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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十伍章 火種

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合衆国の現状  その1

懐かしいな……。

それ程長い間離れていないはずだったが、本国のサンパウラス港に降り立ったアーサー・E・アンブレラはまるで長い年月離れていたような感覚に捕らわれる。

別に建物が大きく変わったとか、港の風景が大きく違っていたというわけではないが、それでも違和感というか帰ってきたんだという思いが強い。

だが、それは仕方ないのかもしれないな。

ふとそんなことを思ってしまう。

それは今までいたフソウ連合とはまるっきり雰囲気が違うためだ。

合衆国大使館があるナワオキ島は、フソウ連合の外の国との窓口と言っていい島だ。

恐らく急に発展したのだろう。

新しいものと古いものがごちゃごちゃになっている感じがしたが、その為、各国の色んな文化が交じり合った雰囲気がある。

もちろん、懐かしい合衆国の文化さえも一部取り込みそこにはあった。

しかし、それでも異国だ。

所々にフソウ連合としての国の特色が滲み出ており、それが周りの色んな文化と溶け合いより際立っている。

そして、発展している国独特の新しいものが生み出されている活気があった。

そういった事から、フソウ連合での生活は、実にいろいろな刺激に満ち満ちている。

フソウ連合の独自の文化、そしてフソウ連合の人々の素晴らしさが眩しく感じるほどに……。

そして、それらは合衆国が今や失いつつあるものでもある。

かっての建国の時の活気はもうなく、停滞どころか後退しているのではないかと思わせる国の在り方。

だからこそ、違和感を感じたのだろう。

いろんな国に駐在したがこんなことはなかったんだけどな……。

そう思いつつ、周りの風景を見回していたら、向こうの方から手を振るよく知った男が目に入った。

男はこっちに手を振りつつ近づいてくる。

もちろん、一人ではない。

護衛のSP三人が周りを警戒するように目を光らせている。

恐らく、見えないだけで他にもいるはずだ。

なんでこんなところに来るかな。

そんなことを思いつつも、来てくれてうれしい自分がいた。

「よう、アーサー」

ある程度近づくと男はそう声をかけてくる。

「やぁ、久しぶりだな、デビー」

アーサーはそう言葉を返しながら体を寄せて抱き合うと互いに笑いつつ肩を軽くを叩きあう。

「元気にしてたか?」

「ああ。そっちこそ」

互いにそう言いって離れる。

そしてすぐにアーサーはじろじろと男を、デービット・ハートマン副大統領を見る。

相変わらずのようだな。

いや、少し瘦せたか?

