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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十伍章 火種

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アルンカス王国にて……

アルンカス王国のフソウ連合基地に到着した鍋島長官は、海賊国家サネホーンとの交渉から戻ってきたばかりの青島大尉の報告を聞き、苦笑を漏らした。

「やっぱり、圧力ととっちゃったか……」

その言葉に、青島大尉は慌てた。

自分のやり方や報告に不備があったのではと思ったのだ。

そんな青島大尉の様子で何を考えていたのか分かったのだろう。

少し困ったような表情を浮かべると鍋島長官は「大尉には不備がないよ」とまず口にする。

「それならばいいのですが……」

恐縮してそう言う彼に、鍋島長官は苦笑を浮かべつつ説明を始めた。

「僕としては、今回の件は合衆国からの要請でしかないと考えている。だから、フソウ連合としてサネホーンに無理に圧力はかけるつもりはなかったんだ。大尉も僕の意向を聞き、あくまでも要望として穏便に伝えたんだろう?」

「はい。出来る限り圧力と感じないようにと言われましたのでそれに沿った方向で話したつもりです……」

そう言いつつ、ふと気がついたのか言葉を続ける。

「もしかして、本当に長官は圧力をかけるつもりがなかったのですか?てっきり私はそう言う態度をとることでよりプレッシャーをかけるためと思いましたが……」

あちゃーといった感じで頭を抱える鍋島長官。

自分の説明不足を実感したのだろう。

しかし、すぐに立ち直ると「大尉もそう思ってたのか……。それは失敗したなぁ……。もう少し説明しておけばよかったか……」と呟いてから説明を始めた。

「今回の合衆国の要望、僕としては圧力としてかけるつもりはまったくなかったんだ。ただ出来ればやってね程度でよかったんだ。なんせ、うちとしてはどう転んでも問題ない案件だったから。それどころか下手に波風立ててサネホーンとの交渉に支障をきたす方が問題だからね」

その言葉に、青島大尉は驚いた顔で聞き返す。

「どう転んでも問題ないと言われましたが、合衆国とは条約を結んでおります。やはり、そうなると協力する必要があるのではないでしょうか」

「ああ、その考えは間違ってないよ。ただ、王国と違い、合衆国と結んでいるのは通商条約だ。軍事同盟じゃない。だから国同士の事にいろいろ言われるおそれは少ないと見るべきだろう」

そう言われてピンときたのだろう。

青島大尉が口を開く。

「確かに……。海賊の対策としてなら口をはさめますが、相手が『海賊国家』とは言われていますがきちんと国家として対応するならいろいろ言う権利はありませんね」

「ああ。精々『遺憾だ』ぐらいだろうな」

そう言って鍋島長官は苦笑する。

自分の祖国の対応、只々何か起こる度に『遺憾だ』と言っているイメージを思い出したからだ。

あれはあれで情けないと思う。

強気に言うべきところ、やる時はやる態度を見せる必要があるよなぁと会見を見る度に思ってしまう。

まぁ、もっとも、すぐに武力に訴えたり、余りにも理不尽な攻撃的発言を連呼されたりするよりははるかにマシと言えるのだろうが、要はそういった覚悟があると見せつける態度が必要なのだ。

只々『遺憾』を連呼しいるだけでは相手はこっちを組みやすい腰抜けと見下すだけだしな。

そんなことを思っていると、青島大尉の視線を感じて鍋島長官は我にかえり言葉を続ける。

「まぁ、そんな感じで、別に圧力にする必要はなかったんだ。それにね。もし合衆国が文句を言ってきても言い返す材料はあるから」

「材料ですか?」

「ああ。サネホーンと直接交渉にあたるのは大尉だからという事で、合衆国からの要請の書簡を見せただろう?」

「はい。見ましたが……」

「そこに書いてあったじゃないか。『要請を受け入れてくれれば、その見返りとして、合衆国はフソウ連合と海賊国家との交渉がどんな結果になったとしてもフソウ連合を支持する』ってね」

そう言われて、青島大尉は「あっ……」と声を上げる。

「つまり、我々としてはただ伝えるだけでよかったんだよ。サネホーンがどういった対応をしょうがそれは合衆国とサネホーンの問題であり、我々とは関係ない。それどころか、合衆国とサネホーンが敵対するような関係になったとしても、合衆国はサネホーンとフソウ連合の関係を支持してくれるんだからね。だから、合衆国の要望として伝えるだけでよかったんだよ」

