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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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リーガンハット諸島での戦い  その4

雑草号が島陰に入ると船長が後方監視をしている船員に叫ぶように言う。

「連中、追ってきているか?」

「待ってください……」

そう返事が返ってきた後、かなり慎重に確認したのだろう。

はっきりとした口調で返事が返ってきた。

「敵影見えません」

「間違いないかっ」

「はっ。間違いありません」

その言葉に、船長はニタリと笑う。

「やっぱりな……。仕掛けてきたか……」

そう呟くと口を開いた。

「大まかなものはすでに固定終了です」

副長がささやくように言う。

彼は船長が何をやるのか薄々わかっているのだろう。

「ならよし」

短くそう返事をすると声を張り上げた。

「本船はこれより大回頭を行う。Uターンして敵艦の後方に回り込む。各自、何かに掴まれっ」

もしかしたら、敵が待ち構えている可能性だってある。

もしかしたら、少し追いかける速力を落としただけかもしれない。

もしそうだったら、真正面からぶつかり合う事となる。

そうなった場合、圧倒的に不利なのは雑草号の方だろう。

火力は間違いなく雑草号の方が高い。

しかし、互いに向かい合っての砲撃戦やすれ違いざまの接近戦ではその装甲の薄さは致命的だ。

間違いなく沈むのは雑草号の方だろう。

だが、だれも船長の判断に異議は唱えないし、疑わない。

それは今までの船長の判断が有効なものであり、そのおかげで今まで生き残ってきたことの証でもあった。

「了解ですっ」

「わかりやしたっ」

船橋にいる船員たちがそれぞれの言葉で返事を返す。

その言葉は信頼に満ち満ちており、互いの絆の強さを示していた。

それに満足したのだろう。

船長は幸せそうに微笑む。

その顔はどちらかというと不細工に分類される顔であったが、どことなく幸せそうなものであった。

「取舵いっぱーーーいっ。転進させるぞっ」

船長の命令に、操舵手が答える。

「とりぃぃぃかじぃ、いっぱぁぁぁぁぃぃぃっ」

そしてその声と操作に雑草号は本来の動きを見せた。

今までの動きが嘘のように機敏に反応し、左側に船首を向ける。

海面に大きく白い波を広げつつ左回頭を開始し、その勢いで船体がまるでそのままひっくり返るのではないかと言わんばかりに傾いた。

船の中で固定されていなかったものが転がり落ち、床にぶちまけられ、立っているものは誰もが何かにしがみつく。

しがみつかなければ立っていられないほどの傾斜なのだ。

しかし、そんな急な回頭も雑草号の船体は軋み一つたてず、最小限の半径で白波の模様を描きつつ向きを変えていく。

挿絵(By みてみん)

船橋でも、テーブルに乗っていた小物辺りが床に散らばったが、誰も気にしていない。

いや、気になる暇がないといった方が正しいだろう。

誰もが信じられないほど小さな半円を描きつつ回頭する雑草号の性能に驚いていた。

高性能というのはわかっていた。

ただ、カタログスペックと実際に動かした感想は違う。

航海中もいろいろ試してみたが、ここまでギリギリに近い動かしかたをしたのは初めてだ。

そして、それに雑草号はその予想を超える反応を示したのだ。

こいつはすげー奴だ……。

そして、実に頼もしい奴だ……。

誰もがそう思った瞬間だった。

しかし、それで終わりではない。

「よしっ。敵の後方に一気に付けるぞ。最大船速ーーっ。それと第一、第二砲塔の砲撃準備だ。一気に決着を付けるぞ」

「おおっ。わかりやしたっ」

「了解です。野郎どもっ、一気に片を付けるぞ。気合入れてやれっ」

「さいだいせんそーーくっ」

船橋にいた船員たちが返事を返して、それぞれの役割に動く。

回頭を完了した雑草号が一気に速力を増し加速していく。

それは解き放たれた矢のようであった。

ぐるりと島を下から回り込み、一気に連盟の装甲巡洋艦の後方に進み、艦影を捉えた。

「前方に目標発見。連中、まだ気づいていません」

「各砲砲撃準備はっ?」

「一番、完了」

「二番も完了です」

「よしっ。少しずつ右側にズレつつ砲撃を開始だ。そして、敵が混乱している間に引き離して一気に離脱するぞ」

船長の命令に副長は頷き口を開いた。

「了解しました。各砲、撃ち方ーーっ、はじめぇぇぇぇっ」

船橋の上にいる船員が手旗信号で前後の砲塔に指示を送り、その命令を合図に雑草号の砲撃が始まった。



雑草号の砲撃はかなり正確であった。

もっとも、高速移動しながらの砲撃の命中率は大きく下がる。

だからなかなか命中弾は出ない。

それでも、装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナの周りにいくつもの水柱が立つ。

そのいくつかは至近距離でだ。

艦体は大きく揺れ、その様子は荒波に翻弄される落ち葉のようであった。

水柱の海水が降り注ぎ、揺れと共に乗組員たちの恐怖を煽る。

悲鳴と叫びが艦内に響く。

しかし、それでもただやられっぱなしだったわけではない。

左側を向いていた後部主砲が旋回していく。

その動きはゆったりしたもので、恐怖に駆られている乗組員から見ればまさに牛歩といったところだろうか。

だが、それでも反撃を試みようとしていた。

しかし、装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナは前進し、雑草号はそんな装甲巡洋艦から見たら、後方から右側にそれつつ距離をあけつつあった。

回頭しようと艦首を右に振ったものの、旋回はゆったりとしたものであり、描く半径も大きい。

その間にも、雑草号は一方的に砲撃を加えつつ、距離をとろうとしている。

まさに手玉に取られてしまった感があるものの、それでも諦めていないのはその動きでわかる。

だが、その命運も尽きた。

体勢を立て直し、回頭が終わろうとした瞬間であった。

一発の砲弾が、前方のメインマストを叩き折り、その後ろにある一際高い煙突部分を粉砕したのだ。

あっけないほど簡単にメインマストは後ろ側に倒れ、第二メインマストに引っ掛かり、そしてバランスを崩して海面に落ちた。

その際に、側面の副砲がいくつか巻き込まれ、簡単に副砲を潰し、周りにいた水兵を肉塊へと変えていった。

そして、粉砕された煙突の破片が降り注ぎ、甲板にあるものすべてを傷つけていく。

艦橋も破片が降り注ぎ、被害が出る中、それでもリネット・パンドグラ少佐は諦めていなかった。

「まだだっ。まだ終わらんっ。追撃だっ」

しかし、その闘志に満ちた言葉に水をぶっかけるような言葉が襲い掛かる。

「大変です。煙突部の破損で排煙が逆流し、機関部に流れ込んでいます。一旦、機関停止をっ」

副長のその報告に、少佐はグッと歯をかみしめる。

ギリギリと歯ぎしりの音が響き、少佐は軍帽を床に叩きつけた。

「くそったれっ」

それは悲痛な思いが籠った叫びだった。

拳が強く握りしめられ、プルプルと震えている。

だが、時間がない。

だから少佐はすぐに口を開いた。

「機関停止っ。機関部にいる者達の救出と負傷者の手当てを急げ。それと艦の損害をまとめろっ」

「は、はっ。急がせます」

副長はそう返事を返すと走り出す。

そして、少佐は叩きつけた軍帽を睨みつけるかのように見ながら呟いた。

「覚えたぞ。絶対に、絶対に沈めてやる……。あの船は、絶対に……」

それはまさに呪詛といってもいい呪いの言葉であった。

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