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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十六章 キナリア列島攻防戦

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血の惨劇  その1

連邦とフソウ連合の戦い『キナリア列島攻防戦』が始まった頃、連邦によるフソウ連合への攻勢を行うという報は、商人を通じて連盟にも届いていた。

連盟としては、どっちが勝とうが負けようが関係なく、連盟に仇なす国同士が戦っているという認識でしかない。

だから、どうせならどっちも疲弊するほど潰しあってしまえと思っていた。

だから、今回の戦いを連盟は表には出さなかったが歓迎するほどであった。

もっとも、そんな連盟も、連邦が勝つとは微塵も思っていなかった。

情報から得られたフソウ連合の海軍力は、間違いなく世界最強に近い位置にあると思っていたからだ。

世界最強ではないのは、海賊国家サネホーンの存在があるからで、長年苦汁をなめさせられただけあって、世界各国の中でもっともサネホーンの戦力分析にたけているのは自分達連盟であるという自負さえある。

その情報から、連盟は恐らくこの二つは戦力的に互角と見ていた。

だから、その一角が連邦の貧弱海軍に負けるはずがない。

そう分析していた。

それに、この戦いの結果というかどれだけの被害があったかの方が興味はあったが、それ以上に大切な問題が山積みとなっており、気を回す余裕があまりなかった。

ルル・イファンの件や独立運動が盛んになっていく連盟の植民地への対応は連盟の死活問題となりつつあったからである。

その為、毎週連盟の方針を定める十二人会議が行われ、ほとんどの代表たちは集まっていた。

不参加することで不利益を受けてはたまったものではない。

そんな考えが脳裏に浮かぶ以上、欠席は出来なかった。

もっとも、会議の内容はそんな大したことは話し合っていない。

その場で話し合われることは、ただの責任の擦りつけと希望的願望を垂れ流す事だけであった。

その傾向は、アントハトナ・ランセルバーグ老が体調を崩し代理人であるムンダスト・リンクルベリーが来るようになって特に酷くなる。

それに、代理人であるリンクルベリーはただ愛想笑いを浮かべて彼らを止めなることはしなかった。

だから、ますますそう言った行為に拍車がかかる。

つまり、どうのこうも言いつつもアントハトナ老の存在がある程度抑止力となっていたのは否めないと言ったところだろう。

それに、リットーミン商会に至っては代表が来ないだけでなく、代理人さえ立てていないありさまであった。

もっとも、代表のポランド・リットーミンは完全に連盟を見限ってそのほとんどの資本と人材をアルンカス王国に移しており、今の連盟には抜け殻同然の商会本部と数名のスタッフがいるのみだ。

だが、あからさまにそうするわけにはいかなかったから、さすがに偽装はして他の商会やアントハトナ老にバレないように工作をしている。

そんな中、欠席している席に視線が行ったのだろう。

一人が口にしたことで彼らの話題は連邦とフソウ連合の戦いの事から、欠席が目立つリットーミン商会に移った。

「また、欠席ですか……」

代表の一人が呆れた様に呟く。

その言葉には、見下しと侮蔑の色が強く出ている。

彼らからは、中、小商人に恩を売るような無理な買取をしていた結果、リットーミン商会は連盟の植民地にある物件のほとんどを手放してしまっており、今は大事な会議を欠席してでも何とか資金を集めるために世界中を飛び回っていると思われていた。

だから、そんなドジを踏んでしまった哀れな男という印象が強いのだ。

「見栄を張ってしまった後始末で、ついに尻に火がついたようですな」

「確かに。あれはかなりの大金を使ったと聞きますからな。馬鹿な男ですよ」

「先代もあの世で嘆いている事でしょうな」

「ああいった無能な男が跡継ぎとは……なぁ……」

「しかし、こんなに会議を欠席するのでは、意味がないですな」

「ええ。確かに。それにあの男は生意気でしたからなぁ……」

「そうそう。口だけは偉そうなことを言っていたようですがねぇ」

「そうだ。いっそのこと、十二人会議から追放というのはどうです?もっとも、何年先まであの商会があるかは微妙ですが……」

「ふむ。それはいい。どうせいてもいなくても変わらないのですからなぁ」

会議室の至る所から嘲笑が漏れる。

それらの侮蔑の言葉は、今回の資金がフソウ連合から出ていて、リットーミン商会は損をするどころかかなりの儲けさえ出していることを知らないがために出る言葉であり、考えであった。

だが、彼らにしてみても、実に頭の痛い話ばかりが続いている以上、自分達よりも悲惨なものがいるという事を確認し、安堵したかっただけなのかもしれなかった。

だがそんな代表達の話を代理人ムンダスト・リンクルベリーはただ微笑んで聞いている。

もっとも、心の中では呆れ返っていた。

リットーミン商会がいくつかの商談を成功させ、かなり利益を上げているという情報は掴んでいたからなおさらである。

本当は、反対にお前たちが見捨てられる存在なんだというのに何を言ってるのかと思いながら……。

そして胸ポケットから愛用の懐中時計を取り出す。

アントハトナ老から頂いた十五年前からの愛用品だ。

時間は、十四時二十五分になろうかというところだろう。

ふむ。そろそろか……。

そう思いつつ、あと少しでこの馬鹿共の話を聞かなくて済むと思うと、思わずニヤけそうになってしまいそうになるのを必死で抑える。

そして、時計の長針が一番下を刺した時、建物の外が騒がしくなった。

もっとも、ここ最近はデモなどが頻回にあるので会議出席者はうんざりした顔はしたが、気にも留めない様子だった。

「すみません。少し用事がある為、席を外します。よろしいですかな?」

代理人のその言葉に、議長が答える。

「ええ。構いませんよ」

「すみません」

代理人はそう言うとドアから会議室を退出する。

今から起こることに巻き込まれないために……。

そして、代理人が退出して五分もしないうちにドアが荒々しく開けられた。

バンッ!!

