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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十六章 キナリア列島攻防戦

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公国と帝国の反応  その2

「情報通りに連邦の艦隊は動いたようです」

その報告に、公国の最高責任者であり、軍の最高司令官であるノンナ・エザヴェータ・ショウメリアはニコリと微笑んだ。

それは可憐な女性の微笑みではあったが、その笑みに含まれる冷たさに報告を上げた国防衛隊長官ビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードルは背筋にぞくりと寒気を覚える。

美人過ぎるが故に、含み笑いは凄みを増していた。

そんなビルスキーアを見てノンナが口を開く。

「我々の艦隊の準備はどうかしら?」

そう聞かれると思っていたてのだろう。

ビルスキーアはすぐに返答をする。

「そうですね。一部まだ準備不足の部分が見受けられますが、作戦再開に支障はない程度かと……」

「そう。ならばカルトックス島湾で待機している艦隊に作戦の再開を伝えて。それと国境最前線の陸軍指揮官に敵連邦の動きや反応を逐一報告するように指示をしておいてくれる?」

そう言った後、ノンナは立ち上がると壁に貼り付けてある地図の側まで行きある一転を指さした。

「作戦再開は、ここから始めましょう」

その指先にあるのは、軍港フルターキーナ。

以前の作戦で、魚雷艇の波状攻撃の為に後退を余儀なくされた場所で、旧帝国の海軍によっては八大軍港と呼ばれる軍港の一つでもあり、今は連邦において最大規模の造船施設を持つ港であった。

つまり、連邦においては最大規模の重要拠点の一つであった。

「復帰戦でいきなりですか?」

そう聞き返すビルスキーアに、少し茶目っ気のある笑いを浮かべてノンナは言う。

「だからよ。それにここを潰せば、もう連邦に海上で戦う戦力を構築する力はなくなるわ」

「確かに……」

「それにね、フソウ連合が負けたとしても、ここを潰せば、連中は新造艦を作るどころか修理さえままならなくなるのは間違いないしね」

予想外の言葉に、ビルスキーアは驚いた表情になる。

「ノンナ様は、フソウ連合が負けると?」

その言葉に、ノンナは楽しそうに笑う。

「まさか。そんな訳ある訳ないじゃない。物の例えという奴よ。私はよほどのことがない限りフソウ連合の勝利は揺るがないと見ているわ。まぁ、フソウ連合側がどれだけの被害を受けるかは予想がつかないけどね。あなたはどう思っているの、ビルスキーア」

そう聞かれてビルスキーアは悩む間もなく即答する。

「今のフソウ連合に海戦で勝てる国などないでしょう。対抗できるとしても恐らく海賊国家ぐらいですか……。寄せ集めの連邦海軍などまず全く歯が立たないで叩き潰されるのが落ちでしょう」

「やっぱりそう思うわよね。だからね……」

ノンナが目を細めてずる賀しそうな笑みを浮かべる。

「その力を精々我々の為に都合よく使わせてもらうだけで今のところは十分だから。クスクスクス……」

「わかりました。精々我々の為に頑張ってもらいましょう、フソウ連合には……」

そう言って笑うとビルスキーアは敬礼して退室していく。

そして入れ替わるように一人の男が入室してきた。

公国情報部部長アンドレイ・トルベツコイ。

元帝国海軍諜報部出身であり、今はビルスキーアと同じくノンナに忠誠を誓う側近の一人でもある。

もっとも、ビルスキーアがノンナに対しての恩と才能に惹かれて忠誠を誓っているのと違い、彼の場合は、現帝国皇帝アデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチに個人的な恨みがあり、それを晴らすためにノンナに忠誠を誓っている。

その為か、ビルスキーアとは反りが合わない様子だが、それでも同じ人物を主として敬う以上、そういった事は表に出さないように努めている様子だ。

もちろん、ビルスキーアも同様である。

だから、すれ違いざまに互いにちらりと視線を向けたものの、何も言わずスルーしていた。

そんな様子を楽し気にノンナは見ていたが、自分の前に来て敬礼するアンドレイに微笑むと口を開く。

「珍しいね。自ら来るとは……」

そう聞かれてアンドレイは苦笑した。

ここ最近は、連邦や帝国の諜報だけでなく、国外の諸外国への諜報も広げて行っている為、以前よりかなり忙しくなってしまっていた。

その為、報告書は間違いなく届くもののアンドレイ自身はいろいろと動き飛び回っていた。

「いや、さすがにそろそろ顔を出しておこうかと……」

そう言って、アンドレイはカバンから報告書を提出した。

それをノンナは受け取り報告書に視線を落とす。

タイトルは『現状の帝国の状況と戦力について』となっていた。

そう言う事か……。

ノンナは心の中で苦笑する。

要は、自分の主が帝国を、いやアデリナを潰す為に動くか確認しに来たといったところだろう。

だから、ノンナは微笑みつつ報告書を受け取り、椅子に座るとざっとではあるが報告書に目を通す。

その間、アンドレイは身動き一つせずただ黙って自分の主を見ていた。

そして、読み終えると、ノンナは視線を報告書からアンドレイに向ける。

「貴官はどういった印象を受けたかな?」

その質問に、アンドレイは怪訝そうな顔をする。

質問の意味が判らなかったのだ。

だから聞き返す。

「印象、ですか?」

「ああ。どんなものでもいいよ。現場からの情報を直に受ける君がどんな感想を持ったのか知りたくてね」

そう言われてアンドレイは少し考えた後、しかめると忌々しそうに口を開いた。

「そうですね。個人的な感情などを取り除いた場合では、帝国はジリ貧ながらにもうまくやっている印象です。現に国力、戦力共に少しずつではありますが上向きになっていますし、国民の支持や兵士の士気もかなり高いと言わざる得ません」

