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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十伍章 火種

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フソウ連合海軍外洋艦隊  その1

アルンカス王国の南の海で白波を立てて進む艦隊があった。

その艦隊は大きく分けると二つに分けられる。

前方に位置する艦艇群は、中央に大型艦が二隻、そしてその前後に中型艦二隻、そしてそれらを取り囲むかのように小型艦六隻が並ぶ。

後方に位置する艦艇群は、中央に中型艦が六隻、そして周りに小型艦四隻という感じだ。

海軍関係者である程度の階級にいるものなら、この艦隊はアルンカス王国に母港を持つフソウ連合海軍外洋艦隊であるという事が判るだろう。

なぜなら、他国に売り込みを考慮されている為、本国の艦艇と違って外洋艦隊は艦の形状等も含めてある程度の情報は公開されているためだ。

前方位置する艦艇群の中央の大型艦二隻は、あまりにも特徴的な35.6cm四連装砲2基を持つキングジョージ5世級戦艦のネームシップキングジョージV世とプリンスオブウェールズだ。

もっとも、二隻とも就役当初の面影とはかなり違う雰囲気になっていた。

それは、キングジョージV世型の最大の欠点と言ってもいい艦橋周りの装甲の薄さを改修した結果であった。

当初のキングジョージV世の艦橋の装甲は、艦体の装甲の厚さに比べてとても薄かったのである。

駆逐艦の主砲でも簡単に破壊できるとまで言われ、それは指揮官をはじめとする艦の頭脳の守りの脆弱さを意味しており大改修された。

その為、艦橋はより角ばったごついものになり、ヘビートップを防ぐために艦の他の部分も改修され、元々火力よりも防御力重視の設計だったがそれがよりはっきりと形となっていた。

そして、戦艦の前後に並ぶ中型艦はケント級重巡洋艦のケントとコーンウォール、周りを囲むように並ぶ小型艦はE級駆逐艦のエクスマス、エコー、エクリプス、エレクトラ、エンカエンター、エスカペードとなっている。

後方に位置する艦艇群の中型艦六隻は、川崎10000t級タンカーの日本丸をベースに設計された日本丸型給油艦で、周りを囲むように護衛しているのはO級駆逐艦のオンズロー、オファ、オンスロット、オリビの四隻となる。

その戦力は、六強の軍事関係者は恐らく自国の二個艦隊に匹敵するほどの戦力と判断するだろう。

それ程の戦力を保有する艦隊ではあったが、その艦や乗組員たちの動きに迷いはないが、どことなく乗組員は落ち着かない感じだった。

それというのも、今回の出港が航海訓練として発表されていた為である。

確かに今まで何度も航海訓練はされていた。

特にキングジョージV世の改修後は、この戦艦を伴っての訓練が増えたのも事実だ。

しかし、今回、乗組員たちが落ち着かないのは、出撃艦艇の規模と給油艦六隻を従えてという事があるためだ。

実際、今までの航海訓練は、ほとんどが戦艦か重巡洋艦一隻と駆逐艦二~三隻の三~四隻程度であり、給油艦を従えて言う事はなかったし、何より事前に行き先がはっきり発表されていた。

