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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十六章 キナリア列島攻防戦

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キナリア列島攻防戦  その1

年明けの一月四日以降、ゆっくりとだがフソウ連合は通常に戻りつつあった。

それは海軍とて同じである。

緊急事態に対応するため最低限の人員は残ってはいたが、特に何も問題はなく、年末年始に休暇を取っていた者たちが戻ってきたのと切り替わる形で年末年始に待機していた者達が休暇を取り始める。

前年と違い、本年度は人事も部隊編成も四月に変更になった関係でのんびりとした雰囲気があった。

実際、海賊国家サネホーンとの交渉は一月下旬再開予定であり、唯一懸念材料であったルル・イファン人民共和国に向かった外洋艦隊の件も、一月六日に中継基地より問題なく連盟海軍の海上封鎖艦隊を追い出し入国したという報告があった。

その為、問題はなかったはずであった。

しかし、一月七日の夕方、とんでもない情報が飛び込んでくる。

それは、連邦が百隻の大艦隊を率いてフソウ連合に攻勢を仕掛けるというものであった。

情報の出どころは、公国からである。

その情報を最初に受け取ったのは、フソウ連合海軍参謀本部本部長の新見正人中将であった。

その時、鍋島長官は海軍本部にはおらず、シュウホン地区にいた。

年始に行われるフソウ連合首都の議会に参加していたのである。

普段なら地区代表代理の三島晴海や外交部補佐官の中田中佐などが参加していたが、さすがに年始の会議ぐらいは本人が顔を出さないと拙いと思ったのだろう。

「まぁ、行きたくないけど、これも仕事と諦めて行ってくるよ。何もないと思うけど、何かあったらよろしく頼む」

そう伝言して留守にしていた。

だから、まずこの情報を受け取ったのは留守を任されていた新見中将で、彼はこの情報をすぐに長官に報告するか迷った。

あまりにもあり得ないことであり、偽情報(フェイク)の可能性が高いと感じたからだ。

実際、海賊国家サネホーンとの交渉が始まってからフソウ連合を混乱させる目的の為か、かなりのいろいろな偽情報(フェイク)が流されていたし、何より休戦も講和もしていないものの、連邦とフソウ連合は互いに無視しあう事である意味平穏な関係を形成しており、連邦にしてもフソウ連合が憎くても公国、帝国との戦いが激しさを増す中、戦う相手を増やすような最悪の悪手、愚を起こさないと思ったのも大きかった。

そこで新見中将は、情報の確認を諜報部に命令、そして艦隊司令の山本大将の方に報告を入れる。

報告を受けた山本大将も偽情報(フェイク)の可能性が高いと思ったものの、情報の確認には時間がかかる場合も多く、時間を失うリスクを考え一応長官に知らせてはどうだろうかと提案する。

