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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十伍章 火種

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合衆国の現状  その3

アカンスト合衆国大統領アルフォード・フォックスの命を受けた国務長官マルキッド・エルドンフォントの動きは実に素早かった。

自分の子飼いである部隊と信頼できる部下の部隊を使って一気に不穏分子の拘束に動いたのだ。

作戦は秘密裏に実行され、その為に反フソウ連合派の議員や軍関係者のほとんどは抵抗することが出来ずに捕縛された。

だが、秘密裏で一部とはいえ軍という強大な組織、国の暴力装置が動くのだ。

その動きに気付いた者や運よく縛されなかった者も少なからずいた。

しかし、そんな幸運な者達全てが今の自分の立場をきちんと把握できている者ばかりではない。

実際、きちんと自分の立場が分かる者は自分が有利になるように行動した。

資料や情報を提出することを条件に知り合いの関係者を頼って投降したである。

だが、そんな事が出来ないものの方が圧倒的に多かった。

追い詰められた議員や軍関係者ができることは限られているのだが最悪の選択をなぜか選ぶのだ。

つまり自分の息のかかっている部隊を使って抵抗するという事を選択する。

その結果、合衆国のいたるところで軍同士がぶつかる小競り合いがいくつか発生した。

もっとも、そのほとんどはあっという間に鎮圧されてしまったが、抵抗し勝利した者たちもいた。

それが合衆国海軍第十三艦隊司令官テストラ・リッチン・ハンバード大将と彼の元に逃げ込んできた議員たちだ。

軍の一部が動いているという情報を受けたハンバード大将は、すぐさま状況を把握した。

そして、最初は投降を考えたものの、自分の地位や反フソウ連合派の中核メンバーであったという事を考慮し亡命を選択する。

そう決断したハンバード大将の動きは早かった。

自分の子飼いの部下たちに声をかけると半舷休日であった第十三艦隊に緊急事態を告げ、合衆国から離脱したのだ。

もっとも、艦隊全部ではない。

今自分の指揮下に入って行動を共にしているのは、重戦艦一隻、戦艦二隻、装甲巡洋艦八隻、支援艦三隻の十四隻。

艦隊の総数は五十二隻であり、ドック入りをしている艦船は八隻。

それを考えれば、自分の声に従ったのは動ける艦艇の実に三割程度の戦力しかない。

その上、兵の中にも今回の行動に不満や不安を持ったものも多いだろう。

つまり、不安要素だらけということだ。

しかし、それでも十分な戦力と言えるのは間違いない。

腐っても戦力は戦力であるし、実際、十三艦隊の配備されている艦艇はここ最近更新されてものが多い。

随伴する装甲巡洋艦八隻のうち五隻を占めるキチリント級装甲巡洋艦は、合衆国の装甲巡洋艦では最新のものだし、自分が搭乗する旗艦重戦艦パトストロネは合衆国自慢の六隻あるモンガーナ級重戦艦のうちの一隻だ。

また、自分らの技量はかなりのものであるという自負もある。

だからこそ、亡命を聞いて受け入れてくれるだろう。

そう、ハンバード大将は確信していた。

亡命先は、海賊国家サネホーン。

それ以外に選択肢はない。

恐らく他の六強を亡命先に選べば、無視されるぐらいならまだいい方で下手したら甘い言葉で誘った挙句に拘束し合衆国に自分らの身柄を引き渡すことくらいは普通にするだろう。

