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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十六章 キナリア列島攻防戦

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日誌 第四百九十日目

一月二十九日、午後三時過ぎ。

僕はフソウ連合海軍本部の第五会議室にいる。

アルンカス王国や王国、共和国との航路に関しての話し合いが行われていたのだ。

護衛に関しては、『IMSA(イムサ)』とは別に急な事態に対応できるように、ある程度の護衛艦隊が準備できる戦力の構築が決まったが、肝心の輸送艦船に関しては各部門の思惑がある為なかなかまとまらないといった状態が続いている。

実際、国内の輸送網に関してもやっと軌道に乗り始めてある程度の大きさの輸送船と乗組員を確保できたばかりであり、これ以上人員や艦船を振り分けたくない軍部と諸外国との輸送流通の増加を狙っている産業部、外交部の対立が目立つ。

まぁ、どちらも言いたいことはわかるんだけどね。

確かに今航路を確保し、輸出することで産業の活性化や諸外国との繋がりを強めようというのは理にかなっているし、僕も賛成だ。

ただ、軍部の言い分もわかる。

軍部の方も自分の所の人員確保はしておきたいし、今のところは大型艦船に関しての乗組員教育を軍関係で一括で行っている以上、ある一定数以上は育成に限界もある。

民間で育成というのも考えたが、そこまで出来る教育機関も施設もないし、緊急時に軍部との連携や乗組員の質をある程度の水準以上維持していきたいなら却下するしかない。

まぁ、ある程度の下地が出来れば可能ではあるが、今の時点では時期尚早といったところだろうか。

実際、一気に拡大してきたため、フソウ連合ではこの手の問題が山積し始めている。

上はより上を目指す傾向が強く、下との格差が広がっている感じだ。

向上心が高いのはいいのだが、限度もあるし、一部だけ尖っていても意味はない。

全体的な底上げも必要なのだ。

理由としては、国の力というのは結局はその国の総合力だと僕は思っている。

それを考えれば、一気に航路拡大は行き過ぎだろう。

やはり一旦ブレーキをかけるしかないか。

伸びつつある経済や交流の勢いを殺してしまう可能性もあるが足場脆くて崩れるよりは遥かにマシだ。

それに熱くなりすぎている。

これではまともな話し合いも出来ないだろうな。

僕はそう思って今や喧嘩腰になっている口論を遮るように口をはさむ。

「いい加減にしておこうか……」

淡々と、しかし声を強めていったその言葉に、今までお互いを罵るかのように言いあっていた双方が唖然として僕の方を見たまま黙り込む。

その表情には、不味ったという感情が見え見えだった。

それを見なかったことにして、僕は言葉を続ける。

「互いに言いたいことはわかる。だが、限度があるという事もお互いにわかって話し合ってほしい。今のような感情丸出しではまとまるものもまとまらないと思うよ」

その言葉に、双方の代表者が気まずそうな表情を浮かべたり、困ったなといった表情をしている。

要は、言われて我に返ってみれば納得できる言葉だと思ったのだろう。

「あと、これは僕の意見だが、フソウ連合は一気に成長しすぎたと思っている。だから、少しは足踏みして落ち着いてもいいとね」

その言葉に、経済部の担当者が聞き返す。

「ですが、長官が各国との輸出入の増加をすることでより経済的発展を言われたのではないのですか?」

「ああ、言ったよ。だか、限度がある。勢いがあるからと突っ走ってみても、躓いたとき一気に崩れかねんよ。それよりは国内の流通を充実させることを優先すべきではないかな」