その提案を受け、新見中将は、翌日には鍋島長官に報告を入れたのであった。

報告を受けたとき、鍋島長官は会議の途中であった。

イタオウ地区の復興とフソウ連合の交通網の状況、それとアルンカス王国との貿易の報告が終わり、ほっと一息ついた時であった。

そんな時に、外部の呼び出しを受けて席を離していた東郷大尉が慌てたようにやってくると、鍋島長官にボードを差し出す。

そのボードにはさまれた紙には、未確認情報ながら連邦が我が国に攻勢をかける恐れがあるという情報について書かれていた。

他の地区の代表の報告を聞きながら内容を読む鍋島長官。

あり得る可能性は限りなく低い。

彼もそう考えたのだろう。

しかし、彼はそんなに迷うことなくすぐに少し顔を後ろに向けるとちょいちょいと手を動かして東郷大尉を呼ぶ。

そして、東郷大尉が後ろに来るとボードの紙にさらさらと何かを書き、ボードごと東郷大尉に手渡した。

それを受け取り、さっと目を通す東郷大尉。

書かれた内容を確認すると、鍋島長官の耳元で何やらボソボソと話した後、退出していった。

それに気がついたのだろう。

議会の議長であるガサ地区の代表である角間真澄が少し怪訝そうな顔で聞いてくる。

「何やら問題でも起こったのかな?」

その言葉に、鍋島長官は苦笑を漏らしつつ返事を返した。

「いえ。大丈夫です。それに未確認な事なので、より確かな確証を得てから報告したいと思っております」

その言葉に、角間真澄はニタリと笑う。

「相変わらずですな」

「すみません。性分なもので……」

そう言いつつ照れたように頭をかく鍋島長官。

その様子から本当に大丈夫なのだろうと判断し、角間真澄はそれ以上追及を行わなかった。

しかし、後に確認が取れたと言われて報告された連邦のフソウ連合への攻勢が始まるという内容に、この男にうまく騙されたと痛感するのであった。



「長官からはなんと?」

長官から無線で返信された内容が書かれている紙を見て苦笑する新見中将に、一緒に返信を待っていた山本大将がそう声をかける。

その声と態度からは、気になって仕方ないといった感じを受ける。

実際、何かあった場合、前線で動くのは、実行部隊であり、山本大将が管理する連合艦隊である。

だから、気が気ではないのだろう。

山本大将の問いに、新見中将は見ていた紙を手渡す。

その紙には、連邦の港に潜水艦の派遣と情報の確認、それに侵攻に対しての艦隊と人事の編成を行うようにという命令が書かれていた。

それを見て山本大将は呟くように言う。

「長官は、侵攻があると踏んでおられるのだろうか?」

「わからん。だが、情報の真偽がはっきりするまでは恐らく侵攻があった場合の事を考えて動かれるようだな」

新見中将はそう答えつつ苦笑を漏らす。

実に用心深い人だと思いながら。

そう言えば、以前、王国のアイリッシュ殿下にその用心深さについて聞かれた際、長官は用心はしすぎるって事はないし無駄になったときは、笑えばいいだけと答えたという。

確かにその通りだ。

また、帝国と共和国の侵攻があった時も報告のなかった予想外の艦隊の発見にも落ち着いて対応されていた。

それは念のためにという事で用意されていた戦力があったことと、長官の指揮、それに的場大佐率いる艦隊の奮戦があったからだ。

上に立つ人は、予想外の事も想定し、いざという時はきちんと対処せねばならない。

何かあってからでは遅いのだと。

それは山本大将も感じたのだろう。

二人は互いの顔を見合わせると、頷きあう。

互いにできることをしっかりやろうと。

そこにはもう年明けののんびりした雰囲気はなかった。

「明日の夕方には、長官は戻られるだろう。それまでにできることをしっかりやっておくぞ」

「ああ、もちろんだとも」

二人はそう言って笑いあった。

そして翌日の夕方、会議に疲れ切って戻ってきた鍋島長官のデスクの上には、連邦の侵攻に対しての艦隊編成と人事の草案、それに予想される侵攻ルートについて書かれた分厚い書類が載せられていた。

その報告書を見て、鍋島長官は思わず苦笑して呟く。

「相変わらず仕事が早いなぁ、あの二人は……」

その言葉に、一緒に入室した東郷大尉が笑いつつ答える。

「お二人とも長官の信頼に応えようとお考えなのでしょう」

「それはわかるしうれしいんだけど、まだ時間があるし、情報の真偽もはっきりしていないから無理しなくてもいいんだけどね」

そう言いつつも、長官の口元がニヤけていた。

そして、椅子に座ると報告書を手に取る鍋島長官を見てくすくすと笑いつつ東郷大尉は退室していく。

コーヒーを煎れるために。



こうして、フソウ連合海軍はすぐに対応を始め、一週間後、潜水艦からもたらされた連邦艦艇の動きの報告と公国からもたらされたより詳しい確実な情報により、連邦の攻勢がある事が確定された。

そしてそのころには、すでにフソウ連合側の艦隊編成と人事は完了し、連携の為の訓練が開始され、いつでも対応できる準備が整いつつあった。

そして、一月二十五日。

集まった連邦の艦隊が南のハンリスト港から順次出港し始める。

その総数は、補給の支援艦を含めると実に二百隻に近い。

もっとも、支援艦のほとんどは小型艦であったから、補給物資の関係上、それだけの数が必要になったためであったが……。

それでも戦闘艦は百二十二隻。

火力と数だけを見れば実に圧倒的な戦力であり、参加艦船は連邦が保有する大型中型艦船の実にほぼ十割に匹敵する。

つまり、後に残されたのは、小型の輸送船や湾岸警備用の砲艦、公国艦隊に対抗するために大量生産された魚雷艇のみという有様であった。

そして同じ頃、フソウ連合海軍連合艦隊も行動を開始した。

その戦力は、連邦の実に三割程度の六十六隻。

しかし、その戦力は侮れないものだ。

主力は、高速戦艦二隻、戦艦二隻、空母二隻、重巡洋艦四隻、防空巡洋艦一隻を中核とする二つの打撃戦隊と一つの航空戦隊、それに軽巡洋艦一隻と駆逐艦三隻で構成される水雷戦隊が四つの四十三隻。

また、その主力の支援として、輸送艦や給油艦などの支援艦艇、さらに潜水艦を含む二十三隻が参加している。

こうして、海賊国家サネホーンとの交渉が再開されたその日、両国は激突すべく艦隊を進めたのであった。

決戦の地、キナリア列島に向けて……。

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