もちろん、艦隊の艦船は自分らの懐に入れて……。

実際にそういった事は歴史の中で何度もあった。

もちろん、海賊国家でもそういった心配が皆無とは言えなかったが、元々彼らは戦争や政変で敗北した側の人々を取り込み、今の国と戦力を手に入れている。

近年で言えば帝国の王位継承のゴタゴタで帝国のかなりの軍や政治家が海賊国家に亡命している。

そして、彼らはすべて受け入れられた。

だから、それに賭けたのだ。

だが、もしダメだった場合はどうするか……。

その際は、海賊にでも転職するか。

そんな半分自暴自棄みたいな選択を思いつき、自傷気味の笑みを浮かべたハンバード大将に声がかけられた。

「閣下、合衆国海軍本部から無線が入っています」

「構わん。無視しろ」

その言葉に通信兵は慌てた。

彼にしてみれば今回の動きはあまりにもおかしいと思わざる得ないのだ。

だから自然と口が開く。

「しかしっ……それでは、我々は……」

焦ったような物言いに、こいつは巻き添えを食った部類の連中だな。

そう判断し、ハンバード大将は少し声に力を籠める。

こういった部類のやつは、少々強めでいう事を聞かせるのが最適だと判断したのだ。

「私が構わんと言っているのだ。命令を遂行せよ」

強い口調でそう言われ、慌てて通信兵は敬礼した。

「はっ。了解しました」

「いいか、これ以降、海軍本部からの通信は無視だ。いいな?」

念を押されるような形でそう言われて、通信兵は黙って頷くしかなかった。



「残念ながら取り逃がしました……」

国務長官の報告に、フォックス大統領は苦虫を潰したような顔になった。

ハンバード大将の所に逃げ込んだ議員や関係者はゴミみたいな連中ばかりだから逃げられたとしてもそうそう影響力はない。

しかし、ハンバード大将は別だ。

彼は反フソウ連合派の中核メンバーのうちの一人であり、軍関係にかなりの影響力を持つ。

さらに、彼の指揮能力や人望は高く、今回の逃走劇に参加はしなかったが、呼びかけられれば賛同する連中も多いだろう。

つまり、最も押さえておかねばならない人物であり、その人物が逃走し少ないながらも戦力をもってというのは、合衆国政府としては実にはた迷惑なことだと言える。

「仕方ない。すぐに討伐艦隊の編成を行い派遣を。後、他国にすぐに連中はすでに合衆国海軍所属ではない。ただの反政府武装勢力であり、合衆国とは一切関係ないという通知を急げ。それと受け入れ拒否も要請しろ」

