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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十六章 キナリア列島攻防戦

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キナリア列島攻防戦  その4

「第一から第三水雷戦隊より入電。『我、砲雷撃戦ニ移ル』以上です」

「第四水雷戦隊から報告。『コレヨリ 転進シ反撃ニ移ル』だそうです」

「偵察ニーマルサンより『敵艦隊ニ 水雷戦隊攻撃開始ヲ確認ス』と報告きました」

次々と上がってくるそれらの報告に、旗艦大和の艦橋に歓声が上がった。

艦隊総指揮を任せられている山本大将も作戦の第一段階が問題なく進行しているのを確認し、ふーと息を吐き出す。

その様子は、少し肩の荷が下りたという感じだった。

だからだろうか。

「うまくいっているようですな」

戦艦大和の付喪神がちらりと山本大将にちらりと視線を向け、口角を少し上げて声をかける。

「今のところは、だな。次は我々の番だ」

そう答えつつ、山本大将は表情を引き締めて前方に広がる海を睨みつけるように見た。

晴れて雲一つない空と穏やかな海は、これからの戦いを知らずに安穏としているように感じられる。

「ええ。おっしゃる通りですな」

大和の言葉に、頷いた山本大将は、視線を後ろに向けて聞く。

「第一戦隊の方はどうか?」

その言葉に、通信兵がすぐに機械を操作し、返信があったのだろう。すぐに返事を返してくる。

「はっ。『作戦ヲ遂行ス』と返信あり」

「ならば我々も……」

大和がニタリと笑う。

その笑みは実に頼もしい。

「よし。全艦に伝達。これより敵主力に攻撃を仕掛ける。それぞれその奮戦を期待する。以上だ」

「はっ。了解しました」

通信兵が再び機械にかじりつくように操作を開始し、艦内が慌ただしくなる。

こうして、先に基地や港を掌握し、救援に来たフソウ連合海軍の艦隊を待ち伏せして叩き潰すという連邦のあまりにも自分に都合がいい戦略は、今や完全に崩れ去ってしまっていた。



二つの戦隊と四つの水雷戦隊が連邦の主力に攻撃を仕掛けた頃、後方に展開している第二航空戦隊、通称二航戦も動き始めていた。

正確に言うと、もっと前から動いていたと言っていいだろう。

敵連邦艦隊の動きや周辺海域の状況などを把握するため、早朝から二航戦の偵察部隊はかなりの範囲に展開している。

もちろん、基地の水上機部隊や二つの戦隊の水上機も展開していたが、それでもやはり全体を掌握し、動きを各艦隊に伝えている中核となって動いているのは二航戦であった。

そして、彼らの役割はそれだけではない。

連邦の後方に位置する支援艦隊への攻撃を行うのだ。

今、蒼龍の甲板上では、ずらりと艦上攻撃機天山と艦上爆撃機彗星を中心とした攻撃隊の準備が続いている。

なお、今回の航空隊は、作戦に合わせて戦闘機隊と偵察機隊を飛龍が、攻撃機と爆撃機は蒼龍がメインで編成されている。

恐らく、今頃は飛龍の甲板上では、迎撃用の戦闘機隊と入れ替わりで展開するための偵察機隊の準備でこちらと変わらないくらい大忙しだろう。

そんなことを思いつつ、二航戦の指揮を任された鬼龍院大尉は甲板に視線を移す。

そこには攻撃隊を率いる金丸少尉が部下たちに指示と注意を行っているのが見えた。

金丸一郎少尉。

元々は翔鶴航空隊の攻撃隊に所属する凄腕のパイロットで、初の空母同士の戦いになったパガーラン海海戦に参戦。

運悪く撃墜されたものの、かすり傷程度で王国の商船に拾われ、無事帰国を果たす。

しかし、帰国するまでに時間がかかったため復帰した時には翔鶴隊は新しい編成が終わってしまって行き場がなく、また経験を生かす為にパイロット育成教官として働いていたのを、二航戦の攻撃隊のまとめ役として引き抜いたのである。