そう言った後、鍋島長官は困った顔をして言葉を続ける。

「もっとも、余りにもやりすぎて別の意味にとられちゃったみたいだけどね……」

「すみません……」

そう言って恐縮して頭を下げる青島大尉。

その様子を見て鍋島長官は慌てて口を開く。

「ああ、構わないって。僕の説明不足が問題なんだから。だから大尉が気に病むことはないよ」

そしてしみじみと呟いた。

「しかし、思いを伝えるのは難しいなぁ……」

その言葉に青島大尉も顔を上げて答えるかのように呟く。

その呟きには、重い思いが込められていた。

「全くです」

二人は互いに顔を見合わせると苦笑を浮かべたのであった。



「なんとか会う算段がついてよかったですね」

明日変わらずの感情が表に出ない表情でエヴゲニーヤ・セミョーノヴィチ・リターデン少尉はそう言ってコーヒーのはいったカップを置くと、リプことリプニツキー・ロマノヴァ・リプニツカヤは目を通していた書類を横に置いた。

「すまないな。助かるよ。ちょうど一服したかったんだ」

その言葉には出会った頃の緊張感はもうない。

身体の関係を持ち、親友の前で妻宣言された時は、只々驚きと焦り、それに恐怖に似た圧力を感じていたが、今はそんなことを感じることはない。

それどころか、愛おしいとさえ思っている。

確かにあれ以降、身体の関係は何度もあったし、ベタベタすることも増えた。

だが、何より大きいのは甲斐甲斐しくサポートをしてくれる事だろう。

気がつかないことをしれっとサポートしてくれることもあれば、間違っていれば厳しく意見を言ったりもしてくれる。

そんな彼女に魅力を感じてしまっているのだ。

決して美人ではないが、彼女なら妻として側にいて欲しいかもとさえ思っている。

現金なものだな、本当に……。

そんな自分に呆れかえってそう頭の中で評価を下す。

そんなことを思っていると、視線を感じたリプは視線の先に目を向けた。

もちろん、視線の先はエヴゲニーヤである。

だが、そこにはさっきまでの無表情と違い感情を浮かべた顔がそこにはあった。

ほんのりと頬を朱に染めて、わずかに微笑んでいるのだ。

自分だけに見せてくれる。

その思いが益々彼女への思いを強くしていく。

だからだろうか。

ついつい視線と視線が絡み合う中、リプは無意識のうちに呟いていた。

「今回の事が無事終わったら式を上げてもいいかな……」

その言葉に、「えっ!?」という表情をするエヴゲニーヤ。

それで自分がとんでもないことを無意識のうちに口走ってしまったことに気がつくリプ。

視線が熱を帯び、いつの間にか互いに顔を見合わせて視線を外すことができなくなっていた。

そのまま、ただ時間が過ぎていく。

それは実に長い時間に感じられた。 

もっとも、本当は数分程度なのだろうが、二人にとっては無限にと呼んでもおかしくないような体感だろう。

だが、そんな時間は永遠に続く事はない。

まず最初に我に返ったのはエヴゲニーヤの方だった。

今の関係は、あくまでも自分本位の意見を彼に押し付けているだけで、身体の関係だってこっちが誘った結果だったし、彼に責任はないと思っていた。

だからこそ、一人の時は自己嫌悪なり後ろめたい気持ちで一杯になるほどだ。

なのに、まさかの言葉が彼の口から洩れたのである。

「そ、それって……プロポーズ……ですか?」

そう聞かれ、最初こそ否定しょうと考えたリプだったが、聞き返す彼女の表情を見てその考えを捨てる。

そこには、今までない幸せそうな、それでいて不安そうな彼女の顔があった。

そんな表情をさせれるのは俺だけなんだ。

そんな優越感が心の中から湧き出てくる。

それだけでもう答えは出た。

「そ、そう思ってもらっても構わない……よ」

そして、見つめあう二人。

これがドラマなら、抱き合った後、キスをして愛を確かめ合うシーンになるところだろうが、現実はそうはならない。

「これは是が非でも交渉を成功させねばなりませんな」

その言葉は、ドアのあたりから聞こえた。

慌てて二人が視線を向けると、視線の先にはドアを軽くノックしつつにこやかに笑う男の姿があった。

マックスタリアン商会から派遣されている案内人兼交渉人のパウエル・リルシンタだ。

「い、いやこれは……」

慌てて何か言おうとリプはするものの、パウエルは豪快に笑う。

「そうそう。時間が決定しました。明日の十一時からアルンカス王国のフソウ連合海軍基地で会見するだそうですからお忘れなく」

どうやら何を言っても無駄だと思ったのと、頬を染めて下を向いているエヴゲニーヤをちらりと見て心を決める。

「もちろんです。明日はよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるリプに、パウエルは満足そうに頷くと退室しようとしたが、言い忘れたことがあったらしく動きはを止めて口を開いた。

「そうそう。うまくいって式を挙げるときは、私にお知らせください。費用はお安くしておきますよ」

そして真っ赤になって黙ってしまう二人を置いて、楽しげに笑いつつパウエルは立ち去っていったのであった。

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