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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十伍章 火種

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解放

「街まで送ってくれても罰は当たらないと思うんだがね……」

アーサーは周りを見回して愚痴るように呟く。

周りは、まさに、木、木、木といった感じで、ある程度整備された道が通っていることを除けば、まさに深い森のど真ん中と言っていいだろう。

確かに愚痴りたくなるような状況ではある。

だが、そんなアーサーに後ろから声がかけられる。

「まだ捜索隊がうろうろしている中、街であなたを開放できるわけないじゃありませんか」

そう言って困った顔をしているのはアインだ。

もっとも、監禁されていた時のようなメイド服は着ていない。

普通の女性が着るような地味な感じのワンピースと小さめのバッグ、それに縁の広がった帽子を身にまとっている。

どこから見ても普通の女性という感じだが、だが街中では目立ってしまうだろう。

確かに顔立ちは整っているし美人ではある。

しかし、それ以上に目立つのは体型だ。

合衆国では、少しふくよかな感じの女性が持て囃される。

それはどちらかというとふくよかな女性を好む男性が合衆国では多いためだ。

その為、合衆国の多くの女性はふくよかになるという事に嫌悪感はあまり感じていない。

それどころか、ふくよかになる努力さえしているのだ。

もっとも、あまりふくよかになりすぎるのは問題ではある。

世の中に、限度というものは存在するのだから。

ともかくだ。そういった事で、合衆国ではふくよかな女性が多く、アインのようにスレンダーな女性は外国人以外はほとんど見かけない。

いたとしても貧しい女性といった一部の者達だけだ。

ふくよかは富の裕福さも示しているのだから……。

だから、そういった意味でアインの姿は目立つのである。

ここまで目立つと、もし目撃されてしまったら立ち去った連中や乗ってきた車も印象に残ってしまうだろう。

それに、何があるかわからないからな。

それを考えれば、こんな森の中で解放されるのは理にかなっているとさえいえる。

そんなことを考えつつアインを見ていたアーサーだったが、何も言わないアーサーに彼女が怪訝そうな顔で見返してきたので慌てて視線を外す。

そして手を上にあげると背筋を伸ばして空を見上げた。

枝と枝の間に見える空は澄んでおり、森の中という事もあってか、心持ち空気がうまい気がする。

だからだろうか。

「まぁ、これで自由ってことだな」

そんな言葉が漏れる。

そして、ふーと息を吐き出すと言葉を続けた。

「なんか、久方ぶりのシャバの空気はうまいな」

その言葉に、アインがムスッとした顔で抗議する。

「刑務所か牢屋に入れられていたみたいに言うのやめてください」

彼女としては、そんなところと一緒にされては困ると思ったのだろう。

だが、拉致された身としては文句の一つも言いたい。

だから、アーサーはそんなアインを見て言い返す。

「そうは言っても監禁されていたのは事実だろう?」

「ですが、私達はあなたの身の安全を考えてっ……」

ますますムキになってアインはアーサーに食って掛かる。

そんなアインを苦笑しつつ見るアーサー。

最初の印象は、どちらかというと冷徹な暗殺者というイメージだったが、十日近く顔を突き合わせていれば、それがただの仮面だという事がよくわかる。

どちらかというと負けん気が強く、熱くなりがちな女性といったところだろうか。

おかげで、今や突っかかってくる行為もどちらかというとほほえましく感じてしまうほどだ。

だが、さすがに彼女の文句に延々と付き合うつもりはないので、言葉が途切れた瞬間に口をはさむ。

「しかし、ここはどこだ?」

その問いに、文句を言うのを中断し、アインが答える。

「パラミックスの森ですね。リンデブルングの南にある」

「リンデブルング……ねぇ」

リンデブルング。

合衆国西部にある都市の名前で、ホテルのあったサンパウラス港郊外から結構南に位置する都市だ。

確かあの辺りは結構な田舎だと記憶していたが、ここまで深い森があるとは思わなかった。

「で、街まで歩くのか?結構な距離がありそうだが……」

そう言いつつ、車が立ち去った方向とは反対側の道路を見る。

しかし、曲がりくねっている為だろう。

先は木によって覆われており、また近くに建物らしきものも見当たらないことを考えれば、どう考えても近くに街があるようには見えなかった。

「確か……20キロ以上はあると思います」

その言葉に、アーサーは突っ込む。

「おいっ。そんなにあるのかっ」

歩く速度を時速4キロ程度と考えれば、間違いなく5時間以上かかるという計算になる。

下手したら今から歩き出せば、街につく頃には陽が落ちてしまっている、なんてことになりかねない。

