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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三章 二つの世界の間で

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襲来   東郷夏美の場合… その1

「はぁ…。あー、もうやだ…」

思わず愚痴とため息が出る。

読み終わった手紙をデスクに置くと、頭を抱えてしまう。

どうしょう…。

焦りから頭が回っていないのがわかる。

しかし、時間がない…。

まさかこんな事になるなんて…。

逃げ出そうかとも思ったが、それは出来そうにないしなぁ…。

長官、急な出張とかないかなぁ。

それがあれば一緒に逃げるのに…。

そんな妄想さえ抱いてしまう。

はぁ…。

またため息が無意識のうちに出た。

その時だった。

「どうした?なんか心配事か?」

すぐ傍でいつも聞く声がする。

飛び上がらんばかりに驚いて声の方に顔を向けると、心配そうな顔でこっちを見ている人物がいた。

「ち、長官っ…」

そう、私の直属の上司であり、今やフソウ連合の外交交渉部と軍事部の責任者でフソウ連合海軍の最高司令長官兼マシナガ地区責任者の鍋島長官だ。

本人は、こんな肩書きも責任も負いたくないとぼやくのだが、そう言いつつも何とかやってしまうのだから、みんな期待して背負うものが増えていっているのは気のせいではないだろう。

つまり、本人が思っている以上に周りの評価は高いのだ。

まぁ、全員とは言わないまでも、少なくとも私の周りでは彼の事を悪く評価する人はいない。

まさに能ある鷹は爪を隠すという諺にぴったりだと思うが、それを言ったら三島さんに豪快に笑われた。

ともかく、そんな人が私を心配そうな顔で見ていた。

「い、いつの間に…」

「いや、コーヒー飲むついでに休憩しようかなと今出てきたところだよ」

「そ、そうですか…」

まったく気がつかなかった。

ドアを開ける音がしたはずなんだけどな…。

つまりは、それほど動揺していたのだろう。

そんな私の状態が気になったのだろうか。

ひょいと彼の顔が動いて手元を覗いてくる。

「もしかして、それが原因?」

慌てて隠そうとしたが、それではこれが原因ですと言っているようなものである。

彼のすごく心配そうな顔がずいっと近づいて口が動く。

「何か悩みなら、僕が相談に乗るけど…」

「い、いえ。長官に言うような事じゃありませんから」

「そうかい…。でもな、東郷大尉にはいつもお世話になってるから少しはその恩を返したいんだよ」

「ありがとうございます。本当に大丈夫ですから…」

「本当かい?」

「…はい」

彼が残念そうなため息を吐き出す。

それは、どうやら私が困っているのに力になれない自分の情けなさを感じているようだ。

普段の彼からは想像できないような落ち込み具合だ。

だから、私は慌てて言う。

「本当にたいした事じゃないんです。ただ、両親がこっちに来るだけなんです」

ぽろりと言ってしまった。

しまったと思ったがもう遅かった。

「えっ、ご両親が来るの?」

「え、ええ…」

「もしかして…今日かい?」

「は、はい…。本日の17時ごろにこっちに来ると…」

そう答えつつ、理由を聞かれないか冷や汗ダラダラものである。

とてもじゃないが、両親が男の影も見えない私に痺れを切らして見合い話を持って来たなんて彼には言いたくなかった。

だから理由は誤魔化して言う。

しかし、どうやらそれが不味かったようだ。

どうも、仕事をしている娘の様子を見に来るとでも思ったらしい。

「そうか。ならご両親に挨拶しないとな…」

「い、いえ、結構です」

「そうは言っても、東郷大尉にはいつもお世話になっているからな。やっぱり挨拶ぐらいはさせてくれよ」

「でもですね…それはこう…」

どう言い訳して誤魔化そうか迷う私を見て、彼が困ったような表情で聞いてくる。

「なにかご両親と仲が悪かったりするのかい?なら、それならなおの事…」

どうやらますます違う方向に彼の思考が走り始めたので、慌てて止める。

「違いますっ。違いますよっ。両親との仲は、問題ないです。普通です、普通っ」

「そうかい?なんか、東郷大尉があまりにも会いたくなさそうだったからね」

だから、見合い話されるのが嫌で会いたくないんですっ。

そう叫びたかったが、それは彼の前では言いたくない。

「なら、会っても…」

「いや、ですから………」



そして三分後…。

この攻防は、私の敗北で決着した。

変に疑われたり間違った認識をされるくらいなら会わせた方がいいと言う判断になったからだ。

いや、正確に言うと、彼に押し切られてどうしょうもなくなってしまい、なんとか自分にそう言い聞かせたと言うのが真相である。

普段はのほほんとしている感じなのに、こういう時はなかなか引き下がってくれない。

それも善意なだけに、余計に性質が悪い。

実に断りにくいのだ。

そして、現在、只今十七時三十分過ぎ…。

十七時に仕事を終わらせて港で両親の乗っている船を待っており、私の後ろには中型の車が止まっている。

もちろん、その車の傍には彼が立っていた。

思わず振り向き念を押す。

「いいですかっ。挨拶だけですからね」

「ああ、わかっているって…」

彼はそう言ってからからと笑う。

なんか心配だ。

すごくすごく心配だ。

こういう時の私の勘は良く当たる。

いや、当たって欲しくない時ほどと言った方がいいだろう。

そして、港に船が入港した。

マシナガ地区の各島を結ぶ定期船だ。

一日に少ないところでも三~四便、多いところは六~七便も本島と行き来している。

また、大きさは海防艦や平島型敷設艦とほとんど変わらない七十メールほどの鉄製の船で、聞いた話では、平島型敷設艦をベースに造られたらしい。

他の地区が木の小型船であり、一日一~二往復という事を考えれば、それだけでマシナガ地区の交通の便がどれだけ優れているのかがよくわかる。

そして、段々と点だったものが大きくなり、それが定期船だとわかったのだが、その時私の目に入ったのは、私を見つけて手を振り、あろうことかなにやら叫んでいる両親の姿だった。

ちらりと後ろを見る。

彼はこっちを見てニコリと笑った。

「あれが東郷大尉のご両親かな?」

私は観念して答えるしかなかった。

「はい…お恥ずかしながら、私の両親です」

「へぇ、元気そうな人たちだね。しっかり挨拶しないとこっちが負けそうだな。はははは…」

「はははは…」

彼の笑いにあわせて私はもう乾いた笑いをするしかなかった。

ああああっ、穴があったら入りたいっ!!

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