その音に、会議室の中が一瞬でシーンとなり、その場にいた者達の動きが止まって視線がドアに向けられた。

開いたドアに視線が集まる中、ドカドカと派手な足音を立てて十数人の男達が会議室になだれ込む。

軍帽のようなものをかぶり、小銃を構えている。

それは兵士の様であったが、大きく違う点があった。

全員が、赤色のシャツを着ている事である。

『赤シャツ団』

最近勢力を伸ばしてきた権利主張をする団体のメンバーたちだ。

全員が結構な体格の屈強な感じの男達で、彼らは会議出席者たちを取り囲むように部屋の隅に並ぶ。

いきなりの事に驚く出席者たちであったが、議長が我に返って叫ぶように口を開いた。

「き、君たちは何者かね?ここは君たちのような……」

しかし、すぐに口は閉じられることとなる。

隊長らしき男の銃が火を噴き、議長の頭の上にある照明を壊したのだ。

銃声と破壊音。

その派手な音色が奏でる音が辺りに響き、一気にシーンと辺りは静まり返る。

議長の顔色が、さーっと怒りの赤から青になり、そして最後は白になった。

もっとも、議長だけではない。

その場にいた者達のほとんどが似たような顔色になっていた。

「ふむ。静かになったようだ」

隊長らしき男が会議室内を見渡して満足げに頷くと、踵を合わせて背筋を伸ばす。

「団長、入場」

その隊長の掛け声に合わせる様に、会議室の壁際に並んでいた十数人の男達も背筋を伸ばした。

緊張感が漂う中、ただカッカッという足音が響き、開かれたドアから、迎え入れられたように一人の男が姿を現した。

その男は、赤いシャツを着てはいたが、周りの男に比べると異質であった。

周りの男達とは一回り以上も背が低い小男で、卑屈そうな顔と鼻下に整えられたチョビ髭を生やしている。

周りの男達とは対照的と言っていいだろうか。

それほど違いすぎていた。

そんな小男が入ってくるなり、隊長らしき男は敬礼した。

それに合わせて壁に並んでいる男達も敬礼する。

その様子は、最近人気になっているずるい小男が屈強な兵士たちをてんてこ舞いさせるコメディの舞台のようであり、まさに滑稽と表現するのが正しい光景である。

だが、今目の前に展開されているものは間違いなく現実であり、劇や舞台ではない。

その証拠に、照明の一つは壊され、会議の出席者たちを恐怖のどん底に叩き落した。

出席者誰もが恐怖に震える中、小男は楽し気に会議室内に入る。

「うむ……。実に立派なものだ。実に贅沢なつくりだな」

「はっ。実にその通りであります」

小男の言葉に、隊長らしき男が同意を示す。

その言葉に、満足げに頷いた後、小男はわざとらしく出席者を見て微笑んだ。

「おっと、失礼。皆様がおられるのでしたな」

そしてゆっくりと頭を下げる。

それはサーカスのピエロが大げさに頭を下げるのに似ていた。

そして顔を上げると楽し気に口を開いた。

「うんうん。皆さんおそろいのようで、実にうれしい限りだ」

ニタニタ笑いを浮かべて、芝居がかった大げさなジェスチャーを交えつつ出席者全員の顔を見回す。

「私は、皆さんよくご存じの『赤シャツ団』団長、トラッヒ・アンベンダードです。今回は、皆さま十二人会議の出席権利を持つ大商人の皆様からとある権利を譲渡していただきたく参上いたしました」

その言葉に、誰もが何のことを言っているのかよくわからないでいる。

だが、今発言すれば壊された照明の仲間入りしそうな雰囲気に圧されて何も言えないでいた。

誰もが黙り込む中、少し間を開けて議長が震える声で恐る恐るといった感じで聞き返す。

「な、なんの、け、権利だというのだ?」

「この国を統べる権利でございますよ」

その言葉に、我を忘れたのだろう。

短気な出席者の一人が叫ぶように抗議の言葉を口にした。

「貴様に、そんな権利など……」

だが、言葉は続かない。

その出席者は、壊れた照明の仲間入りをしたのだ。

銃声が響いた後、頭がザクロのように割れ辺りを赤く染めて……。

「ひぃぃぃぃぃぃっ」

怯えた声がいくつも上がり、顔を強張らせて力なく座り込むか、唖然として動けなくなってしまうかのどちらかの選択を無意識に出席者全員が行う。

おまけに、中には恐怖のあまり失禁する者もいた。

豪華な服を身にまとっている分、その有様は実に醜いと言っていい姿だった。

トラッヒ・アンベンダートもそう感じたのだろう。

一瞬、眉をひそめたものの、すぐに大げさな笑顔を浮かべる。

「ふむ。反対はございませんな。では、譲渡されたと判断いたしますぞ。ありがとうございました」

小男、トラッヒ・アンベンダードはまた最初と同じ様に大げさに頭を下げる。

そして、呟くように言った。

「始末しろ」

その言葉は冷酷な感情に満たされ、トラッヒ・アンベンダードの顔には残酷な笑みが浮かぶ。

そして、彼は会議室を退室した。

銃声と叫び声と悲鳴をバックに受けつつ……。

こうして後の連盟の『血の惨劇』と呼ばれる革命が始まった。

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