下手したら経済優先となって国内流通より諸外国の輸出入に傾きかねない雰囲気を感じて、僕はそう釘を刺す。

「わかりました……」

戸惑った声で担当者の口から言葉が洩れる。

「まぁ、僕が言う事が絶対ではないが、焦る必要はないと思うがね。外交部はどうかな?」

僕がそう外交部の担当に話を振ると、外交部の担当も渋々といった感じで了承した。

「長官がそう言われるのなら……」

どうのこうのいいつつも僕が言いたいことはわかるらしいが、今の勢いを殺したくないという思いが強いのだろう。

まぁ、難しいところだよね、こういった判断は……。

だが、これで終わりでは問題を先送りにしただけだ。

だから、僕は軍部の艦船人材育成担当官の愛知幾男少佐に声をかける。

「施設や機関の増加は出来そうか?」

その質問に、愛知少佐は困ったような顔で答える。

「無理な増加はレベルを落としかねません。かなり難しいかと……」

「そうか……」

暫くはだましだましでいくしかないといったところか。

なら……。

「毎年少しずつならどうだ?」

そう聞かれ、愛知少尉は少し考え込んだ後、口を開いた。

「そうですね。さすがに一気に一割以上なんてのは無理ですし、確約は出来ませんが数パーセントずつ幅を広げていく事は出来るかと……」

恐らく、数人、多くても十人未満の増加ではあるが、それでも何も変わらないよりは遥かにいい。

「わかった。ありがとう」

僕はそう言うと、今度は産業部と外交部の担当者に視線を向ける。

「増加した人員はそちらに優先的に回すという事でいいかな?もっとも、本人の意思を尊重はするが……」

「ええ、構いません。長い目で見ればそれがベストのようです」

産業部の担当官がそう言えば、外交部の担当官もやっと納得したような表情を見せる。

その時であった。

トントン。

ドアがノックされ、対応するために退室した東郷大尉がボードをもって戻ってきた。

「長官、これを……」

ボードに書かれた内容に目を通すと、僕はそれぞれの担当官を見て微笑んだ。

「どうやら、緊急の連絡が来たようです。各自今の形でまとめた報告書の提出をお願いしますよ」

僕はそう言うとドアに向かう。

そして開いたドアの前で立ち止まると振り返って言う。

「またもめるのは勘弁ですから、しっかり話し合っておいてください。さっきみたいな感情むき出しではなくて、ね」

そう。

この件でもめるのは実に三回目なのだ。

互いにいい人材を得ようと躍起になるのはわかるんだが、些細なことで話が二転三転してしまっては意味がない。

本当にいい加減にして欲しいよ……。

僕のそんな思いの籠った言葉に、担当者三人はバツの悪そうな表情をして頷くのだった。



僕が長官室に戻るとすでに新見中将と川見大佐が待っていた。

「すまないね。待たせたかな?」

「いえいえ。そんなことはありません。しかし、仲裁も大変ですな」

新見中将がそう言ってソファから立ち上がって苦笑した。

川見大佐も苦笑を浮かべて立ち上がる。

二人は、三度目になる今回のトラブルの内容を知っており、その事に呆れ返っているのだろう。

第三者から見れば、今回の騒動は互いの足を引っかけあっている様にしか見えない。

「まぁね。もう少し何とかしてほしいものだよ」

僕は苦笑してそう言うと、二人は苦笑を浮かべたまま敬礼した。

僕も返礼をして二人に椅子をすすめつつソファに座る。

二人が座ると、僕は早速聞きたかったことを聞く。

ボードでは、勝利したという報告のみであり、詳しい内容は書かれていなかったのだ。

「それで、戦いの方はどうだったんだい?」

「勝ったのは間違いないですな。それと捕虜に関しての指示をお願いすると連絡が来ています。また、細かな報告はまだですが、こちらの被害は予想より遥かに少ないとのことです」

その言葉に僕はふーと息を吐き出した。

「そうか。勝ったか。それに被害は少なかったのはいいことだ」

安堵してしみじみとそう言う様子がおかしかったのだろう。

新見中将が苦笑しつつ口を開く。

「相変わらず長官は心配性ですな」

「そう言わないでくれよ。だけど、戦いにトラブルや予想外の事は常につきものじゃないか」

「確かに。予定通り進むならそれにこしたことはありませんしな」

「そう言う事だよ。それで、各国の様子はどうかな?」

「まだ一部しか情報は流れていないようですが、予想通りという反応が多いですね。それに連邦への関心が薄いこともあって恐らくそれほど話題になることはないかと……」

その川見大佐の報告に、僕は苦笑する。

「まぁ、そうなるよねぇ……。なんとなくはわかっていたけどね」

つまり、余りにも結果が見えすぎていたという事だ。

そう言った僕に、新見中将が苦笑しつつ言う。

「それと、お客さんはやっぱり来たそうですよ」

ここでいうお客さんとは、海賊国家サネホーンの事である。

これも予想通りだ。

僕が相手側なら、少しでも情報を得るために動くだろう。

例え交渉中であったとしてもだ。

「これを理由に交渉を止めますか?」

新見中将がそう聞いてくるが、結果はわかっているのだろう。

ニヤニヤと笑っている。

「もちろん、この程度で止めたりはしないさ」

僕は笑い返しつつそう言うと二人ともやっぱりといった顔をした。

交渉相手としては、こんな小事で揺らぐようならうまくいかないと判断して、決断や踏ん切りもつきやすいだろう。

つまり、今回の事は情報収集だけでなく、こっちを試したという部分も含まれていると見るべきだ。

これで向こうもこっちの本気度を再度確認できたと思う。

今回の件がきっかけで交渉も大きく進展するかもしれない。

そうそう。

そう言えば捕虜に関しての指示を求めていたんだっけな。

「それと言い忘れたが、捕虜に関してはいつも通りで頼む」

「了解しました。で、場所はどうしましょう?」

「そうだな。キナリア列島で条件に合いそうな島はあるかな?」

フソウ連合国内でのそういった施設はまだ余裕があるが、無理に押し込める必要はない。

それに人を動かすのも人手や資源が必要となる。

ならば、現地で新しく作ってしまえばいい。

ある程度は準備はするが快適な環境を提供するつもりはないから、より快適になるようには自分らで頑張ればいいだけだし……。

それに今後はフソウ連合から離れたところでの戦いも増えるだろう。

それを考えれば、キナリア列島にそう言った施設があってもいいだろうしね。

僕がそう考えて聞くと、川見中将は少し考えた後、口を開いた。

「確かいくつか候補の島はあったと思います」

「なら、最もいいところを選んでそこで管理をお願いするよ。それとキナリア列島での基地や空港の設備を急がせておいてくれ」

「はっ。了解しました。それと、駐屯する飛行隊の方も準備を進めておきます」

「ああ。助かるよ」

そう言った後、僕は視線を川見大佐に向ける。

「恐らくだけど、公国と帝国が大きく動くはずだから情報収集は密にお願いする」

「了解しました」

二人はそれぞれ立ち上がると命令を遂行するために退室していった。

それを見送った後、僕は自分のデスクの椅子に座って背もたれに身を任せる。

椅子は音もたてずに僕の体重を支えた。

天井を見上げて息を吐き出す。

今の所はうまくやっているし、うまく回っている。

しかし、胸騒ぎというか、何か嫌な予感がしてならない。

そして、二日後、僕はその予感が当たったことを知る。

連盟で『血の惨劇』と呼ばれる革命が起こったという報告で……。

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