そんなことを思いつつ、久しぶりに再会する親友を観察する。

そんな様子にデービットは苦笑した。

「相変わらずだな。安心したよ」

「いやなに、親友に何かあったかと思ってね」

そう言って笑うアーサーに、デービットは困ったような顔をする。

「今のところは健康だよ。もっとも激務で体重は減ったがね」

「おお、それはめでたい。運動しても、ダイエツトをしても、いろんな方法を試してもなかなか減らなかったからな」

「ああ、それだけはこの仕事のいいところだ」

その言葉に、アーサーはクスリと笑った。

「それだけは……か……」

「そうだ。せっかくだし、一緒に飯でも食いながら話をしよう」

「ああ、それは名案だ。フソウ連合での飯はうまかったが、本国の糞不味い料理が恋しくなっていたところだ」

その言葉に、デービットは思わず爆笑する。

「不味いのに食いたいのか?」

「ああ。もちろんだとも。どんなに不味かろうと、食いたくなるのが祖国の味ってもんだ」

その言葉に、ますますデービットは笑う。

そして二人は止めていた高級車に向かって歩き出す。

SPが油断なく警戒する中を……。



二人を乗せた高級車は、前後に護衛の車に挟まれる形で港を抜けて街中を進んでいく。

そして窓から流れる街の景色にアーサーはため息を吐き出した。

「どうした?」

「いや、余りにも活気がないなと……」

実際、サンパウラスの街はくすぶっている感じだった。

街の中には浮浪者の姿が目立ち、結構な人々が行きかうものの、人々の顔はどちらかというと辛気臭い。

フソウ連合が明ならば、この街は陰と言ってもいいんじゃないだろうか。

本国のあまりにも酷い有様に自然とアーサーの表情が厳しいものになる。

そんなアーサーの様子にデービットはため息を吐き出した。

「そんな顔をするな。まだここいらはいい方だ。港のおかげで仕事に事欠かないからな」

その言葉にアーサーが信じられないといった顔をする。

その顔を見つつ、デービットは街の様子に視線を送りながら言葉を続けた。

「連盟の商人の食料買い占めと不景気が重なってな……」

つまり、所得は増えるどころか減るような有様なのに、物価は高くなっているという事なのだろう。

「それは酷いな……」

一応、情報として掴んではいたが、聞くと見るでは大違いだ。

だからか……。

自分が呼び出しされた理由に納得しアーサーはため息を吐き出した。

「私とてはこういった事に関わらずにただ研究が出来ればいいんだけどね」

その言葉に、相変わらずだなと思いつつデービットは苦笑する。

「そう言うなよ」

そう言った後、少し間をおいて聞き返す。

「そんなに魅力的か、フソウ連合は?」

「ああ。そうだ。あの国は活気がある。それにあの国の独特の文化や知識は魅力的だし、なによりあの国にいれば研究のネタに困ることはないからな」

そう言ってカバンから結構な枚数を束ねたいくつかの紙の束を出す。

デービットがちらりとタイトルを見ると『航空戦力の有効性』とか『フソウ連合海軍の戦略と戦術』などのタイトルが読める。

要はアーサーのフソウ連合に関しての研究についての論文だ。

「なら、益々頑張って欲しいな……。君の今後の研究の為に……」

そう言われ、アーサーは眉をひそめた。

「そんなに不味いのか?」

「ああ。議会は不景気と今の状況の不満をフソウ連合に転換するつもりだ」

「政府としては、どっちだ?」

「アルはフソウ連合とは争うつもりはないし、国務長官もそのつもりだ。しかし、リラッドク補佐官は議会側だし軍部は完全に二つに分かれている」

「政府もまとまっていないというのか……。厳しいな」

アーサーはそう言うと腕を組み目をつぶると考え込む。

そんなアーサーを見つつ、デービットは口を開く。

「そこでだ。長くフソウ連合に関わってきた君の直の言葉を議会で発言してほしい」

その言葉に目を開き、アーサーは苦笑した。

やっぱりか……。

その表情はそう語っていた。

だが、そんなことは構わずにデービットは言葉を続ける。

「何としても今止めなければ国が分裂しかねん」

それでも、アーサーは発言しない。

目は開いているも、視線の先はどこを見ているのだろうか。

近くを見ているようでもあり、遠くを見ているようでもある。

もう少しだ……。

長い付き合いからそう感じたデービットは切り札を口にする。

「アルが君に頼みたいと言ってるんだ」

その言葉に、びくんとアーサーの身体が跳ねた。

筋肉が小さく躍動したといってもいいだろうか。

そしてどこを見ているかわからなかった視線がゆっくりとデービットに向かう。

そして、アーサーはため息を吐き出した。

「わかった。わかった。アルには借りがあるからな」

アルことアカンスト合衆国大統領アルフォード・フォックスには返せないほどの恩がある。

だからその名前を出されれば無下にできない。

「しかしだ。議会で話しても駄目かもしれんぞ」

「その時はその時だ。後は我々が覚悟を決める番だからな」

「そうか……。それで議会で話すのはいつになる?」

「そうだな。予定としては来週の月曜日になるはずだ」

「三日後か……。ならしばらくホテルに缶詰めになるぞ。手配を頼む」

その言葉に、デービットはニタリと笑った。

「手配済みだよ。それと護衛もつける。後の事は、昼食後でいいか?」

珍しく仕事を後回しにする発言に、アーサーは少し驚いた顔になった。

その顔を見つつ、デービットは笑う。

「君が受けると言ってくれたら、後からやっぱり駄目なんて撤回はないからね。それに君なら受けてくれると思っていたんだ」

「それだけじゃないだろう?」

その言葉に、デービットはますます嬉しそうに微笑む。

「それにだ。せっかく久しぶりの友人との食事だ。仕事抜きで楽しくやりたいと思ってね」

「そうか……」

そう言いかけて、アーサーも笑う。

「そうだな。まずは友人との食事を楽しむことにするか」

そう言うのに合わせていたかのようにタイミングよく車が止まった。

警備のSPが先に降り、周りを警戒しつつドアが開けられ、二人は車外に出ると目の前には懐かしい店があった。

十年前、それぞれの道を進む別れの時に三人で最後の食事をしたレストランだ。

『喜びと幸せの丘』

それがレストランの名前だ。

そして、ちらりと中を見てアーサーは驚く。

そんな驚いた表情のアーサーに、デービットは悪戯が成功したかのような笑みを浮かべた。

「さすがに大統領自身が港に出向くわけにはいかなかったからね」

レストランの中には、二人の友人であるアルフォード・フォックスの姿があった。

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