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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十七章 連邦崩壊

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日誌 第四百九十二日目

二月一日。

その情報は、唐突に伝えられた。

連盟で大規模な革命が勃発し、革命がほぼ成功したという情報である。

その時、僕は午前中のいつもの業務に明け暮れていたが、外交部が慌てて知らせたその情報にすぐに対処すべく知らせてきた外交部の連絡員に折り返しで指示を出す。

「その情報はどこからだ?」

「は、はっ。共和国の大使からです。遅れてではありますが、合衆国、王国の大使からも情報連絡がありました」

「そうか。なら、間違いないという事か……。わかった。直ぐに各大使により正確な情報が手に入らないか動くように言っておいてくれ。それと革命に対しての各国の反応と対応もだ」

連盟に直接繋がりのないフソウ連合としては、第三者が間に入らないと情報は手に入らない。

こんなことなら、少々犬猿の仲でも大使を送っておけばよかったか……。

そんな後悔が頭に浮かんだが、今更言っても仕方ない。

鎖国をしていたためにどうしても海外に出せる人材が少なく、またその数に限りがある以上、優先の高い低いはどうしてもおこる。

今はともかく情報を集めることに集中するしかない。

そう割り切って思考を走らせていく。

「はっ。直ぐに対応いたします」

「ああ、頼む。正確で確実な情報を出来るだけ早くだ。恐らく本部にはいないと思うが、行き先は連絡しておく。情報が入ったらすぐに知らせてくれ」

「了解いたしました」

外交部の連絡員が敬礼して慌てて駆け出して退出していく。

それをちらりと見た後、僕はインターホンのボタンを押した。

「東郷大尉はいるかな?」

「はい。います。どうされましたか?」

「情報部の川見大佐を頼む。それとアルンカス王国のリットーミン商会に連絡を付けて欲しい」

「はい。わかりました」

そう返事が返った後、誰かが駆け寄ってきた音が聞こえ、東郷大尉が言葉を続けた。

「今、アルンカス王国のリットーミン商会から至急伝えたいことがあると、ポランド・リットーミン様から伝言がありました」

「わかった。つまりポランドは今アルンカス王国にいるってことだな?」

「恐らくですが……」

「すぐに確認してくれ。僕が会いたいと伝えてね」

「は、はい。それでは……」

「ああ。午後の予定はキャンセルだ。ポランドがアルンカス王国にいるようなら、直ぐに向かう。機体の手配と予定の変更を頼む」

「はい。わかりました。三十分ほど時間をください」

「ああ。お願いするよ」

僕はインターホンのボタンから指を離すとふーと息を吐き出した。

そして、壁に視線を向けた。

そこには世界地図とフソウ連合の大きな地図が張り付けてある。

そして、視線を世界地図の方に向ける。

連盟は、六強の中で一番遠い場所にあった。

確かに場所は遠いが、連盟の商人たちのネットワークと流通はとてつもなくでかい。

この前見た資料によれば、地域先での大小の差はあるだろうが、恐らく世界の流通の半分は連盟の商人のものではないだろうか。

ほとんど影響を受けないのは、連盟の商人があまり入り込んでいないアルンカス王国とフソウ連合ぐらいのものであろう。

連盟の植民地と合衆国、共和国、教国の三ヶ国でかなり深いところまで連盟の商人達との繋がりが入り込んでいる。

もし、今回の事で大きな被害を受けるのはこれらの国で、フソウ連合はそれには当てはまらない。

だが、影響を受ける国々の被害は大きく、世界的な不況につながる恐れが高い以上、その余波は間違いなく受けるだろう。

だから、自分達の国だけ問題なければ……といった事は通用しない。

それに世界規模になれば、一国ではどうあがいても対応できることは限られてしまう。

やはり、急ぐか……。

僕は再びインターホンのボタンを押す。

「大尉、忙しいところすまないが、頼めるかな?」

僕のその言葉に、東郷大尉は嬉しそうな声で答える。

「勿論です。私はあなたの秘書官ですから」

実に頼もしい限りだ。

「なら、すぐに外交部に連絡して王国と共和国の大使を通して二つの国に会談を申し込んでくれ。『IFTA(イフタ)』の今後の活動と今回の事での対応を話し合いたいとね」

まだ、前年に起こった世界規模の大災害の復興は完全に終わっていない。

場所によっては、まだ始まったばかりの所もあるほどだ。

そんな状態で世界的不況になればバラバラでの対応はかなり不味いことになりかねない。

きちんと足並みをそろえての対応を行わねば、世界中からかき集めて若干余裕がある程度の備蓄量の物資や食料ではすぐに足りなくなる恐れすらあった。

「はい。直ぐに連絡いたします」

「ああ。助かる」

そう言った後、僕は何気なく思った事を口にした。

「大尉、頼りにしているよ」

僕の言葉に、東郷大尉の声がよりうれしそうなものになる。

「ふふふっ。もっと頼ってくださいね」

そう言うと大尉の方からインターホンが切られる。

そして、微かだが長官室の手前にある秘書官の部屋から歓声のような声が聞こえたような気がした。



一時間後、かなり慌てた様子で情報をまとめた川見大佐は長官室に出頭した。

情報部でも今回の事は寝耳に水だったらしい。

入ってくると川見大佐はすぐに頭を深々と下げる。

「お待たせしてしまってすみません。遅くなりました」

