てる様にそう言い切ると読み終わった命令書を引きちぎり床に叩きつけて踏みつける。

その側には彼の幕僚もいたし、何より友人であり共に戦っているハンリカド・クネルディク・パンタミーヤ少将もいたが、誰もその行為を止める様子はない。

それどころか誰もが疲れ切った表情をして黙って見ているだけだ。

そんな中、まるで代表するかのようにパンタミーヤ少将が深い溜息を吐き出すと口を開いた。

「またですか……」

読まなくても中将の態度を見れば内容は理解できたからだ。

そして、もう彼は中将のように怒る気さえ起きなかった。

もう終わりだよ……。

その表情は、そう言っているかのようだ。

ここは、公国と連邦が接する最前線の少し後方にある連邦軍の作戦司令部のテント内であり、数日前に出した補給と増援要請の返事が返ってきたところであった。

「ああ、まただよ。ロクな訓練もしていない上に最低限の装備しかない国民義勇兵二万を二週間のうちに送るそうだ」

リリカンベント中将はイライラした表情でテント内のテーブルを強く叩きつける。

「くそったれの上層部め。今、俺らが欲しいのは二週間後のお荷物にしかならねぇお人形じゃなく、二、三日に届く大量の武器と弾薬、それに訓練された数千の兵だっていうのによ」

そんな中将を慰めるかのように彼の幕僚の一人が口を開く。

「仕方ありませんよ。鉄道が回復していない以上、移動に時間がかかりますから……」

だが、そんな言葉に、中将はイライラとした口調で言い返す。

「そりゃ、わかってるんだよ。だがな、もう弾薬の残りは少なく、前線の兵達は疲れ切っている。その上、以前送られてきた御大層な国民義勇兵の皆さんは、今じゃほとんどが屍だ。これでどうすればいいってんだよ」

その言葉に口を開いた幕僚が黙り込む。

誰もがわかってはいるのだ。

一月末日から始まった公国軍の攻撃にジリ貧になってしまっているのは……。

まるで煽るかのように毎日何回も砲撃や攻撃が開始され、それが恐らく欺瞞とわかってはいても全く反撃しないわけにはいかない訳でどうしても反撃せねばならない。

その結果、ただでさえ少なかった弾薬はまるで溶けるかのように消費されていき、ロクな訓練されていない兵は、敵にとってはただのいい的でしかない。

そして、兵が少なくなればより少ない兵で対応するしかなく、連日連夜の攻撃に前線の兵士の疲労はピークを越えている。

その為、急遽弾薬と物資、それに兵力の補充を申請したのだ。

『補充の兵のほとんどを失い、弾薬、武器は底をつき始めている。兵達は疲労し士気は限りなく低い。このままでは戦線維持も難しい。二・三日のうちに急いで補給と増援を願う』

そういった文面であったが、返ってきた返事は『二週間後、国民義勇兵二万を送る。それで敵の最前線を突破し、連邦に勝利を!!』という内容であった。

どう考えても送ったものの内容と返ってきた返事の内容がかみ合っていない。

そして、ここ最近その差は大きくなるばかりであった。

恐らくきちんと情報が伝わっていないのだろう。

こうなったら直接直談判するしかない。

だが、今の最前線は、一兵でも惜しい状況だ。。

そんな中、わざわざ首都に人を送らねばならないのか……。

ため息を吐き出して、パンタミーヤ少将はリリカンベント中将に提案する。

「やはり、連絡員を送ろう」

「しかしだ。今はそういった事に派遣できる兵の余裕はないぞ」

「だが、派遣せねば、二週間も持たないのはわかるだろう」

そう言われてリリカンベント中将は黙り込んだ。

彼とてわかってはいるのだ。

だが、ただの一兵卒を送ったとしてもどうしょうもない。

弁が経ち、中央にツテのあるある程度の階級の者が行く必要があった。

もちろん、一人ではなく、護衛も含めてである。

それこそ、使える兵がある程度の人数……。

その理由は簡単だ。

以前よりも首都への街道は治安が悪化しており、山賊化した国民に襲われる恐れすらあるからだ。

実際に、数日前に前線であるこっちに送られる予定だった貴重な補給物資が途中襲われ強奪される事件があったばかりであった。

つまり、国内の治安は最悪であり、軍でさえも少数で移動は危険であるという事になる。

こんなんで勝てるかっ。

誰もがそういう思いではあったが、命令である以上、そして祖国を守るためにはここを死守するしかない。

それこそ、字のごとく……。

そしてしばし黙り込んだ後、リリカンベント中将はため息とともに口を開いた。

「わかった。使者を送ろう……」

淡々としゃべってはいたが、それは悲痛なまでの叫びのように周りの者達には聞こえていた。

現状はそれほど劣勢であり、切羽詰まっているのだ。

こうして、上層部にツテのあるイェイプラン・センダンス・ラリックラード大尉と護衛の為の第206小隊に命令が下された。

「現場の真実を知らせ、直ぐに補給物資と兵力の補充を行うように進言せよ」と……。

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