だが、アインは落ち着いたもので淡々と言う。

「心配しなくても、捜索隊があと一時間もしないうちにこちらにやってくることになっております。そして、彼らに発見されて保護されるという手はずになっております」

「それって……、お仲間ってことか?」

「いいえ。ただ、情報を流しただけです。今頃は捜索隊はそれらしい人物が森の中を彷徨っていたという情報を受けて向かってきているころではないでしょうか」

「ふーん。手際のいいことで……」

その皮肉めいたアーサーの言葉にアインはにこりと笑う。

「その分、歩き回らなくていいんだから、いいんじゃありません?」

「確かにな……」

アーサーは苦笑してそう言葉を返すと、道端の切り株に腰を下ろした。

発見されるというのなら下手に動き回るのは馬鹿らしいと思ったのだろう。

アインもその横に座るとバックから魔法瓶を取り出す。

「おいっ、それ……」

「はい。アーサー様のです。便利そうだったので一つお借りしました」

そう言って、バックから出したコップに温かいコーヒーを注ぐとアーサーに手渡した。

困ったような顔をしたものの、コップを受け取るアーサー。

のんびりとコーヒーをすすりつつ、空を見上げる。

周りに聞こえるのは、微かな風の音と鳥の鳴き声、それにアインが自分の分のコップにコーヒーを注ぐ音だけだ。

「静かだな……」

「はい。静かです……」

まるでここ十日間ばかりの事が夢のような気がしてしまう。

だが、自分の右の手首にあるリングがそれを否定する。

それは、結社との契約の証でもある。

ただの装飾の入ったリングだが、それがすごく重くアーサーには感じられた。

そして、只々時間だけがのんびりと過ぎていく。

そんな静寂の中、アインが恐る恐ると言って感じで聞いてきた。

「アーサー様、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」

「何をかな?」

「なぜ、保留されたのですか?恐らく拒否されたとしてもあの雰囲気なら、許されたんじゃないでしょうか?」

その問いに、保留を選んだがゆえに渡された手首のリングに一瞬視線を落としてアーサーは苦笑する。

「ああ。まさかあんなにあっさりと受け入れられるとは思ってもみなかったよ。てっきり拒否は死を意味するんじゃないかと戦々恐々としていたからね」

「そうでしたね。あの時、恐る恐るって感じでいわれてましたもの」

そう言ってアインはクスクス笑った。

「笑うなよ。秘密結社と言われた上にあの物々しさに圧倒されたんだよ」

「そう言うことにしておきましょう……」

「まぁ、多分、祖父の功績とフソウ連合の事をもっと知りたいと言ったのが大きかったんじゃないかなと思っている」

「なぜ、そう思われたんです?」

「彼らは言ってただろう。『フソウ連合と今事を構えれば合衆国は一気に力を失う』とね。つまり、将来、フソウ連合とやりあうという未来が見えていたわけだ。だから、その時、フソウ連合に詳しい人物がいた方がいいと判断したんだと思う」

そこまで言った後、頭の中で言葉を続ける。

『"C"なら、あの人なら、そこまで考えるだろう』と……。

その言葉にアインは黙ったまま何も言わない。

それは恐らくその推測が当たっているという事だ。

二人はその後は黙ったまま、コーヒーをすする。

そして飲み終わったのを確認したのか、アインはニコリと微笑むと「お代わりはいかがですか?」と聞いてきた。

「ああ、まだ時間はあるようだから、もう一杯もらおうかな」

そして、二杯目のコーヒーを飲み終わり、少し時間が経った頃に遠くからガタガタという音と車の排気音が聞こえてくる。

「どうやら迎えが来たみたいだな」

アーサーは立ち上がるとそう言いつつズボンのお尻の部分をはらった。

その間にアインはバッグに魔法瓶とコップを片付ける。

「さて、後は打ち合わせ通りに……」

「はい。アーサー様……」

片付けの終わったアインはそう言うと頷いた。



翌日の朝刊、クーデーター事件の続報がでかでかと一面を飾る中、片隅にある記事が載った。

ホテルでの襲撃から十日後の午後三時十五分過ぎ、パラミックスの森にてアーサー・E・アンブレラ氏は捜索隊によって保護されたという記事である。

同氏は軽い怪我をしている程度でいたって健康で、また、その際、同行していた女性も同時に保護された。

彼女はホテルの従業員で、偶々忘れ物を取りにホテルに戻った際に襲撃者達の会話を聞いてしまい、その会話からアンブレラ氏が狙われているのを知って危険を顧みず脱出を手伝って一緒に逃走していたという事であった。

そして記事の最後に、彼女の勇気と英断、行動力が彼の命を救ったという言葉で記事は締めくくられていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >少しふくよかな感じの女性が持て囃される。 コカ・コーラ社とマクドナルド社も異世界転移していたのか(違
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