しかし、今回は今までとは違う規模であり、詳しい行き先さえ発表されていなかったのである。

「少し兵が浮ついているようですな」

キングジョージV世の艦橋で艦隊全体を双眼鏡で見回す人物、フソウ連合海軍外洋艦隊司令真田平八郎少将に副官である三上勝正少佐がそう声をかける。

その声に、真田少将は双眼鏡を下ろし、三上少佐の方に視線を移して苦笑を漏らす。

「仕方ないだろうよ。今までと違いすぎるからな。それに俺らの様子からただならぬ事態と感じているのかもな」

その言葉に、三上少佐が困ったような顔をした。

今回の行き先は艦隊の上層部のさらにごく一部の者しか知らされていない。

指示があるまで発表は控えるように命令が下されていたのである。

だからこそ、いつもより普段通りにしていたつもりなのだが……。

三上少佐の表情からはそんな思いが読み取れる。

「そんな素振りは見せていないつもりでしたが……」

「えてしてそんなものだ。本人は普通を装っていても付き合いが長い奴はわかるってもんだ」

「まだまだってことですね」

その言葉に、真田少将は笑う。

「当たり前だ。二十代の若造がそんなことが普通にできたら化け物だよ」

「そんなものですかね……」

「ああ。そんなものだ。しかし……」

そう言いかけて真田少将は視線を艦橋の窓から見れる風景に移すと笑い出す。

「行き先を知った兵たちの反応が楽しみだな」

「確かに……。最初命令を受けたときは我らも驚きましたからね」

「ああ。何考えてやがんだとも思ったよ。だが、説明を受けて納得した。それにだ。やっと我々も出番が回ってきたって感じじゃないか」

「ええ。おっしゃる通りです。フソウ連合海軍の名前に泥を塗るような真似をしないように常に注意しておかなければなりませんね」

二人でそんな会話をしている時だった。

何やら紙を持った通信兵が敬礼する。

「失礼します。アルンカス王国海軍司令部からの暗号通信です」

その言葉に、二人は目を細める。

「ほう。もう来たか……」

「恐らく、交渉がまとまったのでしょう。正式発表はまだでしょうが、いつまでも兵達に行き先不明のままにしておくのはよくないという判断もあるのではないでしょうか」

「ふむ。あの長官ならありえるな……」

そう返事を返しつつ真田少将は自分の上官を思い出す。

第一印象は、頼りないどこにでもいそうな若造であった。

とても帝国や共和国を撃退し、祖国を守ったような人物には見えなかったのだ。

しかし、息子が信頼し尊敬する人物だと聞いていた事もあり、しばらく様子を見ることとした。

運がいいことに、配置先が外洋艦隊という事で外からの目線で見ることも出来たし、他国の評価なども知ることが出来た。

その結果、長官(あれ)は、規格外の人物だという事が分かった。

あまりにも今まで出会った若者とは違いすぎるのである。

知識も判断も用心深さも、そして何より人を見る目が違いすぎた。

そして気がついたのだ。

その風貌や態度に騙されていた事に……。

だからこそ、無意識のうちにそんな言葉が漏れてしまったのであった。

「ええ。さすがですよ」

三上少佐も目を細めて呟くように同意する。

だが、すぐに我に返ったのかのように表情を引き締めて紙を受け取った。

通信兵が敬礼して戻っていくのを目で追いつつ、三上少佐は真田少将に声をかける。

「恐らく思った通りの内容でしょうが、確認をお願いします」

「わかった。付き合いたまえ」

「ええ。もちろんです」

二人はそう言いあうと、後の事を艦長に任せて、真田少将の部屋に向かった。

暗号解読の為の機械は、司令官が管理している為である。

そして、十分後、艦内だけでなく、艦隊内に行き先が発表された。

『行き先は、ルル・イファン人民共和国であり、目的は親善訪問である』と……。

だが、その報を聞き、誰もがその意味を理解していた。

親善訪問という形を取ってはいるがそれは建前であり、実際は海上封鎖をしている連盟に対しての圧力が真の目的だと……。

実際、今回のような事は、本当ならば『IMSA(イムサ)』がやるべきことであり、それが筋というものだろう。

しかし、『IMSA(イムサ)』の保有する艦艇は、あくまでも船団護衛という事で、一番大型の艦艇でも巡洋艦クラスまでだ。

それでは威嚇にも圧力にも力不足となる。

また、正式発表の前から艦隊を動かす事も出来ないという事もあり、代理としてフソウ連合外洋艦隊に役割が回ってきたのだろう。

つまり、我らは、フソウ連合の代表であり、『IMSA(イムサ)』の代理としてルル・イファンに向かうことになる。

それは危険ではあるが名誉ある任務だ。

そのことが判ると兵達の士気は格段に上がった。

その様子を真田少将と三上少佐は満足そうに感じていたが、その落ち着いた様子に、キングジョージV世の艦長が聞き返す。

「不安ではないのですか?」

「何がだね?」

「もし、連盟の艦隊が屈しなかった場合とかは……」

「そこら辺は大丈夫だ。すでに長官との打ち合わせも終わっているからな」

その言葉に、キングジョージV世の艦長はほっとした表情になった。

そうとはわかっていたとしても、心配になって聞いたのだろう。

意外と心配性なのかもしれんな、艦長は……。

そんなことを思いつつ、真田少将は長官との会話を思い出す。

実際に、圧力をかけるのはいいが、問題になるのは連盟海上封鎖艦隊がこの圧力に対してどんな対応をするかである。

素直に圧力に屈すれば問題はない。

しかしだ。

屈しなかった場合はどうするのか。

その問いに、長官は困ったような顔になった。

しかし、それでもしっかりと見返しつつ口を開く。

「出来る限りの手は打つ。だが、今回はあくまでも圧力だ。出来れば武力行使は抑えてくれ」

つまり武力の行使はあくまでも最後の手段という事だ。

だが、それでも念の為に真田少将は聞き返す。

それは覚悟を確認するためであった。

「わかりました。善処しますが、ただし向こうが撃ってきたら……」

「ああ、その時は、構わん。判断は君に任せるよ」

あっけらかんとそう言われて、肩透かしを食らった感じだが、それはその場合を想定しているといったところだろうか。

さて、どういった手を考えておられるやら……。

そんなことを思い出し、思わず笑みが漏れる。

「どうされたのですか?」

そんな真田少将の変化に三上少佐が気がついてたのだろう。

怪訝そうな表情で聞いてくる。

「いや、なんでもない」

真田少将はそう答えるとカラカラと笑ったのであった。

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