公式声明発表
合衆国のクーデター未遂の後始末が一段落し、世界的に大きな変化は今年は終わりだろうと誰もが思っていた十二月二十七日。
その日の午後二時に、アルンカス王国にある『IMSA』の本部にて、各国の大使や報道機関の者達が集められた。
様々な推測がされたが、ほとんどの者は今年度の『IMSA』と『IFTA』の成果の発表か、有効性の証明辺りであろうと思っていた。
実際、そう言ったニュアンスが各関係者にそれとなく知らされていたためだ。
だから、誰もがのんびりとした雰囲気で案内された会見場で発表を待っていたし、ネタ的には大したことではないと判断し、招待を辞退した報道機関さえあった。
しかし、会見が始まり、その雰囲気は吹っ飛んだ。
最初こそ、成果の発表であった。
予想通りの内容に、緊張感のない雰囲気が会場を満たす。
そんな中、発表が終わり、誰もがこれで終わりと思った瞬間だった。
ゆるみ切った雰囲気の中に爆弾が落とされた。
『IMSA』の代表の一人であるアンドルシア・エンターパイン代表が、会場を見回してニタリと笑うと口を開く。
「最後になりますが、重大な報告をここで致します。我々『IMSA』と『IFTA』の両機関は、本日より、ルル・イファン人民共和国の加盟についての査察と調査を行います」
一瞬、間が空いた。
誰もが唖然としている。
油断していたと言っていいだろう。
だが、そんな反応が楽しくて仕方ない。
そんな表情を見せつつ、アンドルシアは言葉を続ける。
「査察と調査の目的は、ルル・イファン人民共和国から要請のあった両機関への加盟の為のものであり、これによって、現時点を持ちまして、ルル・イファン人民共和国は、『IMSA』と『IFTA』の仮加盟国となります」
沈黙が当たりを支配した後、すぐにざわめきが起こり、場が騒然とする。
まさかこんな発表があるとは思ってもいなかったのである。
実際、ルル・イファンからアルンカス王国に使者が送られた事実を知っているのは、橋渡しをした共和国の上層部の一部とマックスタリアン商会の一部、それに会談に関係した関係者のみであり、機密は限りなく守られていた。
もっとも、ルル・イファンに関しては、連盟の情報封鎖とどうせ最後は植民地に戻るだけだという考えがほとんどであった為、話題にほとんどなっていなかった。
つまり、関心がなかったという事だ。
それ故に、まさに予想外の出来事と言えた。
そんな中、参加していた連盟の大使が席を立ち抗議する。
「ルル・イファンは、連邦の植民地、管理地に過ぎない。独立国でないものを勝手に加盟国にするとはどういうことか。それは連盟に対しての敵対行動である」
だが、その抗議に、アンドルシアは淡々と言い返す。
「我々は、そうは思っていない。ルル・イファンは加盟希望の書簡と大使を送ってきている」
そしてニタリと笑って言葉を続ける。
「それに失礼だが、現在、ルル・イファンを統治しているのはルル・イファン人民共和国政府であり、連盟はルル・イファンを管理掌握していないのは事実ではないのかな」
その辛辣な言葉に、連盟の大使は真っ赤な顔で黙り込む。
実際、言われていることは事実なのだ。
そのやり取りを報道機関の記者たちは一字一句間違えないように書き取り、カメラマンはその対立する様子を写真に収めていく。
まわりの様子から、さすがにこのままでは不利と判断したのだろう。
連盟の大使は怒りに震えながらも「この件に関しては本国から正式に抗議をする。覚悟していたまえ」と言って座る。
だが、その怒りに満ちた言葉も、アンドルシアはどこ吹く風といった感じで聞き流すと連盟大使から会場に視線を移す。
「まずは、視察として艦隊を派遣し、現地の状況、政府との交渉を行いたいと思っております」
「つまり、それできちんとした加盟国とするか決めるという事ですね?」
記者の一人がそう質問してくる。