その大統領の言葉に、国務長官が片方の眉をびくりとさせて聞き返す。

「もし、いい返事が返ってこなければ……どうされるので?」

「それは……」

言葉に詰まる大統領に、副大統領が横から口をはさむ。

「その時はその時だよ、長官。今はやれることをしっかりやって欲しい。頼むよ」

そう言われて、国務長官はふうと息を吐き出した。

「その通りでした。すぐに実施いたします」

国務長官は敬礼すると大統領の執務室を退室していった。

「助かったよ、デビ」

息を吐き出してフォックス大統領がそう言うと、ハートマン副大統領は苦笑した。

「言っただろう?お前を支えるってさ、アル」

だが、直ぐにハートマン副大統領は表情を引き締める。

「だが、もう少し頑張ってくれ」

「わかっている。緊急事態宣言をしなければな」

実際、すでに一部戦闘や騒ぎがいくつも起こっている以上、収まった後にという事は悪手と言えた。

「ラジオの準備は出来ている。それと報道機関も間もなく集まるだろう。頼むぞ」

「ああ。しっかりやるさ。決心したのは自分だからな」

ぽんぽんとハートマン副大統領は、大統領の肩を励ますように軽くたたく。

そして歩き出そうとして大統領はちらりと副大統領の方に視線を動かした。

「それでアーサーの方はどうだ?」

その言葉に副大統領は首を横に振る。

「そうか……。無事だといいんだが……」

その言葉には、親友を心底心配する心づかいに溢れていた。



「くっ……。ここは……どこだ?」

辺りは暗闇の中であり、まるで闇の沼に落とされたように感覚に捕らわれる。

目を覚ましたアーサーは無意識に目を手でこすろうとして気がつく。

どうやら椅子に座らされたまま、後ろ手に縛られているようだった。

「まいったな……。こりゃ……。連れていくなら、もう少しいい待遇をお願いしたいところだな」

「あら、ごめんなさい」

すぐ後ろで人の気配がして声がする。

あのメイドの声だ。

首を少し後ろに向けると視線の片隅にあのメイドの姿があった。

もっとも、もうメイドの服装はしていない。

身体の形がはっきりとわかる全身に張り付くような服を着ている。

敢えて言うなら海に潜るときに着るダイバースーツのようなものだ。

もっともこの世界にダイバースーツなんてないから、分厚い全身タイツみたいな感じとアーサーは思った。

確かに動き易そうだし、あれならスカートを気にしなくていいだろうな。

ふと、彼女のスカートの中を思いだしてしまう。

いかん。いかん。何を考えているんだ……。

思わず自嘲の笑みが漏れてしまいそうになったが抑え込む。

その服の上に全身にベルトのようなものがいくつも巻き付き、それぞれにいろいろなものが取り付けられている。

勿論、武器もだ。

ふむ。中々機能的かもしれないな。

そんなことを思っていると、メイドはじーっとアーサーを見た後、苦笑した。

「あなた面白いわね」

「それは……どういう意味かな?」

「ふふふっ」

メイドは意味深に笑う。

何かしでかしただろうか。

そう考えて、苦笑する。

しでかしたじゃねぇかと。

目が覚める前にしでかしたことがいくつも頭に浮かぶ。

抑えられた瞬間、ドアが開けられ、二人の男が飛び込んできた。

その男達をメイドは躊躇なく射殺した。

眉一つ動かさずに無表情にだ。

たが、そんな表情一つ変えない彼女が自分の言葉で表情を変える。

それは中々楽しいと感じてしまった。

もちろん、生死の選択権は彼女の手の中にある。

だが、それでも、いやそれだからこそかもしれなかった。

だから、思わず男たちを射殺した時、声を上げた。

「いい腕じゃないか。射撃大会に出れば優勝間違いなしだし、その美貌なら、世の男たちはほおっておかないだろうな。もちろん、私を含めてだがね」

その言葉にメイドは呆れ顔をした。

「あなた、自分が同じ目にあうとは思わないのかしら?」

「ああ。でも、すぐに殺さないってことは、何か目的があるんだろう?デートのお誘いとかだと嬉しいんだがな」

その軽薄そうな言葉にため息を吐き出すとメイドは呟く。

「資料と全然違うじゃないのっ」

それはとても小さな呟きだった。

だからアーサーには微かにしか聞こえなかったのだろう。

「なんだ?」

その聞き返しに、メイドは「なんでもないわ」といって言葉を続けた。

「あなたには選択肢があるわ。私と一緒についてくるか。それとも死ぬか」

「生きたまま、ここに残しておいてくれると……」

アーサーがそう言いかけるとメイドはにこりと笑った。

「あら、死を選択するのね」

「え?!」

「あら、さっき二人射殺したところを見てたでしょ?あれあなたを暗殺するために派遣された連中の一部よ」

予想外の言葉に、アーサーの思考が真っ白になった。

「暗殺?!」

「そう。暗殺。あなたが邪魔なみたいね。それとも警告かな……」

「反フソウ連合派の連中……、そこまで……」

「まぁ、一部のはねっ返りか危機感を持った連中がやったんでしょうね。もっとも、そこの二人で終わりってわけはないだろうけどね……」

そう言い切った後、メイドは極上の笑みを浮かべて選択をアーサーに迫る。

「で、どうするの?それでもここに残る?」

そう言われてしまえば、選択肢は一つしかない。

もしかしたら偽の情報かもしれない。

しかし、もし本当ならここに残ったとしてもまず助からないだろう。

なら……。

だが、素直に言うのも癪に障る。

だから、アーサーはニタリと笑った。

「美人にデートの誘いを受けたんだ。断れないじゃないか」

その言葉に、メイドは屈託のない笑みを浮かべた。

「やっぱり面白いわ、貴方……。気にいっちゃいそうね」

そういった後、アーサーはメイドがポケットから取り出された布で口と鼻を覆われる。

何やら独特のにおいが鼻の奥に広がっていき、思考がノイズ交じりとなっていく。

そしてノイズはだんだんと大きくなって意識がなくなってしまったのだ。

そして現在に至る。

「本当に、面白い人ね。でも、今から会う方々への言葉使いは注意した方がいいわよ」

彼女はそう言うとくすくすと笑って離れたようだった。

人の気配が背後からなくなる。

そしてどれほど経っただろうか。

暗闇に取り残されている為、時間の感覚が判らない。

もしかしたら数分かもしれないし、数十分だったのかもしれない。

ともかく、うんざりした時間が過ぎていき、いきなり光が灯された。

その光に目が霞み、思わず目を閉じる。

そして明るさに慣らすかのようにゆっくりと瞼を上げると、そこは殺風景な部屋だった。

飾り気もない壁と天井、それに床。

唯一の家具らしきものは半円状の細長い机があるのみだ。

そしてそこには椅子に座った五人の人の姿があった。

恐らくだが、全員男だろうか。

残念なことに年齢はわからない。

ただ、身体付きでそう判断したに過ぎない。

何故わからないかというと、全員が同じ灰色の背広を着ているのたが、頭の部分は白い布で覆われていたからだ。

魔女のかぶる帽子のふちを取り除きそのまま首辺りまで引き下ろしたような形で、目と口、それに鼻の所に穴があけられ、その淵は赤く塗られている。

そして、区別の為だろうか。

額の部分にはなにやら黒いインクらしきもので文字らしきものが書きなぐってあった。

そんな恰好をした男性らしき人が五人、アーサーを凝視している様子はかなりシュールだろう。

なんだ……、これは……。

絶句して唖然とするアーサー。

そんなアーサーの様子に中央に座る人影が満足そうに揺れた。

それはまるで笑っているかのようだ。

そして言葉が発せられる。

「ようこそ、アーサー・E・アンブレラくん。会えてうれしいよ」

それは年配の男性の声だった。

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