「構わないよ。その様子だと情報部も今掴んだという感じだね」

「ええ。申し訳ありません」

それは仕方ない事なのかもしれない。

長い間鎖国をしてきて海外での情報網を構築し始めてそれほど時間が経っていない上に、連盟は対外優先度は六強の中ではかなり低い。

リットーミン商会があるというのもあって、どうしても後回しにしがちだし、僕も優先しなくていいと言っていた。

だから、これは情報部の責任ではなく、僕の判断ミスといったところだろう。

今まで後回しにしていた分のツケが回ってきたという事だ。

「気にしなくていい。連盟の優先度を下げて他の王国や共和国、合衆国を優先するように指示をしたのは僕だからね。情報部を責めるつもりはない」

「ありがとうございます。そう言っていただくとこっちとしても助かります」

「それで、今の所わかっているのは?」

昼にはアルンカス王国に向かい夜にはポランドと会うのだが、出来る限りいろんな筋から情報は集めておくに限る。

一つの情報筋(ソース)だけでは、偽情報(フェイク)が混じっていても気がつかない可能性が高いし、別の目線で見えてくるものもあるからな。

「はい。今の所は、かなり手荒な革命が起こっており、ほぼ成功といっていい結果になりつつあるようです。政府の主要機関と報道機関、後は十二大商人の商会本部は完全に連中の管理下になったようです。もっとも、二か所ばっかりは対応が違うみたいですけどね」

途中から苦笑を交えてそう言う川見大佐。

「対応が違う?どういうことだ?」

僕の問いに、川見大佐は苦笑を浮かべたまま答える。

「一つはリットーミン商会です。どうやらリットーミン商会はほぼもぬけの殻だったらしく、他の商会の本部のように踏みとどまって占拠することもなく踏み込んだ連中は直ぐに引き上げたそうです」

そう言えば以前ポランドが『こっちにすべてをぶち込むから、何かあったらお願いします』と冗談混じりに言っていたが、本当にやってたんだな。

思いっきりがいいというか、それだけうちらを買っているという事なんだろう。

まぁ、それで対応を大きく変えるわけではないが、対価を得られるうちはある程度の優遇はしてもいいかもしれないな。

そんな僕の思考に構わず、川見大佐は言葉を続ける。

「もう一つは、ランセルバーグ商会です。こっちは流血沙汰も起きずに、革命を主導している連中の管理に直ぐに落ち着いたようですね」

「それは偶々だったんじゃないか?商会本部にいた者達が抵抗は無駄だと判断したとか……」

僕のその問いに、川見大佐はニタリと笑った。

「あり得ません。他の十の商会は、全て警備の者達との銃撃戦などの流血騒ぎになっています。ましてやここは連盟一の伝説と言われる大商人が作り上げた商会で、警備の高さは軍事施設以上なんて言われているらしいですよ」

その情報が正しいなら、確かにあり得ない。

そう言えばポランドもあの商会の代表者にそそのかされてフソウ連合(うち)と接触持ったわけだしな。

つまり、それだけ代表者が切れ者であるという事でもある。

もっとも、ポランドがそのままこっちに鞍替えするとは思っていなかったようだが……。

ともかく、それ程の人物なら今回の事を事前に知っていた可能性もあるが……。

いやまて、それは余りに無理過ぎないだろうか。

もっとシンプルに考えるべきだ。

ならば……。

そして、ある考えに行きつき、僕は苦笑を浮かべて呟く。

「ふむ。確かに黒いな……」

「ええ。真っ黒とは言いませんが、限りなく黒に近い灰色ってところでしょうか」

「それ以外に情報は?」

「市民は落ち着いているようですね。それだけ、革命側にも政府側にも関わりあいたくないんでしょう。後、軍は今回の事は一部を除きほとんどスルーしているそうです。あの商人達の息が強くかかっている連中が……ですよ」

「ますます怪しいな……」

僕が呟くようにそう言うと、川見大佐は頷く。

その後、他に情報がないか確認して、川見大佐を下がらせた。

もちろん、今後の新しい情報が入り次第、連絡するようにと言っておくのは忘れない。

情報は、正確に、早く伝わってこそ役に立つのだから……。

そして、川見大佐が退室すると同時に東郷大尉が入室した。

「長官、飛行機の準備が整っています。後、スケジュールの方ですが、明日までは時間を作りました」

「ああ。助かったよ。それで荷物なんだけど……」

「もう準備は終わっております。後は長官さえ乗り込めばすぐにでも出られます」

「そうか。さすがだね」

僕がそう言うと、東郷大尉はにこやかに微笑んで持っていたカバンを渡してきたのでそれを何気なく受け取る。

かなり重い感じで、ビジネスマンが持っていそうなタイプのやつだ。

「あと、飛行機に乗っている間にこちらの書類に目を通してください。外交部から連盟に関する資料を用意させておきました」

「そ、そう。準備がいいね」

どうやら、よく出来る秘書官は、僕が飛行機の中で暇になったらいけないと思ったようだ。

まぁ、確かに知っておいた方がいいのはわかっているんだけどね。

でも、ここ最近は会議と事務処理といった感じでずっと書類漬けだったから、飛行機の中ぐらいはのんびり昼寝でもしておきたかったかな。

そんな考えを僕はグッと飲み込む。

「イヤ、本当に助かるよ」

「いえ。私は長官の秘書官として頑張っているだけですから」

そう言われて満足げな極上の笑顔を向けられる。

その笑顔が眩しすぎる。

ごめん。

思わず僕は心の中で東郷大尉に謝るのであった。

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