「ええ、そうです」
そう答えた後、アンドルシアは、ちらりと連盟の大使の方に視線を向けて言葉を続ける。
「なんせ、ルル・イファン人民共和国の情報が少なすぎてね。我々としては、ルル・イファン人民共和国の情報が少ないため、査察と調査が必要と判断いたしました」
会場の至る所で苦笑が漏れる。
連盟が情報封鎖をしていることを皮肉ったのだという事がすぐに分かったからだ。
ますます、連盟の大使の顔色が赤くなり、我慢の限界にきたのだろう。
大使はいきなり乱暴に立ち上がると会場を立ち去っていこうとする。
その立ち去る姿を見つつ、アンドルシアは声を一際大きくして言う。
「我々としては穏便に済ませたいと思ってはおりますが、妨害や抵抗に関しては、それに対応した対処を行うつもりであります」
「それは、武力行使も含まれるということでしょうか?」
その質問に、何を聞いてくるんだがといった感じの呆れ返った表情でアンドルシアが返答する。
「君は、殴りかかってくる相手に無抵抗でいられるかね?ましてや筋が通らない言いがかりをつけてくる相手に……」
その言葉に誰もが理解した。
本気だと……。
そして、それは退室しょうとしていた連盟大使も聞いていた。
立ち止まって唖然とした顔でアンドルシアの方を見ていたからだ。
まさか、ここまで本気だとは思っていなかったのだろう。
退室する素振りを見せれば少しは牽制になるとでも思ったのだろう。
しかし、それは意味がない事だ。
ここは交渉の場ではない。
ここは、決まった事を正式に発表する、声明を発する場所である。
だから、いくらどんな態度を取ろうと変わることはないのだから……。
こうして、年末に落とされた爆弾は、世界中にあっという間に広がり波紋を広げていく事となったのである。
「やはり、海上封鎖だけでは駄目だったのだ」
上がったその声に、誰もが同意の声を上げる。
以前は海上封鎖の意見に誰もが同意していたはずなのにだ。
その様子を、ムンダスト・リンクルベリーは呆れた心境で見ていた。
もちろん、表情は出していない。
そうでなければ、この国ではのし上がれない。
それこそ、元々裕福な二代目や三代目といった血族でもない限り……。
それに今の自分の立場もある。
今の彼は、体調を崩したアントハトナ・ランセルバーグの代理としてここにいるのだ。
だから、恥ずかしい格好は見せられない。
だからこそ、心と表情を切り離す。
だが、それでも思ってしまうのだ。
ここ最近、主人が嘆く訳が実感し理解出来て……
ポルメシアン商業連盟の方針を決める最大の話し合いの場でもあるこの十二人会議がこの程度とは……な。
やはり、この国は完全に腐ってしまっている。
もう商人にこの国を統治する力はない。
やはり、大規模な革命が必要だな。
血が流れるだろうが、それはどうしても必要なようだ。
このままでは、衰退していくだけだと
そんな思考が働く中、どうやら会議に進展があったようだ。
「どうせ、査察や調査をするとは言っても、すぐにではあるまい。連中の所属艦艇の数ではなかなか難しいはずだ」
「ならば、一気に攻略してやればいい。そしてその後に査察に来た連中を追い返すというのはどうだ?」
「おお。それはいいアイデアですな」
「それに、我が連盟のメンツもあるからな」
「確かに。ここはお互いの利益の為にいろいろ言いあっている時間はありませんな。大兵力で一気にやってしまいましょう」
「おお。その通りだ」
「賛成」
結局、至急艦隊を派遣し『IMSA』の査察の前にルル・イファンを再度占領する方針で固まったようだ。
楽観すぎると思うが、何も言うつもりはない。
ここは大きく失敗してくれた方が、こっちとしてもやりやすいからな。
そんなことを思いつつ、ムンダストは会議をただ眺めていた。
主人の指示通りに……。
そして、自分の目的のために……。