「そう……。それは今の皇帝には王才があるってことかしらね?」

「どういった能力を王才と言うのかはわかりませんが、一つだけ言えることは、部下をうまくまとめ、導く手腕は間違いなく一流だという事です」

そう言いつつも、ますます嫌悪感が増したのだろう。

眉間に深い皺が刻まれる。

まぁ、殺したいほど憎い相手を褒めなければいけないのだ。

心の中ではものすごい憎悪の炎が辺りを焦がし燃やしているのだろう。

ノンナはそんな心中が判り、心の中で苦笑する。

だが、それでも聞く。

「それで、帝国は我々の脅威になりえるかな?」

「まだまだといったところでしょうか。国力もですが、何より海上戦力の差が大きいですな。それを覆す為には、その差を縮めるかフソウ連合でも抱き込まない限り無理でしょうな、今のところは……」

その言葉にノンナも同意を示す。

今、帝国には、ドイッチュラント級装甲艦三隻、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦一隻、Z型駆逐艦六隻があるが、それらだけでは、今の公国の海上戦力には勝てないだろう。

公国には、大型戦艦ビスマルクは健在であるし、それ以外にも巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウの二隻に、フソウ連合から峯風型駆逐艦の簡易改造艦(公国名称は、シンタークラット級駆逐艦)六隻がある。

それに他の艦艇の数も大きく違っている。その戦力比は、2:1といったところだろうか。

その数と火力の差は余りにも大きい。

だが、油断は禁物である。

「恐らく、連邦への攻勢を再開すれば、間違いなく帝国は動き出すだろう。より警戒を怠るな」

それは帝国と戦うという隠れた意思表示でもある。

それが判ったのだろう。

アンドレイは頷くと敬礼する。

「はっ。了解いたしました」

そして、退室した。

満足いく答えを得たという満身の笑みを浮かべて……。



こうして、公国は動き出す。

三国による均衡が大きく崩れたのだから……。

そして、それは残されたもう一つの国、帝国も同じであった。

連邦がフソウ連合に攻勢を仕掛けるための艦隊が出港したという情報は直ぐに帝国の上層部に報告された。

そして、この動きからわかることは、連邦はこの戦いで大きく戦力を失うことになるという事だ。

それは、三国の何とか保っていた均衡をぶっ壊すには大きすぎる起爆剤であった。

「公国は、動きますかね?」

そう聞いてくるのは現帝国皇帝であるアデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチの副官であり、今や細かな業務を取りまとめる秘書官を兼任するゴリツィン大佐だ。

彼は軍人としての才は三流であったが、副官として主を支える才能は一流といってよかった。

もっとも、本人は以前の自分の所業が後ろめたいのか、そんな言葉も偶々だよと言って受け流していたが……。

その問いに、アデリナははっきりと言い切る。

「ああ、動くよ。彼女なら絶対にこんな好機は見逃さない……」

それは、確信がある自信に満ちた言葉であった。

その言葉に、会議室に集まった面子はそれぞれの表情で反応を示す。

ある者は苦虫を潰したような、またある者は考え込んでいるような、そしてある者は困り切ったような……。

その表情は様々だが、全員の考えは一緒であった。

間違いなく帝国にも火の粉は飛び散りると……。

そんな困惑の渦巻く静まり返った中、低い笑い声が響く。

誰もが驚き、笑い声の先に視線を移した。

笑っていたのは、アデリナだった。

彼女は呟くように言う。

「いいわ、ノンナ。そろそろ休息の時間は終わりってことよね」

そう言った後、彼女は宣言する。

「公国は、間違いなく連邦を叩き潰すでしょう。ですが、我々は黙ってそれに付き合う必要はない。だから……」

ニタリと笑みを浮かべると言葉を続けた。

「タイミングを見て横っ面をひっぱたいてやろうじゃないの。私たちを舐めるなと」

その言葉に、沈み込んでいたその場にいた者達から歓声が上がる。

「そうだ。黙ってやられるのを待つのは性分じゃないしな」

「連中に一泡吹かせてやりましょう」

「そうだ。そうだ。我々を舐めた報いを受けさせましょう」

「まずは、連中の動きが判らねばどうしょうもない。情報収集をより活発化させなければ」

「それと前線の警戒も厳重にすべきだ。恐らく連邦に向かうと思うが、裏をかいてこっちに来る可能性もあるしな」

「うむ。あり得るな。不意を突かれぬように注意だけは怠らないようにしなければ……」

「それと予備兵力の準備も始める必要があるぞ。一気に戦局が変わる恐れもあるからな」

「あと、艦隊の方はどうなっている?真正面から戦っての勝利は難しいかもしれんが、やりょうはあるからな」

「確かに。確かに。戦力が直接の戦闘能力ではないことを思い知らせなければな」

次々と意見が出て、それに対応策がそれぞれから出されていく。

それは激しい議論ではあったが、熱さがあった。

そして、その光景を見て、その声を聞いて、アデリナは満足げに微笑んでいた。

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