そして、彼が赴任してからというもの、二航戦攻撃隊の熟練度はめきめき上昇した。

恐らくだが、一航戦と遜色ないレベルだと鬼龍院大尉は思っている。

だからだろうか。

指導、指示する金丸少尉を見ていて、口から言葉が漏れた。

「先輩には悪いけど、いい人材を引き抜けたよ。本当に……」

その言葉に、横にいた航空母艦蒼龍の付喪神が頷きつつ声をかける。

「確かに。おかげで私としてもうれしい限りですよ。これで一航戦不在の間、思いっきり暴れられます」

その言葉と浮かぶ笑みからは、一航戦に負けたくないという思いがひしひしと伝わってきた。

翔鶴型や赤城、加賀などの大型空母に比べてどうしても小さい分、中型空母の蒼龍や飛龍の搭載機体数は少ない。

それは、搭載する飛行機によってあらゆる能力を左右される空母にとって大きく作用する。

防空、攻撃、索敵、あらゆる能力がだ。

その搭載機が少ないという事で生じる劣る点を、蒼龍はパイロットの技量や熟練度でカバーすることが出来るのではと考えている。

そして、金丸少尉が赴任してから、その考えは間違っていないと思っていた。

だから、ついつい言葉として出てしまったのだろう。

そんな気持ちが判ったのだろうか。

鬼龍院大尉は、笑みを浮かべる。

「ああ、フソウ連合に二航戦ありと言われるように頑張ろう」

「ええ」

二人は互いを見て頷きあっていた。



「いいかっ、相手の反撃はそれほど激しくないはずだ。しかし、油断するな。わずかな油断でさえも死につながる。それが戦場だからな」

金丸少尉の言葉に、蒼龍の攻撃部隊のパイロットたちは声をそろえて返事を返す。

「「「了解しました」」」

その返事に金丸少尉は満足そうに頷くと敬礼する。

「それでは、皆の奮戦を期待する」

「「「はっ」」」

パイロットたちも返礼し、それぞれ自分の機体に走って向かう。

そこには、準備万端でパイロットたちが乗り込んてくるのを待っている愛機達がいた。

金丸少尉も自分の新しい愛機に乗り込む。

艦上攻撃機 彗星。

九九艦爆に代わるフソウ連合次期主力艦爆であり、性能はかなり向上している。

特にその高い高速性は、戦闘機に匹敵するほどであったが、その速力の為か発着にかなりのコツが必要であった。

ある意味、九九艦爆に比べてじゃじゃ馬と言っていいだろう。

だが、それ故に乗りこなすことが出来れば、その差はかなりのものであった。

実際、金丸少尉は、前回の戦いのときに彗星であれば撃墜されることはなかっただろうと感じたほどであった。

「おかえりなさい、金丸さん。機体の準備は整ってます」

九九艦爆のころからの相棒である田組飛行兵曹長が乗り込んできた金丸少尉に声をかける。

「そうか。間もなく発進の指示が出るだろう。気合を入れるぞ」

「勿論です。後輩たちに無様な格好は見せられませんからね」

「そういう事だ」

そんな会話をしているとエンジンがかけられ、甲板の誘導員が発艦の合図である旗を振り下ろす。

最後まで機体にとりついていた整備員が機体から離れつつ言葉をかける。

「戦果と無事な帰艦を」

「ああ。任せろ」

そう返事を返すと、金丸少尉は風防を閉める。

「よっしゃ、いくぞ」

車輪止めが外され、最初はゆっくりと、そして段々と速力を増して機体が甲板を疾走し、そして舞い上がっていく。

こうして彗星と天山によって編成された第一次攻撃隊二十八機は発艦し、連邦支援部隊に向かって機首を向けたのであった。



「蒼龍より攻撃隊発艦し始めました」

その報告に、飛龍に乗り込んでいた北山少尉はちらりと蒼龍の方に視線を向ける。

しかし、すぐに飛龍の甲板に視線を戻すと口を開く。

「迎撃隊の準備、出来ているな?」

「はっ。問題なく」

そう答えたのは、少尉の一歩後ろに立っている飛龍の付喪神だ。

「そうか。何があるかわからないからな。それと索敵している機体の方はどうだ?」

「今のところは何も報告ありません」

通信兵がそう答える。

だが、すぐにその言葉は否定された。

「すみません。基地偵察部隊から報告です。『不審ナ水上機ヲ発見ス。場所ハナンカハール島南東十二キロ』」

すぐに海図に視線を向ける北山少尉。

「国籍は?」

「塗りつぶしてあるのか確認できなかったみたいです」

その言葉に、飛龍が口を開く。

「少尉、もしかして……」

その問いに、忌々しそうに北山少尉が答える。

「ああ、恐らくサネホーンの連中だろうな。交渉中とはいえ、うまくいかなかった場合の事を考えて、少しでもこっちの戦力情報を集めておこうという腹積もりだろうよ」

そして、すぐに命令を下した。

「迎撃隊を出せ。未確認機を戦場には近づけさせるな。それと付近に展開している彩雲と基地の水上機隊に海域を探させろ。恐らくだが艦艇がいるはずだ」

その命令を受け、艦内が慌ただしくなる。

そんな中、飛龍がすーっと北山少尉に近づくと囁くように聞く。

「どうするおつもりですか?」

「どういう意味だ?」

北山少尉は怪訝そうな顔で顔で聞き返す。

「いえ。もし発見したら……」

「接近する水上機や発見した艦艇には警告はする」

「それで従わない場合は?」

伺うような表情でそう聞いてくる飛龍に、北上少尉はただ短く答えた。

「俺が受けた命令は、戦場に誰も近づけるなという事だ。例えそれが交渉中の相手でもそれを遂行するだけよ」

その言葉に、飛龍は満足そうな笑みを浮かべる。

「攻撃隊の準備をしておくように伝えておきます」

確かに今回の作戦の編成の為、飛龍の搭載しているのは、戦闘機と偵察機メインではあるが、それでも彗星四機、天山四機が搭載されていた。

「ああ。何があるかわからんからな。念のためにな」

『念のため』という部分を強調しつつ、北山少尉は答える。

その言葉には、決心が強く感じられた。

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